王様の耳はロバの耳

横浜在住の偏屈爺が世の出来事、時折の事件、日々の話、読書や映画等に感想をもらし心の憂さを晴らす場所です

佐藤優氏の「国家の罠」を読んで

2006-09-11 10:22:19 | ロシア関連
新潮社から2005年3月に発行された佐藤優(さとうまさる)氏の「国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて」をようやく読んだ

昨年秋のプーチン大統領来日の頃から気になっていたが今年の6月図書館に予約をして90人以上の予約待ち やっと番が回ってきたわけ

まづ感想だが:
子供の頃、近くの観音様の縁日で「傷打ち身何にでも効く」という蛇の油の練り薬を売る香具師が出る 香具師は客寄せに「頭の二つ有る蛇」が入っている袋を取り出す 爺は頭の二つ有る蛇を見たくて毎回一番に寄るのでその内その袋の口をしっかり押さえておく役をさせてもらう事になった 確かに袋は重く蛇らしきものがいる 逃げると危ないからしっかり抑えておきなー なんて言われて 巧みな口上で別の袋から本物の青大将を出し話をいつか薬に向けてその薬が売れてお仕舞い
ついに爺は頭の二つある蛇を見ないで終わった

話を戻そう 元外務省のノンキャリアーであるが対ロシア問題で異能の佐藤氏がいわゆる「宗雄疑惑」を立証するため本人は「イスラエル教授の旅費支出に掛かる背任罪」と「国後島ディーゼル発電機発注に掛かる偽計業務妨害の罪」に問われ一審は懲役二年半 執行猶予4年の判決を受けそれを不服として目下控訴審で係争中である 
「国家の罠」は逮捕以降の担当検事とのやりとり、拘置所での生活、他の被疑者の対応等まことに512日の独房生活を送ったものにして書けるリアルさがある
又担当検事の口をして「国策捜査」だと語らしている内容は凄い

しかし何で「鈴木宗雄氏」が国策捜査の対象になったのであろうか?
それらしい事情は佐藤氏も書いている
1:外務省の綱紀弛緩(支援室長の公費流用)に対する目くらまし(関心を他にそらせる)2:田中真紀子(外相)との軋轢 3:その結果、鈴木氏による小泉総理への閣僚人事容喙(外相辞任と自身の議運委員長辞任の注文)4:時代のけじめ(これを検察官の口をして語らせ佐藤氏が解説する) 4-1:税金ばら撒き型政治の終焉 税金を公共事業やその他の形で出身地を潤す
4-2:皆で平等より規制をはずし強い個人を機関車として弱い大衆を客車に見立て引っ張らせる(この状況を佐藤氏は難しい横文字の経済用語で説明する)4-3:その結果炙り出される地政学を念頭においた国際協調路的愛国主義と排外主義的ナショナリズムの対立  など等 

確かに袋の中に蛇らしき物は動いているがこれだけでは頭が二つ有るかどうかわからない
佐藤氏は本書の3分の1ほどを通じて氏のロシア人脈とそれに寄って来る日ロ平和条約締結の努力について語っている
そして橋本、小渕、森総理と2000年迄に日ロ平和条約(領土上の問題も懸案無く二国間の関係を確立する)を締結すべく真摯な努力をする事 そしてその努力が結ばなかった事を記す しかもその核心部分については国益というセリフで自身は一切口にせず28年後に明らかになる(外交文書も30年後には一般公開される すでに文書作成から2年経っているとの意味であろう)している
  
爺はこう思う
「国家の罠」P62-3 巷では東郷氏(爺の注;当時の外務省欧亜局長-佐藤氏の数段階上の上司)の考え方は「二島返還論」もしくは「二島先行返還論」で、日本政府の方針から外れていると批判がなされたが、これらは為にする批判で、ピントがずれている (爺の注:以下日ソ共同宣言とその解釈につき佐藤氏の見解が続く)--平和条約が締結されれば、北方四島の内、歯舞群島、色丹島の二島が日本に引き渡される事について既にロシア(ソ連)との間で合意している
中略 P63後段 東郷氏が「二島返還論」で平和条約を締結することを考えた事は一度も無い。東郷氏が「二島先行返還」すわわち、歯舞群島、色丹島を先に返還し、国後島、択捉島の帰属が決まらなくても平和条約を締結することができるなどと考えた事も無い。歯舞諸島と色丹島についてはロシアから日本への引渡しについて合意しているのであるから、「返還の具体的条件」について話し合い、国後島、択捉島については帰属について交渉するという「ニ+ニ方式」が日露平和条約交渉を加速する現実的方策と考えたのである。

この太文字、特に青字の部分が問題なのである
日ソ共同宣言は北方四島は「ソ連」のものであるが日本が希望するので特にソ連が譲って平和条約締結時には「歯舞群島、色丹島を返還する」という交渉の文脈上に存在する 言い換えれば「国後島・択捉島はソ連領」と認めることになる 従って北方四島は日本固有の領土であるとするアメリカの見解に反し日ソ共同宣言を基礎には平和条約の締結はありえない その変形たる「ニ+ニ方式」は反米行為の最たる物になる
 
これが鈴木宗雄、東郷和彦、佐藤優諸氏が「国家の罠」にはまった核心なのだと思う

ここを語らずして「背任罪」「偽計罪」を語っても「国家の罠」は見えない
これでは「読者に対する佐藤の罠」となろう
これが爺の読後感です
今年6月には東郷氏が帰国 佐藤氏の控訴審において「背任」を否定する発言をしている様である 佐藤氏個人には喜ばしい事である


「ニ+ニ方式」について爺の見解はプ-チン大統領と北方領土を参照願います
コメント (4)
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