ロシアの自然誌



この夏読了。

ある晴れた春の月曜日、夫が古本屋めぐりのお土産として買ってきてくれた

「 これ好きでしょ? 」 の一冊でした。

そうです、好きです、この感じ。

表紙を見てすぐに好みの本であることがわかったもんね。

ミハイル・プリーシヴィン ( 1873~1954 ) という作家とは初顔合わせ。

ジョン・アップダイクが序文を書いているだなんて、とっても贅沢、長くかかったボーヴォ

ワール女史のメモワー全5冊を読み終わったところだったので ( 内容的にも、読了達成

感も大満足。 )、パリの次はロシアだな、と読んでみることにしました。


プリーシヴィンはモスクワを拠点にする作家で、都会人なんだけれど、どうやら放浪の質

らしく、一所に留まっていない生涯だったらしい。

文化的暮らしを知っていて、大変に教養があり、知的労働者である人物が、伊達や酔狂では

とても向かっていくことなどできない自国の広大きわまるおそろしの森へ、湖へ、沼地へ、

草地へ、と深く分け入り、その目で捕らえた大自然が動く瞬間を書き綴っているのです。


ロシアの自然を、「 春 」「 夏 」「 秋 」「 冬 」の四季ごとに、軽やかに繊細に詳細に

観察し記録したこの著作は、その神々しい生命の美の世界への憧れであり、愛であり、賛歌

です。プリーシヴィンにとっては、生命の塊である自然界のすべては人間と等しく、

それは、動植物はもちろん、水や空気、石や泥などまでも含まれるのです。

あらゆる自然なものの野生の変化を発見しては喜々として観察し記録をつけ、

さらに深く森を分け入ってゆく。

1920年代のロシアの森はどんなだったろう。

大田舎の素朴な人々の暮らしぶりはどんなだったろう。

鳥たちの渡り、鳴き声巣作りについて

厚い氷と雪の層が溶け始めていく光の春のこと

花々の開花、耕される土、筏での川下りキャンプ、

ヘビ、歴代の猟犬たちのこと、

狩り、オオカミの冬ごもりについて 

e.t.c. e.t.c.


プリーシヴィンの文章は、散文詩のようです。淡々としながらユーモアの余裕があり、

森と土と、風、光が織りなす母なるロシアの地の風土が薫ってくるのです。

高級官僚の家柄も、約束されたキャリアもすべて投げやって、メモノートとエンピツ

をポケットに好きで好きでたまらないことに人生を費やした世にも幸せな詩人。

不満も忍耐も苦しさも一切なし。

自分がご機嫌さんでいられることのみを選択して生きることは、こんなにも豊かで

創造的なのだ、というのがわたしの読後感です。


























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