Con Gas, Sin Hielo

細々と続ける最果てのブログへようこそ。

今年の19館(2016)

2016年12月31日 17時25分24秒 | 映画(2016)
映画の本数は減りましたが、いつでも映画館へ行けるという環境はありがたいものです。TOHOシネマズ新宿限定の「モク割」もありがたい。ただ、のみ会で終電を乗り過ごした後に時間潰しで行ったときは、さすがにまったく内容が入ってきませんでした(あたりまえ)。よって、そのときの作品「何者」は今年観た本数からは除外しました。

TOHOシネマズ海老名(神奈川)20回

今年になってから、TOHOシネマズとユナイテッドシネマだと思うのですが、映画泥棒の広報が流れるタイミングが変わりました。確かに、予告と本篇の間にあれが入ることに異議を唱える向きがあったと聞いたことがあります。個人的にそこまで気にはなりませんが、予告で少しずつ映画館の気分を盛り上げてそのまま本篇へ流れる方がスマートとは思います。

TOHOシネマズ新宿(東京)6回

新宿は通勤経路の途中なので寄りやすい場所なのですが、繁盛ぶりが他の場所とは1ランク違います。仕事が早く終わっても、そのころにはもう座席が埋まっていることが多く、かといって夕方の予定の見当がつかないうちに予約はできないし、結局今日は観るの諦めようということになってしまいます。周りに大きめのシネコンがあるのに、やはり東京のど真ん中にあるメリットは大きいわけです。

イオンシネマ北見(北海道)4回

確か「ザウォーク」を観に行ったときだったと思うのですが、「空調の調子が悪く館内がとても寒くなっております」と使い捨てカイロを渡されました。厚手のコートを着ていたので、そのままカイロは使わずに観たのですが、確かに寒かった。子供向けアニメや超話題作であれば、満員の人いきれで少しは暖かくなったかもしれませんが、そのときの観客は5人かそこらだった記憶があります。

新宿ピカデリー(東京)2回
TOHOシネマズ六本木ヒルズ(東京)2回
イオンシネマ海老名(神奈川)2回

東京に戻ってきたメリットは、米国産アニメ映画を字幕スーパー版で観られるということ。ただ、それも一部の決まったところでしか掛からないので、毎年のように六本木ヒルズへ何度か足を運ぶことになります。吹き替え版は字幕を読んで理解するひと手間が減るから楽ではあるんだけど。

札幌シネマフロンティア(北海道)1回
ユナイテッドシネマ札幌(北海道)1回
TOHOシネマズ仙台(宮城)1回
MOVIXさいたま(埼玉)1回
TOHOシネマズ日劇(東京)1回
シネマート新宿(東京)1回
新宿バルト9(東京)1回
TOHOシネマズ南大沢(東京)1回
チネチッタ(神奈川)1回
イオンシネマ港北ニュータウン(神奈川)1回
109シネマズ湘南(神奈川)1回
横須賀HUMAXシネマズ(神奈川)1回
TOHOシネマズアミュプラザおおいた(大分)1回

仙台と大分の映画館はいずれもJR駅に直結または至近の好立地にあります。上記の新宿で明らかなように、やはり街なかには映画館の賑わいがよく似合います。かつての仙台には、青葉通りと愛宕上杉通りの角に地方一番館の「仙台東宝」がありました。名前は「東宝」ながら洋画を公開する劇場で、東宝が制作した作品は斜め向かいの「日之出劇場」で上映されていました。日之出の同じフロアには「シネマ仙台」というにっかつロマンポルノの映画館があって子供には禁断の場所だったのですが。今回のTOHOシネマズはそれらの劇場が閉館して以来の西口の映画館であり、感慨もひとしおなのです。
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今年の45作(2016)

2016年12月31日 00時23分20秒 | 映画(2016)
今年はせっかく東京勤務に復帰して、以前よりは超過勤務の少ない部署に座ったのに作品数がかなり減ってしまった。正直観たいと思うような映画が少なかったように思う。

世間的には「君の名は。」がスーパーサプライズのヒットとなり活況を呈したようであるが、ぴりっと味のある小品があまりなかったのではないか。最近ミニシアターが減ってきているのも一因かもしれない。

俳優も、最近特に外国の女優さんで目を奪われるような人にお目にかかれていない。ときどきいいなと思っても覚えきれない頭の方に問題があるという話もあるけれど。そのような中で、例年になく邦画が上の方に来ている今年の記録は次のとおりです。

1.「この世界の片隅に」(11月14日)

グローバリズムに対する反動が顕著になった2016年。内向きも外向きもイデオロギーの押しつけが激しくなる中で、目線の位置を変えて冷静かつ丁寧に物事を捉える本作の姿勢に心を動かされた。来年も心惑わされることなく謙虚に生きていきたいと思う。

2.「シングストリート 未来へのうた」(7月23日)

今年は70~80年代の音楽界をけん引した偉大なスターが多くこの世を去った。D.Bowie、Prince、G.Frey、そして最後にG.Michaelまでも。本作がこのタイミングで、30年以上前に音楽を聴き始めたころの気持ちを呼び覚ましてくれたのは偶然ではない気がしている。

「シン・ゴジラ」(8月3日)

災害も多かった2016年。本作のゴジラに対して政府は「防衛出動」という判断を下したが、かの石破茂元防衛大臣は「災害派遣」で対応可能であるしそうするべきだと述べていたようだ。

4.「教授のおかしな妄想殺人」(6月11日)

あまり一般的評価は高くないようだが、人間誰しもが持つしよーもなさを面白おかしく描いた良品と感じた。先生の肩書で難しいことさんざん語っての最後のどたばたには声を出して笑った。

5.「殿、利息でござる!」(6月18日)

今年、磯田道史先生の話を直接聴く機会があったが、本当におもしろかった。個別の民家などに埋まっている古文書を地道に発掘し読み解いていく作業にも感嘆するが、これからもまだまだ我々の知らない史実が明らかになるのではないか。

6.「エクスマキナ」(7月2日)

AIの造形がどこかのコミックから抜け出たような完璧なたたずまいだった。所詮穴だらけの人間が取って代わられるのではないかという危惧は、本当に取って代わられることがない限り永遠に続くのだろう。

7.「イットフォローズ」(1月23日)

新年初回に観ていなかったらもっと評価を上げていたはず(1作めの評点は基準扱いなので)。発想の新しさ、画にしたときの恐怖、じりじりと迫ってくるものにこれほど絶望感を覚えるとは。館内の空調が故障していたわけでもないのに震えが止まらなかった。

8.「X-MEN:アポカリプス」(8月14日)

新3部作の大団円。前の3部作をひっくるめて上手く話をまとめ上げた力量に評価。ウルヴァリンのH.ジャックマンは来年が見納め。シリーズはどうなるのだろう。

9.「ズートピア」(5月7日)

意外と侮れない巧妙な設定に感心した。行き過ぎた理想の追求が世界中で摩擦を引き起こしている中で、誰でも夢を持っていいという米国の伝統芸に立ち帰ってみる作品。

10.「シビルウォー/キャプテンアメリカ」(5月4日)

ただヒーローを集めればいいわけではない。DCコミックスになくてMARVELにあるものを映し出しているのが本作。「アベンジャーズ」より遥かにこなれた感があった。

11.「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」(12月29日)

時間軸のベクトルを変えることで生まれた感情の高まりの行き違いが唯一無二の切ないドラマを完成させた。不思議な魅力を湛える小松菜奈が健気な女性を演じるところも新鮮。

12.「ヘイトフルエイト」(4月21日)

一からしっかり作り込まれた舞台のようなサスペンス作品。怪演あり、グロあり、観終わった後は不思議な爽快感に包まれた。

13.「ソーセージパーティー」(11月5日)

なんでこんなに上にいるのだろうと我ながら不思議に思うが、下品なお遊びがときに必要なこともある。

14.「ハドソン川の奇跡」(9月25日)

T.ハンクスの主演作が立て続けに公開された1年。いずれも権威を持った初老に差し掛かる男性役だが、物語として本作が最も優れていた。

15.「ルーム」(4月9日)

少女の監禁を描いているが、テーマは事件そのものやその恐怖ではなく、事件後の心の解放に迫るもの。これは重要。

16.「ファンタスティックビーストと魔法使いの旅」(12月10日)

「ハリーポッター」シリーズの映画を観たことも原作を読んだこともないのに子供とMX4Dで鑑賞。観ればそこそこおもしろいことは容易に想像がついていたということ。

17.「PK」(11月3日)

インド映画の現在。娯楽にプラスアルファで、宗教という世界的にも神経質な問題に敢えて触れた異色作。

18.「デッドプール」(6月1日)

お下品映画をわが国で、特に大きい市場の商品として売り込むのは難しい。それでも「ウルヴァリン」での借りを返す活躍を見られて良かった。

19.「ブリッジオブスパイ」(1月30日)

米ソ冷戦のころが最も平穏な時代だったという皮肉。次期トランプ政権はプーチン大統領と通じ合っているということだが、今よりはマシになると期待していいのか?

20.「アンフレンデッド」(7月30日)

PCの画面だけで展開するという実験的な意欲に敬意を表する。年に数本はこうした一芸モノの作品を観ることも映画の楽しみ。

21.「マネーショート 華麗なる大逆転」(3月6日)

経済の報道は冷静で実利に繋がる分だけ政治よりマシだが、いわゆるエコノミストが語る見解は地震予知級で当てにならない。情報が溢れていながら確かなものがない世の中をどう生きるかを突き付けられている。

22.「ドントブリーズ」(12月23日)

新しい恐怖を求める映画業界の佳作。身体に障害があったとしてもサイコパスに油断は禁物。

23.「ザギフト」(11月3日)

こちらもサイコパス・・・と思いきやの変化球で記憶に残る作品に。最後はギフトで痛恨の一撃。

24.「死霊館 エンフィールド事件」(7月17日)

かわいい女の子に無慈悲な悪魔が憑依したという映画。本当に悪魔がいるのか何かしらのフェイクなのかは微妙にぼかしている点が良心的。

25.「クリード チャンプを継ぐ男」(1月28日)

ロッキーの永遠のライバルはやはりアポロ・クリード。数多く制作した続篇の中でもっともと言っていいほど高い評価を獲得。S.スタローンは映画人としての嗅覚が秀でている。

26.「帰ってきたヒトラー」(6月18日)

実物は似ても似つかぬ俳優が髪型をいじってヒゲを付ければ、はい(る)ヒトラー。メディア操作の怖さは現代の漂流する政治とも繋がって興味倍増。

27.「君の名は。」(8月26日)

2016年の社会現象。しかし、この映画をして隕石災害対策に腰を上げようとしない政府は何をやっているのだ。とゼロリスクを求める風潮に言ってみる。

28.「ザウォーク」(2月6日)

9.11から15年。WTCが初めて迎えた珍客は更に遡ること28年。無機質に見えた細長い建物にも歴史と人々の思いが詰まっていた。

29.「ヒメアノ~ル」(6月5日)

森田剛の怪演が話題に。とはいえ、アイドルグループにいながらも元々危険な匂いがする人物であったから、それほど意外性は感じなかった。

30.「高慢と偏見とゾンビ」(10月1日)

「不朽の名作、感染。」のコピーだけで、評判が悪くても映画館に足を運んでしまった。コンセプトはいいと思う。

31.「怒り」(9月22日)

黙っていると不気味な東洋人。イケメン枠の俳優だってそれは同じ。さて犯人は誰でしょう?の展開は面白かったけど、ちょっとミスリードをやり過ぎ。

32.「ライト/オフ」(9月1日)

今年はアイデア系の恐怖映画が頑張った年。動画映像を膨らませて映画にした本作も同類だが、元の動画を超えられていないところが惜しかった。

33.「スポットライト 世紀のスクープ」(5月4日)

アカデミー作品賞の箔が付いたが、よく言えば真摯な、身も蓋もなく言えば地味な作品。でも日常の仕事の積み重ねが地味なのは事実。

34.「ファインディングドリー」(8月1日)

最近のピクサーが続けている過去の遺産で商売するシリーズ。元が良作なので安心して観られる。

35.「アイアムアヒーロー」(5月3日)

ノリにノッている大泉洋の主演作。でも片瀬那奈のZQNっぷりの方がインパクトあったなー。

36.「クレヨンしんちゃん 爆睡!ユメミーワールド大突撃」(5月1日)

劇団ひとりが脚本を担当。器用な人であることは周知のことであるが今回は合わなかった。

37.「鷹の爪8~吉田くんの×ファイル」(8月27日)

鷹の爪シリーズといいながら吉田くんの昔話という設定。鳥取にスタバができて、山口・長門にはプーチンが来て、広島は野球で盛り上がって、島根はどうする?

38.「ロストバケーション」(7月27日)

ここにも1点アイデア勝負作品。映画史に輝く「ジョーズ」で描かれた人喰いザメの恐怖に、切り口を変えて敢然と挑んだ心意気や良し。

39.「10クローバーフィールドレーン」(6月21日)

前回の「クローバーフィールド」とは特に関係ないらしい本作。これって何かの記号なのでしょうか?

40.「キャロル」(2月14日)

世間的に評価が高いらしい本作が理解できなかったのは誠に遺憾。同性愛に対して偏見を持っているつもりはないのだけれど。

41.「エージェントウルトラ」(1月28日)

何がしたかったのかよく分からなかった作品。コメディ要素があると勘違いして入ったのも敗因のひとつ。

42.「レヴェナント 蘇えりし者」(5月14日)

おめでとう、ディカプリオ。動物の毛皮にくるまると暖かいことだろう。

43.「オデッセイ」(2月20日)

プーチンには接近しても、中国と手を携えて宇宙開発などということはまずもって考えられないところ。オバマ時代の映画ということでハリウッド的には何ら不思議はなし。

44.「バットマンVSスーパーマン ジャスティスの誕生」(3月28日)

「マンオブスティール」は微妙と思っていたら、やっぱり破壊し過ぎと世論の反発を買っていたスーパーマン。絶対的な強さを無理くり隠して話を作ったけどやはり微妙。

45.「暗殺教室 卒業編」(3月26日)

前作を普通に評価した分だけマイナスイメージが強くなった。映画館に足を運ぶレベルではない。
コメント (6)
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「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」

2016年12月30日 22時47分54秒 | 映画(2016)
恋するベンジャミンバトン。


売り出し中の若い俳優が出る恋愛映画と侮っていたら不意打ちを食らった。

本作の感心する点は、まず題名だ。物語の核心をそのまんまタイトルに付ける完璧なネタバレである。

映画の中でもそのまんまのことが起こるのだが、実際に観てみないと分からないからくりと、そこから繰り広げられる二人の切ない運命が、話を追うごとにボディーブローのように効いてきて、最後には涙腺が壊されてしまった。

はじめは、どう考えてもあり得ない時系列のずれをどう落とし込んでいくのかお手並み拝見とばかりに高所から見ていたつもりだった。福士蒼汰は背が高くてすっきりした顔立ちなのに演技は相変わらず垢抜けないなんて思いながら。

もちろん後から思い返せばツッコミどころはかなりあるのだが、それ以上に主役二人の固い絆に負けてしまった。あれだけ切ない話を繰り返して「ぼくたちはすれ違ってなんかいない。端と端を結んだ輪になってひとつにつながってるんだ」なんて言われたら、大概の横にある情報はバグになってしまう。

毎度の如く原作は未読である。でも、映画は良くできていたと思った。前述のとおり福士蒼汰はもっさり冴えないのだが、これが実は重要で、主人公の高寿は映画で描かれる30日の間にまるで一つの人生を生きるくらいの経験と成長を果たすのである。

彼が恋人・愛美との運命を知り、それを受け入れることを決めて初めて、愛美を優しく導く大人の男性へと変わるのである。変わった後の時間があまり描かれていなかったので、福士くんのもっさりが演技だったのかは判断がつけづらいが、配役として成功だったことに間違いはない。

一方の愛美を演じた小松菜奈は、こちらは映画の時間軸とは逆向きに生きていることを、悟られ過ぎず自然過ぎず演じるというなかなか難しい役どころだったと思うが、心の奥深くに何かを湛えているような容姿がこれも功を奏していた。

決して万人が支持するような美人ではないけれど何かが引っ掛かる感じ。だからテレビドラマやCMで露出を増やすよりも映画を中心とする現在の戦略は正しいと思う。「渇き。」は面白くない映画だったが、彼女を発掘した中島哲也監督の眼力はやはり素晴らしかった。

話を映画に戻すと、もうひとつ本作が持つ大きな特徴はどんでん返しが話の中盤に現れることである。そして大きな謎が明らかになる驚きのその先に、新たな一つの物語が始まる。

更に、その物語には裏の物語が存在して、表裏を重ね合わせることによって、比類なき程に切ない男女の運命の全貌が見えてくるという仕組みになっているのだ。

ここまで過酷な設定を考え出してしっかりと一つの話として仕上げた原作の力と、その世界を限られた時間の中で着実に映し出してみせた制作の技量に敬意を表する。

(85点)
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「ドントブリーズ」

2016年12月23日 22時12分41秒 | 映画(2016)
耳をすませば。


この正月いちばん楽しみにしていた作品である。どこに興味をひかれると言えば、障害者がモンスターであるというところ。これは思い切った設定、少なくともわが国では実現が難しい企画なのではないだろうか。

盲目の老人が一人で住む家へ強盗に入る若い男女3人。楽々大金を手に入れられると思った彼らがはまり込む地獄とは一体どういうものなのか。

デトロイト郊外のゴーストタウンで周りには誰も住んでいない。数年前にたった一人の親族であった娘を交通事故で亡くし、示談か何かで大金を得たこともあり、盲目ながら誰の助けも受けずに一人暮らしを続けている。

こうした一見攻めやすそうな設定が、侵入してからことごとく不利な方向へ裏返っていく展開がおもしろい。

真夜中の古い屋敷。床のきしむ音、息遣いを敏感に察知する老人。退役軍人だけあって体は屈強で、一度つかまれば勝ち目がない。音さえ立てなければ何もない点は、「サイレントヒル」に出てきたクリーチャーのようでもある。

相手は自宅で間取りを知り尽くしている。忍び込んだのは夜中だから灯りを消されたら圧倒的に不利だ。しかも、家の中を逃げ惑ううちに、老人の本当の恐ろしい一面が露わになる。

狭い家の中で「音」を介した緊迫のやりとりが続く。観ている側もちょっとした音を拾おうと神経を集中させ、ポップコーンをつまむことさえはばかられる(買ってないけど)。

ここで効果音とともに何か現れたら心臓に悪いだろうなどと緊張しながら観ることが更におもしろさを増幅させており、これは圧倒的に映画館での鑑賞に向いた作品といえる。

この困難な闘いに挑むことを強いられる主人公だが、家庭環境に問題があるとはいえ強盗を働く輩であるという設定もまたユニークだ。いかに老人がモンスターであっても、家に押し入らなければ、関わらなければ何の危害も与えてこないわけで、実は作品全体が自業自得の一語で片付けられてしまうのだ。

老人が隙を見せる場面も多く、屋敷から脱出するチャンスが複数回訪れるのだが、その度に彼らは大金に惑わされ逃げ出すことができない。実に愚かしく、これは逃げ切っちゃだめでしょと思うこともあるくらいだ。

そんな両者の闘いの結末だが、悪くない。老人は哀しいけれど強かで、強盗の幸せは簡単には見えてこない。悪いことに手を染めたら、生涯息を潜めて暮らす覚悟を持たなければならないのだ。

(75点)
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「ファンタスティックビーストと魔法使いの旅」

2016年12月10日 22時18分41秒 | 映画(2016)
ウィザーディングワールドオブファンタスティックビースト。


「ハリーポッター」は世の中に出遅れて結局未だに1作も観ていないのだが、本作は共通の世界観はあれどまったく新しい物語だということで、他に食指を動かされる作品がないこともあり、ひさしぶりにファンタジーもいいかと思い足を運んだ。

とかなり言い訳がましく書いているが、最後のひと押しは子供が観に行きたいと言ったこと。「ベイマックス」以来だから実に2年ぶりである。自分で観に行くお金がないからこっちに回ってきたと分かってはいるけど、一緒に行けるのはうれしいもの。奮発してMX4Dまでサービスした。

映画は冒険と奇跡に満ち溢れたMX4Dにうってつけの作品だった。個性豊かな魔法動物がまるで実在するかのように動くこと自体はもはや驚きの対象にはならないが、魔法使いを含めて出てくるキャラクターたちの設定がしっかりしていて、それぞれが個性を生かした活躍を十二分に果たしてくれるから全篇を通して楽しく観ることができる。

主演のE.レッドメインは、経歴にはオスカー俳優としての箔が付いているものの見た目はまだまだ線が細いおにいちゃんという感じで、このニュートという魔法動物学者にはぴったり。

ニュートが抑えきれなかった魔法動物たちの騒動に巻き込まれてしまった人間=ノー・マジのジェイコブが本作の肝である。彼のあたふたが劇中の魔法世界と観る側の間をがっちりと結び付けて、あたかも共に冒険をしているかのような感覚にさせるのだ。王道といえば王道であるが。

3Dメガネを通して観る画面が暗かったり、「新セーレム救世軍」といった特異な固有名詞がさらっと使われたり、その場で理解することが困難なところはあったが、大まかな粗筋を追う限りでは大きな問題はなかった。敵役のグレイブス長官や不幸な青年クリーデンスはまだ底を見せていない様子。E.ミラー「少年は残酷な弓を射る」以来だが、やっぱり影がある役が似合うといったところか。

「ハリーポッター」はいつ観ることになるのかな。

(80点)
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「この世界の片隅に」

2016年11月19日 16時00分07秒 | 映画(2016)
文句を言う暇があったら自分ができることをしよう。


学校で習う戦争は、歴史という大きな物語の一部として扱われる。偉い人が率いる国や地域が対立し、その溝が埋められないくらい深まったときに必然的に争いが起きる。

でも、大多数のありふれた日常を暮らす人たちには、その争いは必然でも何でもなく、降って湧いた災厄としか言いようがないものである。

戦前の広島。宇品や草津は今も港として栄えているが、昭和の初期は瀬戸内独特の干満差を利用した漁業が盛んに行われていたようだ。

主人公のすずは、穏やかな気候とゆっくり流れる時間に寄り添うかのようにのんびりとした性格の女性であった。

決して出過ぎず、かといって引っ込み過ぎず。日々与えられた営みを全うする生活を続ける。世が世ならばそのまま一生を終えることであったろう。もちろん不満などなく。

少し年齢を重ねたすずに変化が訪れる。一人の男性に見初められて呉へ嫁ぐことになったのだ。

呉と言えば造船。この時代は軍港。高台の新しい家からは多くの戦艦の雄姿を見ることができた。誇らしげな港の風景は、裏を返せば戦時における格好の標的。真っ先に日常を戦争が覆い尽くす地域であった。

それでもはじめは、いきなり嫁いだ見ず知らずの土地で奮闘するすずの姿が時にコミカルに描かれる。のんびりでおっとりだけど、何もできないわけじゃない。工夫して努力して料理や裁縫や近所付き合いを地道に続ける姿に、日本人女性らしい芯の強さを垣間見た気がした。

大正時代の名残りを残したハイカラな街の風景はいつの間にか消え去り、ぜいたくは敵の時代が訪れていた。不便を強いられる中で、すずは相変わらず文句一つ言うことなく日常を生き抜く努力を続けた。

「お国のために」進んで努力するわけでもない。目の前の環境がそうなっている以上は、それを受け入れて暮らすしかないのだ。

義姉が言う。「自分はやりたいことをしてきてこうなったから仕方ないと思えるけど、あんたはかわいそう」。

すずと義姉は対照的な性格だが、話が進むにつれて非常に印象深い関係を築くことになる。普通であれば交わることのない二人が戦争をきっかけに同じ屋根の下で暮らし密接に影響し合うようになる。

それは一面から見れば戦争の不条理であるが、紆余曲折の末に異なる次元へ昇華する二人の関係は隠れた人間の強さと深みと可能性を見せてくれる。

戦争が引き裂いた日常の傷は限りなく深い。自分だったらこの悲しさ苦しさに耐えられるだろうかと思えば正直自信がない。それでもみんな少しずつ歩みを進める。

本作は戦争を素材にしているものの、決して単純に反戦を訴える類の映画ではない。

もちろん戦争は愚かしいことである。それはおそらく全世界の人がそう思っている。それを改めて声高に叫ぶのではなく、登場人物の目の高さに視点を固定して日常生活を丁寧に紡ぐことで、時代を覆った空気全体を伝えることに成功している。あとは観た側がそれぞれに感想を持てばよいのだ。

本作の話題の一つは、主人公すずの声を担当したのん(能年玲奈)。はじめこそ能年玲奈の顔が脳裏にちらついたが、ほどなく物語へ引き込まれていった。これは憑依型とも言われる彼女の力なのか、話の強さがなせる技なのかは判断が難しいところだ。

アニメの画は基本的に柔らかいタッチで登場人物もみなかわいらしい。華やかな昭和初期の街並み、何気なくも美しい自然の風景、登場人物の微笑ましい場面が前半を中心にふんだんに描かれていることで、後半の激動がより強く響いてくる。

広島と呉へ行ってみたくなった。

(95点)
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「ソーセージパーティー」

2016年11月06日 14時18分36秒 | 映画(2016)
悪趣味で幼稚なボクらのために。


北米のBox Officeのチャートを見ていていちばん気になるのが、想定外のヒットという類の作品である。

大作やシリーズものばかりが目に付くようになって久しいが、時々紛れ込んでくるサプライズヒットは掘り出し物の予感が漂っていて日本公開が楽しみになる(もちろんDVDスルーという悲劇もあるが)。

今年の夏、「スーサイドスクワッド」には及ばなかったものの異例のヒットとなったのが、ソーセージを主役にした異色のアニメ「ソーセージパーティー」であった。

1本のソーセージくんがアップになったなんとも脱力なポスターと、そこに掲げられている声優陣の豪華さのギャップに興味を持っていたが、館数が超限定ながら劇場公開されることが分かったので、秋晴れの中六本木まで足を運んだ。

公開直後ということでもらった来場記念品は自由帳。表紙には「R15+子供は観ちゃダメ♡」の文字と、艶っぽいパンが笑顔のソーセージを自分の中に挟みこんでいる画が載っていた。

薄々気付いてはいたけど、そういうことね。周りは当然前情報ありのオトナな方たちなのであろう。六本木の1番スクリーンはほぼ満員であった。

独立記念日前日。巨大スーパーの売り物すべてが生きていてしゃべったり争ったりしている世界の中で、特設売り場に並べられたソーセージのフランクとバンズのブレンダは、同じ人に買われて結ばれる運命を信じていた。

彼らにとって人間に買われることは神に選ばれること。スーパーの外では天国のような暮らしが待っているはずだった。

おもちゃに命を吹き込んだ「トイストーリー」シリーズに代表されるように、モノを主人公とするアニメには冒険と感動の名作が多いのだが、本作が明らかに真っ向から異なっているのは、その「天国」が意味するところである。

中に入れたいソーセージと、入ってもらいたいバンズ。他の食材もいろいろ出てくるが、彼らのこのモチベーションを核にして物語を構成しているから、基本的に全篇通して不道徳である。

不道徳も突き抜ければ怖くない。主役たちの前に立ち塞がる敵は、なんと、ビデ。

外国のホテルでそれ用らしい便器を見ることはあるが、日本人の男性にとっては意味不明の物体が大画面を堂々と行き来するシュールな画像となっていた。

望みどおり人間によって購入された食材たちが直面する現実。フランクは、古くから売り場に居付きすべてを知る保存食品から、人間に買われることは食べられることだという真実を明かされる。

そしてフランクたちは立ち上がる。自分たちの命を守るために個性豊かなキャラクターたちが入り乱れて奮闘する様子は、「トイストーリー」シリーズと比べても遜色ない立派な冒険譚に仕上がっている。

ギャグは当たり外れが激しくいかにもアメリカ。Meat Loafはやっぱりお笑いとして扱うのが似合っている。

そして迎える大団円。殺戮者である人間をとっちめて売り場を制圧したフランクたち率いる売り物たち。R15+がそこらじゅうに暴発する衝撃の映像が流れる。

最後はどう落とし前をつけるのかと思ったら、保存食品からまさかの二度めの告白。なんでもありの映画だからこそできる手法であり、バカばかりしていても押さえ方がスマートだったりするからアメリカは憎めない。

(85点)
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「PK」

2016年11月03日 21時15分51秒 | 映画(2016)
信仰とは、祈ること。それだけ。


ひさしぶりのインド映画。主演は2年前の「チェイス!」に続いてアーミルカーンだ。

前作の記事では内川聖一と書いたが、今回は独特な風貌をより突出させて宇宙人となってしまった。

地球に着くなり母船のUFOを呼び出すリモコンを盗人に奪われた宇宙人が行く先々で大騒動を引き起こす・・・というのが大筋だが、この騒動の内容が本作の肝である。

それは宗教だ。

人の心の拠りどころとして精神の安定に大きな役割を果たす一方で、それを悪用した犯罪も絶えることがない。宗派が異なる人たちは大昔から聖地を巡って戦いを続けてきた。

善なのか、悪なのか。そもそも神は存在しうるのか。薄々思っているけど口に出せないことを宇宙人・PKを通して具現化する。時にはコミカルに、時には大真面目に。

冒頭からパキスタンとインドの男女が出会う場面が描かれ、作り手の覚悟を感じたと思えば、唐突に歌と踊りが長時間挟まれるボリウッドスタイルはそのまま。社会的メッセージを含む大衆娯楽は、前作と通じるインド映画の発展形と言えるだろう。

PKは自分の星へ帰りたいという願いをかなえるために神を探し続ける。様々な信仰の儀式はいずれも風変わりにしか見えず、似たようなことをしている宗教団体からはさぞ憎悪の眼で見られたに違いない。

しかし、もちろん茶化しや批判は本筋ではない。宗教の必要性を認めた上で、神の名を借りて弱みにつけこもうとする偽者だけを断罪するPKの演説を配することでしっかりと着地させている。

娯楽要素も充実している。

PKが出遭うテレビレポーターのジャグーを演じるアヌシュカシャルマはC.ディアス似で華がある。宇宙人と恋仲にはならないが、過去の悲恋やPKのほのかな恋心、そして宗教を巡って対立してしまった父娘関係など、多様な人間関係の要として喜怒哀楽に富んだ人間ドラマを提供してくれる。

今回はエンディングもハッピーな感じで良かった。全員が出てきて踊り出すまではいかなかったが、やっぱり観て幸せな気分になれることこそがインド映画のいいところだと思う。

(80点)
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「ザギフト」

2016年11月03日 19時48分42秒 | 映画(2016)
善悪の配置を巧みにミスリード。


恐ろしい隣人を恐怖の核として作られた映画は何本もある。邦画でも今年香川照之がそんな役をやっていた。

いくつも作られるということは、少し切り口を変えれば通じる飽きの来ない題材と言えるのかもしれない。実際に本作もその類の話を予想した上で映画館まで足を運んだ。

シカゴからLAへ引っ越してきた夫妻の前に現れたのは夫の旧友を名乗る人物・ゴード。彼は夫妻の自宅を頻繁に訪れ、時には小さなギフトを玄関先に置いていくようになる。神出鬼没な行動やぎこちない人当たりが不気味さを醸し出し、次第に夫婦、特に妻のロビンの精神をむしばんでいく。

と、ここまでは予想どおりの展開。あとは、主人公を襲う恐怖に怯えながらサイコな旧友の討伐を楽しもうと身構えるだけだったのだが・・・。

この作品、実は仕掛けがある。

後半、生理的に驚かせるホラー要素は影を潜め、ゴードと夫・サイモンの間にかつて起きたことの謎を巡るサスペンスへと趣きを変える。

その謎の奥にあったのは、得体の知れない恐怖ではなく、対象者にとっては明らかに眼前で起きる物理的なハラスメントであった。

サイコ犯罪よりも遥かに高頻度で発生している日常の理不尽。些細なことであっても、それで人生のすべてを狂わされることだってある。

ゴードが夫妻にギフトを贈り続けたのは、本当に過去を洗い流したかったからなのかもしれない。ただ、そのチャンスは必然的に摘み取られ、ゴード渾身の最後のギフトへと繋がっていく。

繰り返しになるが、単純なホラーではない。誰も犠牲にならない(コイ以外は)し、血すら出ていないと言っていい。しかし、だからこそ、現実味を湛えたラストの各人への思い入れが深まったのだろう。

予想を覆す展開と、奇をてらわずに終始冷静な演出に徹した姿勢に感心した。

(75点)
コメント (2)
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「高慢と偏見とゾンビ」

2016年10月02日 13時20分57秒 | 映画(2016)
危機に立ち向かうことで結び付く関係。


最近、自分が映画を観るときに無意識に求めていることが分かってきた。

それは、これまで目にしたことがないような新しい体験。

俳優のすばらしい演技でも、映像技術でも、どんでん返しでも、心に刺さる印象的な何かを欲しているのである。

その意味で本作はそんな「何か」の気配に満ち満ちた作品であることは間違いなかった。なにしろ「不朽の名作、感染。」である。

死者の生き返りから感染という展開を見せてからのゾンビ業界の広がりは目を見張るものがある。まだまだアイデアの泉は尽きないようだ。

ただ個人的に本作に関しては問題があって、学のない私は元ネタを読んだことがなかった。

どうしたもんかなーと思いつつも、時間があってファーストデイだったので映画館に飛び込んだのだが、結果としては十分楽しむことができた。

物語のベースはあくまで主役であるエリザベスとダーシーの恋愛であり、ゾンビが人肉をむさぼるようなホラーのインパクトに頼る演出は極力控えられていた。

ただ、二人にとって感情の岐路となる場面にゾンビが居合わせることによって、ありがちな恋愛モノと完全に一線を画しているのだ。まあ上手く考えられた企画である。

戦争が身近にあった18世紀の世界において、戦いの相手が異国からゾンビに変わったとすれば、設定としてハマりやすかったというのが勝因であろう。

今後、いろいろな作品にゾンビを絡ませることが流行る可能性は・・・どうだろう。調理次第ではおもしろい作品ができると思うのだが。

とここまでは良い点を中心に述べたが、もちろん首をかしげるような場面を見られた。

途中から出てくるレディ・キャサリンの立場と行動が不明だとか、ゾンビを凶暴化させるダーシーの行動はどう見てもおかしいとか、原作を上手くすくいきれていなかったせいかもしれないが、物語としては粗い作りだったと言わざるを得ない。

主役を演じるL.ジェームズは好みという点では微妙だが、意志の強い表情は優雅さと強さを併せ持つ女性として合っていた。

跡継ぎのいないベネット家の姉妹に擦り寄り、節操なく求婚するコリンズ牧師がツボだった。ラストは、ゾンビものとしては概ね納得の収まりだが、コリンズ牧師の身を案じてしまった。

(75点)
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