Con Gas, Sin Hielo

細々と続ける最果てのブログへようこそ。

「ミッドサマー」

2020年03月14日 22時46分39秒 | 映画(2020)
伝統の継承こそ大義なり。


「ヘレディタリー/継承」 - Con Gas, Sin Hieloが非常に高い評価を受けたA.アスター監督の最新作が公開された。

「ヘレディタリー/継承」は個人的に好きな作品ではなかったがインパクトは絶大で、ワイヤーでギーコギーコするあの場面はいまだにはっきりと思い出すことができる。もはやトラウマに近い。

今回の作品も相当にクセが強いらしく、公開前から結構話題に上っていた。それは「明るいことがおそろしい」という触れ込みだ。

舞台は北欧・スウェーデン。白夜の土地で90年に一度開かれるという祝祭にゲストとして訪れた若者たちが恐怖の体験に巻き込まれるというお話。

実は残念ながらこの設定を知ってしまうと、意外と作品を楽しめない。はじめから登場人物をカルトな村人と哀れな被害者に固定して見てしまうので意外性がなくなってしまうのだ。

「13日の金曜日」のようなショッキングを売りとするホラー映画であれば、設定がある程度分かっていようとも影響はないのだが、本作はジャンル分けするならばもう少し奥が深いスリラーである。主人公たちと同じ意識で村に入った方がきっと展開を楽しむことができたであろう。

作品の肝となる祝祭の描写はすばらしい。

輝く太陽の下で花と緑がきれいに飾られ、一様の民族衣装に身を包んだ村人たちが歌って踊る。表の光景だけでも芸術的に良く作られているが、それ以上に印象に残るのは、何の変哲もない田舎の祭りの傍らで、後の惨劇の舞台が隠すことなく映されていたことである。

着飾った装飾の植物や食卓に並べられた食材が特殊技術でゆらゆらと蠢く。村の至るところに歴史遺産として存在する意味ありげな絵画や石板。檻に入れられた熊。入ってはいけない建物。明るいのに次第に不穏な空気に覆われていく演出は独特である。

そしてその空気が決定的となるのがアッテストゥパンという儀式だ。来訪者たちは祝祭の異常さを確信するが時既に遅し、である。

上述のように来訪者がとんでもない目に遭うということは事前に知ってしまっていたので、関心はやられ方とどこまでやられるかに絞られた。特に家族を凄惨な事件で失った過去を持つ主人公・ダニーの結末はまったく予想がつかなかった。

それは劇中で明らかになる祝祭の意義によるのだが、これがもう一つ理解できなかった。ダニーたちを祝祭に招き入れたペレは、どこまで筋書きを設定していたのか。メイクィーンの冠を戴くことになるダンス合戦の勝者ははじめから決まっていたのか。

最後のダニーの選択が筋書き通りだったのだけは飲み込めた。ただ、A.アスター監督は優しいなと思ったのは、犠牲になる来訪者に少しずつ負のエピソードを付け加えていたことである。何の落ち度もない若者たちが殺されていくとなれば恐怖感は倍増したのだろうけれど、恐怖を描くことは監督の目的の中心ではなかったということなのかもしれない。

(75点)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「1917 命をかけた伝令」

2020年03月01日 18時38分42秒 | 映画(2020)
100年前の戦場風ドラマ。


アカデミー賞作品賞の本命でありながら、ちょっとした風向きの影響で受賞を逃したとも言われている本作。

宣伝で盛んに流れていた最大の売りは、戦場の臨場感を最大限に引き出したワンカット風の撮影技術である。

冒頭、戦争とかけ離れた青い空と緑の草原が広がる中で若い男性兵士が寝転んでいる。どうやら束の間の休息らしい。そこへ上官が歩み寄り新たな任務を告げることで、ノンストップのドラマが幕を開ける。

任務の詳細を聞くために将軍の元へ向かうブレイクとスコフィールド。舞台は、草原のすぐ傍に張り巡らされた塹壕へ移る。細い溝のような狭い空間を兵士がひっきりなしに行き交う。敵を目前にしている緊張感がひしひしと伝わってくる。

将軍の指令は、最前線にいる部隊が計画しているドイツ軍への一斉攻撃を中止するよう伝えること。ドイツ軍が仕掛けている罠にハマれば千人単位の犠牲者が出てしまう。重大であることはもちろん、敵の目をかいくぐって次の朝が来る前に指令を伝えるという点でも、とても困難なミッションであった。

自陣の塹壕を一歩出ると、そこには別の静寂な世界が待っていた。引きちぎられた鉄条網、無造作に転がる死体。爆発でできたと思われる穴には泥水が溜まっている。敵は撤退したのか、待ち構えているのか。いつ銃声が轟いてもおかしくない正体不明の静寂は、塹壕の喧騒より更に張り詰めた空気に支配されていた。

この映画について、RPGのゲームのようだという感想を見たことがある。上述の草原から塹壕、そして静寂の戦場へと、途切れなく特徴の大きく異なる舞台へ移り変わる様子は、確かにゲームのようでもあった。

そしてそれぞれの舞台でスコフィールドたちに事件が発生する点もゲーム的であった。眼前での敵機の墜落、味方部隊との出会い、橋の崩落と銃撃戦、地下に隠れていた市民との遭遇・・・。中盤以降はドラマティックな展開が続く。

100年以上前の戦争だから生き証人はいない。映画の最後にも「この話をしてくれた誰々に感謝」といった字幕が出ていたが、言ってみれば「事実に基づいた~」よりも脚色が強いのである。戦争映画をリアルとドラマに分けるのであれば、本作はかなりドラマに重心を置いた作品であると言える。

もちろんそれは良い悪いではなく好みの問題である。将軍の指示を受けた二人が何もない戦場をただ半日歩くだけでは映画にならない。しかし個人的には、冒頭の緊張感で身構えたところに立て続けにドラマを見せられることになって、少し拍子抜けしたというのが本音である。ご都合の展開も多かったし。

それでもワンカット風の効果は絶大であった。2時間の映画で翌日の朝まで描いているので、もちろん「風」には違いないのであるが、強引な辻褄合わせを感じることはほとんどなかった。撮影賞の受賞は至極当然と言えるだろう。

(75点)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする