Con Gas, Sin Hielo

細々と続ける最果てのブログへようこそ。

「紙の月」

2014年11月24日 22時46分15秒 | 映画(2014)
張りぼての情け。


「桐島、部活やめるってよ」の吉田大八監督待望の新作ということで観に行ってみた。

普通の銀行員がふとしたきっかけから巨額横領事件を起こすまでの転落物語で、主演は宮沢りえ

彼女ももう40歳を過ぎた。キレイとひとくくりにすればそうなるが、年齢を経て頬がこけた容姿は人生の疲れが見え始める主人公に違和感なく溶け込む。

実際の彼女もいろいろあったしねー、と俳優のキャラクターを重ねてしまうのは良いことか悪いことか。

原作は実話ではないと聞いているが、展開はいかにもありそうな筋書きを辿る。

夫婦のすれ違い。若い男との出会い。少額のお金に手をつけたところから崩れ落ちる道徳心の壁。

大島優子演じる同僚が度々口にする「ありがち」がまさに主人公の周りで連鎖する流れなのだが、意外性がなさ過ぎて正直あまりおもしろくはない。

貢いだ若い男もこれまた計ったように増長し始めて、行く先は当然のように「ありがち」な行き止まり。

その中でもおもしろいと思ったのは、主人公が高校時代に経験した外国の恵まれない人たちへの募金活動と対比する部分だろうか。

良かれと思ってしたことが、はじめこそ効果を実感するがそのうちうやむやになっていく。

すぐに若い学生が街頭で声を上げて呼びかけている活動が思い浮かんだのだが、こんな描き方して大丈夫かなと思ってしまう。

主人公の学校では、シスター(先生?)が提案してクラス単位の募金箱に寄付する形をとっていた。

みんなは自然と意識が薄まっていくところを、彼女だけが当初の善意をうまく消化することができずに、ある問題行動に及んでしまう。

若い男に施すことを考えて顧客の財産に手をつけたという思考回路が従来のものだったことを描いているわけだが、この場面は少々行き過ぎかなと思った。原作通りなのかもしれないが。

彼女がとった行動が従来から備わっていた思考回路によるものだったとするならば、それはこの物語を、普通の人の転落から特定の人の因果応報へ移相してしまっているような気がするのだ。

話としては有りだが、共感やそれに基づく感銘を受けることはできない。

(60点)
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「美女と野獣」

2014年11月16日 01時16分58秒 | 映画(2014)
実写版を作る大義とは?


「美女と野獣」といえばディズニーでメジャーとなった作品。ディズニーといえば、プリンセスが幸せになる話を楽しいキャラクターと音楽でコーティングすると相場が決まっている。

だから、ディズニー作品をまったく違った味付けで調理し直すということは、定義としては分かりやすい作業で可能ということになる。

しかし、それが上手くいくかどうかは完全に別の話だ。

本作はディズニーと違う空気づくりには成功している。

R.セドゥのプリンセスこそ美しいが、王子役はV.カッセルである。風変わりなクリーチャーも登場するが、笑わせたり活躍したりする場面は極めて少ない。

ではその代わりに見せ場となるところはどこかと思うのだが、正直これといったものは見当たらなかった。

子供向けにならないよう物語を克明に描いたと言いたいのかもしれないが、個人的には、王子の悲しい経験談を脳内にインプットされただけで彼を好きになれるのかという疑念が拭えず。

狂言回しとなる読み聞かせの設定は冒頭から正体丸分かりで、こちらの展開は逆に子供向けのように感じた。

本当は怖いグリム童話のような話を勝手に想像してしまったこちらが悪いのかもしれないが、なんとも立ち位置の分かりにくい作品だと思った。

R.セドゥは良いです。

(55点)
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「嗤う分身」

2014年11月15日 22時55分18秒 | 映画(2014)
強い思いが、個を救い作り上げる。


サイモン(サイモン・ジェームス)という男の存在をめぐる物語。

何をしても冴えない青年。まるで負のオーラを背負って生きているように、行く先々で不遇な目に遭う。

そんな彼が働く職場に、ある日、姿かたちが瓜二つのジェームス(ジェームス・サイモン)という男がやって来る。

容姿が同じながら性格がまったく異なるジェームスは、社交性と要領の良さで軽々と世の中を渡る。

そして同じ見かけのサイモンに目をつけて、寄り添うようにしながら少しずつ彼の周りのものを搾取しはじめる。

気付いても何も太刀打ちできないサイモン。仕事を、住居を、片思いの恋までも奪われた彼には絶望しか残っていなかったが…。

舞台は、どの時代のどの場所にも当てはまらない超現実の空間。

電車、会社、テレビ、コピー機と出てくるが、それは見かけが同じだけで私たちが慣れ親しんでいるものとは明らかに何かが違う。

違和感だらけの風景は、サイモンの精神世界の具現化に見える。ジェームスの存在は、成長できないサイモンが乗り越えなければならない壁だ。

サイモンとジェームスは容姿も名前もほとんど同じなのに、周りは言われて初めて「そういえば似ているかもしれないね」と気付く。

同一人物が二役を演じているだけにその状況描写は限りなくシュールなのだが、映画全体の不安定さと相関が良いし、人が持つ多面性を突き詰めていけば生じうる事象として理解できる。

「特別な存在でありたい」と語るサイモン。「オンリーワン」などと言うと薄っぺらく感じるが、この気付きは的確だった。以前のサイモンはジェームスと似ていなかったのではなく、存在が限りなく無であったのだ。

思いを募らせ、現状にただ絶望するのではなく何かをしなければと思い行動する。そうして人は成長する。そう考えれば極めて分かりやすい話なのである。

この手の神経質な役にJ.アイゼンバーグほどハマる役者はいない。更に彼は自信家のじぇも違和感なく演じられる点が強みだ。

(75点)

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「イコライザー」

2014年11月08日 10時42分32秒 | 映画(2014)
顔で勝負が決する横綱相撲。


大横綱というもの、少々調子が悪くても顔と四股名だけで取組に勝ってしまうケースがままある。本作のD.ワシントンはまさにそれ。

昼間は一般市民として生活し、夜になると世の中の悪を秘密裏に葬り去る義賊となって立ち回るとなれば、それはもう完全に「必殺」の世界。

良くも悪くもB級全開の設定と物語なのだが、この主役を彼が演じるだけでちょっとした風格を感じてしまうから、やはり顔の力というものは侮れない。まさに「人は見かけが9割」。

更に本作の妙味は、たいていのヒーローは一旦窮地に追い込まれる場面があって、そこから大逆転を果たすことで観る側のカタルシスを引き出すのだが、この主人公はほぼ全篇に渡って冷や汗の一滴も流すことがない。

敵方がいくら策を練ろうとも、かえって格の違いを見せつけられるだけの結果に終わるという、これはこれで疲れることなく観られるので個人的には歓迎であった。

そんなわけで、敵も味方もすべての登場人物がD.ワシントンの引き立て役という潔い作品である。製作に彼の名前も入っていたが、娯楽作品で力を抜いて楽しんでいる姿が浮かんでくるようだ(勝手な想像だが)。

C.グレース・モレッツは、裏稼業のきっかけを作る役どころとして登場。スターダムを夢見ながらも売春に身を落とすロシア系移民という設定は、彼女の派手な顔立ちと相関が良い。

クセの強い美人である故に明るいラブコメはなかなか合わない。その方が女優としての広がりを求める上では良いのかもしれないが。

(65点)
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