Con Gas, Sin Hielo

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「マイエレメント」

2023年08月21日 22時12分23秒 | 映画(2023)
さんずいにほのお。淡い恋心の行方は?


ピクサーの作品を観るのはいつ以来だろうと調べてみたら、「2分の1の魔法」からちょうど3年になることが分かった。

昨年夏公開の「バズライトイヤー」が低評価もあって映画館に足を運ぶまで至らず、観てもいいかなと思っていた昨年春の「私ときどきレッサーパンダ」、2020年12月の「ソウルフルワールド」はいずれも配信のみと、毎年のように傑作を送り出していた時代が夢のように感じる状態が続いていたのである。

そうした中で本作が劇場公開となったのは、新型コロナが一段落して基本線を劇場公開へ回帰していくことに決めたのか、それとも本作の成績を見ながら判断していくことになるのか。同じディズニー傘下で配信作品の増加が目立つマーベルを含めて、今後の転換点となる作品かもしれない。

これまでのピクサー作品と同様に原題は1字単語で"Elemental"。世界を形づくる火・水・土・風の4つの要素が生命体として共存する架空の都市、エレメントシティが舞台となっている。

言わずもがなであるが、これら4つのエレメントは現実世界における人種をなぞらえたものと受け取れる。火と水が自然界で交わることはないように、同じ都市に暮らす住人でありながら、火のエレメントと水のエレメントはお互いを忌避していた。

というよりも、4つのエレメントの中で明らかに火のエレメントのみが疎外されている世界であった。近づくと木が焼かれてしまうなど、威力が強すぎて仕方ない部分もあるけれど、他のエレメントと相容れない火のエレメントは、同種だけが暮らすコミュニティを形成し、ますます閉じこもるようになっていた。

物語の主人公は、そんなコミュニティ内で雑貨店を営む夫婦のもとに生まれたひとり娘・エンバー。両親や隣人たちからたっぷりの愛情を受けて育った彼女は、雑貨店の立派な跡継ぎになることを目標に日々努力を重ねていた。

ある日、雑貨店に異変が起こる。矢継ぎ早に来る来客の難しい要求に耐え切れなくなったエンバーは、地下室で怒りを爆発させ、店舗の水道管を破裂させてしまう。みるみるうちに火の天敵である水で満たされていく地下室。そして、あふれる水と一緒に水道管から出てきたのが、水のエレメントの住人であるウェイドであった。

ウェイドは市役所の職員で、エンバーの店舗が違法建築であることを発見する。このことが正式に役所に受理されれば雑貨店は営業停止になってしまう。焦ったエンバーはウェイドを追いかけ、行ったことのないエレメントシティの中心街へ足を踏み入れることになる。

差別や偏見を取り除き、多様性を尊重しようというのは普遍的なテーマであるが、調理するのは意外と難しく、特に最近のディズニーは、行き過ぎたポリコレ的な批判を受けることも多い。

しかし本作は、差別を受けている火のエレメントからの一方的な物言いではなく、火と水それぞれに長所と短所があり、お互いが補い合うことで新たな世界が広がるということをバランス良く描いている。

もちろん分かりやすいキャラクターの設定も効果的だ。気性の激しいエンバーが女性で、泣き虫で穏やかなウェイドが男性というのは、最近のジェンダー論争に照らし合わせると逆にステレオタイプ過ぎるように見えかねないが、性格はエレメントの属性という整理ができるから許容範囲であろう。

エレメントの特徴を展開の小道具としてうまく使っている場面も印象に残る。エンバーが瞬時に物を溶かして自由自在に成型するのを見て驚くウェイド一家が微笑ましい一方で、密閉空間でエンバーの熱によって蒸発していくウェイドに胸を締め付けられる。

かつての、と言うと語弊があるかもしれないが、良質な作品を次々に生み出していたピクサーの面目躍如といったところだろうか。その甲斐あってか、日米ともに公開直後は苦戦した興行成績が口コミ等の効果で粘り強さを発揮し、特に北米ではピクサー史上前代未聞のカムバックと評されている。

上述のとおり大きな転換点として、今後のピクサー、ディズニーの発展に期待したいところである。

(80点)
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「しん次元! クレヨンしんちゃん THE MOVIE 超能力大決戦 〜とべとべ手巻き寿司〜」

2023年08月06日 10時00分34秒 | 映画(2023)
作品が生きる条件とは。


今年は「クレしん」の劇場版第1作「アクション仮面VSハイグレ魔王」が公開されてから30年という節目の年。それを記念してか、今回は「しん次元」と冠して特別に3DCGアニメとなった作品が公開されることとなった(※イオンシネマも30周年記念を押し出していた。正確に言えばワーナーマイカルシネマズ海老名が誕生して30年だが)。

脚本・監督は大根仁。実績十分の氏がしんちゃんワールドをどう調理するのかが注目されたが、個人的な感想としては、特に悪くはないが取り立てて大きな驚きがあったわけでもないといったところだろうか。

劇場版クレしんには暗黙のノルマのようなものがあって、おバカでちょっとお下品な設定や展開と、家族や友達との熱い絆という、対照的な二つの要素を組み入れるのが定番となっている。ものすごく冷めた言い方をすれば、前者でおこちゃまを釣り、後者で一緒に見に来た大人にも満足してもらいましょうという算段だ。

その点では、今回お下品要素はかなり少なかったような気がする。ゲストキャラクターや彼らが所属する組織の名前も普通だったし、しんちゃんのおしりがフィーチャーされるのもアニメのレギュラー放送と大差なかった。

熱い絆についても、かすかべ防衛隊は完全な脇役、野原一家が団結する場面も少なく、みさえもひろしも外側からしんちゃんの無事を祈るしかできない展開が多かった。その代わりに中心になったのは、本作のゲスト・松坂桃李が演じる非理谷充としんちゃんの友情であった。

幼いころから家族の愛情に恵まれず、特技も友達もないまま大人になり、鬱屈とした生活を送っていた非理谷に闇の力が憑りついて世界の危機が訪れるのだが、しんちゃんは怪物と化した非理谷の体内に入り、彼の過去に遡って子供のころの非理谷と友情を育むという展開だ。

良い話だし、筋も通っている。この世の中、おもしろくないこと、うまくいかないことばかりだけど希望はあるというメッセージも伝わってくる。

ただその効果は未知数である。上述のように今回はしんちゃん以外のキャラクターに見せ場が少なく、クレしんに馴染んでいる観客への訴求力が若干弱いのである。

売りである3DCGも評価は分かれるだろう。オープニングでしんちゃんとみさえの追いかけっこが繰り広げられる。狭い路地をすり抜け、キックボードや自転車を使って駆け回り空を飛ぶ。ハリウッドのアクション映画を彷彿とさせる構成で、これをやりたい故の3DCGだったのかと思ったが、必要だったのか?ファンはこれを求めているのか?という問いへの回答は出ない。

結論としては、冒頭のとおり本作は30周年の特別企画と割り切るのが妥当なのだろう。エンディングで流れた来年の特報では、画像はノーマルのしんちゃんに戻っていた。

ただ公開日は夏休みでもいいのかもしれない。競合作品がないからか、GWだとコナンに譲る大きなスクリーンを確保できていたし、多くの子供の動員も期待できそうである。

(60点)
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「交換ウソ日記」

2023年08月03日 20時09分23秒 | 映画(2023)
アナログな恋があたたかい。


テレビCMの起用社数ランキングというのが時々話題になる。これは様々なジャンルの名立たる企業が「この人を起用すれば商品が売れる」と判断した結果を積み重ねた、いわばタレントのパワーランキングである。

2023年上半期の女性タレントの上位には、川口春奈、芦田愛菜、今田美桜、永野芽郁、橋本環奈、広瀬すずといった面々が並ぶ。芦田さん以外は20代前半の文句なしに最前線にいる女性たちだ。

しかし世の中が動き続ける中で、彼女たちのすぐ後ろでは、次の最前線を目指しての熾烈なレースが繰り広げられている。上下5歳くらいの年代を塊とすれば、次の世代は現在20歳前後の層となる。

ひとつ上のステージに上がるチャンスをうかがう彼女らにとって、CMやドラマの脇役などと同様に飛躍の舞台の定番となっているのが劇場版の恋愛映画である(もっと広げて学園モノという括りもできるが、映画では不思議と恋愛かヤンキーに限られてしまうので、ここでは言い切ることにする)。

ただこの手の作品は、原作が豊富にあって予算もそれほどかからないからか、かなりの頻度で製作されており、実際にはそれほど印象に残らないということもままある。

そんな中で本作。公開のタイミングが良かったのかもしれないが、興行的に健闘を見せており、各サイトで見るレビューの評価もなかなか高い。

ちょっと見たストーリーもどうなるのか気になるし、「Pearl パール」の後に一転して甘酸っぱいのもいいかもね、ということで観に行ったわけだ(前置きが長い)。

ヒロインは桜田ひより(20歳)。相手役は高橋文哉(22歳)。クレジットは男性が先に出るが、物語の主役は間違いなく桜田演じる黒田さんである。

桜田ひよりは子役のころから見ていたが順調に成長した感じがする。とにかく目の大きさが最初に来るが、その他のパーツも大きく厚みがあるので、何というか大画面負けしない。

高橋文哉は仮面ライダーゼロワンで主役を演じたとのことで、まあさわやかです。少女漫画特有の、女子生徒にキャーキャー言われるモテ男子キャラで、そんなの本当にいるのかね?と思うのだけど、彼であれば人気があること自体に違和感はない。

物語は、移動教室というシステムを使って、モテ男子・瀬戸山くんが同じ机を使っている女子にラブレターを送ったことから始まる。

瀬戸山くんは生徒会長の松本さんに送ったつもりだったのだが、その手紙を受け取った(同じ机を使っていた)女子は黒田さんだった。気づかずに手紙のやりとりを始めた二人。その後もう少しお互いを知るためにノートで日記を交換しようということになり、良い雰囲気になってきたと思ったときに瀬戸山くんのメッセージに「松本」の文字が。

ショックを受けると同時に何とかこの間違いを正さなくてはと思うが、きっかけをつかめずになし崩し的に交換日記を続けてしまう黒田さん。彼女と松本さんが幼いころからの親友というところが、また話を複雑にしていく。

まあハッピーエンドになることは織り込み済みなので、ポイントはそこに至る過程でどれだけときめきを感じさせてくれるかということになる。

その点、同じ列で観ていた若い男女のお客さんがすごく素直で良い反応をしていたが、とにかく主役の二人がかわいくかっこよく、初々しくてさわやかなので、終始微笑ましく見ていられる。瀬戸山くんが黒田さんのほっぺたをむぎゅっと潰すなんて思いっきりベタな場面が結構出てくるけれど、恥ずかしさの手前で踏みとどまっている。

あと、織り込み済みと書いたけど、ストーリーも少し意外なところがあって、描かれなかった瀬戸山くんの心情の推移が最後になって分かるところは良かった。彼は、松本さんに手紙を出したのではなく、同じ机を使っていたひとに送っていたのであり、黒田さんと会話を重ねることで彼は彼なりにいろいろ考えるようになっていたのだ。

上では「パール」とのバランスで甘酸っぱい作品をと書いたが、どちらかといえば日本テレビで放映しているドラマ「最高の教師」の荒んだ高校との対照性の方が際立っているかもしれない。この高校、黒田さんの元カレも含めて悪いひとがまったくいないのである。

(80点)
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