Con Gas, Sin Hielo

細々と続ける最果てのブログへようこそ。

「アバウトタイム~愛おしい時間について」

2014年10月20日 07時14分44秒 | 映画(2014)
今ここにあるしあわせを。


タイムトラベルものは、よほど調理の仕方を誤らないかぎり話はおもしろくなる。それは時空を超えることによって巻き起こる騒動であり、能力自体が物語の軸となる。

本作が異なるのは、話が進むにつれて時間旅行の頻度が減ることにある。物語の中心はひとりの青年ティムの成長であり、彼が持つ能力は成長を形作るための一道具でしかないという枠組みなのである。

前半はタイムトラベルものとして単純におもしろい。せっかく出会った理想の女性メアリーとの時間をついリセットしてしまって焦って奔走する過程は滑稽であり、観る側をティムの応援団に引き寄せる役割を十二分に果たす。

ちょっとした会話でミスをするたびにその場を外して時間を巻き戻すなど、「サマータイムマシーンブルース」的な小ネタの可笑しさも満載で実に楽しい。

しかし、メアリーと仲良くなって結婚できたからめでたしめでたし、というのが人生ではない。むしろそこからが人生の本番とばかりに描き方を変えてくるのが後半だ。

子供の誕生、妹の不遇、そして父との別れ。家族単位での大きな出来事と正面から向かい合わなければならないとき、特殊能力は万能どころか何も役立たないことが分かる。

そして辿り着くティムなりの結論。同じ能力を持つ父や他の祖先と手法は違うかもしれないが、与えられた限りある時間を大切に生きるという、その境地は共通している。

ひとは誰もがタイムトラベラー。遡ったり先を越したりすることはできないかもしれないが、時間とともに旅を続けるのは変わらない。

最後にティムは幼いころに戻って父と遊んだ日常をただ再生する。もはやそれは能力とはあまり関係なく、普通のひとが頭の中で昔を振り返ることと何ら変わらない。

特別な力に頼ることなく、ただ日々を大切に生きること。そう心に留めるだけで、目にする景色、すれ違う人々、そのどれもがたまらなく愛おしくなる。あまりスマートとは言えない邦題だが、「愛おしい」という言葉は本作を表すにこれ以上ない言葉とも言える。

能力のできるできない決まりなど、若干込み入ってて混乱しそうになるところもあるが、上述のとおりそれは端のこと。

主役のティムを演じるD.グリーソンは、冒頭の頼りない青年から自信を身につけた弁護士の姿まで違和感なくこなす。R.マクアダムスは相変わらず文句なしのかわいさだし、B.ナイの父親が枯れてなお羅針盤の役を務めることによって、しっかりと地に着いた作品に仕上がっている。

薄々気付いてはいる1日の大切さ。人生の後半、改めて前を向いて生きていくきっかけをもらった気がした。

(95点)
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「ジャージーボーイズ」

2014年10月05日 19時40分06秒 | 映画(2014)
天賦の才能に引き寄せられる夢と挫折。


解説を読むと、大ヒットミュージカルの映画化とのこと。

メガホンをとったC.イーストウッド監督は、主要キャストにミュージカル版の経験者を配置。馴染みのない顔が並ぶが、貧困層からスターダムを駆け上がる青年たちを映し出す手段としてはこちらの方がいい。

音楽業界の話なので劇中で使われる音楽の質が生命線なのは言わずもがなだが、本作はそのラインを軽々と越えてみせている。何より映画全体のテンポがいい。

冒頭からいきなりフォーシーズンズの面々がカメラに向かって話しかける演出。W.アレンの映画かと見紛うが、ミュージカル版の手法を踏襲したものとのことらしい。

これを踏み切りとし、その後は軽快なピッチと大胆なストライドでエピソードが続けて描かれ、ぽんぽんと先へ進む。

大きな成功を夢見ながらも、いや、夢見ていたがために危ない橋を渡り刑務所に入ったり出たりを繰り返す時期から、やがて一転成功の道へ。

展開は速いが決して雑ではない。小さなエピソードを簡潔に、それでいて要所は押さえた上で見応えのある画を入れているから、その後の各人が出遭う苦悩にしっかりと結び付く。

本作の実質的な主役となるのは、今も現役で活動を続けるフランキー・ヴァリ。映画の製作総指揮にも名前を連ねる。

理髪店の見習いで働いていた時点で既に、神から与えられた歌声に周りが惚れ込んで、大切に大切に育てようとしていた様子が描かれる。

成功の階段を上るにつれ、経験に裏打ちされた自信から自らの意見を通そうとするようになり、やがて迎える衝突とグループの決裂。

メンバーのトミーとニックの描き方には少し同情したくなる部分もあるが、4人の個性と思惑が交差する物語は観る側の心にぐいぐいと迫ってくる。

解散状態となったグループ、最愛の娘の死。失意のフランキーが最後にすがったのはやはり音楽だった。"Can't Take My Eyes Off You"ののメロディーが流れると自然に涙があふれた。

時は過ぎ1990年。ロックの殿堂入りを果たした彼らはひさしぶりの再会を果たす。ステージ上で観客に顔を向けると、そこには若かったころの彼らの姿が。そして演者全員が登場する大団円へ。

テンポの速い展開も、ラストの演出もそうだが、ミュージカル的でありながら映画だからこそ可能な技術を効果的に取り入れている。

あまり「感動」という言葉を安易に使いたくはないが、文句なしに楽しくて感動できる作品に仕上がっている。

(95点)
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