Con Gas, Sin Hielo

細々と続ける最果てのブログへようこそ。

「ミッション:インポッシブル/デッドレコニングPART ONE」

2023年07月29日 20時50分46秒 | 映画(2023)
ハリウッドの大看板を背負っている自負。


とにかく長い。決して間延びしているわけではない。むしろこれでもかというくらいアクションシーンがてんこ盛りで飽きさせない。ただこれでPART1なのである。おそらくアイデアが湧いて仕方がないのだろう。

H.フォードの80歳は、それは驚いて当然なのだが、T.クルーズの61歳というのは、やっている役が年相応じゃないだけに更に上回る驚きがある。

CGなどに一切頼ることなく、全速力で街を走り、カーアクションをこなし、予告や宣伝で大量に流れていたように断崖の上からバイクでダイブまでしてしまう。しかもあのシーン、一連の流れではクライマックスではなく対決の場へ向かう中のできごとなのである。

アクションシーンがてんこ盛りと書いたが、種類の違うアクションを様々な舞台装置を使って見せており(格闘、カーチェイス、テクノロジー、心理戦、空港、列車、時限爆弾、変装など)、とにかくぜいたく至極である。更に、登場人物が単純な1対1の対立ではなく入り組んでいることから、組み合わせのパズルでも楽しませてくれる。

ともすれば複雑で見失いそうになるところを、なんとか付いていける(正確に理解できていないかもしれないが、ごまかせる範囲までは)ように作っている構成も巧みだ。

今回2部作となった理由として、アクションがインフレなこともあるが、これまでにないレベルの敵である点も見逃せない。

タイトルとなった「デッドレコニング」。「推測航法」と訳されていたが、自動学習して相手の先手先手と攻めてくるAIの特徴を表したものである。

現時点で真の目的を捉えられていないAI・エンティティーがパートナーとして選んだ人間が、かつてイーサンがIMF(Impossible Missions Force)に所属することを決めた時代に因縁があったガブリエルという男。イーサンにとって最恐と呼ぶべき敵が登場したわけで、これまで以上の気合が入らない理由がない。

新たなヒロインも登場する。物語の軸となる「カギ」の片割れを盗む仕事を請け負ってイーサンと出会った女性・グレース。壮大な案件に巻き込まれた彼女は、誰が敵か味方か判断に迷い、救いの手を差し伸べるイーサンをことごとく出し抜く。

一方で前々作の「ミッション:インポッシブル/ローグネイション」から連続して出演しているイルサも登場し、ダブルヒロインの選択を迫られる瞬間が訪れる。

繰り返すが、半分でこの分量である。後半はこれを上回る規模と頻度の見どころがある作品となるに違いない。ちなみにストライキの関係で撮影が遅れているという話を聞くが。

あと、戸田奈津子女史の訳。AI・エンティティーを「それ」で通しているが、それが見えたらとか、その名前を口にしたらとかのホラーじゃないんだから。

(80点)
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「Pearl パール」

2023年07月28日 06時00分07秒 | 映画(2023)
「ゴス」、鈍器で叩いたときの擬音の響きにも似て。


A24作品って実はそれほど好みではない。後味が良くないことが多いというのが大きな理由だと思うが、それでも目に留まる、興味をそそられて観に行かずにはいられないというのも特徴である。

前作の「X エックス」も評点としては平凡ながら、その特異な作風は記憶にこびりつくもので、まさにA24のA24たる証であった。

その前作で若さに執着する醜悪なばあさんとして観る側に生傷を遺したパールの前日譚が本作である。よほど自信があったのか、「X エックス」のラストで予告篇のような映像が流され存在が明かされていた。

「X エックス」の惨劇から50年以上遡るだろうか、時代はスペイン風邪が世界的に流行していた1918年である。

舞台は同じ農場。パールは何らかの理由で身体の自由が失われた父と、そんな父を抱え懸命かつ厳格に家を切り盛りする母との3人暮らし。若くして結婚していたが、夫のハワードは自ら希望して第1次世界大戦の戦地へ赴いていた。

既婚者のパールであったが、まだまだ若いこともあり、ショウビズ界に出てスターになることを夢見る少女の一面も持っていた。しかし、そんな夢はいつも母の厳しい指導の前に叩き潰された。

ある日、町の教会でダンサーのオーディションが開催されるという知らせが入る。農場を出て夢をつかむチャンスにパールは浮き立つ。そして、抑圧されてきた彼女の心が歪な形で暴発する。

本作は何を置いてもM.ゴスに尽きる。前作では主役の女性とばあさんの二役を演じながらもそこまで印象に大きく残らなかったが、今回は徹頭徹尾彼女の独壇場が続く。

器量が悪いわけではないが、義妹のミッツィと比べると明らかに華やかさで劣る。踊りもそこそこ上手いが、決め手となるXファクターがない。

何かに手が届きそうになるたびに、その果実は遠くへ逃げて行ってしまう。好意を持ってくれていると思った人が突然自分を避けるような振る舞いを見せる。

ことごとく希望を摘み取られてきたパールが獲得したのは反撃のスイッチだった。スイッチが入る前後のM.ゴスの表情がとにかく圧巻だ。1分以上のスマイルが続く猛毒なエンドロールは映画史上に残ると言ってよい。

本作を観たうえで「X エックス」を振り返ると、あちらの作品のイメージもだいぶ異なってくる。異形なキャラクターが壮絶に潰されるというごく普通のB級ホラーが一転して、これだけの背景を持った人物があんな退場の仕方でよかったのか?と思えてきてしまうから不思議なものだ。

続篇は一転して「X エックス」の後日談となるらしい。また思ってもいない方向から攻めてくるのだろう。「パールは帰ってくる」とはならないかもしれないが。

(85点)
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「1秒先の彼」

2023年07月09日 23時58分19秒 | 映画(2023)
うるうな人たち。


宮藤官九郎脚本といいながらも、台湾でヒットした映画をベースにした作品である。既に完成されている作品を彼がどう調理するのか、そしてそもそも評判となったこの作品はどういう話なのか。主演の顔ぶれと相まってかなり興味をそそられた。

岡田将生が演じるのは、何をするにも1秒早いハジメ。清原果耶が演じるのは、何をするにも1秒遅いレイカ。2人に接点はない。少なくとも、前半部分のハジメのモノローグにそれを感じさせるものはない。

ハジメは、岡田将生が得意とする、見た目はいいけどクセが強くて女性とは縁遠い男性である。その彼が路上ライブをしていた桜子と知り合い、急速に親密になっていく。しかし花火大会のデートを約束した日、バスで待ち合わせ場所へ向かっていたはずの彼の体は突然翌日の自宅の寝床へと移動していた。

最初は時間が翌日に飛んでいたことを信じられないハジメであったが、何故か赤く日に焼けた肌や、写真館に飾られている身に覚えのない自分の写真を見て、時間は確実に過ぎていて、その間に自分の身に何かが起きていたことを知る。そして原因を追究した先にいたのは、レイカだった。

場面は変わり、今度はレイカのモノローグになる。言うなれば解決篇である。

ひとことで言えばファンタジー。この話を許容できるか否かは、映画の魅力と個人の嗜好の組み合わせ(タイミングもあるかもしれない)にかかってくるので断言はできないが、誠実で地味な少女が幸せになるのなら許せるというところか。

ファンタジーなので突っ込もうと思えば穴は開きまくっている。でもそれでいい。枝葉末節は剪定してまっすぐハッピーエンドへ進んでいい。

なんとなく辻褄が合っているような形をとっている名前ネタもかわいい。台湾版も同じような仕組みの話なのか少し気になる。

全体的にほんわかした作品だが、ラジオのパーソナリティで笑福亭笑瓶が登場するのには胸が詰まった。すごく元気そうな声じゃないか・・・。

(65点)
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「インディジョーンズと運命のダイヤル」

2023年07月08日 23時57分30秒 | 映画(2023)
暴走老人に免許返納という概念はない。


人間の記憶とは不思議なもので、昔のことの方がよく憶えているなんてことがよくある。

BKTFの第1作は何度も見返しているから鮮明な記憶が残っていてもおかしくないのだが、インディジョーンズシリーズはそこまで何度も観た自覚はない。にも拘らず、何故かことごとく思い出されるのは「レイダース失われたアーク」なのである。

洞窟をごろごろと転がる大玉、手のひらに懐中時計の跡が付いた桂文珍似の悪役、クライマックスのすべてを葬り去る伝説の力などなど。公開日が12月5日、仙台東宝で正月第1弾ロードショーだったことまで憶えている。

あれから42年。H.フォードはこの7月で80の大台に乗った。

CG処理されたインディが活躍する序章の後に、さっそく生身のH.フォードが登場する。引退間近の老教授となったインディは、息子が戦死、妻のマリオンとは離婚協議中ということで、学生も暮らす集合住宅の一角で寂しい生活を送っている。肌の張りもなく近所から流れる騒音に怒声を浴びせる姿は、困ったがんこじいさんにしか見えない。

そんな中、彼の前に現れたのは、かつての考古学者仲間であったバズの娘・ヘレナだった。初登場キャラです、おそらく。

今回話の中心となるおたからは、古代の偉大な数学者・アルキメデスが作った不思議な力を持つダイヤルである。あまりに強大な力を持つことを知ったアルキメデスが二つに割って存在を隠したという逸話を持つ代物。

その力に魅了されたのが、ナチスドイツ下で科学者として働いていたフォラーである。フォラーはダイヤルを探してインディのもとを訪れたヘレナを尾けてきていた。

ダイヤルの片割れを巡ってひと悶着が起きると、冒頭でがんこじいさんぶりを披露したインディが一転アクションスターへ復帰する。馬に乗るわ、モロッコの狭い街路をトゥクトゥクのような簡易自動車でカーチェイスするわ、世の中の80歳がアクセルとブレーキを踏み間違えるのではと(周りが)戦々恐々としているのとあまりに次元が違うが、やはり見ていてちょっと痛々しくもある。

それにしても何故いま第5作なのか。前作からでさえ15年が経っている。息子を亡きものにしてまで、評判の悪い前作を上書きして有終の美を飾る必要があったとでも言うのだろうか。

その割りには、今回バディとして重要な役を担うヘレナがそれほど魅力的には映らず、どう収拾を図るつもりなのかと見守っているとクライマックスがやって来た。

割れたダイヤルを元に戻し力を得たフォラーが、ダイヤルの力で出現した空の裂け目に向かって飛行機を飛ばす。その先に現れた世界は・・・。

考古学者として生きたインディの最期としてふさわしい場所を用意したのか、このための第5作だったのか。・・・と思わせておいてのラストの展開は良かった。

全身が痛くて痛くないところを探す方が難しい。ここは?・・・あったなー、やっぱり古い方が断然記憶に残っている。

(75点)
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「スパイダーマン:アクロスザスパイダーバース」

2023年07月08日 09時31分20秒 | 映画(2023)
これは"Shoot(ヤバい)"。


幾度もリブートされてきたスパイダーマンという素材を、既視感を感じない斬新なアニメ映像で作り上げた「スパイダーマン:スパイダーバース」から5年。続篇でありながら、前作とは違うアプローチで再び驚かせてくれた。

本作の何がすごいと言えば、映画を言い表すための言葉がいくつも浮かんでくることにある。

もちろん前作から強調されていたアメコミ風の画調のポップさは健在な上に、パワーアップしたマルチバースの世界、より深く掘り下げられるスパイダーマンの避けられない運命、異空間を超えて展開されるスケールの大きいスパイダーマンとグウェンの関係、場面ごとにクール、カラフル、スリル、ハートフルとまったく異なる位相が矢継ぎ早に訪れる。

そして、前作で若干の引っ掛かりであった、なぜマイケル・モラレスという有色人種が主人公なのか、安易なポリティカルコレクトネスの産物ではないのかというもやもやに対して、本作はがっちりと辻褄を合わせてくる。彼がスパイダーマンとなったことから生じたあるべき世界とのズレは、前篇である本作のクライマックスにすべてのスパイダーバースを巻き込む大きなうねりへと成長する。

最近のMCU作品に物足りなさを感じるのはマルチバースの設定によるものと思う節もあったが、本作をみる限りそれは間違っていることが分かった。本作のマルチバースは複雑ではあるが整然と整理されて飲み込めるものになっている。特に、スパイダーのウェブ(蜘蛛の糸)の比喩で世界のつながりを表現する場面を見ると、マルチバースの設定が必然であるとも思えてくる。

異世界のスパイダーマンもことごとくユニークである。インド系のスパイダーマンが活躍するのは時代とも言えるが、ほかにもパンク系のホービーであったり、マルチバースを束ねるリーダー格のミゲル・オハラであったり、もちろん元祖スパイダーマンでありマイケル・モラレスの師匠でもあるピーター・パーカーも健在だ。これだけいれば取っ散らかりそうなところを、前篇だけでもそれぞれに見せ場を作れている点も驚きである。

設定、ドラマと来て、やはり戻ってくるのは映像の斬新さである。マルチバースとアニメの相性の良さをことごとく実感する(そしてその逆、実写とは相性がいまいちであることも)とともに、アニメだからこそ映えるのが今回のヴィランであるスポットである。

冒頭ほどなくしてマイケル・モラレスの世界にふっと現れて、コミカルに動き回る彼がすべてのマルチバースの脅威へと進化する。出自もアメコミのヴィランの王道であり、後篇でどう絡んでいくのか今から期待である。

そして後篇といえば、ヴィランとの闘いだけではなく、世界の秩序を維持しようとするミゲル・オハラとのスパイダーバース的シビルウォーともいえる争いや、世界のズレから起きた異世界のマイケル・モラレスとの関係と、複層化した物語をどう収拾していくのか、これまでと同様に、こちらが思いもよらない展開で驚かせてくれることに期待している。

(90点)
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