Con Gas, Sin Hielo

細々と続ける最果てのブログへようこそ。

「NOPE/ノープ」

2022年08月28日 06時26分58秒 | 映画(2022)
ありえない世界を描くと言えば。


J.ピール監督は、当欄では「ゲットアウト」が大当たりで、「アス」が大外れという極端な結果が出ているが、好き嫌いはどうあれ、現在の映画界でこれまで観たことのない斬新な作品を作り続けるという意味ではとても期待している監督である。

今回の舞台は米国西部。広大に開けた視界に映る大空。一見何の変哲もない田舎の景色だが、よく目を凝らすとそこにはずっと動かず形を変えない雲があった。

今回主人公を恐怖に陥れるのは地球外生命体、フィクションの存在という点では前作に近い。ただ、前作に近いからと言ってそれが良し悪しに直結しているわけではない。彼らが徐々に存在を露わにする過程のおどろおどろしさは、シャマラン監督の掴みを彷彿させるおもしろさでぐいぐいと引き込まれる。

映像や音楽についても、地球外生命体が使用する飛行物体や惨劇が起こる西部劇をイメージした娯楽施設などのデザイン、Corey Hartの"Sunglasses at Night"をはじめとした音楽の使い方といったところに、細かいこだわりや作り込みが感じられて好感が持てる。

若干残念だったのは、こちらの理解度が足りなかったり、字幕への翻訳の限界があったりするのかもしれないけれど、事象のつながりがすとんと落ちなかった点であろうか。

何より、冒頭に登場し、物語の鍵となっているはずのチンパンジーの悲劇と地球外生命体とは、娯楽施設のオーナーを介して線では結ばれているのだが、それぞれに発生した超常現象とも言える事象に明確な関連性が見られない。

主人公・OJの父親の不審死も同様である。地球外生命体が空から降らせた金属片により死に至ったことは間違いないのだが、それが何故起きたのか。何か彼らの心証を害することがあったのかは不明である。

そしてOJたちが地球外生命体の性質を学び取る過程も不自然である。「上を向く=彼らを直接見てはいけない」という中軸のルールにOJが気付くのは、かつて自分の馬が視線を感じた途端に暴れ始めたことから来ているのだが、なぜそこが繋がるのかがよく分からない。

チンパンジーも馬も彼らの仲間だというのであれば、挑発を感じたときの咄嗟の反応が似通るという点も納得がいくのだが、振り返るかぎりそうした描写はなかったと思う。

そんなわけで、見どころはたくさんあり楽しめる作品ではあるが、諸手を上げて賛辞を送るレベルまではだいぶ距離があると言わざるを得ない。シャマラン作品同様、次回にも期待はするけれど。

(70点)
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「トップガン マーヴェリック」

2022年08月17日 08時05分08秒 | 映画(2022)
「ならず者国家」とは、おたくのことだよ。


以前別の記事で書いたとおり、前作の「トップガン」を観たことがなかったことから選択肢として優先していなかった本作だったが、いまだにロングランを続ける大ヒットとなっていることもあり、満を持して予習をしてから観に行くことにした。

金曜日の夜中にPCの動画配信サイトにつないで、ポチッとDL、直後に鑑賞。昔は、わざわざビデオレンタル店へ行くも、話題作は山のようにある空のケースすべてに「貸出中」の札が付いていて、結局観る機会を逃すなんてことがよくあったのだけど、まあ便利になったものである。

マーヴェリックって、主人公の通り名(コールサイン)だったのね。そして、米国海軍の優秀な若手戦闘機パイロットを育成する組織の名前がトップガン。そこに集まった若き精鋭たちによる切磋琢磨に、友情や恋愛の物語を絡めた王道の作り。その年(1986年)の全米興行成績1位という成績は至極納得であった。

そして本作である。冒頭にトップガンを説明するタイトルが出て、航空母艦を戦闘機が離発着する光景とバックにK.Logginsの"Danger Zone"が流れるのは前作と同じつくり。ここで「この作品は前作を観た人が楽しめるように作っていますよ」という思いが伝わってくる。

前作との相似性もさることながら、36年を経て変わった点を探すことが非常におもしろい。

まずは脚本である。前作は冒頭からあからさまに「ミグ」という名前が連呼されるように、冷戦真っ只中で敵国と言えばソ連一択だったのであるが、今回は戸田奈津子女史の訳では「ならず者国家」とされている。

これは、現在の混沌とした世情の中で様々な敵が想定されるようになったことに加えて、商業的または道徳的な観点から敢えて特定の国家を名指しすることを避けたものであるが、逆に、昔の映画はよくもあそこまで具体的な設定ができたものだと思う。

本作に関しては、当初、前作でマーヴェリックが着用していたジャケットの背中にあった日章旗と中華民国国旗のデザインが中国への配慮で変更されたとの報道があった。その後、製作に加わっていた中国企業のテンセントが撤退したことに伴いジャケットのデザインが復活したようで、そのおかげか、最近の映画にありがちな不自然な中国への配慮描写がなかったのは良かった。

物語は、トップガンの教官として戻ってきたマーヴェリックの物語。

かつての自分たちを思い起こさせるように、個性豊かで怖いもの知らずな若者たちが教え子として登場する。彼らに性別や人種の多様性が見られるのも36年の変化である。

構成は前作と同様に、戦闘機のドッグファイトに友情と恋愛がてんこ盛りの王道の作り。

ただ、アクションシーンは、訓練に加えて「ならず者国家」の核関連施設を破壊するという実戦ミッションが加わり、ありえなさが"M:I"シリーズ並みのクオリティに。友情は、36年の時間を超えたかつてのパートナー・グースや盟友・アイスマンとの堅いつながりが泣かせる、といったようにこちらも一段階グレードアップ。続篇を作るなら前作を超えるものを、というT.クルーズのプロ根性を感じさせる。

アイスマンを演じたV.キルマー。プライベートでガンを患ったこともあり、今回のアイスマンの設定は、海軍としては一線を退いた大御所という役どころ。かつての友情からマーヴェリックにトップガンの教官となるよう働きかけるというものである。

T.クルーズ60歳の人並みならぬ若さ(撮影時は56歳とのこと)にはいつも驚かされるが、今回のV.キルマーは、それはそれで存在感十分。二人の再会の場面が作品全体の重しとなる効果をもたらしていた。

またまた年間1位を狙えそうな成績を残しているようだが、更なる続篇を作る流れになるのだろうか。他方、予告では"M:I"の続篇(2部作?)が。T.クルーズの超人ぶりはまだまだ続く。

(85点)
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