Con Gas, Sin Hielo

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「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」

2016年12月30日 22時47分54秒 | 映画(2016)
恋するベンジャミンバトン。


売り出し中の若い俳優が出る恋愛映画と侮っていたら不意打ちを食らった。

本作の感心する点は、まず題名だ。物語の核心をそのまんまタイトルに付ける完璧なネタバレである。

映画の中でもそのまんまのことが起こるのだが、実際に観てみないと分からないからくりと、そこから繰り広げられる二人の切ない運命が、話を追うごとにボディーブローのように効いてきて、最後には涙腺が壊されてしまった。

はじめは、どう考えてもあり得ない時系列のずれをどう落とし込んでいくのかお手並み拝見とばかりに高所から見ていたつもりだった。福士蒼汰は背が高くてすっきりした顔立ちなのに演技は相変わらず垢抜けないなんて思いながら。

もちろん後から思い返せばツッコミどころはかなりあるのだが、それ以上に主役二人の固い絆に負けてしまった。あれだけ切ない話を繰り返して「ぼくたちはすれ違ってなんかいない。端と端を結んだ輪になってひとつにつながってるんだ」なんて言われたら、大概の横にある情報はバグになってしまう。

毎度の如く原作は未読である。でも、映画は良くできていたと思った。前述のとおり福士蒼汰はもっさり冴えないのだが、これが実は重要で、主人公の高寿は映画で描かれる30日の間にまるで一つの人生を生きるくらいの経験と成長を果たすのである。

彼が恋人・愛美との運命を知り、それを受け入れることを決めて初めて、愛美を優しく導く大人の男性へと変わるのである。変わった後の時間があまり描かれていなかったので、福士くんのもっさりが演技だったのかは判断がつけづらいが、配役として成功だったことに間違いはない。

一方の愛美を演じた小松菜奈は、こちらは映画の時間軸とは逆向きに生きていることを、悟られ過ぎず自然過ぎず演じるというなかなか難しい役どころだったと思うが、心の奥深くに何かを湛えているような容姿がこれも功を奏していた。

決して万人が支持するような美人ではないけれど何かが引っ掛かる感じ。だからテレビドラマやCMで露出を増やすよりも映画を中心とする現在の戦略は正しいと思う。「渇き。」は面白くない映画だったが、彼女を発掘した中島哲也監督の眼力はやはり素晴らしかった。

話を映画に戻すと、もうひとつ本作が持つ大きな特徴はどんでん返しが話の中盤に現れることである。そして大きな謎が明らかになる驚きのその先に、新たな一つの物語が始まる。

更に、その物語には裏の物語が存在して、表裏を重ね合わせることによって、比類なき程に切ない男女の運命の全貌が見えてくるという仕組みになっているのだ。

ここまで過酷な設定を考え出してしっかりと一つの話として仕上げた原作の力と、その世界を限られた時間の中で着実に映し出してみせた制作の技量に敬意を表する。

(85点)
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