「アビイロード」50周年記念エディション、絶賛発売中!
「ワンスアポンアタイムインハリウッド」の記事で「おとぎ話」という表現を使ったが、もっと明確におとぎ話な映画が登場した。
もしも自分以外の誰もビートルズを知らなかったら。
主人公はのジャックは、ホームセンターの店員として働きながら路上ライブ等の音楽活動を続けるシンガーソングライター。しかし売れる見通しはまったくなく、彼の理解者は幼なじみのエリーだけだった。
そんなある日、全世界で12秒間の大停電が発生し、同時刻にジャックはバスとの衝突事故に遭う。大けがから目覚めた瞬間、世界は今までと別のものになっていた。
退院祝いでエリーからもらったギターでビートルズの"Yesterday"を奏でると、友人たちが感動してジャックに尋ねる。「すばらしい曲。どうして今まで隠していたの?」「これはビートルズじゃないか」「ビートルズって何?」
PCでビートルズを検索しても出るのは昆虫のカブトムシばかり。ジャックは世界からビートルズが消えていることに気付く。「これは大変なことになった」
ビートルズがなくなったことは、人の生き死にに直接関係することではない。でもジャックは思ったのだ。彼らの音楽は世界になくてはならない。そしてそれをできるのは自分しかいないと。
もちろん彼がミュージシャンだったからということもあるが、NO MUSIC, NO LIFE。音楽がない世界に対する危機感が彼を行動に走らせる。そんなジャックのやさしさが、観る側をぐっと引き寄せて冒険の旅を共にすることに成功している。
そのやさしさが困難を招く展開もよくできている。ビートルズの楽曲がジャックの曲として世の中に出回り、空前のヒットを記録すると、人々はジャックを時代の寵児ともてはやしはじめる。
でも彼は知っている。自分はすばらしい曲を世の中に残すための伝道師に過ぎないことを。Ed Sheeranまでが「君はモーツァルトで、僕はサリエリだ」と言うほどに存在が大きくなり過ぎた彼は、ついには大切なエリーとも離れ離れになってしまう。
ビートルズの曲を人々に伝えるために奮闘してきた彼は初めて立ち止まって考える。自分にとって大事なこと、すべきことは何なのか。そして彼は驚くべき行動に打って出る・・・。
発想はドラえもんの「もしもボックス」的であり非常にわかりやすい。一瞬の事故で世界が変わる展開もベタなだけに、脚本のR.カーティス、監督のD.ボイルの二人の御大の味付けにかかってくるわけだが、前述のとおり温かい主人公たちの物語ははじめからおわりまで心地よかった。
音楽が主要な素材であるが、物語の基軸はジャックとエリーのラブストーリーである。このあたりを物足りないとする向きもあるようだが、やさしいラブストーリーが最近少ないと思っていたところなので好印象であった。
小ネタも楽しい。実は世の中から消えていたのはビートルズだけではなかった。そのチョイスが絶妙でくすっと笑わせてくれる。
そして忘れちゃいけないのが、クライマックスの直前にジャックがある人に会いに行く場面だ。ビートルズがいない世界は、こういう世界でもあるんだという。冒頭で「ワンスアポンアタイムインハリウッド」を引き合いに出した理由でもあるのだけれど、この場面は音楽ファンのおとぎ話でもある。
殺伐とした時代にポツンと浮かぶオアシスのような映画。そういえばOasisも消えていた。ジャックにはまだまだやらなければならないことが残っている。
(85点)
「ワンスアポンアタイムインハリウッド」の記事で「おとぎ話」という表現を使ったが、もっと明確におとぎ話な映画が登場した。
もしも自分以外の誰もビートルズを知らなかったら。
主人公はのジャックは、ホームセンターの店員として働きながら路上ライブ等の音楽活動を続けるシンガーソングライター。しかし売れる見通しはまったくなく、彼の理解者は幼なじみのエリーだけだった。
そんなある日、全世界で12秒間の大停電が発生し、同時刻にジャックはバスとの衝突事故に遭う。大けがから目覚めた瞬間、世界は今までと別のものになっていた。
退院祝いでエリーからもらったギターでビートルズの"Yesterday"を奏でると、友人たちが感動してジャックに尋ねる。「すばらしい曲。どうして今まで隠していたの?」「これはビートルズじゃないか」「ビートルズって何?」
PCでビートルズを検索しても出るのは昆虫のカブトムシばかり。ジャックは世界からビートルズが消えていることに気付く。「これは大変なことになった」
ビートルズがなくなったことは、人の生き死にに直接関係することではない。でもジャックは思ったのだ。彼らの音楽は世界になくてはならない。そしてそれをできるのは自分しかいないと。
もちろん彼がミュージシャンだったからということもあるが、NO MUSIC, NO LIFE。音楽がない世界に対する危機感が彼を行動に走らせる。そんなジャックのやさしさが、観る側をぐっと引き寄せて冒険の旅を共にすることに成功している。
そのやさしさが困難を招く展開もよくできている。ビートルズの楽曲がジャックの曲として世の中に出回り、空前のヒットを記録すると、人々はジャックを時代の寵児ともてはやしはじめる。
でも彼は知っている。自分はすばらしい曲を世の中に残すための伝道師に過ぎないことを。Ed Sheeranまでが「君はモーツァルトで、僕はサリエリだ」と言うほどに存在が大きくなり過ぎた彼は、ついには大切なエリーとも離れ離れになってしまう。
ビートルズの曲を人々に伝えるために奮闘してきた彼は初めて立ち止まって考える。自分にとって大事なこと、すべきことは何なのか。そして彼は驚くべき行動に打って出る・・・。
発想はドラえもんの「もしもボックス」的であり非常にわかりやすい。一瞬の事故で世界が変わる展開もベタなだけに、脚本のR.カーティス、監督のD.ボイルの二人の御大の味付けにかかってくるわけだが、前述のとおり温かい主人公たちの物語ははじめからおわりまで心地よかった。
音楽が主要な素材であるが、物語の基軸はジャックとエリーのラブストーリーである。このあたりを物足りないとする向きもあるようだが、やさしいラブストーリーが最近少ないと思っていたところなので好印象であった。
小ネタも楽しい。実は世の中から消えていたのはビートルズだけではなかった。そのチョイスが絶妙でくすっと笑わせてくれる。
そして忘れちゃいけないのが、クライマックスの直前にジャックがある人に会いに行く場面だ。ビートルズがいない世界は、こういう世界でもあるんだという。冒頭で「ワンスアポンアタイムインハリウッド」を引き合いに出した理由でもあるのだけれど、この場面は音楽ファンのおとぎ話でもある。
殺伐とした時代にポツンと浮かぶオアシスのような映画。そういえばOasisも消えていた。ジャックにはまだまだやらなければならないことが残っている。
(85点)