Con Gas, Sin Hielo

細々と続ける最果てのブログへようこそ。

「星の子」

2020年10月11日 14時28分18秒 | 映画(2020)
無数の星たちと共生する世界。


石原さとみが結婚を発表した。「お相手は同年代の一般男性」などと報じられているが、寄せられるコメントには「学会」の文字が登場する。

政治と宗教の話はタブーだとよく言われる。それは、もし対立が生じたら人間関係に致命的な傷を負わせかねない神経質なジャンルだからにほかならない。

しかしわが国は思想の自由も宗教の自由も保証されているはず。何故堂々と自分の考えを口外してはいけないのかと思うが、そう単純に行かないのが世の中の難しいところである。

自宅からそう遠くないところにエホバの証人の日本支部があるが、結構な頻度で集会を開催しており、その度に広大な駐車場が満杯になっている光景を見かける。Wikipediaによれば国内の信者数は20万人を超える。気付かないだけで意外と身近にも信者がいるのかもしれない。

本作は、新興宗教を熱心に信仰する両親を持った中学生の物語である。

未熟児で産まれたちひろは、その後も高熱や湿疹など容体の安定しない状況が続く。悩みに悩んだ両親に救いの手を差し伸べたのは、宗教団体「ひかりの星」を信仰する父の会社の同僚だった。

同僚が勧めた「魔法の水」を使用してからちひろの容体は目に見えて改善する。因果関係は分からない。しかし両親にとっては結果こそすべて。それ以上何も必要はなかった。

世間的には新興宗教は怪しいものとレッテルを貼られがちであるが、何も考えずに入信する者はいない。オウム真理教事件のときも、高学歴の人間の方がのめり込んでいたのが印象的であった。何かを信じるのは、人それぞれに異なる理由と背景があるのだ。

しかし、ちひろのストーリーが周囲の人たちに理解されることはなかった。対立した叔父とは疎遠になり、姉は家を出て行ってしまった。

客観的には叔父たちが心配するのは当然である。明確な説明はされないが、ちひろの成長に伴って自宅がみすぼらしくなっていく一方で、狭い居間に豪華な仏壇が飾られているのだ。

両親のちひろに対する愛情が深かったが故に生じてしまった事態。それが痛いほどに分かるから切なくて悲しい。

ただ本作はそこで安易な新興宗教害悪論には持っていかない。やっていることは怪しいこと極まりないのだが、そこに普通の人たちが集い、交流を通して安寧を得ている様子が描かれる。

同年代の子供たちも多く参加していて、そこで知り合った友達もいる。生まれたころから宗教の中で生きてきた彼女たちにとって、それは極めて自然なことなのだ。

また、ちひろには宗教の外の世界にも友達がいる。これもまた当然ではあるのだが、大人はどうしても色眼鏡をかけて物事を見る傾向があり、それが終盤に事件となってちひろを襲う。

心ない大人の言葉に傷ついたちひろを癒やしたのは、クラスメートの親友とその彼氏だった。これまでイケメンしか好きにならなかったちひろが「彼と別れたら私が結婚してもいいよ」と言ったのが印象に残った。

宗教は一人の人間を構成する一つのピースに過ぎないが、おそらくこの先もちひろの人生を翻弄することになるだろう。終盤で泊りがけの集会に参加した親娘が宿舎を抜け出て3人で流れ星を探す場面は、不確かな未来と家族の絆を象徴する場面となっている。

主演の芦田愛菜はさすがの存在感。この年代としての揺れる心と強い決意の両方を説得力を持って演じられるのは、やはり彼女を置いてほかにいないであろう。

岡田将生は爽やかに見えつつのギャップの怖さがハマっていたし、「ひかりの星」の幹部を演じた黒木華高良健吾も他に誰が演じるか浮かばないくらいの適役だった。

(85点)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「ミッドウェイ」

2020年10月03日 15時29分45秒 | 映画(2020)
かつての戦争にはヒーローがいた。


ディザスタームービーの巨匠、R.エメリッヒ監督が突然太平洋戦争の映画を作った。

「もうひとりのシェイクスピア」の時ほどの衝撃ではなかったが、宇宙やら災害やらフィクションに振り切ったものを得意とする印象があるだけに、過去の戦争をどのように描くのかに興味が湧いた。もちろんわが国がどのように扱われるのかも。

真珠湾攻撃から破竹の勢いえ進撃を続けてきた大日本帝国軍が初めて米国軍に敗退を喫し、その後の敗戦への転機となったとも言われるミッドウェー海戦。大昔にも三船敏郎が出演した同名作品があるが、それは未見である。

事前の評判では日米双方の人物を掘り下げてバランス良く描いたとのことであった。キャストに豊川悦司浅野忠信国村隼といった日本の著名俳優を配置した辺りにも配慮が見られている。

ただ、中身は良くも悪くもエメリッヒ作品の延長線といったところか。真珠湾攻撃の場面は、いきなり攻撃してきた「インデペンデンスデイ」の宇宙人が日本人に置き換わったように見えたし、勇敢な主人公の活躍によって米国が救われるのも同じ系統であった。

米国人ヒーローをきっちり描く傍らで、少しテイストが違ったのは、前述のとおり敵であるはずの日本の軍人の心情も描いていた点である。

山本五十六は冒頭に戦争は誰も望んではいないということを口外していたし、敗軍の将となった南雲中将や山口少将の誇りを持った最期には一定のリスペクトを見ることができる。意地悪く見れば、勧善懲悪が崩れて作品としてカタルシスを感じる妨げになったかもしれないが。

戦闘場面の迫力はさすがに手慣れたものである。画面いっぱいに光線のような弾丸が飛び交い、昔の戦争は決死であることがひしひしと伝わってきた。

それでも主人公は当然撃墜されず。最後に登場人物のその後が紹介されるので事実に基づいてはいるのだろうけれど、演出はあったのだろう。これもエメリッヒ流ということで。

いずれにせよ、アナログ時代の肉弾戦は大変だった。いまはドローンで攻撃したり、手を汚さずに国を窮地に追い込むことができるからね。・・・って、どっちの時代の方が怖いんだ?

(75点)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「TENET テネット」

2020年10月03日 14時32分34秒 | 映画(2020)
ノリ突っ込めない映画でも、雰囲気を楽しめるからいいだろう。


時間が逆行するらしい。複雑でよく分からないらしい。

難解なC.ノーラン監督作品の中でも最上級に難しいという評判から、観る前から理解するのは早々に諦めていた。

かといって興味がないわけではないので、分からなかったとしても何かしら得るものがあるようにということで、オープンして間もない横浜駅のドルビーシネマで観ることにした。

前日からひと席おきの販売規制を解除したばかりのT-JOYはほぼ満席。映画鑑賞の習慣が戻ってきたことを実感した。

映画に話を戻すと、時間が逆行すると言って思い出すのは、「ベンジャミンバトン 数奇な人生」「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」の2本である。

しかしこの2作品は、いずれも時間を遡る過程における1日の流れは0時から24時へと順行しており、逆行する者と普通の人間がそのまま触れ合えるのに対して、本作はどの瞬間もすべて逆行しているという・・・。この時点でもう袋小路に入り込んでしまいそうになる。

映画を観ている途中に熟考する時間はなく、(未来からやって来た)逆行人間と争っている絵を見て、「訳分からないけどなんかすごいぞ」の力技で押し切られた感じ。おそらくそれが正しい楽しみ方なのかもしれないが。

面白かったのかどうかすら判断がつかないレベルではあるが、他の誰にも作れない作品であることは間違いない。

逆行する時間の見せ方は、話が複雑なのと対照的にエンタメに振れている。

最新の映画なのに順行と逆行を行き来するアイテムがレトロっぽい回転ドアと妙に分かりやすかったり、理由はまったく分からないが、普通に呼吸ができないとか、熱い冷たいの感覚が逆になるとかの細かい設定は限りなく映画的なので、世界観を味わうことは問題ないのである。

「考えるな、感じろ」ということで、観た後も面倒なのであまり考えていないのだが、タイムパラドックスは満載なんだろうなと漠然と感じている。

それくらいでいいでしょう。あ、感じると言えば、今回R.パティンソンってかっこ良かったんだと思った。新バットマン、期待できるかも。

(70点)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする