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「マネーショート 華麗なる大逆転」

2016年04月13日 23時05分13秒 | 映画(2016)
持続可能な発展なんてありえない。


気持ちは分からないでもないが、この邦題はいただけない。

経済の映画だから原題にはない「マネー」を被せて、エンタメ要素を強調しようと「華麗なる大逆転」という副題を付けた。

確かに劇中では、馴染みの薄い経済用語をジャンルの異なる有名人にくだけた解説をさせるなど娯楽へ寄せた動きはあるが、本線は極めてシビアな話である。なにしろ一生の一度の賭けに勝った男たちが誰一人として笑顔を見せないのだから。

冷静になれば誰だって理解できるバブルの崩壊は逆転でも何でもない。ましてや、B.ピット演じる伝説のトレーダー・ベンが指摘したように、多くの人間が財産を失う事態を喜ぶなど不謹慎であり、「華麗」と形容する見識に至っては理解不能である。

但し、邦題問題を横に置けば、本作は非常に興味深い事象に満ち溢れた物語である。

もちろん経済用語を理解しているに越したことはないが、十分な理解がなかったとしても、世の中にべっとりとこびり付いた理不尽や不条理が次第に姿を見せる展開には戦慄を覚える。

そんな巨大な魑魅魍魎に対して、出自も個性も異なる俳優が立ち向かうところも見どころだ。

中でも、S.カレルは昨年のオスカー候補になった「フォックスキャッチャー」からの神経質路線を継いだような怒れるヘッジファンドのマークを好演している。彼の怒りこそが本作の柱と言ってもいいと思う。

繰り返すが、この話は逆転劇ではない。経済界・金融界の単なる自滅である。主役の男たちは真実を見抜き、真っ直ぐ追究したに過ぎない。

驚くべきは、全世界の大多数の人々がこの真実に気付かなかったか、あるいは敢えて目をつぶっていたということである。

S.ゴメスが起用されたたとえ話の「外挿バイアス」はかくも恐ろしい。

この仕組みが崩壊するはずがないという思いが不磨の大典と化し、メガバンクと格付け会社が手を組んで保身に腐心した描写は衝撃だった。ひと時代前の話とはいえ、現存する組織に違いないのだから。

彼らは問われたら答えるだろう。組織は生まれ変わったと。

しかし、このバイアスは一企業や特殊な業界だけの話ではない。

災害はいつか来るかもしれないが、今日来ることはない。うちの子供、うちの会社に限って、そんな不祥事を起こすはずがない。

周りを見回せば、紛争、食糧、エネルギーなど解決できない問題が山積みだ。薄々限界を察知しながらも、自分の手に負えるものではないし、自分が生きている間持ちこたえるならいいかと、誰もが目を背けて先送りしているのだ。

問題が起きる度にマークのように正直に怒ることは正しいかもしれないが、それでは間違いなく幸せにはなれない。

結局は、自分の中では怒りと妥協の折り合いをつけながら、いつ自分を取り巻くバブルが弾けても生き抜く覚悟を持っておくしかないということだ。

最後にもう一つ苦言。劇中でできないのは仕方ないかもしれないが、パンフレットにはもう少し経済用語の解説があってもいいはず。ネットで調べれば分かる範囲のものではあるけれど。

(80点)
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