Con Gas, Sin Hielo

細々と続ける最果てのブログへようこそ。

「ダークナイトライジング」

2012年07月28日 22時34分51秒 | 映画(2012)
生きることは、自己矛盾と折り合うこと。


ゴッサムシティに徹底的な絶望を味わわせるために少しの希望を与えるとベインは言った。

前作「ダークナイト」でのジョーカーは善と悪の均衡を語った。バットマンとジョーカーはお互いがいればこその存在だと。

「バットマンビギンズ」から始まったこのC.ノーランによる3部作は、人間の内に潜む矛盾した存在を軸に話を紡ぐことによって、コミックの世界を現実の世界の延長にあるかもしれない世界へと作り変えた。

「ダークナイト」の最後で、悪の根絶を願いすべての罪を背負ったブルース・ウェインは、ジョーカーの予言どおりと言おうか、自分の存在価値を見失った。

嘘で塗り固められた理想は長くは続かず(それでも8年もよくもったと思うが)、再びゴッサムシティに混沌が訪れる。

バットマンは再生を果たすが今度こそ彼は気付いたはずだ。悪との闘いに終わりがないのは必然であることを。

出演者は豪華で上映時間は長い。途中でラーズアルグールが出てくるなど内面の戦いをじっくりと描くこともあって、必ずしもテンポはよくない。

脱出劇や最後のサプライズ辺りは盛り上がるが、若干予定調和的な作り方が気になった。

例えば、執事のアルフレッドは埋葬のとき相当凹んでたはずだが、その後の展開に少しも驚きの表情を見せないとか。

観ている側の裏をかくためだけの演出だとしたら、それは評価できない。とはいえ、話は入り組んでいるから、細部の辻褄が整理されているかどうかは一度観ただけでは判断が難しいのだが。

ベインはまさに傭兵だった。威圧感こそあるが、底知れぬ恐怖を伴う凄みというところまではいかなかった。

それにしても、A.ハサウェイJ.ゴードン・レヴィットM.コティヤールといった面々を更に加えながら、物語をしっかりと収束させていくあたりはやはり巧い。

その技量をもってすれば今後も話を広げていくことも可能かと思われるが、とにかくこれでおしまい。希望が大きくなるほど落胆も激しくなるだろうから、誰にとってもいい潮時ということで。

楽しませてくれてありがとうございました。次のノーラン作品を期待してます。・・・って、やっぱり期待が大きくなるのは仕方ないか。

(80点)
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「メリダとおそろしの森」

2012年07月21日 20時51分31秒 | 映画(2012)
王女が残酷な弓を射る。


観る前の印象に違わず、やはり今までのピクサーのイメージと異なる。

主人公メリダの見た目が全くかわいくない。もともと米国産CGアニメの人間キャラは外観が微妙だが、ちりちりの赤毛に小粒の目は更にハンデだ。

それに向こうっ気が強く親に反抗してばかりという勝気な性格が輪をかける。ちょっと懲らしめてやった方がいいんじゃない?

厳格に帝王学を施そうとする母親にも問題はあったけど、その後の展開はちょっと負担のかけ方が一方的ではなかったか。

メリダにも直す面が数多くあったはずなのに譲歩するのは母親ばかり。それでめでたしと言われても、何かすっと下りてこない。

脇役もこれといった光るものがなかった。弟の三つ子、花ムコ候補の3人、混乱の直接のきっかけとなる魔女。いずれも脇の脇、味を出す手前で終わってしまった。

そして吹替え+3Dだ。まあ、子供が観に行きたいと言わなければおそらく映画館に足を運ばなかったと思うので、それは言いっこなしなのかもしれないが、特に3Dに関してはほとんど必要性を感じなかった。ピクサー、安易なお金稼ぎに傾いていないか?

繰り返しになるが、ピクサーはこれまで、おもちゃ、昆虫、モンスター、魚、車、ロボットと、人間と高さの異なる視点から描く物語で現在の地位を築いてきたはずであり、何故今になって、冒険する強い女性という他者の手垢がついたようなテーマを扱うのか理解できない。

(45点)
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「少年は残酷な弓を射る」

2012年07月19日 23時35分46秒 | 映画(2012)
ねじれた太い絆。


風になびくカーテン。断続的に聞こえる機械音。

一転するとトマト祭り。紅く潰れたトマトにまみれる主人公。祭りなのに何故かとても居心地が悪い。

目が覚めた主人公の周りは、日常の平静を装うも至るところに異常さのかけらが点在。紅のペンキが乱暴に塗りつけられた家の壁と車。突き刺すような周囲の人の視線。

家族の影はどこにもなく、この時点で「事件」の想像が粗方つく。

そこからは、「事件」に至る道のりをたどる。息子・ケヴィンが生まれる過程。生まれた瞬間から母親を疲労困憊させ続けるケビンの数々の所業。

子供は千差万別だ。同じ親から生まれても誰一人同じ人間にはならない。天使のような子がいる一方で、当然悪魔のような子がいる。

こんなはずじゃなかったのに。そう思うかもしれないが、子育てに万能な方策などない。

学校に通うような年代になってもおむつがとれないケヴィン。それでいながら、ことごとく母親に好戦的な態度をとる。父親には屈託のない笑顔を見せるのに。田中将大のような顔をした子役が憎々しく演じる。

もともと華奢なイメージのT.スウィントンだが、育児疲れでますますこけていく。そして、追い詰められながらも健気に立ち回っていた彼女を、とどめの「事件」が襲う。

想定内の展開。決定的な場面は見せない。それなのに、直視できない緊張感に満ちている。

救いようのない悪魔のわが子に母親は何ができるのか。かすかな光が見えたのは、皮肉にも事件から2年の時が過ぎてからであった。

「事件のときは分かっていたはずなのに、今は分からない」

母と子は、意識する必要もなく親子である。ケヴィンの場合、その無意識が母親に刃を向けていた。

母親以外を見ることができなかった世界から一歩を踏み出して、初めて自分の立ち位置を確認する作業に入った。

しかし、あまりに大きい代償に比べて、よかったと言えるほどでもない小さな希望。興味深い作品ではあるが、心身ともに元気なときに観ないととにかく疲れる。

(75点)
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「崖っぷちの男」

2012年07月15日 00時15分41秒 | 映画(2012)
想定外からが勝負。


この邦題は会議出席者の満場一致で決まっただろうなと想像する。

高層ビルの縁に立つ男の絵。一般的に使われながら、映画の題名としては馴染みのない言葉の響き。

ワンフレーズのみで、この先何が起きるのか、男の裏には何が隠されているのかを楽しむ映画と判断できるところが秀でている。

本篇は、そうした期待に応え、少しずつ謎を解いていく。

誰が味方か、敵か、無関係か。それは以前から仕組まれた関係だったのか。

物理的な密室ではないが、物語はホテルの21階とはす向かいの建物という極めて限られた範囲で展開する。

主人公・ニックがまさに命を懸けて挑むギャンブル。周到に計画を練るが、近いところに自分を陥れた人物がいると知っているだけに、一筋縄でいかないことも承知している。

そこで交渉人・リディアの登場だ。想定外対策として自らの側に想定外を取り込み全体を撹乱させる。その想定外を自分に有利なように導ければ、勝機が見えてくるというわけだ。

過去に傷を持つリディアは、「ダイハード」第1作の無線だけで絆を育んだ黒人刑事を思い起こさせた。あそこまでドラマティックにはならなかったものの、二人の間の響き合う関係には十分引き付けられた。もちろん彼女がキレイだったことも含めて。

全体に配役はよかったが、敵役となったE.ハリス。久しぶりながら憎々しい存在感はさすがだった。

持続する緊張感の中で、最後に下したニックの決断と、ちょっとした正体のサプライズ、あと、この手の映画には珍しく一人の犠牲者も出さなかったことは好印象だった。

(80点)
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「劇場版ポケットモンスターベストウィッシュ キュレムVS聖戦士ケルディオ」

2012年07月14日 23時46分58秒 | 映画(2012)
スーパーポジティブ。


もうTVのアニメは見てないのに、映画は観たいと子供が言い出したので急遽観ることになった。

でも、特典で幻のポケモンをもらえるところを、なんとDSを家に置き忘れ。どうせほとんど遊ばないんだけどね。

今回は数年ぶりに2本立てでの公開。

同時上映扱いの短篇「メロエッタのキラキラリサイタル」は、サトシたちは登場せず、物語はあるにはあるが、基本はポケモンたちのどたばた追いかけっこ。

いかにも幼児向けだが、ダイヤモンド&パール時代の懐かしのポケモンたちも出てくるなど、まさにお得感満載のサービス品であった。

その分、本篇の方は、サトシ一行、聖剣士一派、キュレムとその取り巻き以外にポケモンはほとんど出てこない徹底さ。尺も短いのか、話がまっすぐ進んでいった。

簡単に言えば、背伸びしたがり年代のケルディオがおイタをしてしまうが、根性とサトシたちの応援でめでたく成長を遂げるおはなし。

「がんばれ!」と言えば何とかなってしまうところは相変わらず。努力を惜しまない姿勢は素晴らしいの一言だけに何も口を挟めない。

キュレムにくっ付いてひたすらケルディオを追いかける小さなポケモンが、ホラーテイストで見応えがあった。

あとは丁寧に描かれる旅の風景。これはもはや劇場版の伝統で、つい見とれてしまう。たまにはアメリカやアジアの景色も見てみたい気がするが。

(60点)
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「一枚のめぐい逢い」

2012年07月01日 21時30分10秒 | 映画(2012)
あなたは私の守護天使。


邦題では「一枚」と写真に焦点を当ててはいるが、原題の"The Lucky One"が意味するところの"One"は別だ。

主人公ローガンにとっては戦場で命を守ってくれた彼女、ベスにとっては、突然目の前に現れて家族に楽しさと安らぎを与えてくれた彼。

お互いの人生に希望の灯りを点す存在とでも言うのだろうか。平たく言えば、それが運命の人というわけだ。

タイトルロールの前に見せる戦場の場面は、仕方がないところはあるが見づらい。

後に鍵となる台詞もあるが、顔の見分けもはっきりしない上に目まぐるしく動くから、何がどうなったか分からないままにローガンの帰国へと至る。

その後、一人で写真の彼女を探す旅に出たローガンは、ほどなくベスに出会うこととなる。解説を読むと、写真の背景にある灯台をヒントに突き止めたとあったが、そんな場面はあったかな。

細部は枝葉に過ぎないとでも言うように、出会ってからの二人の距離が近付く様は打って変わって丁寧に描かれる。

ベスの立場からすれば、見た目良し、性格はまじめ、体力もあれば音楽にも通じている、そんな完璧に近い男性が突然目の前に現れたということ自体、まともに信じられるわけがない。

しかし、「何かあるはず」という疑念は甘い誘惑の前に溶かされていき、逆に前夫の横やりにより余計に愛情を燃え上がらせてしまう。

この辺りは、恋愛ものの定番とはいえ、観ている方も感情移入して力が入る。

ただ、出てきてからずっと嫌味たっぷりの完全悪役だった前夫が、息子の変わり様を目の当たりにして改心しかけたことと、それにも拘らずその後の事故に巻き込まれてしまう展開には、ちょっと首を傾げざるを得なかった。

(60点)
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