Con Gas, Sin Hielo

細々と続ける最果てのブログへようこそ。

「オンザハイウェイ その夜、86分」

2015年07月18日 13時15分19秒 | 映画(2015)
デキる男の落とし穴。


全篇を通してT.ハーディーが運転するだけという異色作。

一日の仕事を終えたと思しき男が車を走らせる。赤信号で止まった交差点で何か熟考すると、意を決したようにハンドルを切って再発進する。

そこから、ハンズフリーの電話での会話を通して、男の置かれている立場、人格や考え方が少しずつ明らかになっていく。

男は欧州最大規模の建設現場を仕切る現場監督。大量のコンクリート搬入を翌日に控える中で、過去に関係を持った妻ではない女から出産が迫っていることを告げられていた。

有能な技術屋である男は、すべてを割り切って素早く判断することに長けている。

一度だけ犯した過ちで妊娠させてしまったが、そこに愛はない。しかし女には他に頼れる人はなく、自分が蒔いた種であることは明らか。

であれば、子供の人生に対しては責任を果たそう。認知してできる限りの世話をする。ただ女に愛情はないから家庭はそのまま。それが男の決断だった。

男にとってはすべてにおいて合理的で筋が通った話なのだが、実際は男以外誰一人として納得できるものではなかった。

合間に入ってくる建設現場関連の電話に対する鮮やかな対応ぶりが見事なまでに対照的で皮肉が効いている。

自信は度を越すと驕りになる。巷にもよくある話だ。

正しい(はずの)判断が受け入れられない理由を理解できない。周囲を思いやらない選択が導く先は、夜のハイウエイのように暗くて危うい。

映画というよりは一人芝居の舞台というべき素材である。しかし、ラストの余韻を含めて観た後に誰かと意見を戦わせたくなるような、興味深い話であることは間違いない。

(80点)
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「ピッチパーフェクト」

2015年07月18日 13時03分37秒 | 映画(2015)
新しい世界を開け放つ歌声。


米国で3年前に大ヒットしたアカペラエンターテインメントが、なぜか今ごろになって日本公開。向こうでは既に第2弾がヒット中。

テレビ東京の「ショウビズカウントダウン」がなくなってから、北米興行成績の情報が入りづらくなったが、当時のBillboardのチャートにA.ケンドリックが歌う”Cups”がランクインしてきて、これは何だろう?と思ったのを憶えている。

A.ケンドリックが演じるのは音楽界での成功を夢見るベッカという女の子。「大学くらい行っておけ」という父親の助言、というか命令に渋々従うもののろくに授業に出ない始末。

そこで父は、「1年でいいからサークルに入って大学生活に向き合って、それでも気持ちが変わらなかったら中退して構わない」と通告する。

ベッカは、声をかけられたこともあって女性アカペラグループ「ベラーズ」に入部する。

アカペラの選手権が存在することは知っていたが、まともに見たことがなかったので、まずは世界の広がりが新鮮でおもしろい。

ハーモニーだけじゃない、曲のアレンジ、ダンスを取り入れ、当然ファッションなど全体のコンセプトを競い合う感じ。

「ベラーズ」が冒頭で披露するAce of Baseの”The Sign”。綺麗なハーモニーで上手いなーと単純に思うのだが、劇中の観客や実況席の退屈な様子が映る。

本作の基準を示す意味でよくできた場面なのだが、それだけでは終わらず、観る者すべての度肝を抜く「暴発」で一気にテンションが上がる。

ベッカが加入した新生ベラーズの面々は強烈な個性の寄せ集め。ライバルの男性グループ「トレブルメイカーズ」との関係も含め、人と触れ合うことで成長していくベッカ。

成長と成功という王道のストーリーに、新旧色とりどりの音楽が挟まれるのだから、おもしろくないわけがない。

キーポイントとして使われる「ブレックファストクラブ」も我々の世代の琴線に触れる憎い仕掛けだ。

音楽は日々新しくなるし、底を見せていないキャラクターも多く、続篇への引き出しを残したまま軽々と及第点を超えてきた傑作である。

(85点)
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