Con Gas, Sin Hielo

細々と続ける最果てのブログへようこそ。

「天気の子」

2019年07月28日 11時33分20秒 | 映画(2019)
世界の形を変えたがり。


台風崩れの熱帯低気圧が通り過ぎて、関東地方もどうやら梅雨明けを迎えそうだ。

例年より雨の季節が長かった今年、映画館へ行く度に流れていたのが本作の予告。

「雨、雨、雨」

新海誠監督の繊細なタッチで描かれた雨雲の下の東京の景色はリアリティを持って捉えられ、その後の少女が発する「今から晴れるよ!」という台詞に不思議と惹きつけられた。

社会現象にまでなった前作「君の名は。」で岐阜県に彗星を落とした新海監督。今回も日常の景色をダイナミックに書き換えてみせた。

前作ではその展開のスケールに面食らってしまったが、今回は多少なりとも身構えていたのかもしれない。主人公の帆高と陽菜が「変えてしまった」東京の景色は案外すんなり受け入れることができた。

物語は今回の方が好きだ。思い悩む少年・帆高、天空と結節する気高さを持つ陽菜の主人公二人だけでなく、彼らを囲む大人たちや陽菜の弟といったキャラクターが生きていた。

そして予告でもその力の一部を見せつけていた画の美しさである。

100%の晴れ女が祈ると、世界に光が差し込みぱあっと世界が輝き出す。湧き立つ雲が雨をもたらし、雨の一粒一粒が大海を泳ぐ魚のように躍る。

「天気」という題材がいかに鉄板だったかというのが分かる。

天と地をつなぐ者として悲しい運命を持つ陽菜。突然消えた陽菜を前に帆高は思う。「愛にできることは・・・」。

世界がどうなろうと構わない。大事な人と一緒にいることを選ぶ。

最近は異常気象とよく言うけれど、それはちっぽけな存在である人間の立場から見た話である。その意味からすれば、「ぼくたちは世界の形を決定的に変えてしまった」というのも実はおこがましい話で、実際は「世界の形を変えることをしなかった」に過ぎない。

自分のステージでもっと自分のために生きていい。利己的な思想の助長にも聞こえかねないが、人どうし、国どうしの衝突が多くなる中で、うまく生きていけない人は増えている。そうした人たちにこの話が届けばいいと思った。

(85点)
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「ハッピーデスデイ2U」

2019年07月15日 10時14分45秒 | 映画(2019)
お気楽多次元旅行。


前作「ハッピーデスデイ」で3度繰り返したユニバーサルのオープニングタイトルは今回画面が3分割。これが今回の鍵である。

興行の都合とはいえ、短期間の連続公開となったことで話にすんなり入っていけた。作品の時間軸としても、前作の直後が舞台になっているから感覚としても一致している。

冒頭、前作では端役に過ぎなかった東洋系の学生がタイムループに巻き込まれる。主人公のツリーが謎の解明に乗り出すが、なんと前作の事件も含めて原因はこの学生・ライアンの科学実験にあったことが判明する。

実験の衝撃で再びループに閉じ込められるツリー。真相を知っている以上抜け出すことはそれほど難しくないのではと思われたが、新たな事実が判明。これがオープニングの分割画面である。

そこからの展開は基本的には前作と大して変わらない。第2作だからもう少し過激に、更に理屈をこねくり回した風を装いましたという程度。なにより観る側が映画の空気を知っているからホラーやサスペンス要素はゼロに近く、もはやこれは学園コメディである。

様々な死に方を披露した前作のハードルを越えるために、今回のツリーは不必要に過激なリセットを繰り返す。いくら生き返ると分かっていても自分からあんなところに飛び込んだりはできないと思うが・・・。そもそもこれほどまでに命を粗末にするのってキリスト教的にはどうなの?と心配になってくる。

もちろん単なる前作の上塗りではないところもある。異なるバースで展開される物語の中で、前作とは違う立場で登場するルームメイトや教授、そしてツリーの母親などの存在は、ツリーだけでなく観る側にも快い混乱を与える。そしてどちらの世界を選択するか判断に迫られる場面で、彼女は再び成長を見せることになる。

さすがにネタ的にもう発展の余地を見つけるのは難しいと思うが、2作品には十分に楽しませてもらった。また別の小気味よい作品が出てくることを期待したいと思う。

(70点)
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「トイストーリー4」

2019年07月14日 22時27分45秒 | 映画(2019)
冒険は無限の彼方へ。


完璧な完結篇と言われた「トイストーリー3」から9年。なぜ続篇を作ることが必要と制作陣は思ったのか。

賛否両論はあるかもしれない。しかし、確かに本作にはこれまでのシリーズで扱われてこなかった側面が描かれていた。

一つは女性の自立と活躍だ。「トイストーリー2」以来の出演となるボー・ピープが最近のディズニープリンセスのように駆け回る。

アンディの妹・モリーの持ち物だったボー・ピープはアンティークショップへ引き取られた。物好きな買い手が現れないかぎり誰かの所有物になることはない。そう悟った彼女は、新たな道を切り開くべく店を飛び出し、無数の子供たちが集まる移動遊園地で独自の活動を展開していた。

子供は一人じゃない。世界は限りなく広い。これまで持ち主に尽くすことがおもちゃの使命と定義づけてきたシリーズに、突然反旗を翻したかのような彼女の姿勢に戸惑ったのはウッディばかりではない。

しかし一方でシリーズは、持ち主の成長という抗い難いおもちゃの運命も描いてきた。前作でアンディからボニーへと受け継がれて、完全にハッピーエヴァーアフターといかないことは誰でも分かる。

そんな閉塞的な世界観に新しい一つの解を与えているのがボー・ピープの生き方なのである。そして彼女は持ち主のために生きるおもちゃを否定しない。これがもう一つの側面、多様性である。

多様性の代表とも言うべき存在が、ボニーの手作りおもちゃであるフォーキーだ。先割れスプーン、毛糸、アイスの棒で組み立てられた彼は、本人が言うように素材としてはTrash=屑である。

しかし彼は他の誰よりもボニーに愛情を注がれる。姿かたちだけではない、誕生した経緯その他を含めて、彼は唯一無二の重要な存在である。これを人間に置き換えれば、LGBTや少数民族といった社会問題に通じることが分かる。

「トイストーリー」は初めての本格長編CGアニメとして、技術の先端を開発する素材として誕生した。しかし、技術が十分に発展した今、世界的に認知されたキャラクターたちは大きな発信力を持つようになり、作品の役割も変わったのだ。そういった状況を考えれば、今回の続篇は必然だったのだろうと思う。

もちろん発信するテーマがあるといっても、作品が堅苦しくなるわけではない。今回も魅力的な新しいキャラクターが次々に登場して観る側を楽しませてくれる。"Yes, we canada"の台詞が印象的なスタント人形、デューク・カブーンが特に愉快な活躍を見せてくれるが、その声がK.リーブスと知って驚いた。

今回監督を務めたJ.クーリー監督は、さすがに「ウッディの冒険はこれで終わり」と言っているが、そのうち時代がまた彼らのメッセージを求める日が来るかもしれない。

(80点)
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「アラジン」

2019年07月13日 13時18分48秒 | 映画(2019)
安心と信頼のディズニーどまんなか。


最近ヒット作に恵まれていない印象があったW.スミス。誰もが知っている青い魔人・ジーニーは、彼のキャリア全体の代表作ともなりそうな会心の当たり役となった。

もはや大御所の部類に入る彼だが、持ち前の軽妙さは失われていない。何よりまだ50歳という若さだ。スクリーンいっぱいに歌って踊る姿を見ると、なんでこれまでこういう役が回ってこなかったのか不思議なくらいであった。

「誰もが知っている」と書いたものの、実は「アラジン」は本を読んだこともアニメを見たこともなかった。ランプをこすると魔人が出てきて3つの願いをかなえてくれるくらいの知識しかなかったので、物語自体もはらはらしながら楽しむことができた。よくできたいい話だね。

ディズニーは最近やたらと名作の実写化やリブートにご執心だが、向いている作品とそうでないものは分かれる。舞台は非西洋社会、芯の強い女性が活躍と多様性を採り入れながら物語は王道の勧善懲悪。ツボさえ外さなければという信頼を持つ本作はヒットが約束されていたと言ってもいいだろう。

とはいえ、その「外さない」ことが難しいわけで、G.リッチー監督はアクション、ミュージカル、ロマンスを満遍なく散りばめて、誰もが満足のいく作品に仕上げている。

W.スミスの存在感にやや圧倒されるものの、主役のM.マスードN.スコットも若さと清潔感があって好感が持てた。二人が歌う"A Whole New World"は、90年代の曲なのにもはやすっかり定番の名曲になった。

それにしてもディズニーは、ピクサーもMCUもスターウォーズも手に入れて、すっかり一強の帝国である。もう少しバランスがあってもとは思うが、おもしろい作品を世に出してくれるうちは特に文句は言うまい。

(85点)
コメント (2)
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