Con Gas, Sin Hielo

細々と続ける最果てのブログへようこそ。

「まともじゃないのは君も一緒」

2021年03月21日 21時22分55秒 | 映画(2021)
「普通」も「まとも」もそれほど重要ではない。


先日電車で、午後の紅茶がリニューアルしたという中吊り広告を見た。えらい美人さんが出ていると思ってよく見たら清原果耶だった。

ヘアスタイルのせいだろうか、これまでのイメージとの違いに驚いたが、「あさが来た」の時から発せられるオーラは変わらないどころか輝きを増している。5月からは満を持してのNHK朝ドラ主演。飛躍の年になるだろう。

一方の成田凌。彼を最初に認識したのは「スマホを落としただけなのに」のサイコな犯人役であったが、今や押しも押されぬ売れっ子だ。

そんな旬な二人が「まともじゃない」男女を演じる。美男美女による正統な恋愛ドラマはそれはそれでいいが、どこかちょっと欠けてる、ズレてるという要素は、観る側の感情移入を呼び込みやすい分だけ強く刺さってくる。

予備校講師の大野は、数学おたくでコミュニケーション能力が著しく欠如している。教え子の香住は、噂ばなしばかりで中身のない同級生を分かったふりして斜めから醒めた目で見ているが、実は自分もまったく人生経験がない。

そんな二人が予備校の講義そっちのけでプライベートな本音をぶつけ合う最初の場面を見た瞬間に、この作品は当たりだなと思った。

理系男子あるある的な大野はもちろんだが、そんな分かりやすい大野に上から目線で恋愛指導を始めてしまう香住にとても惹かれた。というのは、比較するのは大変恐縮だが、彼女を見ていたら自分の娘を思い出してしまったからである。

にこにこ笑っていれば、その器量の良さも相まってもっと器用に人生を渡り歩くこともできるのに、いつも仏頂面をして何かに不満を言っている。素直じゃない。かわいくない。でもたまらなく愛おしい。

憧れの男性にこちらを向いてもらうために大野を焚き付けていた香住の気持ちは、ふとしたことから揺らぎ始める。そのきっかけも実にかわいらしい。うちの娘には恋愛感情の欠片も見えないが、自分のペースで成長することを期待している。

それはほかの人と比べたら遅いかもしれないし、手段も異なるかもしれない。しかしそれはまったく問題ではない。全篇を通して「普通であること」に振り回された彼女たちがそれを明確に教えてくれる。

付け加えて言えば、この映画はいわゆる「普通」の人たちも完全には否定しない。同級生に陰口を叩かれていた高校生カップルや、香住の憧れの男性とその恋人も、掘り下げてみればそれぞれ特別な環境で自分の人生を一生懸命に生きている愛すべき人たちとして描かれる。

「普通」という亡霊から解き放たれ、森の空気に心身ともに癒やされていく二人の場面が、爽やかな感動でラストを飾る。

(90点)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする