goo blog サービス終了のお知らせ 

Con Gas, Sin Hielo

細々と続ける最果てのブログへようこそ。

今年の37作(1位→37位)

2024年01月07日 20時41分03秒 | 映画(2023)
興行成績上位をアニメが占めるのは当たり前の時代になり、邦高洋低の傾向はアメコミヒーロー作品の低調からますます顕著になった。シリーズもの、過去のコンテンツの前日譚ばかりが作られ、オリジナルの良作にお目に掛かれるのが難しくなる中で、がんばっていたのはA24とアカデミー賞で健闘したいくつかの作品にとどまった。観た本数は2022年に比べて微増となったが、時間はあるけど観たい作品がないということが多かったように思う。技術力は格段に上がっているはずなのにどうしてこうなってしまうのか、製作側はいま一度考えるときに来ている。

1.「スパイダーマン:アクロスザスパイダーバース」(7月6日)

おもしろかったけど、正直なところ1位にふさわしいとは思っていない。はじめに観たときは途中で寝落ちしてしまって、再度観に行ったくらい。ただ、スピード感のあるポップな画調にマルチバースの複雑な事象を絡めながら、しっかりとスパイダーマンの肝を押さえ洗練されたストーリーになっている点は評価が高い。

2.「RRR」(1月13日)

本来はこちらが1位なのだろうけど、世の中的には前の年の作品なので1位にするのをためらってしまった。娯楽を極めてたどり着いた境地。両雄が並び立つ画ががっちりとハマる。ナートゥはもうご存知でしょう。

3.「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」(12月16日)

そこはかとなく不安感が漂う現代に、同じような混沌にありながら未来への希望を信じて懸命に生きてきた時代の物語が訴えかけてくる。背負ったものが重く大切なものだから、鬼太郎は何度でも私たちの前に現れる。

4.「ザスーパーマリオブラザーズムービー」(5月3日)

日本のキャラクターの映画化は失敗することが多いが、任天堂全面バックアップの元で稀に見る成功を成し遂げてみせた。タッグを組んだのがIlluminationだったのも成功の一因と思われる。

5.「ザクリエイター/創造者」(11月4日)

見かけは大作なのに興行は地味(米国が完全悪役だから?)。でもオリジナルで挑む近未来ものはやはりおもしろい。渡辺謙、いい役やってました。

6.「テイラー・スウィフト: THE ERAS TOUR」(11月3日)

世界で最も影響力のある女性・第5位。このポリコレ全盛時に白人として頂点に君臨する彼女の、才能と努力が結集した記録映画である。

7.「アフターサン」 (6月1日)

無邪気な娘と複雑な思いを抱える父親。二人の絆は強いけれど、時折流れる不穏な空気に心が乱れる。同性愛者の話として描かれるが、その中に押し込めるのがもったいないくらい繊細さが光る作品。

8.「ゴジラ-1.0」(12月1日)

山崎貴監督が、得意のデジタル映像技術に練り込まれたストーリーを盛り込むことで、北米でも大ヒットを記録。「マイナス1.0」という響きも新鮮で良かった。

9.「ザホエール」(4月16日)

B.フレイザーがオスカーを戴冠。苦労人が報われた美談と、失意から過食症になってしまった主人公という立ち位置が絶妙にシンクロする。

10.「フェイブルマンズ」(3月11日)

S.スピルバーグ監督の自叙伝的作品。映画に目覚める過程が生き生きと描かれる一方で、時代背景として存在した人種問題も扱われた。好きなことを仕事にすることも大変だ。

11.「ドミノ」(10月28日)

題名からはどんな映画か分からなかったが、実はドミノは物語のカギを握る娘の名前。多重構造的なストーリーの組み立てと観ている者を騙す映像のトリックは見応えあり。

12.「怪物」(6月3日)

いまや巨匠となり世界的にもブランドとして成り立つ是枝裕和監督の最新作は、現代にマッチした同性愛のテイストも加わり更に強力に。

13.「Pearl パール」(7月27日)

2023年のインパクト大賞はエンディングのパールの笑顔。M.ゴスって日本語でも相当強い響きだけど、外国ではどうなんだろう。

14.「人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした。」(11月9日)

井浦新がこんな癒し系の俳優になれるとは意外だった。今の生活で詰んだとしても、新しい未来が開けることがあると思えば下を向く必要はない。

15.「シャザム!~神々の怒り~」(4月1日)

見た目は大人、頭脳は子供という特徴を持つヒーロー。いろいろと話の発展が考えられそうな中で、前作から数年が経過してしまい中身の子供がハイティーンになってしまった。それなりにおもしろかったけど、次作を作るとしたら完全に大人になってしまうから実現は難しそう。

16.「ジョンウィック:コンセクエンス」(9月30日)

シリーズ最終作にして初めて劇場で鑑賞。K.リーブスはまだまだアクションの主役としてやっていけるだろう。次のヒット作の誕生を期待する。

17.「ミッション:インポッシブル/デッドレコニングPART ONE」(7月29日)

前年のトップガンの大ヒットに比べると、こちらはやや期待外れの結果に。崖からバイクで飛んだり、真っ逆さまになった車両にぶら下がったり、相変わらず超人的なアクションを生身で演じているのだが、観ている方はもう慣れてしまったのか?

18.「マイエレメント」(8月10日)

不調が続くディズニー(+ピクサー)の中で、出だしは低調ながら口コミ効果で徐々に興収を回復する異例の結果に。

19.「交換ウソ日記」(8月1日)

日本の子役は比較的順調に育っていくケースが多いが、誰しもどこかで年相応の役柄を演じる俳優にシフトしていくことが求められる。桜田ひよりの2023年はドラマやCMの起用が着々と増えた一年だった。

20.「ガーディアンズオブギャラクシー:VOLUME3」(5月13日)

凶暴なアライグマ・ロケットが主役の物語ながら、本人は序盤で瀕死の重傷を負いリアルタイムの出番は極めて少ない。シリーズ最終作として、ガーディアンズが消滅するのか主人公がいなくなるのか気を揉んだが、ひとまず納得の大団円。

21.「生きる LIVING」(4月1日)

命短し恋せよ乙女。人は生きた証として、何をもって自分の人生に折り合いをつけるのか。かつてのクロサワの名画は、カズオイシグロを通して世界的に共通する価値観だということを証明した。

22.「逆転のトライアングル」(2月23日)

インパクトという点では「Pearl パール」に迫る。上から下から大噴射の地獄絵図。

23.「翔んで埼玉~琵琶湖より愛をこめて~」(11月30日)

2作めも安定したノリ。埼玉人は40年以上前からタモリ等にディスられてきた歴史があるから余裕だけど、滋賀県人はどうだろう。とび太くんが全国区になってうれしいのかも。

24.「ザフラッシュ」(6月25日)

E.ミラーは挙行が問題。本作は、超高速移動の能力を時空を超える話にすり替えていることが問題。もっと単純に見せてもおもしろいと思うんだけど。

25.「インディジョーンズと運命のダイヤル」(7月7日)

老体にムチ打って出演したH.フォードにとっては残念な興行成績に終わる。ハン・ソロもはじめの3部作で終わっている方が良かった説があるし、何事も引き際は難しい。

26.「イニシェリン島の精霊」(2月2日)

退屈で未来が見えない離島生活。考えるだけで滅入ってくるが、そこで勃発するかつての親友どうしの諍いは救いのないどろどろの展開に。

27.「エブリシングエブリウェアオールアットワンス」(3月9日)

賞レースの勝者は時代が選ぶ。細かく分析すればいろいろあるのだろうけど、本作が作品賞というのは、2023年でなければなかったんじゃないかな。

28.「マーベルズ」(11月19日)

「マーベル」の看板を背負いながら一人で作品をけん引する力は持たず。それどころかチームを作っても、MCU史上で最も冴えない成績に。どうする?ニックフューリー。

29.「水は海に向かって流れる」(6月15日)

笑わない広瀬すず。しかも主人公から見て大人のお姉さんという役回りは新鮮。地味な作品で興収が振るわなくても、CM等で人気が安泰な限りはまだまだ挑戦的な役を演じることができる。

30.「オットーという男」(3月18日)

T.ハンクスもすっかりじいさん役を演じる俳優になってしまった。が、本作の売りはそこだけ。もう少し社会的な意義のある映画かと思ったのだけど。

31.「ノック 終末の訪問者」(4月8日)

M.ナイト・シャマラン監督はまだまだ映画を撮ります。と言うために作ってるくらいの価値かな。エッジの効いた作品は他にも結構あるので、このくらいだと埋もれてしまいそう。

32.「アントマン&ワスプ:クアントマニア」(2月22日)

量子世界のイメージが貧困過ぎる。既視感があるので、新フェーズの中心となるヴィランが登場しているのにわくわくしてこない。

33.「1秒先の彼」(7月8日)

台湾でヒットした作品のリメイクということで、宮藤官九郎の世界を味わうつもりで観ると肩透かしを食らうかもしれない。清原果耶はちょっと伸び悩んでいるのか。

34.「君たちはどう生きるか」(9月9日)

前宣伝をしないことが大きな話題となる、巨匠でしかできない作戦で挑んだ本作。宮崎駿監督のファンでもアンチでもない立場からすれば、特に可もなく不可もなく。

35.「M3GAN/ミーガン」(6月17日)

生成AIが流行りもののトップになった2023年だからこそ注目を浴びたホラー(なのかな?)作品。それほど残酷な場面もないし、お人形さんが主役なので「バービー」みたいにお子様でも楽しめそう(PG12)。

36.「しん次元! クレヨンしんちゃん THE MOVIE 超能力大決戦 〜とべとべ手巻き寿司〜」(8月5日)

貧乏国ニッポンでは、野原ひろしは勝ち組となり、希望を持てない青年に「がんばれ」と言うようになってしまった。ただ、名探偵コナンと別れて夏興行を主戦場にしたことにより興行的には成功した様子。

37.「ウィッシュ」(12月23日)

2023年は1位の作品を選ぶのが難しかったが、最下位は断トツ。再度言っておくが、これは作品の質ではなく好みの問題。ディズニー創立100周年おめでとうございます。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

今年の7館(2023)

2024年01月07日 16時42分11秒 | 映画(2023)
人口190万人の大都市にも拘らず大型シネマコンプレックスが2つしかなかった札幌市に、2023年11月30日、TOHOシネマズすすきのが爆誕した。狸小路に「サツゲキ」「シアターキノ」という地元資本の映画館はあったものの、全般的な賑わいを含めて札幌駅周辺の勢いに押されていたすすきの界隈。有名なニッカウヰスキーの看板がある超一等地交差点に完成した複合ビル「ココノススキノ」の5~7階に、道内初のドルビーシネマやプレミアムシアター、轟音シアターという先進設備を引っ提げてオープンした。集客を期待する割りにはコンセッション等がある待合スペースがやや狭めかと感じるが、ビル内のその他の商業施設と合わせて、街中の人の流れを変えられるか期待を持って見守るところである。
そんなこんなで結局異動も転居もない年だったので、観た本数は増えたけれど市内を中心に行った映画館は7館だけ。自宅最寄りに映画館ができたので、来年もこんな感じだろうか。

札幌シネマフロンティア(北海道)16回
TOHOシネマズすすきのがオープンしても、午前10時の映画祭などここでしか上映されない作品も多くあり、アクセスの良さや付随する商業施設の充実ぶりも考慮して、引き続き重宝する存在と思われる。個人的に注目していた幕間のBGMは継続使用でTOHOシネマズともろ被りに。聞くところによると、働いている従業員は数百から千人規模ながら、基本時給は最低限だとか?

ユナイテッドシネマ札幌(北海道)14回
12月以降まだ足を運んでいないが、TOHOシネマズすすきのの開場で最も影響を受けるのがここではないかと推測。その危機感からか、最大の売りであるIMAXに加えて"ScreenX"を2003年12月15日に導入してTOHOシネマズを迎え撃つ。半券サービスは3つのシネマコンプレックスの中では一番充実しているし、駐車場の4時間無料も上映時間の長時間化のご時世においてありがたい。

TOHOシネマズすすきの(北海道)4回
オープン初日に「翔んで埼玉」を観に行ったのだが、公開仕立ての話題作の割りには入りが寂しかった印象。すすきの離れという言葉を聞くが、クルマで来ることを想定しにくいことも不安材料か。ただ期待は大きいようで、上映前のCMに多くの地元企業が乗り込んできていた。

イオンシネマ江別(北海道)1回
TOHOシネマズ仙台(宮城)1回
TOHOシネマズ池袋(東京)1回
ユナイテッドシネマアクアシティお台場(東京)1回
札幌圏内のイオンシネマは江別と小樽。距離は若干江別の方が近いが、行くとしたら、ぜひ観たい作品がもうすぐ上映終了だが他の映画館だと時間が合わない・・・といったレアケースくらいか。
TOHOシネマズはネットで購入するとQRコードが配信されてそのまま入場できるシステムに切り替わった。観た証拠に半券が欲しいのであまり使っていないが。
かつて東宝グループのシネマメディアージュが入っていたお台場の映画館はユナイテッドシネマに。福岡のトリアス久山と同じ流れで少し格落ち感がするのは仕方ない。ユナイテッドシネマは幸福の科学の映画を上映するしね。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「ウィッシュ」

2023年12月23日 21時21分26秒 | 映画(2023)
100年目の分断。


最後に東京ディズニーリゾートへ行ったのはいつだったか。子供の希望に応えてクルマを走らせて、湾岸を下りる側道でスピード違反の切符を切られたときだから、もう10年ほど前になるのかもしれない。

時代は大きく変わった。USJの台頭で必ずしもディズニー一強ではなくなり、新型コロナを経て人々の生活様式も様変わりした。何より世界情勢も含めて世の中全体がきな臭くなっている。

そのような中で迎えたウォルトディズニーカンパニー創立100年の節目。記念作品として大々的に世界公開された本作であるが、北米での興行成績はどうも芳しくないらしい。

まず言っておかなければいけないのは、作品自体の完成度が低いわけではないということである。作画や音楽にしっかりと力を入れて作られていることは十分に伝わってくる。

問題は設定である。

テーマはタイトルにもなっている「希望」。魔法の力で人々の希望を支配する国王に主人公・アーシャが立ち向かうという話であり、ディズニーがこれまで紡いできた歴史の中心軸といえる内容である。話の構成は勧善懲悪で、前向きな主人公、優しい親族、個性豊かな友人、かわいらしい相棒キャラクターと、配役も王道。おそらくディズニーファンであれば大いに満足できる物語だろう。

しかし前述のとおり時代は変わった。ディズニーが人一倍気を遣っている多様性の時代である。既にディズニーの価値観が多数派ではなくなっているのである。それでも、その事実を理解して価値観の押しを抑えめにして、ほかのエンタメ要素を前面に出す戦術もあったが、彼らはそうしなかった。

このアーシャという主人公の価値観こそが絶対正義であると、これまでの作品の作り方を踏襲してしまったが故に、ライトな支持層からも離脱者が出てしまっているのが現状なのではないか。アーシャは国民を無視する国王のやり方を非難するが、見方を変えればアーシャのやり方も極めて独善的に映る。あれは国王の所有物ではないのだから盗んでもよいとか、おじいちゃんの願いだけまず取り戻そうとか。

そんなわけで、とにかくアーシャという主人公に魅力がない。見た目のポリコレは、それが予算を集めるのに都合が良いのだから、仕方がないというか当然の選択なのだが、それ以上に、前向きだとか、諦めないとか、ちょっとだけドジであるとか、既視感のあるキャラクターであることがいただけない。肌の色やそばかすなど外見の多様性に拘る割りに、主人公のキャラクターが画一的になるのはディズニーの致命傷と言ってもいいと思う。

そうした登場人物が集まって「希望は諦めなければ必ず叶う」とまで言っていないのは救いだが、画面に出てくるキャラクターたちは希望を持つことですごく満たされており、そこはおそらく現在の生活や先行きに不満や不安を持つ多くの人たちにとって共感できるものではないであろう。

そもそも多様性の時代において希望の追求は対立を招くことが自明である。アラブの希望、ユダヤの希望、中国の希望、台湾の希望。みんな抱くことは否定しないが、それらがすべて叶うことは不可能であり、諦めたり妥協したりというプロセスがなければ成り立たない。そこに目を向けないのであれば浮世話に徹底した作りにすべきなのである。

繰り返しになるが、本作はコアなディズニーファンにとっては大満足であろう。しかし、多くのそれ以外の人には刺さる内容にはなっておらず、皮肉にもディズニーが標榜してきた多様性が順調に進んでいることの証左となっている。彼らが今後も理想を追求して作品を作り続けるとしたら、世の中の一部の勢力を対象とすることを前提に作品の規模等を考えなければいけないことになるだろう。

(15点)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」

2023年12月16日 20時42分22秒 | 映画(2023)
ぼくらは失った何かを取り戻したいらしい。


物語の舞台は昭和31年。終戦から10年が経ち、国全体が立ち上がろうとしている時代である。

製薬業を営む大企業のトップであった龍賀時貞が急死したとの報せを受け、グループ会社と懇意にしていた銀行員の水木は、跡取りに取り入ってのし上がろうと考え、龍賀の一族が拠点にしている哭倉村を訪れた。

龍賀の屋敷では、まさに時貞の遺言状が公開されるところ。親族だけでなく、龍賀の仕事で生計を立てている村じゅうの人々が集まって行方を見守っていた。しかし、一族の権力は、大方の予想に反し表舞台に現れていなかった長男・時麿へ譲られることになり村は大混乱。その後、時麿をはじめ一族の者が「犬神家の一族」のように次々に無惨に殺されていく事件が起きる。水木は、ふらりと村に現れた謎の男とともに呪われた村の真相へと迫っていく。

水木しげる生誕100年を記念した作品だという。観に行った日の客席は満席。客層は女性、それも比較的若い年代の人たちが多く来ていた。ホラー的な要素を多分に含むこの漫画がなぜここまで国民に愛される存在になったのか。鬼太郎の前日譚は少しだけその秘密を教えてくれる。

水木と行動を共にする謎の男の正体は鬼太郎の父親である。今回初めて知ったのだが、鬼太郎は幽霊族なのだそうだ。となると馴染みのある鬼太郎のお話は、人間と妖怪の中間で橋渡しをしている役回りになるというところか。

本作では、幽霊族は絶滅寸前という設定になっている。生き残りである鬼太郎の父は、行方が分からない妻を探して哭倉村へやって来たのだが、龍賀一族こそが幽霊族を利用して金を稼いだ張本人であったことが判明する。

妻は人間を信じ、人間社会の中に溶け込んで生きてきた。しかし彼女は裏切られた。一方で、銀行員の水木は、かつて戦地で大義のためと言い聞かされて無駄に命を散らした同志たちを目にしてきた。そして更に龍賀一族の中にも、一族の繁栄のためだけに消費されようとしている若い命があった。

信じてきたものや希望を打ち砕かれた者たちの悲しみと怒りが物語全体を包む。

鬼太郎の父が、時貞の孫である時弥に、これからの日本は栄光と繁栄の道を歩むのだと説く場面がある。その後、村のどす黒い秘密が明らかになり、その権化との死闘を終えてしばらくしてから、二人は大きく変えた姿かたちで再会することになるのだが、そこで鬼太郎の父は申し訳なさそうに、今の社会が希望したようになっていないことを嘆く。

一生懸命生きてきたのに、それなりの成果を上げているのに、世の中はちっとも良くならない。怒りたくなるし、諦めたくもなるけれど、それより早く時間が流れていく。

だから立ち止まる必要がある。悲しみや怒りに向き合うのは怖いことかもしれない。しかし、その先に進んで初めて何が大事であるかが、自分の進むべき道を確認することができるのだと思う。

先日のゴジラもそうだったけど、歴史を持つシリーズというのは奥が深い。

(90点)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「ゴジラ-1.0」

2023年12月02日 15時06分42秒 | 映画(2023)
新しい戦後。


山崎貴監督にとって念願のDolby Cinema対応として制作された本作。

そこまで気合を入れたものであれば、それで観てみようじゃないの。TOHOシネマズすすきのにDolby Cinemaが導入されたばかりでタイミングもぴったり。映画の日に600円追加して観に行きました。

山崎監督といえば出世作は「三丁目の夕日」(観ていません)。昭和30年代の東京の街並みをCGで見事に再現して名を挙げ、その後も「STAND BY ME ドラえもん」「永遠の0」(どちらも観ていません)など話題作を次々に手掛けてきたヒットメーカーであるが、映画監督としての評価がどうなのかは正直良く分からない。

今回の題材はゴジラである。ゴジラシリーズといえば、最近では庵野秀明監督の「シン・ゴジラ」が大きな反響を呼んだのが記憶に新しい。あれから7年経っているとはいえ、次の作品を作るというのは相当プレッシャーがかかると想像する。

山崎監督は舞台を太平洋戦争直後に設定した。昭和は過去のヒット作に通じる、彼の得意フィールドということなのかもしれない。「-1.0」という耳慣れない言葉は、予告を見るかぎりでは、敗戦でゼロになった日本が更なる災厄によりマイナスに陥ることを表しているらしい。

映画監督としての評価が良く分からないと書いたが、山崎監督が間違いなく長けているのは企画力だと思う。単純に彼がゴジラの映画を作るというだけでは食指が動かないところを、見たことがない何かを作るんじゃないかと期待させる要素を次々に送り込んでくるのである。

そしていざ劇場へ。

冒頭、太平洋の小島に駐在する空軍の基地をゴジラが襲う。建物を踏みつぶし、人を咥えては放り投げ、とどめはお馴染みの咆哮。この10分ほどの映像で、ゴジラとDolby Cinemaが最高の相性を持つことを理解する。

ゴジラはもちろんVFXであるが、サイズ(後半は更に大きくなる)やごつごつ感に加えて、海面をスピードを上げて追ってくる姿など、人類が驚愕と絶望に支配されることに十分な説得力を持っている。

ゴジラが強過ぎると人間の存在が相対的に小さくなってしまい、ドラマが陳腐になる恐れがあるのだが、ここからが山崎監督の腕の見せどころであり、今回、人間側のドラマとして、戦争で図らずも生き残った人たちをメインに据えるという手法をとった。

特に主人公の敷島は、特攻隊員でありながら機体が故障したと偽り戦線を離脱し、避難した小島でも襲ってきたゴジラに対し戦わず逃げたという経験を持つ。

今でこそ、命が何よりも大切ということは常識であるが、当時はお国のために命を投げ出すことが正義であり、そうして多くの若い戦士たちが散っていった。敗戦後、自分の過去の選択に苦しみ続けた敷島たちは、今度こそ人々の、そして未来の子孫の役に立つことを願ってゴジラに対し立ち向かうのである。

時折ベタな描写も見られるが、ゴジラの物理的なスケールへの対抗軸として、こうした人間の感情の奥底を揺さぶる物語を配置したことは、荒唐無稽と捉えられかねないクライマックスのゴジラ掃討作戦にすんなり感情移入できるという効果を生んでいる。

本作を見るかぎり、山崎監督の技量は相当なものと認識した。何よりも、エンドロールで流れるあの壮大なチームをまとめ上げて大作を作り上げるなんて、普通では想像がつかない。

次はどういった題材に目をつけるのだろうか。

(85点)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「翔んで埼玉~琵琶湖より愛をこめて~」

2023年12月02日 08時22分34秒 | 映画(2023)
なんか楽しそう。


TOHOシネマズすすきのがついにオープンした。記念すべき初の鑑賞に選んだのは、なぜか埼玉。

「翔んで埼玉」の前作を観たのはTOHOシネマズ錦糸町。少し違う空気の中で観たいという思いがあってプチ遠征をしたのだが、今回は埼玉でも、首都圏でも、本作の舞台の関西でもない第三国での鑑賞。

気になる観客の反応は、オープン初日にしてはやや寂しい客の入り。滋賀県では1日に20回を超える上映回数を設定する映画館があるらしいが、劇中でまったく扱いがない北日本だから温度差は仕方ないところか。

肝心の中身の方は、ざっくり言ってしまえば前作のネタを関西版に広げただけなのであるが、関西のアクの強さが本作の大げさでばかばかしい世界観と非常に相性が良いので、前宣伝に偽りなくスケールアップした出来映えになっていると言える。

また、現代パートとして、浦和VS大宮(と間で無視される与野)の綱引き大会という並行エピソードを用意。「埼玉も忘れていないよ」というしつらえ感が否めないが、どんな形でも取り上げられれば満更でもなくなり、本篇とつなげたオチ(子供の名前)も含めて良かったのではないかと思う。

話のあらすじはというと・・・(敢えて書くのもばかばかしい気がするが)。

前作の戦いの結果、通行手形なしで東京に入れるようになったまでは良かったが、いずれの土地も東京ばかりを向くようになり横の連携が取れなくなってしまった埼玉。その課題を克服するべく越谷に(レイクタウンではなく)海を作ろうと言い出したGACKT演じる麻実麗。

西の地に美しい海砂を持つ白浜という場所があると聞き、船で和歌山を目指すが、たどり着いた地で彼が目にしたのは、東京よりも恐ろしい「大阪」という存在であった。

関東と関西は常に比較される。中心地である東京と大阪はもちろん、ハイカラ、異国情緒、文明開化でつばぜり合いを繰り広げる横浜と神戸もライバルだし、千葉と和歌山は共に半島に位置し、勝浦のように被る地名も存在する。

その中で、今回埼玉の代わりにディスられる役割を担ったのは「滋賀」であった。距離で考えれば大阪と隣接する奈良か京都なのだろうけど、彼らは歴史的に別格なので、まあ滋賀がちょうど良いのだろうと。

ネタは、7割が琵琶湖、2割がとび太くん、残りが平和堂と鮒寿司と西川貴教というところ。この突き抜けない微妙さが結果として本作の舞台としてはぴったりであった。

というわけで内容は良くも悪くも相変わらず。いろいろディスりながら誰も不幸にならない持ち味も健在。それどころか、俳優陣がみんなこの茶番劇を楽しそうに演じているのが印象的であった。

今回、麻実麗の実質的なパートナーとなる滋賀解放戦線のリーダー・桔梗魁を演じたのは。彼女にコメディのイメージはあまりなかったが、GACKTと並び立つ画の良さも含めてハマっていた。

大阪府知事の片岡愛之助、神戸市長の藤原紀香ご夫妻は、世の中的には好感度がもう一つの感があるが、こうした振り切った役を演じることでその辺りは払拭できるのではないかと思った。

エンドロールの歌と漫才まで天下泰平の100分超。期間限定の十勝ポップコーンを傍らに観るにはぴったりの映画なのでありました。

(75点)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「マーベルズ」

2023年11月19日 22時49分02秒 | 映画(2023)
店名を冠したヒーローは世界を突き破れるか。


アベンジャーズの中でも異次元の強さでストーリーの中心には入りづらかったキャプテンマーベル=キャロルダンバース。一人だと話が発展しないので、足枷になるような人間関係を作るという発想は大いに納得する。

チームが3人というのも、バディものや多人数グループだとキャロルの強さが浮いてしまうので妥当な設定であると思う。ひとりは、キャロルのかつての同僚の娘で現在は宇宙ステーションでニックフューリーの指揮下で働くモニカ。もうひとりは、キャプテンマーベルに強い憧れを抱く高校生のカマラ。例によって二人とも女性でColored。これも製作側の事情を考えれば妥当であろう。

キャプテンマーベルといえば猫のグースが相棒である。かわいい外見と裏腹に、口から巨大で複数に枝分かれする触手を出し、様々なものを体内に飲み込んでしまうという強烈なキャラクターであるが、本作での活躍は更にスケールアップし、見どころ満載である。

こうして一つ一つ汲み取って考察してみると、作り手はおそらく何一つ誤った判断をしていない。しかし本作、困ったことにあまりわくわくしないのである。

まず取り上げなければいけないのは、新キャラのカマラである。おそらく賛否両論だと思う。

キャプテンマーベルに憧れる普通の高校生だったはずが、マーベルズとして共に戦い出してからの戦闘力がいきなり超人的というところは最初のツッコミ。まあ、キーアイテムである腕輪の持ち主であるから選ばれた人間ってことで収められる範囲ではあるが。

あとは受け手によってうざったく見えそうなキャラクターが吉と出るか凶と出るか。本当は、彼女は観客に近い立場から出発しているので、感情移入させるくらいでもいいのだが、思い切り好意的に見て、全体の足を引っ張るような行動をとっていないから問題ない程度というのが実際のところ。

キャラクター以外では、宇宙を舞台にした活劇を作ろうとすると、何故かみんなスターウォーズになってしまうところもわくわくしない。あれはどうにかならないものだろうか。

歌でしか会話が通じない惑星・アラドナのアイデアはおもしろいが、広い宇宙に様々な性質の星がある中で、宇宙の生命体の造形が40年以上進化が見られないことには落胆する。星々の争いの構図も描き方も食傷気味である。

いずれもキャプテンマーベル=キャロルダンバースというを取り巻く事情という切り口では唯一無二なのだが、彼女の能力の特殊さに比べて展開される話に既視感があり過ぎるのである。

そういう意味では、唯一今後の期待のタネとなったのは、エンドロール途中のおまけ映像に出てきた青いキャラクターとBGMである。恒例の「〇〇は帰ってくる」のクレジットは出てこなかったが、DCみたいに成績が振るわないと続篇も怪しくなるからそこは仕方ないか。

(70点)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした。」

2023年11月11日 01時05分25秒 | 映画(2023)
夏の終わりは寂しくもあるが、楽しみでもあり。


人生には春夏秋冬があると思う。

幼児から思春期にかけてが春。働き盛りの夏を過ぎて、定年退職を控えて人生の終末を意識し出すころが秋といったところか。

「人生に詰んだ」という言葉にアンテナが反応した。希望がない未来に絶望したり、仕事の一線から退いて生きがいを失ったりするのは、50から60歳代によくある話と思うのだが、本作の主人公はまだアラサーの元アイドルである。

最近はアイドルも多様化していて必ずしも一括りにはできないが、人前に出るということは、ある程度自分はできる人間だと思うところがあったのだろうと推測する。

しかし、主人公の安希子は、アイドルを辞めてからはこれといった成功がつかめず、気がつけば収入も恋人もない生活にはまり込んでしまっていた。

心労で家から出られなくなった安希子に友人が勧めてくれたのが、赤の他人である50歳代のおっさん・ササポンとの共同生活であった。

若いのに「人生に詰んだ」と思い込んでいる安希子が、人生の秋たけなわをリアルに送っているササポンの感性に触れることで、少しずつ浄化されていく様子が興味深い。

ササポンは多くを語らない。ただ、時折発せられる短い言葉は、無駄な飾りがないからか安希子の心の中にすっと入り込んでいく。

年齢を重ねて「諦める」ということができるようになった。「家族でも親戚でもないのに」と言われて、それって関係ないよねと返す。彼の言動に深く相槌を打っている自分がいることに気が付く。

そう、ササポンは僕だ。

56歳男性にふさわしい生き方とは何か。世の中のほとんどの男性は、まだまだ自分は20年前、30年前と同じように働けると思っているのかもしれない。

でも違うような気がするのだ。現役でいることは間違いない。ただ、夏と秋は違うはずである。

今年は特に暑さが長引いて、11月に入っても夏日を記録することが多かったが、やっぱりそれはおかしい。暑い夏の服装をしていた日々から急に気温が下がったら体を壊すでしょう。

いつまでも同じ役職にしがみついて老害と陰口を叩かれるより、自分の身の丈に合った落ち着いた暮らしに移行する方が良いに決まっている。ササポンは様々な経験を経て、その境地にたどり着いたのである。

夏は楽しい。ササポンにとって安希子は夏の日差しのようにまぶしく輝いて見えた。でも、それはそれ。秋の日に夏の楽しさを求めることはない。それは「諦め」ではあるけれど、決してネガティブではなく、秋には秋の楽しさやふさわしい過ごし方を見つけるという、前向きな姿勢でもある。

いいんだよ、適当で。死にたい気持ちになったとしても、死ぬわけではないし。

ササポンを演じた井浦新は49歳だそうで、今までにない少し枯れた中年男性を違和感なく演じている。安希子役の深川麻衣は、元乃木坂46で安希子と同じベースを持つ女優。こちらも、アイドルの名残りと私生活が空回りするくたびれ感が同居する役にぴったりハマっていた。

(85点)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「ザクリエイター/創造者」

2023年11月04日 23時40分04秒 | 映画(2023)
大悪党は誰だ?


おもしろいと思った。もともと近未来モノは好きである。世界の描写にひとクセあるとなお良い。

本作では冒頭で、過去の記録映像の形で舞台設定が紹介される。

AI技術の発展は人間の生活を豊かにするものと信じてきたが、AIはロサンゼルスに核爆弾を落とした。それ以来、米国はAIを徹底的に排除しなければならないと180度方向転換し、いまだAIとの共存を続けるアジア地方と激しいつばぜり合いを続けていた。

ロボットと言われていたころから必ずあったディストピア設定であり、意外性はないが分かりやすい。更にAIという要素を除けば、世界の分断自体は、意外性どころか現在進行形の構図と何ら変わりないことが分かる。

主人公のジョシュアは、かつて米軍所属時にAI開発の中心となっている集落に潜入し、地域社会とすべてのAIを束ねるニアマタと呼ばれる指導者を捜索し抹殺する特殊任務を担っていた。

しかし彼は当地の女性・マヤと本気の恋に落ちてしまう。そのマヤは米軍の突然の攻撃に遭い絶命し、ジョシュアは任務を完遂できずに帰国。以降、米軍はジョシュアの記憶からニアマタにたどり着く道を探っている。

本作の最大の特徴は、米国映画なのに米国がものすごい悪役に位置付けられているところである。社会派作品なら分かるが、どちらかと言えば娯楽寄りの映画でこの設定はかなり潔い。

何より上記の米軍の攻撃というのが悪役そのもの。まるで宇宙人が地球を侵略しに来たかのような巨大飛空艇(ノマド)からミサイルを照射し、集落ごと一気に焼き払うのである。

米国は、AIの技術開発が暴走したことにより人間に攻撃を加えてきたと言うが、渡辺謙演じるAIのハルンは「核爆発は人間がコマンド入力をミスしたことによるものだ」と主張する。

実際に画面に登場するAIたちは決して好戦的なわけではなく、自分たちの存在を脅かす対象に最小限の防衛をしているに過ぎず、この時点で勧善懲悪が完成する。

当然ニアマタは善の心を持っており、彼女が心血を注いで作り上げた最新のAIは、世界の争いを止めることができる能力を持つ子供の姿をしたAIであった。

「私たちはただ自由が欲しいだけ」というAIを執拗に駆逐しようとする米国。ここまではっきり見せられるとどうしようもないが、翻ってみると、似たような話が現実にもあるけど、そちらはそう単純じゃないよねってところがまた興味深い。

映画の中で「AIは機械なんだぞ、なぜ感情移入する?」という場面が冒頭と終わりの方に二度登場する。確か冒頭はジョシュアが言う方で、二度めはジョシュアが言われる方だった気がするが、観ている側も明らかにストーリーにつられてAIに肩入れしていることに改めて気づく。

映画は分かりやすく作られているからこれで正解なのだろうけれど、現実社会で簡単に答えを決めてしまって良いのだろうか。世の中だいたいのことは、イチかゼロで決められるものではないはず。

世の中、もう少し譲り合いや謙虚な心を持てないものかとつくづく思う。ただ、米国は米国で問題だけど、対抗グループがまた放っておいたら際限なく増長しそうだから困ったものなわけで。

本作でのAI開発側の中心が「ニューアジア」とされていたのは、製作側の趣味もあったのかもしれないが妙味があった。一見貧しそうな農村に先端技術が溶け込んでいる世界って、意外と将来ありそうな気がした。

ただわが国は、この手の問題で米国と異なる側に付くことはないだろう。クレジットに一切出てこなかったが、やはり米国の対抗馬となるのはあの国に違いない。そしてそのニアマタがどんな意図をもってAIの開発をするかといえば・・・。

(90点)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「テイラー・スウィフト: THE ERAS TOUR」

2023年11月04日 00時17分12秒 | 映画(2023)
世界の頂の景色。


Taylor Swiftを知ったのはシングル"Love Story"のヒットだった。リリースは2008年、彼女が18歳のころである(ちなみにTaylorの誕生日は私と一緒♬)。

それから15年。新鋭のカントリーシンガーだった彼女は、いまや全世界のエンタメ界の頂点に君臨している。

本作は、そんな彼女が新型コロナのパンデミックを経て5年ぶりに開催したライブツアーの記録である。

ツアーのタイトルは"THE ERAS TOUR"。通常は最新アルバムのタイトルを冠してそのアルバムの楽曲を中心に構成するところを、これまで発表した10作のアルバムそれぞれをERA(時代)として区切り、衣装や演出も分けて披露するという組み立てになっている。

5年ぶりということもあるのだろう。とにかく曲の数がすごい。時間も当然長い。映画は編集しているが、それでも約3時間の上映時間となり、楽しいけど体力的にはキツい。

映画館に来ているお客さんはほとんどが女性であった。男性は自分を含めて3人。小学生と思しき女の子がお母さんと来ていたが、楽しめたかな。

映画内で映されている観客もおそらく女性が多数を占めていたと思う。彼女らは、ライブの間ずっと声援を送り、一緒に歌い、ちぎれんばかりに手を振り続けていた。

Taylorの何がこんなにも人を惹きつけるのか。その答えはこのライブを見れば分かる。

ERAが変わるごとに、いや曲が変わるごとに、エレガントだったり、パワフルであったり、静かに語りかけてきたり。すらりと伸びた手足はステージ映え抜群で、ギターやピアノを弾けば類まれなる音楽の才能を発揮する。何もかもが他の追随を許さない圧倒的な存在なのである。

個人的な所感としては、アルバム"Reputation"の辺りで、初動は良いものの持続力のないチャートアクションが見られるようになり、少し人気に陰りが出てきたかと思っていた。しかし、Scooter Braunとの騒動で過去のアルバムを再録して発売するようになったころからだろうか。再び勢いを取り戻し、今ではかつてを超える高みへと上り詰めた。

今回、Taylorの楽曲を昔から今まで一気に聴いたが、改めてソングライティングの能力に惚れ惚れする。ロックが衰退し、ヒップホップ、ラテン、Kポップが躍進する中で、彼女が紡ぐメロディーがヒットチャートの中心に居続けていることは心強い。

THE ERAS TOURは、来年の2月にいよいよ東京ドームにやって来る。予定を見ると4日連続の公演となっているようだ。この集大成のような中身ぎっしりのステージを4日連続とはTaylor恐るべし。そのパワーとともに、まだまだこの輝きが続くことを願うばかりである。

(90点)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする