Con Gas, Sin Hielo

細々と続ける最果てのブログへようこそ。

「ブラックスワン」

2011年05月22日 02時49分05秒 | 映画(2011)
栽培された優等生の憂鬱。


「子役はグレる」ってのは一つのステレオタイプのようなもので。わが国では「パッとしない」くらいで済むが、あちらハリウッドは半端なくて薬物やら中絶やら、時には若くして命まで落としてしまう人もいるから怖い。

そんな中で、着々とキャリアを積み重ね、容姿に磨きをかけ、ついにオスカー戴冠に至ったN.ポートマンの存在は際立つ。たゆまぬ努力と強い自律精神の賜物と評価する。

優等生というのは世間受けしないもので、ねたみで足を引っ張られることがしばしばあるが、一方で本作のニナのように、元々たくましさに欠けるが故に重圧に押し潰されることも多い。

本当に優秀な人間に育ってほしいのなら、過保護にしない方がいいのだけれど、どうも世の中の親は菌が付かないようにと大事にし過ぎてしまう。ニナの母親もそうだ。

人は生きているうちにどこかで必ずどこかで試練に遭い、何かを吸収することによって人間的な心の多様性を身に着けていく。多様性は人としての輝きでもある。

相対する純粋と邪悪を役柄の白鳥と黒鳥に見立てた構図は分かりやすい。極めれば、白鳥は聖職者、黒鳥は犯罪者ってところだろうか。

人は正しくありたいと思う一方で、自分にないものを持つ存在に関心を抱く。世間に溢れる不良・ヤンキー美化の問題に通じるが、黒鳥は劇薬のようなものだ。適度に備われば人間力が向上するが、処方を間違えれば破滅にも至る。

ニナの苦悩は、生きていく上で経験しておくべきであった苦汁を、遅くしてしかも凝縮して味わう羽目になってしまったようなもの。

もちろん白鳥100%として生きていく選択肢だってある。演出家のトマは「白鳥だけなら間違いなく君を選んだ」としているし、普通の「白鳥の湖」であれば、おそらくそれで十分だったのだろうから(後日追記:普通でも「白鳥の湖」は両方を演じるようですね)。

ここまでいろいろ語れるという点を含めて、この映画の世界観は結構好きだ。

そして一般的に高い評価を受けている心理サスペンスの部分も、構成や演出は非常に巧みだと思う。しかし、個人的には物語の展開に意外性を感じることができなかった。

劇中に映し出される恐怖は、ニナの心情に立って考えた場合至極真っ当な話であり、時々エキセントリックに映る周りの人たちは、ニナの心の乱れの裏返しに過ぎないことも想像の範囲内だ。特にリリーね。

熱心な教育もいいが、かわいい子には旅をさせよう。

(80点)
コメント (6)
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「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ 黄金のスパイ大作戦」

2011年05月06日 23時59分41秒 | 映画(2011)
甘酸っぱい大作戦。


スパイ→すっぱい→レモンちゃん。

今回は、しんちゃんと2歳上の女児スパイとの冒険がずっと続く。

ふたば幼稚園の仲間は完全に脇だし、野原一家ですら活躍の場は多くない。

それでは「クレしん」の持ち味である家族や友情の絆が描かれなかったのかというと、意外とそうでもない。

幼いころからスパイの英才教育を与えられたレモンちゃんの家庭を野原一家と対比させることで、家族のあり方を問いとして投げかけている。

笑いの方は、監督も自覚していたらしいが、これでもかというくらいおなら系で押しまくっていた。まあしんちゃんだからぎりぎり有りという感じ。

他にテーマ性を持つ背景がないことや強烈な個性のキャラクターが出てこない分、全体として淡白な印象を受ける。

しかしながら、それは裏を返せば余計なものがないことでもあり、レモンちゃんとしんちゃんの関係同様にすっきりさわやかな後味を残している。

来年はいよいよ20周年。上映後のサービスカットまで作って気合十分・・・というわけでもなく、「みればー?」の調子で行くのだろう。もちろんほどほどに期待している。

(70点)
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「スコットピルグリムVS.邪悪な元カレ軍団」

2011年05月04日 22時35分08秒 | 映画(2011)
仮想的世界に限界はない。


最初のつかみは、主演のM.セラと原題"・・・VS THE WORLD"の違和感だ。

邦題のとおり戦う相手が単なる元恋人だけなので、「キックアス」のようなヘタレ青年の奮闘ものを想像するのだが、この作品は更に斜め上を行く。

どう見てもひ弱なスコットピルグリムが、バンド演奏をこなし、突然現れた敵と戦闘を繰り広げる。おまけにGFは二股。普通もしくはそれ以上にイケてるのである。

おかしいんだけど、こういうシチュエーションって何かあったような・・・。

で気付くのだが、これはまさに映画全篇を貫いている世界観、ゲームの中の世界なのである。

RPGの主人公に自分の名前を付ければ、自分は勇者になって世界を救ってしまう。そこで"VS THE WORLD"なのである。松方弘樹が世界を釣るなら、スコットピルグリムは世界を向こうに回して戦いを挑んじゃうのである。

劇中でそうした設定を明確に定義付けてはいなかったものの、とことん仮想空間を意識した編集がてんこ盛りだ。

テンポを自由自在に操り、前後の見境なく場面が次々に飛んで行く。

仮想なんだから現実性も整合性も関係ない。スコット以外の濃い脇キャラ軍団、Beckを中心とした音楽の彩りといった要素に、画面に意識を向けている五感がただ刺激を喜ぶ映画だと思う。

(80点)
コメント (2)
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「抱きたいカンケイ」

2011年05月02日 23時21分12秒 | 映画(2011)
固執するほど下がってしまう恋愛偏差値。


子役からオスカー戴冠まで硬派なイメージの履歴を持つN.ポートマンが、軽めでしかも下ネタの多い恋愛ものに出るというのは、かなり意外だった。

そんな彼女の役どころは、美しく才能にあふれてもいるのに、傷つくことを恐れるあまりに自ら恋愛の機会を遠ざけてしまう女性医師・エマ。合ってるかもしれない。

相手役は、彼女とは正反対に「バタフライエフェクト」以外ほとんど軽い作品のイメージしかないA.カッチャー

彼の役どころは、有名人の父を持つぼんぼん。父と遠からぬ芸能界の現場でアシスタント業務をこなすが、どうにも自立のきっかけが見えてこないアダム。これも結構合ってる。

15年前と5年前のちょっとした軌跡の交わりを経た現在、アダムにある事件が降りかかり、半ばやけになった状態で転がり込んだエマと同僚たちの自宅で、2人は最初に結ばれる。

きっかけはどうあれ、2人が結ばれたのは極めて自然の成り行きなのに、わざわざセックスのみの関係というルールで壁を作ってしまうエマ。

面倒を避けようとして、結局より面倒な羽目に陥るというのは、ドラマの仕立て方としては王道と言えるのだが、アダムがアシュトンだからか、彼の恋愛の苦悩に関して恋愛のもどかしさのようなものはこちらに伝わってこない。

不真面目なわけではないのだが、「好きなんだけどなー、しようがないかなー」という感じで、さらりとフェイドアウトモードに変換する。

結局大騒ぎするのはエマだ。性格等が異なる二人って相性はいいように見えるけど、長続きするかどうかはアダムがうまく感情を捌けるかどうかなんだろう。

主役は魅力的だし、15年前の回想含めてふんだんにかかる音楽も楽しい。二人とも文字通りひと肌脱いでがんばっているし、二人を取り囲む脇役もそれなりに存在感がある。

でも全体を通して見たときに、この作品独自の強さって部分がどうしても物足りない。軽い恋愛もので強さっていうと矛盾しているようにも聞こえるけど、少なくとも今でも語られる名作にはそれがあったわけで、そのレベルにはまず及ばない。

(60点)
コメント (4)
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