栽培された優等生の憂鬱。
「子役はグレる」ってのは一つのステレオタイプのようなもので。わが国では「パッとしない」くらいで済むが、あちらハリウッドは半端なくて薬物やら中絶やら、時には若くして命まで落としてしまう人もいるから怖い。
そんな中で、着々とキャリアを積み重ね、容姿に磨きをかけ、ついにオスカー戴冠に至ったN.ポートマンの存在は際立つ。たゆまぬ努力と強い自律精神の賜物と評価する。
優等生というのは世間受けしないもので、ねたみで足を引っ張られることがしばしばあるが、一方で本作のニナのように、元々たくましさに欠けるが故に重圧に押し潰されることも多い。
本当に優秀な人間に育ってほしいのなら、過保護にしない方がいいのだけれど、どうも世の中の親は菌が付かないようにと大事にし過ぎてしまう。ニナの母親もそうだ。
人は生きているうちにどこかで必ずどこかで試練に遭い、何かを吸収することによって人間的な心の多様性を身に着けていく。多様性は人としての輝きでもある。
相対する純粋と邪悪を役柄の白鳥と黒鳥に見立てた構図は分かりやすい。極めれば、白鳥は聖職者、黒鳥は犯罪者ってところだろうか。
人は正しくありたいと思う一方で、自分にないものを持つ存在に関心を抱く。世間に溢れる不良・ヤンキー美化の問題に通じるが、黒鳥は劇薬のようなものだ。適度に備われば人間力が向上するが、処方を間違えれば破滅にも至る。
ニナの苦悩は、生きていく上で経験しておくべきであった苦汁を、遅くしてしかも凝縮して味わう羽目になってしまったようなもの。
もちろん白鳥100%として生きていく選択肢だってある。演出家のトマは「白鳥だけなら間違いなく君を選んだ」としているし、普通の「白鳥の湖」であれば、おそらくそれで十分だったのだろうから(後日追記:普通でも「白鳥の湖」は両方を演じるようですね)。
ここまでいろいろ語れるという点を含めて、この映画の世界観は結構好きだ。
そして一般的に高い評価を受けている心理サスペンスの部分も、構成や演出は非常に巧みだと思う。しかし、個人的には物語の展開に意外性を感じることができなかった。
劇中に映し出される恐怖は、ニナの心情に立って考えた場合至極真っ当な話であり、時々エキセントリックに映る周りの人たちは、ニナの心の乱れの裏返しに過ぎないことも想像の範囲内だ。特にリリーね。
熱心な教育もいいが、かわいい子には旅をさせよう。
(80点)
「子役はグレる」ってのは一つのステレオタイプのようなもので。わが国では「パッとしない」くらいで済むが、あちらハリウッドは半端なくて薬物やら中絶やら、時には若くして命まで落としてしまう人もいるから怖い。
そんな中で、着々とキャリアを積み重ね、容姿に磨きをかけ、ついにオスカー戴冠に至ったN.ポートマンの存在は際立つ。たゆまぬ努力と強い自律精神の賜物と評価する。
優等生というのは世間受けしないもので、ねたみで足を引っ張られることがしばしばあるが、一方で本作のニナのように、元々たくましさに欠けるが故に重圧に押し潰されることも多い。
本当に優秀な人間に育ってほしいのなら、過保護にしない方がいいのだけれど、どうも世の中の親は菌が付かないようにと大事にし過ぎてしまう。ニナの母親もそうだ。
人は生きているうちにどこかで必ずどこかで試練に遭い、何かを吸収することによって人間的な心の多様性を身に着けていく。多様性は人としての輝きでもある。
相対する純粋と邪悪を役柄の白鳥と黒鳥に見立てた構図は分かりやすい。極めれば、白鳥は聖職者、黒鳥は犯罪者ってところだろうか。
人は正しくありたいと思う一方で、自分にないものを持つ存在に関心を抱く。世間に溢れる不良・ヤンキー美化の問題に通じるが、黒鳥は劇薬のようなものだ。適度に備われば人間力が向上するが、処方を間違えれば破滅にも至る。
ニナの苦悩は、生きていく上で経験しておくべきであった苦汁を、遅くしてしかも凝縮して味わう羽目になってしまったようなもの。
もちろん白鳥100%として生きていく選択肢だってある。演出家のトマは「白鳥だけなら間違いなく君を選んだ」としているし、普通の「白鳥の湖」であれば、おそらくそれで十分だったのだろうから(後日追記:普通でも「白鳥の湖」は両方を演じるようですね)。
ここまでいろいろ語れるという点を含めて、この映画の世界観は結構好きだ。
そして一般的に高い評価を受けている心理サスペンスの部分も、構成や演出は非常に巧みだと思う。しかし、個人的には物語の展開に意外性を感じることができなかった。
劇中に映し出される恐怖は、ニナの心情に立って考えた場合至極真っ当な話であり、時々エキセントリックに映る周りの人たちは、ニナの心の乱れの裏返しに過ぎないことも想像の範囲内だ。特にリリーね。
熱心な教育もいいが、かわいい子には旅をさせよう。
(80点)