Con Gas, Sin Hielo

細々と続ける最果てのブログへようこそ。

「テルマエロマエ」

2012年04月29日 06時10分20秒 | 映画(2012)
前を向こう!フラットジャパン。


いつからだろう。震災のはるか前から、わが国は気分が重くなるニュースばかりが流れ、国全体が元気を失ってしまった。

かつては世界を凌駕していた家電製品はサムスンやLGに遅れをとり、国内のテレビでは韓流なるカテゴリーが幅を利かせるなど、少し前までは信じられないような光景が日常に溢れている。

そうした中でのこの作品。

古代ローマと日本をお風呂で繋げるという大胆な発想のもと、両者のギャップをコミカルに描き、見事に2010年のマンガ大賞等を受賞した作品の映画化である。

本作はとにかく楽しい。

基本の設定として我々日本人を「平たい顔族」とへりくだっておきながら、その日本人の技術と文化の優れた点をローマ帝国の建築士・ルシウスのリアクションを通して描くという、押し付けがましくない主張。

風呂という題材もいい。言ってみれば「たかが」の世界である。

とてもとても威張れる代物ではございません。でも、捨てたものでもないでしょう、イタリア人さん?てわけである。

別に肩肘張って、背伸びして生きるだけがすべてじゃない。足下にこんな素晴らしい世界があるじゃないか。

作者は決して意図したものではないかもしれないが、楽しく笑っているうちに元気になれる、これはまさに効能だ。

映画版には、日本映画故の安っぽさはある。ただそこにはある種の先入観があるわけで、それはもう度外視してしまっていいのかもしれない。

むしろタイムスリップ時のテノール歌手や人形の使い方は、そこを逆手にとって「ひょうきん族」的なバラエティなノリで楽しめた。

配役はもはやネタだ。公然と日本の濃い顔を集めたなどと言っている。竹内力だけがローマ人にならず、いつもの域を出ない役まわりというのも、さりげなくおかしい。

笑うことができる日常。それを支える文化や人柄が、誰かが言わずとも無意識に育まれ受け継がれていくことを希望してやまない。

(80点)
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「マリリン 7日間の恋」

2012年04月21日 23時20分44秒 | 映画(2012)
それは本当に恋だったのだろうか。


大スターと普通の青年の奇跡のような恋。

こう書くと、若き心がよみがえるようなロマンスを思い浮かべるが、この映画で強く印象に残ったのは大スター故の厳しい宿命の部分だった。

華やかな表舞台から一歩下がれば、いわゆる大スターの奔放な振舞い。遅刻、不機嫌、職場放棄。

はじめは共演を楽しみにし、あわよくばとまで考えていた様子のローレンス・オリビエが、我慢の限界に到達してしまう辺りなど、いかにもな芸能ゴシップ的エピソードが興味深い。

初めてのプロデュース、慣れない英国のしきたりというプレッシャーがマリリンの精神を蝕んでいく。

周りは、とにかく仕事だけはやり通せるようにすぐに薬を与える。ホィットニーの悲劇を思い起こさせる悲壮感に満ちた環境。

その中で彼女が、違う世界を漂わせる青年に一瞬の救いを求めたのは必然だったのかもしれない。

でも、この時点の彼女が果たして普通の人間としての感覚を持ち合わせていたのかは疑問だ。

既に選択肢もなければ判断力もない。もうろうとしたまま流れる時間の中で無意識に戯れただけなのかもしれないと思った。

時代に選ばれた女性の一生は、幸か不幸か、正しいか正しくないかなどという尺度で測ることはできない。

マリリンを演じたM.ウィリアムスは、決して似せることを中心とするのではなく、ある一人の大スターとして演じている感じが伝わってきて、観る方も違和感なく入ることができた。

ただ、衣装係のルーシーを演じたE.ワトソンがかわい過ぎて、あり得ない格差恋愛へのめり込む主人公に共感できなかったのがやや残念なところ。

(75点)
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「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ!オラと宇宙のプリンセス」

2012年04月16日 00時11分53秒 | 映画(2012)
映画版は成人式。


20周年である。永遠の5歳児と言いながらもはや風格が漂う。

特に映画では「大人も見られるアニメ」としての地位を築き、TVアニメのゆるゆる感とは一線を画す懸命な家族愛を見せてくれる。

今回は宇宙を舞台に妹・ひまわりに危機が迫るのだが、特徴的だったのが2点。

一つは敵キャラに当たる存在が決して悪人ではなかったこと。そしてもう一つは下品ネタがほとんど影を潜めていたことである。

敵キャラの名前など真っ先に下ネタ系にして小っちゃいお子ちゃまの笑いを誘う方が楽だし、勧善懲悪にした方が話としては分かりやすいはずなのに、そこを敢えて外しているところに20周年としてのプライドを感じた(考え過ぎか?)。

変な歌の引っ張りなど理解に苦しむところもあったが、しんのすけ達が家族を取り戻すために受ける試練の数々は、なかなか凝った設定になっていて、それなりに見応えがあった。

問題が発生する経緯を決して説教っぽくならない程度に現代社会の歪みに結びつけているところも、おそらく適切。

今回はシロがあまり活躍しなかったが、あれだけ多くのキャラクターを一応画面に登場させるなど配慮も行き届いていたと思う。

ただ、来年はうちの子も中学生だからなー。独りで観に行かなきゃならなくなるかな・・・。

(70点)
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「ヒューゴの不思議な発明」

2012年04月15日 23時09分06秒 | 映画(2012)
一流料理人が丁寧に作り上げた佳作。


この作品、3月1日から公開されていたにも拘らず、最終日の最終回で観ることになった。

というのも、3月は他に観たい作品があって優先度が下に置かれてしまっていたから。

何故下に置かれたかといえば、アカデミー賞の主要部門を獲れなかったこと、3Dであったこと、3D+邦題の印象で別に観なくてもいいかと思ってしまったこと等がその理由だ。

しかし実際に観てみると、それらの先入観が誤りであったことに気付く。

特に3D+邦題の印象のところ。間違っても子供向けの映画ではない。原作の題名をそのまま持ってきているようではあるが、このミスリードは作品にとって実に不運であったと思う。

突然父親を失ったヒューゴ少年は、遺された機械人形に父からのメッセージが込められていると信じて修理に精力を注ぐ。

機械人形が描いた絵は、駅で小さい店を営む老人と彼が愛した創世記の映画文化へと繋がる。

その設定だけ見ても、「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」や「アーティスト」の要素が取り込まれているようで贅沢なのだが、そこへ更にほのかな恋(友情?)物語や映像の美しさ、配役の豪華さが加わる。

映像は緻密な3Dとでも言おうか。ヒューゴが暮らす複雑な駅の構造、時計がある天井裏から見渡すパリの美しい街並み、そしてそれらとリンクするからくり仕掛けの機械。大画面+3Dの利点を巧く引き出している。

配役で光るのは、C.グレース・モレッツS.バロン・コーエンだろう。

クロエちゃんは応援したくなるヒロインとして説明の必要もないが、意外だったのがバロン・コーエンだ。

敢えて原作の設定を肉付けしたらしい人間的な公安官を、時には漫画的に、時には情感を内に秘めて演じるという器用さを見せてくれた。

そんなわけでラストの締め方も含めて楽しめたが、個人的な苦言を言えば、この世界観に入り込めるまで結構な時間を要した。

冒頭で何故この少年は駅の中を走って逃げなければいけないのか?J.ロウの父親の話が出てきてようやく頭の配線が繋がったが、そこで改めて冒頭の場面を観たいと思った。

その辺りを含め、展開が極めてシンプルな「アーティスト」とはある意味対極であり、好みも分かれるのかもしれない。

(85点)
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「アーティスト」

2012年04月07日 23時52分23秒 | 映画(2012)
すぐれた企画、さりげない味付け。


サイレントからトーキーへという変遷は、まさにモノクロからカラーへ移行したのと同じくらい、いやむしろそれ以上の革命的な出来事だったように想像する。

もちろん新しく便利な技術へと世の中が進むのは当たり前の話である。

しかし、常に新しいものを取り入れながらも、時々は昔を思い返すのが人間であって、特に映像に関しては現代でも、敢えてモノクロ処理した映像をよく見かける。

そしてそれは単なる懐古趣味にとどまらず、現代の技術を活かして融合させた新たな技術として私たちの目を楽しませてくれている。

しかしながら音声で同じような事例が何かあるかと問われると、なかなかすぐには浮かんでこない。サイレントにはサイレント独特の味わいがあるのは当然なのに不思議な話である。

そこに突如登場し、ついにはアカデミー賞作品賞まで獲得してしまったのが本作である。

舞台は、まさにどんぴしゃの往年の映画界。時代の流れに乗るのを拒んだ男と、波の先端に乗りあっという間に男を追い抜いた女。

分かりやすい設定ではあるが陳腐ではない。はっきりした設定の下でこそ生きてくる隠し味が散りばめられている。

自らのプライドも手伝ってトーキーへの転身を拒否した男だが、心の奥底に潜む不安が顔を出す。いや、音を出す。

BGMのみの世界から、急に周りの物音が聞こえるようになる場面は、予想外のインパクトがあった。

更にそこでは自分だけが声を発することができない。混乱と焦りは、自分の誇りを根こそぎ掘り返してしまう。

主演男優賞を獲得したJ.デュジャルダンは、絶頂期の自信溢れる表情から何もかも失ったうつろな表情まで器用に幅広く表現。劇中映画の、まさに過度に誇張した演技ぶりも良かった。

また、「クレしん」のシロ並みの優れた働きをする噂の名犬。お抱え運転手とともに、すべての財産を失った男に付いて行く健気な姿は、映画の温かみを倍増させた。

録音技術やスピーカーの品質など音響の世界も進歩しているが、こうした万人が楽しめる音の企画モノも、今までなかっただけにおもしろい。

100分余りの時間で、いかに毎日の生活が喧騒の中に存在しており、私たちがそれに慣れてしまっているかを改めて感じることができたことは、貴重な体験であった。

(90点)
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「ドライヴ」

2012年04月01日 12時03分19秒 | 映画(2012)
プロフェッショナルはいつも寡黙。


ドライバーのキッドは多くを語らない。ときどき後ろに流れるのは、夢うつつのような音楽。

下手すると眠気に襲われそうだが、この作品は逆に静寂が観る側を引きつける。

特に冒頭の警察とのチェイスは実に新鮮だ。

追いかけ合うのではなく姿をくらまし逃げる。「ジョンカーター」の予告でさえ眠くなったのに、闇と静寂の緊張感で目が覚めるとは驚きだった。

隣人への感情も決して噴き上がるわけでなく、時間をかけて、それも一言の言葉であったり、ちょっとした口角の笑みであったり、微かに表にする。

修理工場の上司が「聞いたことない」と言った愛する女性の夫を助ける犯罪も、だからこそありなんの話。おそらく彼の中で筋が通っているのだろうけれど、当然それは語らない。

しかしその犯罪が裏目に出てから話は転がり始める。

そういえばR-15+指定だっけと思い出すような殺害の場面が多くなり、結果的には普通の話に落とし込まれてしまった感があった。

復讐劇をそうそうスマートにするのも難しいだろうけど、登場人物の行く末もさほど意外性のない帰結でやや残念。

R.ゴズリングが黙っていると、全然違う役柄だけど「ラースと、その彼女」を思い出す。

(75点)
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「シャーロックホームズ シャドウゲーム」

2012年04月01日 00時49分24秒 | 映画(2012)
あれもシャドウゲームだったんだ。

広く親しまれたキャラクターを斬新な捉え方で描いて大ヒットした前作の続篇。

19世紀の質感にPV風の技術を駆使した独特の映像やH.ジマーの気品と怪しさが調和した音楽は健在。

前作で特徴的だった、ホームズが次の展開を頭の中で瞬時に計算する様子をスローモーションで映像化する場面も何度も登場。敵が使い出すなど進化した戦いも見どころ。

そして最大の売りであるR.ダウニーJr.J.ロウのコンビは、更に過激さを増して帰ってきた。

今回の敵役は、前作でも謎の黒い影として存在を示していたモリアーティ教授が満を持して登場。

これだけ材料が揃えば盛り上がることに何の疑いもなく、実際手に汗握る場面が矢継ぎ早に出てくるのだが、個人的に好きな作品かと問われれば、ちょっと首を縦に振れないなというのが正直な気持ちであった。

かつて「ダイハード」で、大層立派な思想を語っていたテロリストが単なる泥棒だったという下りがあったが、このモリアーティもとどのつまりは金の亡者。

「ダイハード」は犯人を蔑む意味を込めての的確な設定であった一方で、ホームズが頭脳戦を闘わせる相手としてこれはどうなのかということが一つ。

次は、対決の場面が次々に出るのはいいとして、ちょっと火薬使い過ぎなんじゃないのというのがもう一つである。

これは確か「エクスペンダブルズ」でも言ったと思う。見栄えのいい映像はできるかもしれないけれど、飛び道具に頼って見えるのはマイナスだし、時代背景としてそんなに出てきておかしくないのかなと思った。

そして最後は、驚きのキャラクター使い捨て。前作でホームズが未練たらたらで、言ってみればルパン三世と峰不二子の関係にも見えたアイリーンの扱いがああなるとは。

これは確信的なサプライズだから、観る側の好き好きなのだろうけど、R.マクアダムス好きだから、これはなしでしょう。

娯楽として流して見るかぎりは、アクションから笑いから様々な要素がぎっしり詰まった豪華作品であることは確かだが、ちょっと期待値が高過ぎたのかもしれない。

(65点)
コメント (4)
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