Con Gas, Sin Hielo

細々と続ける最果てのブログへようこそ。

「エルヴィス」

2022年07月18日 18時32分57秒 | 映画(2022)
思惑の範囲に収まらないのがスーパースター。


音楽映画はテンポが大事。そのあたりB.ラーマン監督は手慣れたもの。

才能に命が吹き込まれる少年時代、未知の世界を切り開き社会現象を巻き起こす黎明期、社会の壁と衝突しながらも自分を貫き進んで行く円熟期、そして家庭や健康の崩壊を経て迎える終末期と、エルヴィスが辿った波瀾万丈の人生を異なる色合いで小気味良く描いてみせている。

そして誰もが分かっていると思うが、本作のもうひとりの主役はエルヴィスを長年支えたプロデューサーのトムパーカー大佐である。

世間ではエルヴィスを食い物にしたとして悪役的な捉えられ方をされており、本作でもビジネスに徹底した言動や行動が際立っている。

しかし、ここが巧いところなのだが、大佐の語りで進む物語では、彼は必ずしもエルヴィスをいいように利用してるわけではない。

もちろん自分に儲けが転がり込むことが最優先だが、その手段として常に彼の才能を最大限に活かす方法を考えていた。そしてそこには彼や彼の家族の生活を守り長く商売を続けていくことも含まれていた。

二人の不幸はいくつかある。

まず、エルヴィスの才能が大佐の掌中に収まらなかったことである。人種問題で非難を浴びたときに大佐は路線を変更することで逆風をかわそうとしたが、エルヴィスは小手先の対処法を良しとはしなかった。

次に、エルヴィスが優し過ぎたことである。大佐と連れ添っていくことに限界を感じ、新しい仲間と世界を目指すと決めたはずなのに、最後に「お世話になった人だから」とあいさつをしに行ってしまった。そこで大佐の言葉に丸め込まれラスベガスのホテルショーに「軟禁」されてしまう。

ショウビズ界では、ステージを上げるために情を捨てて過去を断ち切ることはよくある話と承知しているが、それができなかったのである。世界は危険だからしばらくは米国内で活動って、確かに70年代は過激派が相当はびこっていたけど、米国だって劇中に出てくるような暗殺事件が起きていたじゃないか。

そして最後は、エルヴィス自身のコントロールがままならなかったことだろう。映画の中で足早に彼の足跡をたどると、演出もあるだろうけれど、一定程度は大佐に従うものの最後は大爆発を起こしてしまう繰り返しである。

この手の伝記もので必ず辿り着く結論なのだが、スーパースターという生き物は、決まって生き方が不器用なのである。

現代はこうした不幸を出さないように、特に管理面で工夫がされているのだと思う。でも、逆説的だけど管理されている限りは常識を超えるスーパースターが出てくることはないような気もする。

改めてエルヴィスは幸せだったのかを考えてみると、上では不幸という言葉を使ったが、良い人生だったのではないかと思う。母親こそ早いうちに失ったが、父や妻子は少なくとも不幸な道を辿ったようには見えない。彼自身は好きな音楽に囲まれて生きることができたわけだし、その意味では、大佐はそこまで責められるべき人物だったようにも見えないのである。

クセの強い大佐役のT.ハンクスが安定した重しとなる傍らで、新星のA.バトラーはスーパースターをみずみずしく演じ、随所に若手アーティストを巧みに採り入れた音楽が彩るなど、非常にバランス感覚の優れた作品であった。

(85点)
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「X エックス」

2022年07月18日 17時56分05秒 | 映画(2022)
シルバー社会に果敢に物申す。


電車で立っているお年寄りを見かけたら席を譲りましょう。交差点で困っているお年寄りがいたら、手を引いて一緒に横断歩道を渡ってあげましょう。

高齢者は人生の先輩であり、やがて自分が行き着く先でもあるのだから親切にするのが当たり前、と道徳の時間などで教わってきた。

しかし最近、タチの悪い高齢者クレーマーの話題をよく聞くように、高齢者=弱者という図式が成り立たなくなってきた。

何しろ、どの年齢で区切るのかにもよるが、高齢者は数の上ではマジョリティである。票数が多いから政治も若者より高齢者優遇の政策を取らざるを得ず、本来あるべき将来の国のビジョンを立てることができない。

話はずれたが、本作は高齢者へのリスペクトなど微塵もない、極めて不道徳な作りとなっている。

屈強な高齢者といえば、「ドントブリーズ」の盲目のじいさんを思い出すが、彼は老人らしからぬパワーを見にまとった、いわばモンスターであった。

今回、ポルノ映画を撮影しに来た主人公たちを追い込む老夫婦は、普通の、いや普通よりも朽ち果てた身なりで客を迎え入れる。顔はしわだらけ、腰は曲がり、話す言葉も聞き取りづらい。とにかく製作者の悪意が集中して込められたように外見が醜いのである。

そんな老夫婦だが、なぜか若さへの執着だけは人一倍あり、特にばあさんはその執着をこじらせて若い客人たちに突然牙を剥くという、とんでもないキャラクター設定になっている。

ポルノ映画の撮影を窓から覗くともう歯止めが利かない。若い男性に、若い女性に、果ては連れ合いのじいさんにまで迫る迫る。

高齢化社会の中で、年を取るのは素敵なこととある種慰めの言葉が交わされる中で、見た目は汚い、力はない、でもこじらせた執着心だけは持っているという、ここまであからさまに年寄りを醜く描くとは、もはや驚きを超えて清々しくもあった。

あの性格では優しくしたところで満足しそうもないし、ある意味関わったら最後という感じ。前日譚を見れば、彼女が特殊な存在であることが分かって、少しは救われるのだろうか。

(65点)
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「ソー ラブ&サンダー」

2022年07月17日 09時32分44秒 | 映画(2022)
ガンズ&ローゼズVSマリリンマンソン。


サノスとの戦いの後、アスガルドをヴァルキリーに譲り、ガーディアンズオブギャラクシーの面々と共に宇宙へと旅立った雷神・ソーが久々に銀幕に戻ってきた。

これまでのシリーズは「マイティソー」と冠されていたが、今回は単なる「ソー」。マーベル印で確実に客は呼べるという判断は時の積み重ねの成果に違いなく、配給側の大きな自信を感じる事象である。

とはいえ、かなり時間も経過していることから、本篇中では親切な説明の場面が結構出てくる(語りはおそらくコーグ役のT.ワイティティ(監督兼任)。コーグの存在自体忘れかけていた身からするとありがたい配慮であった。

一種の喪失感から故郷を離れたソーであったが、全宇宙で神々を殺害する事件が発生していることを知り、再び戦いの場へと戻ることになる。

型通りにガーディアンズとの別離を済ませた後は、ソーの本来の居場所である神々の世界で話が展開する。

それにしても、素顔をほとんど見せない"神殺し"ゴア役のC.ベールとか、神々の頂点に立つゼウスのR.クロウとか、加えておそらく気付いていないカメオ出演などもあるはずで、改めてぜいたくな配役に驚く。

話は「神々の世界」の危機のレベルであり、絶望的なものでもなければ意外性があるわけでもない。ソーも余力を残しているようにも見え、力を尽くした死闘というよりは、かつての恋人や跡を継ぐ者たちとの関係が軸となった物語に見受けられた。

愛する者たちとしっかりと向き合う姿勢を示すことでソーの成長を匂わせ、最後の情景へと移る。ソーは再び戻ってくるが、次の作品ではまったく新しい彼を見ることができるだろう。

他方、軽妙なやりとりも健在で、特に元カノのものとなったハンマー(ムジョルニア)に未練たらたらで、現在の相棒である斧(ストームブレイカー)からお灸をすえられる場面がところどころに登場して空気を和ませる。

「ラブ&サンダー」とは一見ふざけたタイトルだが、ソーの立ち位置を考えればこれほどぴったりなものはないのである。

(75点)
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