Con Gas, Sin Hielo

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「沈黙-サイレンス-」

2017年01月27日 20時39分02秒 | 映画(2017)
沈黙は金。


それほど昔ではない。力ずくで人の思想や尊厳を踏みにじることができた時代。

多くのキリスト教徒が不当に弾圧されたということは子供のころに歴史で習って知ってはいたが、改めて映像で再現されると思わず目を背けたくなるような光景である。

なぜそれほどの仕打ちを受けても信仰を捨てなかったのかというのは、宗教とはほぼ無縁の日常に暮らす立場からはなかなか理解し難い。

本作の主役は「転び」となる外国人司祭。本来誰よりも強い信仰心を持っているはずの人物がなぜ棄教したのか。より深い謎に迫る。

劇中に登場する日本人の隠れキリシタンたちの描写を見るかぎり、どうやら日本のキリスト教は伝来後に本来のキリスト教とは異なる形のものに変化していたらしい。

教徒がしきりに口にするのは「パライソに行けるんですよね」ということ。なんかこれってキリスト教というより浄土真宗っぽい。その度に司祭たちは複雑な表情を浮かべながらもうなずいてみせる。

これは外国のものを自分たちの解釈でカスタマイズする島国日本の伝統芸である。万物に神が宿るという言い伝えがある国では宗教の捉え方も自由自在なのである。

本作のもう一人の主役とも言えるのが窪塚洋介演じるキチジローという男である。

キリスト教を信じながらも、繰り返し踏み絵を踏み、他人を裏切り、それでも今度こそ懺悔してやり直したいとすがってくる姿は、愚直に信仰を貫いて死んでいった者たちの対極に位置する。

しかし、司祭はこの男を哀れな存在と切って捨てることができない。自分の中に芽生えた信念の揺らぎと同調するから。

人間の強さとは何か。信仰を貫くのが強さなら、どんなに醜くてもひたすら生きようとするのも一つの強さとは言えまいか。

八百万の国へ来て、同じ神でも異なる信仰があることに気付いた司祭が、悩み抜いた末に出した結論。それこそが沈黙だったのかもしれない。

これは推測であるが、キリスト教がなぜ禁制となったのか、なぜ時の幕府に脅威とみなされたのかを考えると、そこは現在で言うところの戦略ミス、特に顧客の立場を軽視したアプローチにあったのではないか。

これこそが素晴らしい教えで他に神はいないといきなり自らの存在を否定されたとしたら、受け入れられるものも受け入れられなくなる。

宗教の対立は現在も世界中で大きな紛争の種となっている。信仰心は自分を強くする一方で、使い方を誤ると他者を傷つける武器にもなる。

司祭は「転び」を経た後に日本人の名を持ち、生涯を日本人として過ごす。最後まで心の内にキリスト教の教えを抱いていたことが描かれるが、彼の神は表向きは姿を変えながらもそのエッセンスだけは日々の暮らしに現れていたということなのだろう。

舞台が日本ということで多くの日本人俳優が出演していたが、今回出色であったのはやはり窪塚洋介である。奇行などで不遇な時期が続いたが、映画を中心にこれからの世界的な活躍を期待したい。

浅野忠信の安定感とイッセー尾形の器用さも、ただやみくもに弾圧していたわけではないあの時代なりの日本人の深みを表現できていたと思う。

(85点)
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「ローグワン/スターウォーズストーリー」

2017年01月21日 21時39分39秒 | 映画(2017)
潔く美しい使い捨て。


新しく誕生したトランプ大統領と真っ向から対立しているショウビズ業界。本作の舞台設定をみると、やはり考え方の根本が違うことを実感する。

1年前に公開されたエピソード7と同様に、主役を張るのは女性である。その程度ならよくあることだが、周りを固める同士たちがことごとくマイノリティであることに驚く。

もともと宇宙モノということで人間以外のクリーチャーも多く交じっているシリーズではあるが、人間側に黒人、東洋人、ネイティブアメリカンのような風体の人物を配する多様性推しは、時節柄新政権を挑発しているようにさえ映る。主人公のパートナーなんてヒスパニックだし。

それはさておき、既存の、しかもあまりにも有名なスターウォーズシリーズの真ん中に突然新たな物語をねじ込むという難易度が高い課題を、本作は見事にクリアしている。

特に、「新たなる希望」との繋がりにおいては、40年前の作品より世界を発展させない範囲で斬新な作り込みをしなければならないという縛りがあるのだが、そこは、帝国軍対反乱軍の知られざる前日譚を描く脚本が優れていた。

帝国軍が巨大な恐怖として君臨するベイダー卿の下で着々とデス・スターを完成に向かわせる中で、本作の反乱軍は真の統率者がおらずまったく力を持っていなかった。

そこに喝を入れて「新たなる希望」の輝ける功績へと結び付ける存在が今回の主役「ローグワン」というわけだ。

ジェダイたちが中心となって進む本家シリーズと同じ世界観を持ちながらも、存在はまったく一線を画している登場人物が何より魅力である。

盲目の東洋人は超越した力で敵と戦うが、彼の使う力は「なんちゃってフォース」である。口々に「フォースとともに」と言う割りには、劇中で本当のフォースを使えるのはベイダー卿だけで、故に彼の力が宇宙を制圧する脅威であることが明確に伝わってくる。

誰もフォースを使えないから、本家のクライマックスがフォースを使ったライトセイバーでの一騎討ちの印象が強い一方で、本作はもっと普通の人間的な戦闘になっている。

そして「新たなる希望」には誰一人として出てくるキャラクターがいないので、もったいない話と躊躇しそうな想いを断ち切って作中ですべてを整理している。

特に敵ではあるが、自分の指導で作ったデス・スターが上空にうっすらと姿を現すのを地上で確認する敵将の姿が、無力な人間を象徴していて切なかった。

改めて、課題の困難さを見極めた上で押さえる点と切り捨てる点を的確に判断し実行した制作陣の努力に敬意を表したい。

C.フィッシャーの冥福を祈る。

(80点)
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