Con Gas, Sin Hielo

細々と続ける最果てのブログへようこそ。

今年の31作(1位→31位)

2023年01月07日 10時05分47秒 | 映画(2022)
ゼロコロナからウィズコロナへ。中国の話ではない。一応わが国も「コロナ、こわいこわい」から「経済も動かさなければ」に大勢が移った一年であったのだ。映画館も新しいルールへ。席を空けて販売する形態はなくなったが、上映前の予告やCMの時間におけるマスク着用は引き続き奨励されている。まあ、あまり守っている人たちは見当たらないので、エスカレーターの歩き上りと同じような状況になるのは間違いなさそうだが。
そのような状況の中、2022年は前年の1.5倍の作品を観ることができた。特に10・11月に映画館へ足を運んだ。大作のひとり勝ちや配信のみの作品が増えている傾向にあるが、今後も日常的に劇場へ通うことができるように、ささやかではあるがそんな期待を持っている。

1.「ザメニュー」(11月19日)

計算されたシナリオ。先が見えない展開。メニューが進むごとに不穏な空気が段階を追って増していくテンポの良さ。観ていくうちに引き込まれる感覚をひさしぶりに感じた。オチも意外性があって、かつ納得のいく頃合い感。95点を付けたのは実に3年ぶり。

2.「ゴーストバスターズ/アフターライフ」(2月6日)

年寄りの懐古思想と言われそうだけど、旧作の「ゴーストバスターズ」にはそれほど思い入れはなかった。でも80年代への愛着というのだろうか、あのメンバーがそろったときにはうるっと来てしまった。M.グレイスの好演が光った本作、賛否はあれどそれなりの評価はあったようで、同じキャストでの続篇が決まったとの情報が入っている。

3.「コーダ あいのうた」(4月16日)

2014年のフランス映画「エール!」の英語リメイク。元作の名前は聞いていたが観ないままであった。そちらのファンがどう評価しているかは分からないが、本作はなんとアカデミー賞作品賞まで取ってしまった。

4.「天間荘の三姉妹」(10月30日)

東日本大震災を正面から扱った作品として後述の「すずめの戸締まり」が注目を浴びたが、先立って公開された本作もがっつり震災の映画であった。良作だと思うのだが、週間の興行収入TOP10にも入らず残念。

5.「ブレットトレイン」(10月1日)

B.ピットには珍しく娯楽に振り切った作品。原作は伊坂幸太郎の小説「マリアビートル」。真田広之がこれまでにないリスペクトされた役柄で出演。中国の攻勢に見慣れた中で久々の快作だった。

6.「スパイダーマン:ノーウエイホーム」(1月8日)

数あるアメコミヒーローものでもスパイダーマンは最も物語性が強い。それも青年である主人公が成長する物語だから、観ている側の感情移入もしやすくなっている。T.ホランド版の完結篇として、MCUの第3フェーズの最終話として、ドラマティックな大団円となった。

7.「すすめの戸締まり」(11月12日)

新海誠監督が満を持して東日本大震災を描いた。緻密な画筆と同様に彼の思考も極めて繊細で、震災後の作品の作り方を相当考えていたことが、後のインタビュー等で伝わってきた。「君の名は。」以降の流れに区切りを付けたともいえる本作。今後どのような作品を作ることになるのかに注目していきたい。

8.「トップガン マーヴェリック」(8月11日)

新型コロナの影響で公開延期を重ねたが、苦労の末たどり着いた劇場公開は空前のブームを呼び起こす結果に。自信があったからT.クルーズは映画館での上映に拘ったのだろうと想像する。2022年の映画界の救世主となった。

9.「エルヴィス」(7月18日)

引き続き多く作られているミュージシャン伝記の新作。スーパースターの生涯はドラマティック。いや、ドラマがあったからこそ人々の支持を集めてスターになったのかもしれない。

10.「SING/シング:ネクストステージ」(3月21日)

5年ぶりの続篇。バスタームーンはひとつの成功に満足せず更なる野望を持ってラスベガスへ向かう。この時代、止まったら置いていかれるのだろう。理解はできるけど疲れそう。

11.「ドクターストレンジ/マルチバースオブマッドネス」(5月4日)

MCUの新サーガはマルチバースサーガ。ドクターストレンジはその中心となるべき存在だが、今のところ前サーガのアイアンマンやキャプテンに匹敵するまでには至っていないというのが世間の評価である。

12.「グッドナース」(10月21日)

配信限定作品を劇場で公開してくれるのは非常にありがたい。E.レッドメインがその澄んだ瞳の奥で何を考えているのか分からない看護師役を好演。

13.「MEN 同じ顔の男たち」(12月17日)

賛否両論(たぶん否定派が多数)のとんでも作品。クライマックスの主人公の呆れた表情がツボにはまった。

14.「ドントウォーリーダーリン」(11月11日)

こちらもあまり評価は高くないようだが、シリーズものではないオリジナルで果敢に勝負することにそれなりの意義があると思う。H.スタイルズは本業の音楽で大活躍。本作監督のO.ワイルドとは別れた模様。

15.「ソー ラブ&サンダー」(7月16日)

サノスとの戦いや仲間との別れを経て燃え尽き気味だったソーが復活する物語。しばらくは神々の世界で過ごすようであり、ひとまわり大きくなってサーガの中心に戻ってきてほしい。

16.「チケットトゥパラダイス」(11月6日)

G.クルーニーJ.ロバーツの大御所二人が力を抜いて作った(?)という感じの娯楽作品。ゆったり幸せな気分に浸って映画を観たいという層はニッチかもしれないが存在すると思う。

17.「百花」(9月15日)

「半分の花火」のオチはいまひとつの感があるが、認知症が進む母親の姿と、女性として生きていた昔の姿の、いわば二役を演じた原田美枝子が光っていた。否応なしに進んで行く時の流れが切ない。

18.「モービウス」(4月9日)

最近増えてきたヴィランを主人公にした作品。J.レトを起用する点に力の入りようが垣間見えるが、今のところ存在感は未知数。

19.「シン・ウルトラマン」(5月15日)

PSBのCMで香川照之の後釜に収まった山本耕史は、本業でも怪優を目指しているのだろうか。ウルトラマンの斎藤工もそのままのノリでHINOKIYAの新CMで競演。

20.「かがみの孤城」(12月30日)

画はキレイ。キャラクターも魅力的。ストーリーをもう少し練り込んでいればかなりハマったと思うのだけれど。當真あみは2023年大きく伸びるでしょう。

21.「NOPE/ノープ」(8月26日)

得体の知れない恐怖という点では、先述の「MEN」や「ドントウォーリーダーリン」と同じカテゴリーに入れていいだろう。おそらく世間的にはJ.ピール監督作のこちらの方が評価は高い。ただ個人的には入ってこなかった。相性か?タイミングか?

22.「さかなのこ」(9月1日)

全般的に楽しいし、のんがさかなクンを演じるのも、意外性がありながらハマっていて良かった。でも、途中の集団コントか学芸会かというノリは見ていて少し恥づかしかった。

23.「ヴェノム:レットゼアビーカーネイジ」(1月9日)

ヴィランとしては古参の部類に入るヴェノム。T.ハーディ演じるエディとの名コンビぶりは安定して観ていられる。敵役にW.ハレルソンを迎えて万全の体制のはずだったけど、良くも悪くもあまり記憶に残っていない。

24.「LAMBラム」(10月23日)

絶好調のA24スタジオらしい突拍子もない発想に基づく作品。何故とか考えるものではないことは分かるのだけれど、設定の勢いを超えるものは見当たらなかった。

25.「母性」(11月23日)

前宣伝のミスリードは良くない。永野芽以が不幸になる姿は見たくないので、結果としては良かったのかもしれないけど。

26.「はい、泳げません」(6月23日)

天然でありながら運動神経は良いらしい国民的女優・綾瀬はるかを崇めるので十分なのだが、タイトルからは想像できない深い物語が隠れている。売り方を間違えたのでは?

27.「X エックス」(7月16日)

これもA24スタジオ作品。老いることは醜いという、身も蓋もない現実を見せつけてくれる。この後に作られた前日譚はどうなっているのか、それはそれで気になる。

28.「ブラックアダム」(12月3日)

せっかくD.ジョンソンを持ってきたのに、DCのシリーズは全面見直しが決まり、ポストクレジットで登場したスーパーマンとともにお役御免に。

29.「ブラックパンサー/ワカンダフォーエバー」(11月17日)

ワカンダは正しい。

30.「映画クレヨンしんちゃん もののけニンジャ珍風伝」(4月23日)

ひさしぶりにおもしろくなかったクレしん映画。2023年は3DCGアニメらしい。不安しかない。

31.「ドライブマイカー」(2月13日)

子供のころからキュウリが食べられない。付き合っていた女性が作ってくれた料理でもだめだった。でも好き嫌いより深刻な、間違って摂取すると命に関わるアレルギーを持っている人も多くいる。
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今年の9館(2022)

2023年01月07日 08時48分34秒 | 映画(2022)
7月に異動になり、7年ぶりの北海道勤務となった。今回の勤務地は札幌市内。映画館が日常にある地に単身赴任するのは実は今回が初めてである。となれば資金が続くかぎり映画も観放題・・・となるはずなのだが、そこは観たいと思う作品がどれだけあるかにかかってくるわけで、そこまで映画館通いが激増するという結果にはならなかった。また、札幌市は人口200万人近くの大都市にしては映画館が少ない。サツゲキも複数スクリーンを持つが、メジャー作品を封切する大型シネコンは札幌駅のシネマフロンティアとサッポロファクトリーにあるユナイテッドシネマしかない。札幌経済圏に範囲を広げても江別のイオンシネマが入るくらいで、これは仙台圏を下回っている。将来的に人口減少が見込まれる中で規模拡大という話にはなりづらいのかもしれないが、ここにはもう少し可能性があるのではないかと思う。なお、2023年秋にはTOHOシネマズがすすきのにやって来る予定とのこと。人の流れに変化は出るだろうか。

札幌シネマフロンティア(北海道)10回

2003年にオープンしたシネマフロンティア。東宝、東映、松竹の大手3社が共同経営するという、全国でも極めて珍しい形式で開業したシネコンである。上述のとおりユナイテッドシネマを除いた大手のシネコン(特に映画会社系)が参入してこなかったのは、そのためかもしれない。幕間に流れるBGMはTOHOシネマズのものと同じというのもその流れを感じる。来秋のTOHOシネマズの本格進出でどう変わるのかが見どころである。

TOHOシネマズ海老名(神奈川)7回

年の前半はやはりここがホームタウン。ビナウォークも開業から20年が経ち、当初は「ヴァージンシネマズ」だったことを憶えている人も少なくなったであろう。当時の売りは、全スクリーンTHX、プレミアスクリーンであった。20年という時間は長く、街のにぎわいは西口に大きく移り、映画館の名前だけでなくTHXもプレミアスクリーンも看板を下ろした。ただ、西口に映画館はないことからTOHOシネマズは以前と変わらない活況を呈している。この先の20年でどんな変化が生まれるのか引き続き見守っていきたい。

ユナイテッドシネマ札幌(北海道)6回

サッポロファクトリーは地下鉄やJRのアクセスはいまひとつであるが、やはり休日になると人でごった返す札幌市を代表する商業施設である。ユナイテッドシネマは道内唯一のIMAXや4DXといった体験型施設を持つ映画館として重宝されている。来秋上陸するTOHOシネマズがどのような設備やサービスを持ってくるかによっては結構影響を受けるかもしれない。ドルビーシネマが来ないかな。

イオンシネマ海老名(神奈川)3回

せっかく55歳になったのにイオンシネマが遠くなってしまった。江別まで行ったら交通費で安い分が相殺されてしまうし。しかも今の職場は福利厚生で映画がそれなりのお値段で観られたりするので、本格的にイオンシネマを利用するようになるのはもう少し先の話になるのかもしれない。それまで無事でいてくれますように。

サツゲキ(北海道)1回
TOHOシネマズ仙台(宮城)1回
TOHOシネマズ新宿(東京)1回
イオンシネマ新百合ヶ丘(神奈川)1回
TOHOシネマズ川崎(神奈川)1回

地元資本のスガイディノスという娯楽系企業が、かつてすすきので運営していたディノスシネマズ札幌を事実上継承している映画館がサツゲキである。ディノスは他にも道内で数館の映画館を運営していたが、どうやら民事再生法を申請し、現在は別の運営会社が管理しているらしい。もともと北海道経済は他の地方よりさらに厳しい中で、この新型コロナ騒動である。東京の豊島区長ではないが、街の文化の衰退を憂う気持ちにならざるを得ない。ミニシアターは東京でさえ経営が厳しそうだからね。ただ、NETFLIXやDisney+を観ればと言われても・・・。
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「かがみの孤城」

2022年12月30日 23時56分13秒 | 映画(2022)
もう少し、あと少し。


原恵一監督といえば、今でも劇場版クレしんの最高傑作と呼び声の高い「モーレツ!オトナ帝国の逆襲」を手掛けた監督である。

その後も「河童のクゥと夏休み」や「カラフル」といった作品を作っているが、個人的にはもう少しメジャーになっても全然おかしくない人なのに、と思っていた。

そんな中で本作はひさしぶりのメインストリームでの公開作品ということになる。

原作は直木賞作家の辻村深月。ふとしたきっかけで不登校になってしまった中学生のこころを主人公とする、出会いと冒険の物語である。

キャラクター造形の親しみやすさや、繊細な心を持つ思春期の少年少女に寄り添う物語の温かさなど、映画としての輪郭は文句なしに素晴らしい。

しかし、しかしである。

人というのはわがままなもので、足りないと文句を言うくせに、足りていれば足りていたで別の不満が湧いてきてしまう。

本作の場合、少年少女が集められる孤城の秘密が物語の肝となるのだが、その謎の種明かしが割りと早々に分かってしまうことに苦言を呈さざるを得ない。

もちろんこれは個人差がある問題であり、謎解きと関係なしに作品を楽しむことができた人が多くいるかもしれない。ただ、たとえば「シックスセンス」のオチが早めに予想できた場合に、鑑賞後のカタルシスが十分なものとなっていたかというと、そこは疑問符が付くのである。

具体的には、こころ以外のある登場人物がルーズソックスを履いていたことと、ストロベリーティーを好んで飲んでいることが分かった時点で、話の筋が見えてしまった。原作がどうかは知らないが、アイテムとして強烈が過ぎたのではないかと思う次第である。

謎解き以外の点に話を移すと、物語の底を流れる不登校の子供たちという存在は大きなメッセージ性を持つことに貢献している。

中学生の大部分は、家庭と学校という狭い枠の中で生活を送っている。不登校とは、その限られた空間に自分の居場所を見つけることができないでいる子供たちである。

母親はなかなか気づけない。母娘なのだから正直に気持ちを打ち明ければいいと思うかもしれないが、それができないのが彼や彼女であり、そうした人たちは大概世間一般の人間より優しい心を持っている。

子供たちの発するシグナルに聞き耳を立てて、感じられるように軌道修正の手助けを行うことが大人たちに与えられた責務である。未来へバトンを繋ぐ立場の者として。

(70点)
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「MEN 同じ顔の男たち」

2022年12月17日 21時24分05秒 | 映画(2022)
大道芸村の悪夢。


大昔、D.クローネンバーグ監督が作った「スキャナーズ」という作品があった。いわゆるカルト系の名作として有名なのだが、作品の内容以上に印象に深く残ったのは、ビートたけしがラジオなどで言った「頭がポン!」というギャグであった。

本作、それに匹敵するような大ネタをぶっ込んできた。いいか悪いか、おもしろいかつまらないかという次元ではなく、とにかく圧倒される画が眼前に繰り広げられる。

どれだけのものかと言えば、主人公がもう悲鳴を上げるのも止めて、素に戻って冷静に見届けてしまうほどである。なんだろう、これは。

主人公のハーパーは、目の前で夫に死なれた経験を持っている。直前に激しい夫婦げんかをした後に、夫は1フロア上の部屋から路上へ転落死した。

自殺なのか事故なのかは分からないが、ハーパーは窓の外を落ちていく夫と目が合ったような気がして、もやもやした罪悪感に苛まれていた。

気分を変えるために、田舎の一軒家を数日の間借りて住むことにしたハーパー。しかし着いた直後から怪しいできごとが彼女の周りで起きはじめる。

映画の宣伝チラシには「出会う男たちが全く同じ顔であることに気付く」とあるが、これはどうやらミスリード。そういう目で見れば分かるが、牧師、警察官、バーデンターなどそれぞれコスプレしているので、注意深くなければ見過ごしてしまうレベルである。

しかし同じ顔のコスプレ大会は、今度は「チャーリーとチョコレート工場」のウンパルンパを思い起させるような、ホラーの流れなのにネタ要素満載な不思議な空間を作り出していた。

不思議で説明がつかない世界に無理やり落としどころを付けるとすれば、混乱したハーパーの精神世界か、現世に残存していた夫の思念が生み出した悪夢というところか。

夫選びは慎重に。選ばれた夫は妻の気持ちを第一に。

(80点)※12月17日21時25分投稿
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「ブラックアダム」

2022年12月07日 20時58分55秒 | 映画(2022)
ヤー!!パワーー!!!


立て続けに主演作が公開され、いずれもがメジャー系の娯楽大作であるにも拘らず、まだこれといった代表作に恵まれていない。

D.ジョンソンに対するイメージはこんなところだろうか。かつてのシュワルツェネッガーの系譜を継ぐ肉体派男優としてそれなりに認知度も高いと思うのだが、「ターミネーター」のような作品がない。

そんな彼の最新作がDCコミックスと来た。これまた何とも微妙。

宣伝文句にはこう書かれている。「最"恐"アンチヒーローVSヒーロー軍団」

いわゆるヴィランを主役に据える作品はマーベルでもDCでも多く作られているが、主役が完全悪というのはメインストリームでは成り立たないので、結局は善人でしたというのが大抵の流れ。言ってみればD.ジョンソンにはぴったりなのかもしれない。

しかし、ぴったりを裏返せば意外性を欠くということでもあり、ブラックアダムという単体は特に魅力的には映らなかった。

見た目のままの怪力と鋼のように強い肉体も個性としては月並みで、戦う時はDCで毎度おなじみのガチンコな力比べにならざるを得ない。

そうした中で意外とおもしろかったのは、脇を固めた「ヒーロー軍団」であった。

JSA(ジャスティスソサエティオブアメリカ)は、世界を救うために結成されたスーパーヒーローチーム。すなわちアベンジャーズだ。

チームを率いるのは、金ぴかの兜をかぶると特殊な能力を発揮する魔術師・ドクターフェイト。彼の操る術が視覚的におもしろく、演じるP.ブロスナンの存在感も加わって、パワーゲーム一辺倒の流れにスパイスを利かせていた。

力の強さではブラックアダムにまったく叶わない中で「VS」と掲げてどうするのかと思ったが、はじめの完全な敵対関係から少しずつ理解を深めて、それでも流儀が違うから決してチームにはならないという、それぞれの揺らぎが練られた脚本が良かった。

ただ、最後に出てきた方は、やっぱりという感じがした。次はまた壮絶な力比べをするのだろう。

(60点)
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「母性」

2022年11月23日 19時03分15秒 | 映画(2022)
母性が先天性なら「親ガチャ」という言葉は成り立つ。


戸田恵梨香永野芽郁の首を締めようとしているポスターがショッキングな本作。

母は言う。「私は強く、娘を抱きしめました」。娘は言う。「母は強く、私の首を締めました」。

何故二人の間にこれほどの乖離が生まれたのか。物語は、母の証言、娘の証言、母と娘の証言という三部構成で真相に迫っていく。

なにしろ原作が湊かなえである。観る側としては、普段目を背けている人間のどす黒い部分を俎上に載せてくる覚悟で臨んでいた。

しかし、冒頭でいきなり社会人となった娘役の永野芽以が出てきて肩透かしを食らう。あ、この母娘は最悪の結末を迎えるわけではないんだ。

母・ルミ子は、上流家庭で母親の温かく大きな愛に包まれて育ってきた。その存在は大きく、母の強い想いに応えることがルミ子の行動規範の最優先事項となっていた。

結婚相手には、母が気に入った絵画を描いた男性を選んだ。はじめは彼の画風に魅力を感じていなかったが、母が最大の賛辞を述べるのを聴いて、自らの意識を寄せていった。

実家を出て夫婦で住むようになっても、ルミ子の母親第一主義は変わらなかった。ルミ子が生きていく中での正解は、必ず母親が示してくれた。やがて娘を授かり、母はたいそう喜んでくれた。自分はこのまま幸せな人生を歩めると、ルミ子は疑いなく思っていたはずだ。

しかし、突然その日はやって来た。あろうことか最期に母がルミ子に言ったのは、自分ではなく娘のために生きろということであった。

「母の愛が、私を壊した」という言葉がキャッチコピーに使われているが、ルミ子の母は決定的に誤っていたわけではなかった。娘から母になる過程を伝えるべきではあったが、不幸な事故でかなわなかったに過ぎない。

親の自覚を持てずに子供を不幸な目に遭わせる事件が絶えない。そうした親は子供を持つべきではなかったのか?

本作でルミ子の娘・さやかは、女性は二つのタイプに分けられると言う。母親タイプと娘タイプである。

しかしそれを認めるとして、娘タイプが子供を育てることができないとは思えない。そもそも子育ては親だけで成り立つわけではない。半分以上は子供自身の資質に依るものだと思う。親はなくとも子は育つと言うし。

つまりこの映画を観て思ったのは、母と娘の話として興味深くはあるものの、ルミ子のキャラクターが特異で心の奥深くまでは染みてこないということである。

もう一人言及が必要な母親が高畑淳子が演じる義母である。性格がキツく、ことあるごとにルミ子に強く当たるが、いわゆる毒親だとしても子供が必ず不幸になるわけでもない。

だから子育ては難しい。そして時々とてつもなく楽しい。

(70点)
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「ザメニュー」

2022年11月19日 20時42分06秒 | 映画(2022)
食べることが楽しくなくなったら、人生の半分以上終わってるんじゃないかな。


著名なシェフが孤島のレストランで振る舞う特別なディナーコース。しかし何かがおかしい。

招待されたのは12名のお客。年代、性別、人種が多様な彼らの共通点は、自身の雑談やシェフ・ジュリアンとの対話を通して少しずつ分かってくる。

主人公は若い女性・マーゴ。ディナーには知り合いのタイラーから誘われた。どうやら予定していたパートナーに断られた穴埋めらしい。

タイラーはジュリアンの料理の腕だけでなく、メニューを説明する言葉にも涙を流すほど感動する。よほど心酔しているらしい。

しかし心酔しているのはタイラーだけではなかった。レストランで働くすべての従業員が、まるで独裁者に従うみたいに一糸乱れぬ結束で料理を準備しているのだ。さすがは超一流のレストラン。これからどんな料理が運ばれてくるのか、客たちの期待は高まるばかりであった。

そんな様子が変わったのは、2品めの料理が運ばれてきたところであった。本来はパンが運ばれてくるところを、出てきたのはパンにつけるオイルだけ。

ジュリアン曰く、パンは昔から庶民の食べもの。高貴なお客様方に出すものではないとのこと。苦笑しながらも、超一流は考えることも違うと矛を収める客たち。

そして3品め。出てきたのは看板料理のトルティーヤ巻き。しかしそのトルティーヤには、それぞれのお客用に特注のレーザープリンターで焼き付けられたデザインが施されていた。

さらにコースは4品め、箸休めと続くのだが、メニューが進むごとに恐怖と不気味さが増していく演出は見事であった。

異常さを湛えながら冷静にプロフェッショナルに徹するジュリアンを演じるのはR.ファインズ。彼以上の適任はいないだろうと思える配役である。

新しい料理の準備ができて彼が手を叩くごとに、客たちの寿命は削られていく。なぜここに自分たちが招かれたのか。ジュリアンに理由を明かされても、もう逃げることも戻ることもできない。どんな些細な理由であれ、レストランの中ではジュリアンが下した決断に従うほかないのである。

しかしそんな中で、マーゴだけは明らかにここにいる理由がなかった。ジュリアンにとっては計算違いであるが、それですべてを壊すわけにはいかないと、マーゴにある決断を迫る。

まったく予想のつかない物語に恐怖映画以上の圧迫感を覚え、細い糸ほどの希望を手繰り寄せようとしてはひっくり返される展開に他人事ながら悔しい思いを抱く。映画を観ながらこれほど手に汗を握ったのは久しぶりの体験だった。

時間を追うごとに覆っていく絶望感。せめてマーゴだけでも逃げる術または倒す術はないものか。

ここからはひょっとすると個人の趣味で評価は変わるかもしれない。だけど、個人的にはこの無理ゲー世界の着地点は、ほぼ完ぺきであった。予想しない方向からアプローチし、納得のいく理由で局面を変えてみせた。マーゴとジュリアンのキャラクターをブレさせずに物語をまとめたのだ。これはすごい。

物語もさることながら、とにかくテンポが良い。メニュー1品ごとに盛り上がりがあり、その山が少しずつ大きくなる。それも緩むことなく小気味よく進む。レシピの説明字幕もブラックでありながら笑えてしまうほど心憎い(ブラックといえば、映画のタイトルでもある「メニュー」の最後の扱いも素晴らしかった)。

料理が中心軸にあるから、画としてもキレイである。ジュリアンの集大成となる最期のメニューは、キレイな地獄とでも言おうか。食べられるわけではないけど、料理を冒涜しているのでもない。チョコレートがスプラッタに被る場面、スモアはちょっとトラウマになるかもしれない。

彼はなぜあんな行動に出たのか。もう食に携わることが楽しいころには戻れないと悟ってしまったのだろうか。

と思いながら、帰りがけに高貴なディナーとはかけ離れたから揚げ定食に舌鼓を打つのであった。

(95点)
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「ブラックパンサー/ワカンダフォーエバー」

2022年11月19日 09時29分52秒 | 映画(2022)
圧倒的な正しさの継承。


この映画の感性が合わないことは百も承知なのだが、MCUのフェーズ4の最後を飾る作品と言われてしまっては観ないわけにはいかない。

主演のC.ボーズマンの急死で、おそらく大きな路線変更を余儀なくされたであろう本作。

蓋を開けてみれば、予想どおりとはいえ、亡き国王ティ・チャラの周囲にいた女性たちが先頭に立って国を率いていく流れは、以前よりも一層時代に即した展開になったのではないだろうか。

ワカンダは永遠。何故永遠なのか?それは、ワカンダは絶対的に正しく、世界がそれに倣っていく世界が理想だから。

前作で世界にその存在を知らしめたワカンダ王国は、国連で大きな発言力を持つようになっていた。

劇中、国連の会議の席でで米国やフランスが、ワカンダのみに所在する鉱物資源のヴィブラニウムの採掘権を他国にも認めるべきだという発言をするが、それに対しワカンダの代表である女王(ティ・チャラの母親)は「あなたたちは信用できない」と言って拒否する。

世界の名立たる各国が辺境の小国ワカンダに一目置く理由。それはワカンダが正しいからではなく、世界を牛耳る財産であるヴィブラニウムを独占しているからにほかならない。

現実の世界ではロシアとウクライナの戦争が泥沼化している。経済制裁で孤立化したロシアがどこまでもつかという話も一時はあったが、天然ガスでヨーロッパ諸国の生命線を握っていることなどから、侵略を諦める様子はまったくない。国連では拒否権を持っているから包囲網が広がることもない。

ワカンダは持てるヴィブラニウムを最大限に有効活用して強かに生き延びてきた。世界や人類の平和へウィングを広げたとしても、そのことは変わらない。

しかし今回突然、同じヴィブラニウムで文明を築いたタロカンという海底王国の存在が明らかになる。ヴィブラニウムというオンリーワンで生きてきたワカンダは一体どうなるのか。

タロカンは中米にルーツを持つ種族のようだ。これまた実に正しい。ヒスパニックの人口、特に移民は急速な勢いで増えてるからね。

タロカン王のネイモアは、ワカンダに対し、力を携えて世界を支配しようと持ちかける。しかしティ・チャラの妹である王女・シュリはそれを拒む。

そうなったら戦って決着をつけよう。タロカンの存在を知らない世界各国は「ワカンダで内戦が勃発」と報じる。

興味深いのは、一貫して正しさを通すワカンダの人たちが決して戦うことを否定していないことである。実際の世の中では、戦禍が広がらないように多少の妥協をしてでも裏での話し合いを続けるけれど、まあ戦闘シーンがないと画にならないとはいえ考えてしまう。

ワカンダとタロカンの戦いの決着の仕方も実に正しい。復讐心に駆られて始めてしまった戦いが誤りであれば改心すれば良い。白人の国は信用できなくても、少数派の民族や人種の人たちなら信用してもいいかもしれない。なぜならワカンダは正しいから。

何を言おうが、どんなに不満を抱こうが、世界は力のある者によって統治され、変えられていく。

前作より戦闘シーンは見やすくておもしろかったです。

(55点)
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「すすめの戸締まり」

2022年11月12日 22時13分19秒 | 映画(2022)
11年経って、子供たちは大きくなった。


もはや新海誠監督作品の公開はお祭りである。

そのおかげで「君の名は。」「天気の子」を地上波で見ることができた。

公開時の記事ではいろいろ言ったけど、改めて観ると両作品ともやっぱりおもしろい。特に「君の名は。」は、最終的に町民が避難できた流れを今回は飲み込めたので評価が変わった。まあRADWIMPSが出過ぎという印象は変わらないが。

そこで本作である。公開前には、東日本大震災を題材にしていて緊急地震速報の音が流れるのを事前に周知したことが大きな話題になった。

世の中の災いは、廃墟にたたずむ扉の向こうからやって来る。扉の内側には災いが外へ行かないように見張る「要石」があるのだが、ときどき抑えきれずに災いは「ミミズ」という形で飛び出していく。それが地震だ。

前2作ではフィクションの災害、それも確率としては低そうな隕石や首都沈没を描いたのに対し、今回のテーマは過去に実際に起きた地震災害ということで、アプローチも観る側の姿勢も大きく異なることとなった。

ベクトルも違う。前2作は災害が発生してしまったのに対し、今回は全力で起きないようにするというものである。どんなに力を尽くしても抗えないことが世の中にはあるということを見せた後に、それでも努力することは尊く価値のあることだと言っているのだ。

まあ正しいよね。自然災害以外にも理不尽なことが多く無力感に襲われるけど、世の中そうそう悪いことだらけでもない。これは同じ東日本大震災を扱った「天間荘の三姉妹」とも通じるところか。

今回は何より「戸締まり」という言葉のチョイスが良い。「見守り」とか「番人」とかではない極めて日常的な言葉であり、しかも響きとしてとても新鮮である。

そして廃墟。廃墟となった地では、かつて人が集い営みが形成されていた。被災地も同じ。その地の過去に、かつて暮らしていた人々に思いを馳せて大切に鍵をかける。これらの要素を結び付けて物語を紡いでいく感覚はさすがだと思った。

緻密さとダイナミックさが一体となった画の迫力は当然今回も健在である。全国各地を回るサービスと、何と言っても災いをもたらす「ミミズ」の造形が特に印象深かった。

少し分かりづらかったのは猫のダイジンだろうか。彼はすずめに何を期待していたのか。そしてなぜ草太が邪魔だったのか。これももう1回観ないとだめかな。

(85点)
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「ドントウォーリーダーリン」

2022年11月12日 20時50分27秒 | 映画(2022)
無能ならば尻に敷かれておけ。


かつてはJ.キャリーの「トゥルーマンショー」、最近では「フリーガイ」なんかが当てはまるだろうか。主人公が暮らす世界が何者かに作られた虚構のものだったという設定の映画は一定の頻度で作られている。

大概のパターンとして、冒頭は何の疑いもなく平和な日常を送る主人公の姿が描かれ、それが些細なことをきっかけに「何かがおかしい」という感情が芽生え、大きなうねりに飲み込まれていくという流れで話が進む。作られた世界は必要以上に明るいトーンに彩られ、真実のどす黒さとの対比がおもしろさのポイントとなってくる。

そこで本作であるが、最初に思ったのは、これは「何かがおかしい」ではなく「すべてがおかしい」よね?ということであった。

主人公のアリスと夫のジャックは、ビクトリー計画という一大プロジェクトに参加している。計画の参加者は砂漠のど真ん中に作られた町に住んでいるが、町はプロジェクトのリーダーであるフランクが完璧に管理しており、そこに暮らす限りは絶対の安全が保証されているというものである。

現代を舞台にしているとは一言も言っていないが、住人たちは時流と隔絶された、いわゆる古き良き時代の生活を送っている。

ブラウン管のテレビを見て、レコードで音楽を聴く。朝の決まった時刻になると、それぞれの家から夫たちが一斉に家を出て、クラシックなアメ車に乗って同じ職場へと向かって行く。

フランクは混沌を嫌悪し、対称性に正しさを感じているようである。その世界で違和感なく過ごす住人たちにどうやって気付きが訪れるのか。

アリスにとってのきっかけは隣人のマーガレットの異変であった。不安定で何かに怯えるような様子を見せる彼女に関し、周囲の人たちは一様に「彼女は病気で治療が必要」と言う。

しかし思い返せば、自分もときどき妙な幻想を見ることがあるし、卵料理を作ろうとしたら殻だけで中身がなかったというようなおかしなこともある。アリスの中に疑心が混じった好奇心が生まれた。

社会生活というのは、日々いろいろな人と出会って触れ合うことを重ねて経験値を積み上げていくものである。しかし、フランクは物理的に囲い込むことで、町の住民の成長を止めて思考の多様性を奪った。

彼の言うことは間違いない、彼に従っていれば大丈夫。シンプルな論理は、楽で気分がいい。でも、それが誤りだったとしたら?

世間を騒がせている新興宗教や社会の分断などは、シンプル思考が先鋭化したなれの果てという感じがする。気付けないのか、気付きたくないのか。

「気付いてしまった」アリスは、たとえ狂人に思われようとも同調に抗おうとするが、興味を引くのは、この世界の本質を理解した上で暮らしている住民たちである。

客観的に「すべてがおかしい」と見える世界が彼らにとっては理想郷であり、実はそれを多様性の面から否定することはできないのである。

この映画で最後まで分からなかったのは、フランクがなぜこの世界を作ったのかである。普通に考えれば金儲けなんだけど、ビジネスならアリスのようなケースを想定した危機管理はするはずなので、自分の理想郷を強引にでも拡大して世界を変えようとしていたと見る方が正しいのかもしれない。

ところどころ「?」が浮かぶ展開や演出もあったが、やはりこのジャンルに外れは少ない。

(80点)
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