Con Gas, Sin Hielo

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「いのちの停車場」

2021年06月27日 15時10分30秒 | 映画(2021)
乗り継ぎ乗り継ぎ、行き着く先は?


古都・金沢で在宅医療を専門とする小さな診療所を中心に繰り広げられる人間ドラマ。

主人公は、訳あって東京の大病院から故郷のこの診療所へ転職した医師・咲和子。彼女も含め診療所で働く4人が携わる患者は、いずれも特別の事情から通常の病院での診療を選択しなかった経緯があり、それぞれいろいろとクセが強い人たちばかりである。

加えて誰もが生命の危険の瀬戸際に立たされているから、医学的治療のほかにメンタル面のケアが欠かせない。さらに在宅となれば、必然的に同居する家族との関わりも深くなる。

咲和子が初めて診療所へやって来たとき、お抱えの患者は5名くらいであった。「これだけなの?」と彼女は驚いたが、患者一人当たりの仕事量は相当であり、既に手が足りない状況であった。

患者たちは、老いも若きも男性も女性も、ごみ屋敷の主からIT企業の社長までバラエティに富んでいる。話もよくできていて無難だ。しかし気になったのは、ストーリーが縦にぶつ切りになっていた構成である。

ある一人の患者にスポットを当てると、その患者の最期までを一気に描く。現実は5名とはいえ並行して複数の患者たちをケアする日常があるはずだが、その様子は伝わってこない。

観ている側は、ある患者に問題が発生すると一定の期間かかりっきりになり、一段落すると別の患者に問題が発生するようなご都合感を感じてしまう。その辺りは想像力を働かせて受け入れるものでしょと言われればそれまでだが、それならいっそのことオムニバス形式を前面に打ち出せば親切だったのではないかと思うのである。もしくは映画ではなく連続ドラマにするとか。

役者陣は脇役も含めてかなり豪華だ。中でも「おいしい」役だったのは、東京から咲和子を追いかけてきた医者を目指す若者・野呂を演じた松坂桃李だろう。ちょっと頼りないけど心優しい青年は、つい先日まで放映していたドラマと重なり、思わず応援したくなる立ち位置だった。

吉永小百合は吉永小百合なので、何も言うことはない。76歳にして父親が存命の現役の医者を演じること自体が驚きである。父親役の田中泯は同い年らしいが違和感はなかった。

オムニバス形式の中に通っていた縦糸である咲和子の父娘関係が映画のクライマックスに浮かび上がる。人生の終わりをどう迎えるかを決めるのは誰か。連ドラ調に突如次元の違う大問題を突き付けられて観る側は戸惑う。

医者の判断で患者の生命を故意に閉じるのはわが国では犯罪である。十分に理解しつつも、いつの間にか増えた患者のファイルを1冊ずつ丁寧にまとめはじめる咲和子。作品としては、主人公の選択を肯定も否定もしないぎりぎりのところで踏みとどまる。

でも、咲和子がいなくなったら診療所も患者たちもとんでもないことになると思うので、こちらとしては尊厳死の問題を純粋に考えるという点に至らない。大事な提言だけにボケてしまったのは残念。

(65点)
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「Mr.ノーバディ」

2021年06月13日 14時34分30秒 | 映画(2021)
きっちり清算の敏腕会計士。


普通の夫、父が実は凄腕のスパイやエージェントだった、という設定は昔から一つの定番である。

「トゥルーライズ」なんかは、表情に愛嬌があってコメディもできるシュワルツェネッガーだから成り立っていた部分があると思うが、それに比べると本作のB.オデンカークは常に眉間にシワを寄せた厳しい表情をしているせいか、なかなか普通のおじさんぶりが伝わってこない。

まあでもその辺りは観に来る時点である程度の知識を持っているのが前提と考えれば些細なことであり、本作の見どころは主人公・ハッチの本性が「再発」してからのアクションやバイオレンスの描写にある。

いくら人数で劣っていても敢然と立ち向かい、ときどき傷を負わされながらも腕っぷしと頭脳を働かせて相手を徹底的に叩きのめしていく。素手で殴る、銃をぶっ放す、ピタゴラスイッチ風の道具を駆使して罠にはめる。後半クライマックスは見本市のように次々と敵が倒されていく。頭を使わずにスカッとできる映画は、おそらくいま必要なジャンルである。

それ以上は・・・正直なところ特に感想はないかな。起伏のない日常が事件を機にどう変わっていくのかを際立ったコントラストで見せてほしかったけど、再会後は父親の威厳を取り返したことでしょう。強いお父さんが正義と決めつけられてしまうのは困りものだけど。

老人介護施設にお世話になっているハッチの父親役でC.ロイドが出演。彼が演じるくらいだから何かあるのは当然のことで、活躍する姿を見ることができる。先日マイケルJフォックスが還暦を迎えた報道を見たばかりだったが、ドクも元気そうで何より。

(70点)
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