Con Gas, Sin Hielo

細々と続ける最果てのブログへようこそ。

「CURED キュアード」

2020年05月31日 16時02分15秒 | 映画(2020)
ポストウィルスの世界の預言書。


まだまだポストコロナウィルスと言える状況ではない。しかし、とにもかくにも首都圏の多くの映画館が営業を再開し、世の中は新たなフェーズに入った。

この映画はウィルスが蔓延した後の世界を舞台にしている。ウィルスとは新型コロナウィルスではもちろんなく、最近の映画でおなじみのゾンビ系ウィルスである。

治療法が開発され、完治した人は他者を襲うことはなくなったものの、治癒率は75%であり残された25%の患者は政府によって安楽死させられようとしていた。

3月に公開されたがすぐに映画館が閉鎖されてしまったために鑑賞まで随分かかってしまった。扱っているネタがネタだけにもう少し話題になってもいいような気がするが。

主人公は<キュアード>=回復者のセナン。回復者はウィルスに罹患していたときの記憶を持っているという設定であり、自分が犯した非人道的な所業がトラウマとなって彼の社会復帰を阻む。

周りは更に辛辣で、回復者の社会復帰を許さないと差別的行動に走る者が登場すれば、回復者の中にも不当な差別に対して力で立ち向かおうと連帯を呼びかける人物が現れる。憎むべきはウィルスなのに誰かを攻撃せずにはいられない・・・って、どこかで聞いたことがあるような。

セナンはウィルスに感染する前も完治した後も心優しい善良な青年であるが、世界はそのままでいることを許さない。曇りがちなアイルランドの空と同様に全体的に暗いトーンで話は進み、理不尽に発生する社会の分断の描写が重く刺さってくる。

本作が本国で公開されたのが2018年と結構前であることも興味深い。

今観ると、ウィルスで混乱する現代社会にシンクロしているように感じるが、これは偶然でも何でもない。2年前には世界各地で分断の芽が見えており、それをウィルスを題材として描いたに過ぎないのである。

今回のコロナショックをグローバリゼーションへのカウンターなどと評する人もいるが、ウィルスとは別の意味においても、今後いかにして社会のあり方、自分の生き方を変えていくかが問われていることは間違いない。

その点で本作が見事だと思うのはエンディングだ。単なる甘いハッピーエンドではなく、異なる主張の者が別の場所で生き残って、希望よりも不安が大きい世界へ踏み出していく姿が描かれる。

明日のことは分からない。ただ今日を懸命に生きる。改めて働く人たちに感謝を。

(80点)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする