Con Gas, Sin Hielo

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「教授のおかしな妄想殺人」

2016年06月12日 04時22分07秒 | 映画(2016)
真剣になるほど滑稽さが際立つ巧みな設定。


東京都知事が2人連続してカネの問題で、議会や会見で追及され醜態を晒す。

普段もてはやさている有名人が不倫現場をスクープされて、公衆の面前で平身低頭を余儀なくされる。

こうした姿を見せられるとどうしても力が抜けてきてしまうが、待ってほしい。遥か昔から人間は愚かなものと相場は決まっているのではないか。

こんな悲しくもおかしい人間を描かせたら天下一品のW.アレン作品が今年も映画館にやって来た。

今回の主役はアレン作品初登場のJ.フェニックス。人生に悲観した哲学教師エイブは、まさにアレン作品の主人公たる男。

冒頭に大学へ赴任してくる彼は、表情に生気がなく、腹も弛みっぱなし。しかし彼が醸し出す雰囲気が、人生を達観した退廃的な印象を感じさせるのか、彼の近くには女性が絶えることがない。

「マジックインムーンライト」に続いての出演となったE.ストーン演じる大学生ジルもその一人。彼女は頭が切れてピアノも弾ける。申し分ない交際相手だっているのに、彼に惹かれる気持ちを止めることができない。というよりむしろ自分から彼に近付いていく。

エイブが時々口にする「直感を信じろ」という言葉。

彼が言うと何やらうんちくのあるように聞こえてくるし、実際夜の遊園地では商品もゲット。

しかし世の中アタリがあればハズレもあるのが常である。エイブが直感で生き甲斐と感じた殺人は、ジルの直感では許されないことであった。

直感・選択・行動という語群と、理性・逡巡・停滞という語群が、主人公たちの中で鮮やかに行き来する。

しかし悲しいのは、前半の停滞エイブも、生まれ変わった行動エイブも、行き着く先は破滅だという点である。要は過ぎてはいけないということ。

迷いながら間違えながら、行きつ戻りつを繰り返して進んでいくのが人生なのである。

御大となりながらも、押しなべて自虐的に、ただししっかりと愛情を注いで滑稽な人物を描くアレンの物語がいつも以上に痛快にハマっている。

これは危ないと分かっていながらエイブに接近するジルがちゃらんぽらんなら、反省の言葉を聞いてあっさり元サヤに収める彼氏ロイもお笑いだ。

もちろん最大の愚か者はエイブだ。キルケゴールがどうだと小難しい講釈を垂れている彼が、大まじめで「パーフェクトだと思った」と解説した最後の行動。

小道具を巧みに生かす魔術師と、昔ながらのドタバタコメディアンという、W.アレンの魅力を両方堪能できる最高のクライマックスであった。

ただ1点の不満。「妄想」ではないよね。

(90点)
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