Con Gas, Sin Hielo

細々と続ける最果てのブログへようこそ。

「フリーガイ」

2021年08月14日 23時36分04秒 | 映画(2021)
AIライヴズマター。


ゲームの背景キャラが自我に目覚め、一躍ヒーローになっちゃうおはなし。

ゲームキャラクターに生命が吹き込まれるといえば「シュガーラッシュ」を思い出す。

80年代のゲームは1ゲーム当たりに登場する人数が少なく、閉店後のゲームセンターをキャラクターの世界として描いていたが、情報処理能力が格段に向上した現代では描けるキャラクターの数が格段に増加し、一つのゲームの中で大きな世界が完結するようになった。

そして同時に、一般ユーザーには名前すら認識されない背景のような「モブキャラ」が誕生した。

モブキャラのガイは、毎日判で押したような生活を送っていた。朝起きて、金魚にエサをやり、シャツを選び、コーヒーショップでドリンクを頼み、店に客として来ている警官に声をかけてから、銀行へ出社する。

銀行には毎日強盗がやって来る。強盗は現実世界のプレイヤーのアバターだ。このゲーム「フリーシティ」は、架空の街を舞台に暴力や犯罪など力ずくでのし上がっていくことで経験値を上げていくシステムになっているのだ。

ガイはいつも強盗に顔を踏みつけられていた。そういう設定だから何の疑問も持たず、終われば銀行の仕事に戻り、仕事が終わればまた家に帰るだけ。

しかし彼は目覚める。それはバグか?必然か?

細かい設定は観ていてもよく分からない。それでも、現実世界で起きている問題とガイの結びつきを集中的に分かりやすく示してくれるので、特に置いてけぼりを食う感覚はなかった。

むしろ不思議な力で惹かれ合う現実世界のゲームデザイナー・ミリーとガイの関係にはほっこりしたし、おふざけの場面には声を出して笑った。複雑な設定にも娯楽の要素をしっかり入れ込むハリウッド映画はさすがである。

プログラムが勝手に成長を始めたなんて言うとロクなことにならないと考えるのが普通の感覚だと思うが、本作は驚くほど終始歓迎ムード、ポジティブである。

楽観バイアスに陥るのも危険だけど、いまのご時世、ふさぎ込んで誰かに文句ばかり言ってるのも考えもの。素直に観ればとてもすっきりする映画となっている。

すっきりしたところで、落ち着いた頭を少し捻ってみる。情報通信技術の進化って本当にプラスなのか?

最近増えたテレワークの会議。不便だよなーと思うことは少なくない。でも人によっては難なく使いこなしている。時代は急激に変化している。プラスもマイナスも結局は受け入れる自分の感覚次第なのかもしれない。

そう思ったときに、自分のいまの立ち位置って、自我の目覚めを自覚しながらも両手を下せないでいたおじさんのレベルなのだろうなと思った。

(80点)
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「映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園」

2021年08月01日 13時20分30秒 | 映画(2021)
まさかの青春群像劇。


風間くんの誘いで、私立の進学校である「天下統一カスカベ学園」に一週間の体験入学をすることになったしんのすけたち。勉強だけではなく、スポーツや芸能など幅広い分野に渡る生徒の才能を効率的に引き伸ばすプログラムを有する最先端の教育を特色とする学園の光景に、もともとエリートに憧れを持つ風間くんは瞳を輝かせる。

一方で、誘われたから来ただけでエリートだとか将来のことだとかにはまったく関心がなく、幼稚園や近所の公園にいるときと同じようにお気楽に振る舞う他の4人。どうしてぼくの気持ちが通じないのだろう。風間くんと4人の間に少しずつ溝が生まれる。

そんなときに発生した一つの事件。誰も立ち入ることのない古い時計台で風間くんがお尻をかまれ倒れているところを発見される。命に別状はないものの、目を覚ました風間くんは別人のように変わってしまっていた。

風間くんを元に戻したい4人は、体験入学の世話係である在学生・ちしおと急造の探偵クラブを結成し、事件の真相解明に乗り出す。犯人は誰か、動機は何か。そして事件の背景にはどういった事情が隠されているのか。

分野ごとに秀でた才能を育てるという設定が、そのまま登場人物のバラエティ豊かな個性に繋がり、事件の容疑者として更なる広がりを見せる。

しかし物語は事件の回収の時点で方向転換する。犯人が語った事件の動機、それは「青春の告白」だったのだ。

帰り道に改めて映画のポスターを見ると、「青春の答えはひとつじゃない。」と書いてある(青春に「ミステリー」とルビを振っているが)。主題歌であるマカロニえんぴつの「はしりがき」の歌詞はもっと直接的だ。

分からないことをぜんぶ「青春」と呼ぶことにする。ただ無駄を愛すのだ。

クライマックスで風間くんを乗っ取ったAIが青春について問いかける。「青春とは?」。

それに対して登場人物の回答が様々に返ってくる。コンプレックスや後悔など否定的なものもある。それでも共通しているのは、その愛すべき時間がそれぞれの血肉となっていること。

学園の理事長がつぶやく。徹底的に無駄を排してきたのは間違いだったのかもしれない。圧倒的な敵役がいない最近の「クレしん」らしく好感が持てる。

映画の短い尺の中で、よくここまで個性豊かなキャラクターの掘り下げができたものだ。スーパーランナーだったけど突然走れなくなったちしお、仮面を被った33代目番長など、それぞれの謎がストーリーの展開と巧く絡んでくる。

そして事件の真相とともに明らかになった彼らの個々の物語が「青春とは?」の畳みかけへ一気に流れ込み、大きな力を持って迫ってくるのだ。

よく考えれば5歳児のしんのすけたちにまだ青春も何もあったものじゃないけれど、これまで幾度となく家族や友情の物語で感動を呼んできた「クレしん」映画だからこそできる技。今回も楽しませてもらいました。

(85点)
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