Con Gas, Sin Hielo

細々と続ける最果てのブログへようこそ。

「オデッセイ」

2016年03月04日 22時49分47秒 | 映画(2016)
清く正しく宇宙開発。


R.スコット監督って、こういう映画をつくる人なんだと驚いた。原作があるとはいえ、登場人物が揃って一つの目標に向けて努力を続ける健全な展開。ディスコ音楽が至るところで流れ、置かれた立場の割に悲壮感がない明るい色調。

大筋は現地作業中での事故によって一人火星に取り残されたマークの孤独なサバイバルである。圧倒的に足りない水、空気、食糧。絶望的な状況下で決して諦めずに、科学知識を駆使して打開していく様子が見どころとなる。

中でも、感謝祭のためにストックされていたイモを住居施設の中で栽培するというアイデアが、意外性という面で最も光っている。自分に翻ってみれば、家庭菜園でさえうまくできる自信がない中でとてもそういう発想には至らないであろう。

その他にも落ち込む暇があれば考えろと言わんばかりに忙しく動き回るマークであるが、頭が良過ぎて正直言って何をやっているのかよく分からない。嵐が来なくなってよかったねと感じるのがせいぜい。

やがてNASAが彼の生存に気付くと物語は複層的になる。長官は決してNASAが非難の矢面に立たないように、時機を捉えた広報戦略を計算し、マークの生還に関しても冷徹に総体のリスクを分析する。

ただ、それは長官の責務としては妥当な判断であり、彼が決して単なる冷血漢でないことは、母船のクルーがマーク救出へ向かう決断を下したときに感情的な怒りを表さなかったことで分かる。

常に細かい情報網を張り巡らせて緻密な戦略を描きながらも、時には無謀ともいえる作戦に一気にシフトチェンジして全力で挑むことがある。これがアメリカのアメリカたる所以であり伝統である。

そんなチーム・アメリカがマークの救出を成し遂げようとする展開は想像がついたが、最も驚かされたのは中国国家航天局の登場である。

これまで宇宙からの敵であれ何であれアメリカが地球を代表して立ち向かっていたものが、結果としてであっても中国に助けを請う事態となったのがあり得ないレベルの話だし、中国という国家が米国人1人の命のために秘密裏に進めていた計画を明かして協力するという筋書きには更に仰天した。

宇宙という言葉には魔力があるらしい。莫大な資金をかけて学問やロマンを追求するだけなんてあるわけがなく、裏には情報、軍事、国威発揚といったきな臭い事情がわんさとあるように思ってしまうのだが、本作では前述の長官や中国航天局の幹部の言葉で少し匂わせるに過ぎない。

最後はマークの救出成功に、米国と中国が手を取り合って喜ぶ。映るのはロンドンだけだが、世界中が救出劇に歓喜するという構図だ。テロの恐怖が蔓延する世界、地球規模の気候変動といった危機に一致して対処できない指導者たちは悔い改めなさいというところか。

(60点)
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「キャロル」

2016年03月04日 22時47分33秒 | 映画(2016)
貫禄で巻き込みねじ伏せる。


「ジェンダー」という単語が社会的地位を得てからだいぶ経つ。様々な性的な問題が表面化し言葉も増えた。

本作で主に扱われるのは、女性同士の間に生まれた愛情だ。しかし意外なことに、映像で描かれる以上に同性愛がクローズアップされることはない。

裕福な家庭の婦人・キャロルが、買いもので訪れたおもちゃ売場で出会った女性・テレーズと恋に落ちる。しかしそのとき、二人には既に別の異性のパートナーがいた。

満たされてはいなかったものの、彼女らは同性でなければ愛せないわけではなかった。性別に一切関係なく二人は惹かれ合ったのだ。

こんなことある?でも否定はできない。ちょっと見るかぎりはあまり楽しそうではない表情の二人だけれど、心の底から愛情を絡ませ合っているようにも映る。運命の出会いとしか言いようがない。

となると問題は、運命が結び付ける以前に出会ってしまったキャロルの夫と、その間にできた子供だ。夫との結婚は打算であっても、子供の存在に嘘偽りはない。

キャロルを演じるのは、ついに「オスカー女優」の肩書きが加わったC.ブランシェット。眼力がすごい。子供も愛した人も手放すものかという執念を感じる。

対するR.マーラはキャロルに飲み込まれているように見えてしまった。あくまで彼女の意思で行動しているのではあるけれど、最後の選択なんてキャロルの「ほらね」という声が聞こえてくるようだった。

お互いの愛情を認めないわけではないが、ありていに言えばこれは「略奪愛」であり、この先二人と関係者を取り巻く将来図が見えてこないから、もやっとした気持ちだけが残ってしまう。

映画に道徳心を持ち込むのが野暮なことは多々あるのだが、道徳を横に置いたとしても、あまり感情移入できない二人だったというのが正直なところ。

(60点)
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「ザウォーク」

2016年03月04日 22時44分53秒 | 映画(2016)
生命を吹き込む荘厳な儀式。


R.ゼメキス監督ももう60歳を超えた。「バックトゥザフューチャー」から30年経ったのだから当然ではあるが、大成功を収めた「フォレストガンプ」以降は、あまり作品を発表していない印象がある。

それでも新しい技術を駆使して見たことのない映像を創り出そうという志向は変わらないようで、今回は超高層ビルの間を綱渡りする主人公フィリップの物語を、視覚効果をふんだんに使い表現してみせた。

舞台は、あのワールドトレードセンター。1973年にツインタワーとして完成したその当時に起きた出来事である。

映画は、フィリップが過去を述懐する形式で進む。綱渡りに魅せられた彼が、いかにしてNYの上空400mを歩くに至ったのか。

綱渡りの技術を磨いたり、新たな友人と出会ったりする場面は青春ものかスポーツものだが、NYへ渡って作戦実行段階に移ると、犯罪サスペンスの色を帯びてくるところがおもしろい。

冷静に考えれば、とにかく無茶な計画だ。映画のストーリーとしてはあり得るが、それ以前に実話なのだから驚くし、実現までに起きる出来事もドラマティックな展開の連続である。

そして迎えるクライマックス。明るさが増してくる空は、地上の喧騒とはまるで別世界。そしてフィリップは、その中空へ1歩を踏み出す。

劇中で、(綱渡り)事件が起きて初めてタワーが人々に温かく迎えられるようになったという言葉があった。

その後数奇な運命を辿るこのタワーだが、形は非常に無機質な細長い四角い箱である。綱渡りは、その箱に生命を吹き込むセレモニーであったのだ。宙に浮かぶように綱を渡るフィリップの神々しさがそれを物語っている。

ラストはツインタワーのシルエット。その建物は、30年近くに渡ってNYの象徴として人々に愛された。映画はタワーに捧げる鎮魂歌でもあった。

(75点)
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