Con Gas, Sin Hielo

細々と続ける最果てのブログへようこそ。

「かがみの孤城」

2022年12月30日 23時56分13秒 | 映画(2022)
もう少し、あと少し。


原恵一監督といえば、今でも劇場版クレしんの最高傑作と呼び声の高い「モーレツ!オトナ帝国の逆襲」を手掛けた監督である。

その後も「河童のクゥと夏休み」や「カラフル」といった作品を作っているが、個人的にはもう少しメジャーになっても全然おかしくない人なのに、と思っていた。

そんな中で本作はひさしぶりのメインストリームでの公開作品ということになる。

原作は直木賞作家の辻村深月。ふとしたきっかけで不登校になってしまった中学生のこころを主人公とする、出会いと冒険の物語である。

キャラクター造形の親しみやすさや、繊細な心を持つ思春期の少年少女に寄り添う物語の温かさなど、映画としての輪郭は文句なしに素晴らしい。

しかし、しかしである。

人というのはわがままなもので、足りないと文句を言うくせに、足りていれば足りていたで別の不満が湧いてきてしまう。

本作の場合、少年少女が集められる孤城の秘密が物語の肝となるのだが、その謎の種明かしが割りと早々に分かってしまうことに苦言を呈さざるを得ない。

もちろんこれは個人差がある問題であり、謎解きと関係なしに作品を楽しむことができた人が多くいるかもしれない。ただ、たとえば「シックスセンス」のオチが早めに予想できた場合に、鑑賞後のカタルシスが十分なものとなっていたかというと、そこは疑問符が付くのである。

具体的には、こころ以外のある登場人物がルーズソックスを履いていたことと、ストロベリーティーを好んで飲んでいることが分かった時点で、話の筋が見えてしまった。原作がどうかは知らないが、アイテムとして強烈が過ぎたのではないかと思う次第である。

謎解き以外の点に話を移すと、物語の底を流れる不登校の子供たちという存在は大きなメッセージ性を持つことに貢献している。

中学生の大部分は、家庭と学校という狭い枠の中で生活を送っている。不登校とは、その限られた空間に自分の居場所を見つけることができないでいる子供たちである。

母親はなかなか気づけない。母娘なのだから正直に気持ちを打ち明ければいいと思うかもしれないが、それができないのが彼や彼女であり、そうした人たちは大概世間一般の人間より優しい心を持っている。

子供たちの発するシグナルに聞き耳を立てて、感じられるように軌道修正の手助けを行うことが大人たちに与えられた責務である。未来へバトンを繋ぐ立場の者として。

(70点)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「MEN 同じ顔の男たち」

2022年12月17日 21時24分05秒 | 映画(2022)
大道芸村の悪夢。


大昔、D.クローネンバーグ監督が作った「スキャナーズ」という作品があった。いわゆるカルト系の名作として有名なのだが、作品の内容以上に印象に深く残ったのは、ビートたけしがラジオなどで言った「頭がポン!」というギャグであった。

本作、それに匹敵するような大ネタをぶっ込んできた。いいか悪いか、おもしろいかつまらないかという次元ではなく、とにかく圧倒される画が眼前に繰り広げられる。

どれだけのものかと言えば、主人公がもう悲鳴を上げるのも止めて、素に戻って冷静に見届けてしまうほどである。なんだろう、これは。

主人公のハーパーは、目の前で夫に死なれた経験を持っている。直前に激しい夫婦げんかをした後に、夫は1フロア上の部屋から路上へ転落死した。

自殺なのか事故なのかは分からないが、ハーパーは窓の外を落ちていく夫と目が合ったような気がして、もやもやした罪悪感に苛まれていた。

気分を変えるために、田舎の一軒家を数日の間借りて住むことにしたハーパー。しかし着いた直後から怪しいできごとが彼女の周りで起きはじめる。

映画の宣伝チラシには「出会う男たちが全く同じ顔であることに気付く」とあるが、これはどうやらミスリード。そういう目で見れば分かるが、牧師、警察官、バーデンターなどそれぞれコスプレしているので、注意深くなければ見過ごしてしまうレベルである。

しかし同じ顔のコスプレ大会は、今度は「チャーリーとチョコレート工場」のウンパルンパを思い起させるような、ホラーの流れなのにネタ要素満載な不思議な空間を作り出していた。

不思議で説明がつかない世界に無理やり落としどころを付けるとすれば、混乱したハーパーの精神世界か、現世に残存していた夫の思念が生み出した悪夢というところか。

夫選びは慎重に。選ばれた夫は妻の気持ちを第一に。

(80点)※12月17日21時25分投稿
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「ブラックアダム」

2022年12月07日 20時58分55秒 | 映画(2022)
ヤー!!パワーー!!!


立て続けに主演作が公開され、いずれもがメジャー系の娯楽大作であるにも拘らず、まだこれといった代表作に恵まれていない。

D.ジョンソンに対するイメージはこんなところだろうか。かつてのシュワルツェネッガーの系譜を継ぐ肉体派男優としてそれなりに認知度も高いと思うのだが、「ターミネーター」のような作品がない。

そんな彼の最新作がDCコミックスと来た。これまた何とも微妙。

宣伝文句にはこう書かれている。「最"恐"アンチヒーローVSヒーロー軍団」

いわゆるヴィランを主役に据える作品はマーベルでもDCでも多く作られているが、主役が完全悪というのはメインストリームでは成り立たないので、結局は善人でしたというのが大抵の流れ。言ってみればD.ジョンソンにはぴったりなのかもしれない。

しかし、ぴったりを裏返せば意外性を欠くということでもあり、ブラックアダムという単体は特に魅力的には映らなかった。

見た目のままの怪力と鋼のように強い肉体も個性としては月並みで、戦う時はDCで毎度おなじみのガチンコな力比べにならざるを得ない。

そうした中で意外とおもしろかったのは、脇を固めた「ヒーロー軍団」であった。

JSA(ジャスティスソサエティオブアメリカ)は、世界を救うために結成されたスーパーヒーローチーム。すなわちアベンジャーズだ。

チームを率いるのは、金ぴかの兜をかぶると特殊な能力を発揮する魔術師・ドクターフェイト。彼の操る術が視覚的におもしろく、演じるP.ブロスナンの存在感も加わって、パワーゲーム一辺倒の流れにスパイスを利かせていた。

力の強さではブラックアダムにまったく叶わない中で「VS」と掲げてどうするのかと思ったが、はじめの完全な敵対関係から少しずつ理解を深めて、それでも流儀が違うから決してチームにはならないという、それぞれの揺らぎが練られた脚本が良かった。

ただ、最後に出てきた方は、やっぱりという感じがした。次はまた壮絶な力比べをするのだろう。

(60点)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする