Con Gas, Sin Hielo

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「シン・ゴジラ」

2016年08月07日 11時22分49秒 | 映画(2016)
いつか来る、決断のとき。


そもそもの興味はそれほど高いわけではなかったが、評価が予想外に高いようなので観てみようと足を運んだ。

事前に入ってきた情報は、ゴジラよりも立ち向かう人間側にスポットが当たっているということ。確かに「総勢〇人の豪華キャスト」という宣伝を聞いたことがある。

庵野秀明監督だけにエヴァンゲリオン的ゴジラと言っている人もいた。ゴジラは使徒であると。エヴァンゲリオンに詳しくはないが、今までにないゴジラであることが推測された。

冒頭。東京湾に異変が生じ、直後に官邸と思しき場所で閣僚会議が開かれる。限られた情報の中で考えられる可能性について進言する関係閣僚たち。その中で唯一巨大生物説を唱えた矢口官房副長官は、ふざけたことを言うんじゃないと周り全員の怒りを買う。

その直後にテレビ画面に映された巨大な尻尾が現れ、この時点から宣伝コピーであるところの「ニッポン対ゴジラ」の幕が切って落とされる。

事前の情報どおり、メインはゴジラの動きに翻弄される首相官邸の面々である。マニュアルがない、所管はどこの省が持つのか、対策本部を設置しろ、第三者の意見を聴けなど、無駄に時間を消費する役所あるあるな対応が描かれる場面はこの国の弱点を克明に映していて背筋が寒くなる思いだった。

硬直的と言うべき法律や組織の仕組みは、平時に強さを発揮する一方で緊急時にはかえって足かせになるということは誰もが知っている。本作に登場する閣僚や官僚は決して無能なわけではないので、可能なかぎり迅速かつ確実に国民の安全を守る方法をとろうと試行錯誤する。

そこでたびたび出てくるのが「総理、ご決断を」という言葉だ。専門の組織を率いる大臣に比べて、すべてを束ねるリーダーである総理は細かい知識の部分でどうしても劣る。総理自身それを分かっていながら、自分しか決断を下せないことも知っている。

かつてない事態。決断が及ぼす結果が必ずしも良いという保証もない。ただ何より時間がない。苦渋の中で下される史上初の自衛隊発動の指令。

それほどまでの重い決断にも拘らず、まったく相手に通じない自衛隊の兵力。更には逃げ遅れる人の姿を確認した瞬間に作戦を終了させざるを得ない強固な倫理観。

良い悪いとは決めつけないものの、うっすらと想像できている危機感を十分なリアリティで肉付けする脚本は秀逸だ。

日本だけでは太刀打ちできないと分かれば、当然出てくるのは米国や国連だ。ゴジラの対応と並行して進められる水面下での外交戦略も興味深い。米国、中国・ロシア、フランスの立ち位置が、実際どうなるか分からないにしても「さもありなん」なのである。

生物学的な謎解き部分はさっぱり分からなかったが、矢口が最終の手段として決行するヤシオリ作戦も画的におもしろい。JR在来線爆弾や、建設重機による血液凝固剤注入など、わが国らしい技術的なのりものを駆使してのこれまでに観たことがない戦闘の発想がすばらしい。

人間部分がよくできていても肝心のゴジラがお粗末では作品はガタ落ちなのだが、この造形がまたよくできている。

まずはじめに上陸した幼体のゴジラの気持ち悪さに圧倒される。心がない眼球、這いまわる姿は爬虫類に近い。

それが何度かの変態を経て二足歩行の巨大生物へと変貌する。攻撃に対して発する放射能を帯びた火炎や光線は、まさにこの世の終末を運んできた使徒の所業である。この造り込みだけでハリウッド版を完全に凌駕する出来栄えだと思う。

ほかにも、音楽や人物設定など取り上げたい点がたくさんあるが、とにかく新しい作品であることに違いない。政府も随分前面に立って協力していたようだが、作る意味のある映画と言ってもいいかもしれない。

(90点)
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2 コメント

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こんばんは (なな)
2016-08-10 22:25:03
今年の猛暑は予想以上にこたえますね・・・・

>そもそもの興味はそれほど高いわけではなかったが、評価が予想外に高いようなので観てみようと足を運んだ。
わたしも同じです。全く興味がなかったのですが巷で絶賛されていてゴジラ初心者でも楽しめるというので,それなら大画面でと。

おっしゃる通りゴジラもですが対戦する人間たちが面白かったです。
日本政府・・・・これからの非常事態にもやっぱりこんな感じで対応するんだろうな~~と私もトホホの気持ちになりました。
在来線爆弾は斬新なアイデアで気に入りました。
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上げるでもなく、下げるでもなく (クラム)
2016-08-13 22:41:40
ななさん、こんばんは。

世の中がすっかり五輪で静止してしまった今こそ、世の中につけ入る隙なのですが、
思ったより世界は平和が気に入っているみたいで何よりです。

トホホの気持ちというのはその通りかもしれませんが、これは政府に限った話ではなく、
社会全体官民問わずそれほど大差ない意識だと思っています。
平時と緊急時はデジタルで分かかれているわけではないので、状況が判然としない中で頭を切り替えるのは至難の業です。
実際の会議で「巨大生物が・・・」といきなり言い出す人がいたら自分はどう反応するだろうと想像すれば、
少なくともぼくは凡人の対応しかできないだろうと思うわけです。

要は、その後いかに切り替えを早くして何をするかにかかっていて、
その点では本作に出てきた人たちは、硬直した枠組みに苦慮しつつ相当の努力をしていました。
そしてその精神は必ずしもフィクションではないことを信じたいと思うのです。
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