Con Gas, Sin Hielo

細々と続ける最果てのブログへようこそ。

「愛、アムール」

2013年03月23日 01時51分52秒 | 映画(2013)
二人の時間。長い間合い。


居心地の悪さ。M.ハネケ監督の作品の印象を問われて真っ先に思いつくのがこの言葉なのだが、新作が描く老老介護の情景は、高齢化社会が生んだ歪み、いわば現代社会の「居心地の悪さ」であり、相性の良さが期待できるものであった。

そんな情景の描写はやはり一味違った。何が違うかと言えば、まず音楽がない。下手に盛り上げない代わりに緩和もしないから、現場の厳しさがむき出しになって伝わってくる。

劇中で2~3度、CDをかけたりピアノを弾いたりする場面があるが、再生を止めるなどですぐに現実に引き戻され、余計に重苦しい空気を醸し出す。

次に容赦ない描写だ。史上最高齢のオスカーノミネートとして話題になったE.リヴァの演技が素晴らしい。

冒頭の上品な婦人から、半身麻痺、果ては会話も表情を作ることもできないまでに衰弱していく様を見事に演じ切っている。これを観たら、彼女が戴冠してもよかったのではと思えるほどである。

2人の間には愛があった。だからこそ夫は命を尽くしても妻の力になろうとし、妻の希望を聞いて再び病院へは行かなかった。

それは傍から見れば美談であった。しかし当の本人たちにとっては、もちろんそんな生易しいものではない。

子供であれば、多少手がかかってもいつかは成長して離れていく。しかし高齢者の介護においては、事態は悪化するしかなく、唯一の解決法は死別である。

いまいる場所も闇ならば、その闇を抜けた先にも展望が開けない。かといって逃れる術もない。

愛の果てに行き着いた場所で持て余される時間を、台詞のないまま不自然に長いカット割りが的確に表現している。

そして幕引きは静かにあっけなく。気を抜いたところに突然エンドロールが流れて、一瞬「やられた」と思うけど、意外と嫌いじゃない。

(75点)
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「シュガーマン 奇跡に愛された男」

2013年03月21日 07時01分06秒 | 映画(2013)
地球規模のナイトスクープ。


いつものようにFMを聴いていると、流れてくる中で1曲だけ妙に耳に残る曲があった。

曲名は"SUGAR MAN"。アーティスト名は"Rodriguez"とある。当然知らない。

それからしばらく経って、あるサイトの映画紹介を眺めていたら、今度は「シュガーマン」という題名の映画に目が止まった。

なんと先日発表されたアカデミー賞の長編ドキュメンタリー部門を受賞し、日本では3月16日とのこと。運命と言うには大げさだけど、導かれるようにさっそく映画館へと足を運んだのであった。

ドキュメンタリーは、もちろん構成などの部分も重要ではあるけれど、最大の肝は何と言っても題材となる事象がどれだけ力強いかにある。

そういう面で、この一人のアーティストを巡る真実の話は圧倒的だ。

当初、「奇跡に愛された男」という邦題にはあまり共感できなかった。原題は"Searching for Sugar Man"、単に「シュガーマンをさがして」である。

「奇跡」の安売り感が嫌だったし、そもそも米国本土で売れなかった人物が奇跡に「愛された」と言えるのか合点がいかなかった。

しかし、映画の前半で明らかにされる彼を取り巻く環境を見聞きするにつれ、確かに彼と彼の曲は運命的な何か、即ち「奇跡」に導かれたのかもしれないと思うようになった。

彼を発掘し売り出そうとした人たちは、彼の佇まいや綴る歌詞に光るものを感じていた。メロディーやヴォーカルも先述の通り、他とは明らかに違う人を惹きつける要素を持っていた。

でも売れなかった。それは彼がヒスパニックだったことが影響していたのか、結果として米国のこの時代(70年代初頭)は彼を求めなかったのだ。

一方、当時の南アフリカはアパルトヘイトの嵐が吹き荒れていた。文化的に鎖国状態だったこの国に入ってきた、素性は知れないが心に真っ直ぐ訴えかける曲。口コミに近い形で評判が全土に広がり、推定売上50万枚を超える国民的大ヒットになったのだ。

米国で売れなかったこと、南アフリカで売れたこと、そうした要素が根底にある時代に彼が世の中に作品を発出したこと、それぞれが細い1本の糸で繋がれたような奇跡に近い出来事だった。

そしてこの映画の本筋である、この売れなかったアーティストの消息を訪ねる旅が、また感動的な物語を紡ぐのである。

彼の消息については、ちょっとしたサスペンス仕立てにもなっていて、詳細に書くとネタバレ的になるのでやめておくが、後半に描かれる1998年以降は、売れた売れない、生きている生きていないとは全く違う次元の話となっていて、これも非常に興味深い。

人はいかにして生きていくのか。正しいこと、守るべきこと、重要なこと。Rodriguezという一人の男の人間性を通して改めて考える気にさせられた。

今は全世界が即時に繋がる情報社会。南アフリカも、今やW杯が開催されるなど世界が注目する経済新興国になった。やはり彼のような存在が再び現れることは考えにくい。

(85点)
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「オズ はじまりの戦い」

2013年03月17日 22時31分05秒 | 映画(2013)
上々の滑り出し。


ディズニーという看板は決して安心保証ではない。

むしろ期待外れのことが多い記憶があるが、今回は素直におもしろかった。

「オズの魔法使い」の話をそれほど知らず、特段の思い入れがないというのが大きな要因かもしれないが、とにかく一つの作品としてバランスがいいと思った。

それは舞台設定、物語の展開、配役、3Dの映像や音楽、すべてに至る。

まず、不完全な主人公が様々な出会いに触発されて確実に成長していく太い幹がある。大事なのは「確実に」という点。「着実に」と言い換えてもいい。観ている側と歩調が合っているから感情移入がしやすい。

途中で出会う仲間たちは、印象深い個性を持ちながらも出過ぎることなく、しっかりと話に溶け込んでいる。「オズの魔法使い」でも脇役たちが物語の魅力を何倍にも膨れ上がらせる要素になっているが、本作もその系譜を受け継いだものと言えると思う。

物語の展開もおもしろい。オズの嘘がつき通せるかというスリル、魔女たちと不思議な国の関係を追う途中で訪れる意外な事実、絶対不利な状況で起死回生の一策を講じる爽快感。異なる側面を持つ事象が入り組みながら進むので飽きが来ない。

配役も豪華だ。すっかり主役の風格が板に付いたJ.フランコに加え、魔女たちを演じるのがM.ウィリアムスR.ワイズといった実力派である。

特にM.ウィリアムスは家族向け娯楽作品の印象がまったくなく、果たしてどんなものかと思ったが、R.ワイズやM.クニスといったキツめの美女の対照として、あのもっさり感が意外なほどよくハマった。

3Dもファンタジーの世界とは相性がいいようで、オープニングのクレジットからのわくわく感演出に一役買った。

更に言えば、今回は子供と吹き替え版を観たのだが、声優にいわゆる芸能人を使っていなかったのが良かった。終始落ち着いて話に集中することができた。

というわけで、総合的にこれといった欠点は見当たらない。本当のオズの話をもっと知りたくなったし、こちらはこちらで続篇でも同じレベルを期待したいと思う。

(85点)
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「キャビン」

2013年03月14日 00時00分24秒 | 映画(2013)
愚者のパーティー。


単なるスプラッタムービーではありきたり。その裏にリアリティショーの要素を含めるのも賞味済み。

この作品はそれを超えたものを見せるよと、大胆不敵に言ってくるものだから見ないわけにはいかない。

ただ興味はあるものの期待はしていなかったというのが本音で、特に最近は、煽り文句とまったく違う内容のものを見せられる場合も多く、まあ話のタネにでもなればと軽い気持ちで観に行った。

結果からすれば、それが良かったのかもしれない。

案の定、物語の核となる存在は、言ってみれば飛び道具のようで意外性も面白味もなかったのだが、展開と画はかなり楽しめた。

まず舞台装置の裏側から入る冒頭。もったいぶったりしません。というより、こちらがメインですよと分かりやすく示している。

生け贄となる若者5人。多過ぎも少な過ぎもしない人数、極力余計な描写を省いてさくさくと山小屋へご案内。

法や道徳に反しない範囲で、生け贄たちの運命の選択をサポートする裏側のスタッフたち。とはいえそんなの詭弁でしかないことが分かっているから、自らの罪を忘れるためにギャンブルやアルコールに走る。

理不尽な仕事に耐える姿はあまりに普通で愚かな人間だ。ボスがお喜びになるからと続ける健気な努力。しかし、女性が胸をはだけるようなB級ドラマ仕立てを好むって、古い力というより古いおっさんに近い。

定番の流れに沿ってヒロイン以外の生け贄が一人ずつ消されていくところで、おそらくこの映画で最大の意外性が炸裂する。まさかの設定キャラの活躍だ。

後になって予告映像を見るとしっかりネタバレされてしまっているのだが、真剣に見ていなかっただけにこれは驚いた。とともにやるじゃんと思った。

愚かな人間を生け贄にして巨大な力を鎮めようとした愚かなスタッフは、重ねてきた愚かさの分だけ壮大に砕け散る。

モンスターやクリーチャーの展覧会とでも言おうか。エレベータで順番にご案内というコミカルな画の後はやりたい放題。

残酷な場面なのに、悲惨と言うよりは愚かさ故に滑稽さが際立つ不思議な展開。最後もあっさり。B級ならではの力技に清々しさを覚えた。

(80点)
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「ジャンゴ 繋がれざる者」

2013年03月03日 01時10分51秒 | 映画(2013)
頭のくぼみを刺激する。


アカデミー賞では助演男優賞と脚本賞で栄冠を獲得したが、その評価に完全に同意する。

舞台設定が巧い。主人公・ジャンゴの出自や環境は王道をなぞりながらも、彼をサポートするキング・シュルツ医師や真の敵対者である男の個性と振る舞いが、物語を強く引き締める。

見せ場の演出は、とにかく観る側が快感を得るツボをことごとく押さえる。間をしっかりとって、掛け声があっても不思議じゃない空気に包まれる。

「1万人に1人のニガー」を演じるのはJ.フォックス。最近サンダーのK.デュラントと被って仕方がないが、1万人どころではないスーパーなヒーローがハマっていた。

L.ディカプリオは、ジャンゴの妻を所有する農園主・キャンディ。こういう役が好きそう。憎々しい演技も良かったけど、退場は少しあっけなかった気がした。

S.L.ジャクソン。こんな人物ですか。確かにこの時代にいたのかもしれない。設定を変えれば、現代にも十分通じる腐った組織の膿のような存在。最期はあんなもんでしょ。

そしてC.ヴァルツだ。ひょうひょうとした会話のやりとりから瞬時にモードを切り換えて相手の息の根を止める華麗な強さが目を引いた。キャンディから執拗に握手を求められる下りはとにかく魅せる。

西部劇や時代劇になると顕著に現れるが、分かりやすさを求める層というのは時代を問わず常に存在する。

苦悩するヒーローの心の奥底を探るのもいいけど、まずはすっきりしたい。この種の要望に、現代で最も的確に応えられるのがQ.タランティーノ監督ということなのだと思う。

(85点)
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