Con Gas, Sin Hielo

細々と続ける最果てのブログへようこそ。

「ちょっと今から仕事やめてくる」

2017年06月17日 22時16分42秒 | 映画(2017)
生きてるだけでまるもうけ。


ブラック企業や様々なハラスメントが社会問題となって久しい。

経済は悪くない。治安は世界でトップクラス。便利さに溢れた日常生活の一方で何故か人々の抱えるストレスが増大化している。

いくら働き方改革と政府が声高に叫んでみても、たいていの人は斜に構えて同調する気がまったくない。

そんな澱んだ空気の中で本当に苦しんでもがいている人がいる。白けていないで何とか彼らを救う手立てはないものかと思う。

映画はひとつの手段である。

本作は相当にベタだし、話のオチも観る前の予想と寸分も違わず逆に驚いたくらい普通だ。

しかし、それでも抜け出せない苦境から主人公が脱出する物語は、それだけでも誰かの清涼剤にはなるはずだ。

できれば映画よりもドラマの方が良いかもしれない。映画館へ行く気力さえ湧かない人もいるだろうから。

観た人にメッセージが届くという点で本作は手堅い。

特に配役に関しては、真面目で不器用そうな工藤阿須加、大阪弁のデキはともかく爽やかな笑顔は文句なしの福士蒼汰、極上のパワハラぶりを発揮する吉田鋼太郎と、とにかく分かりやすい。

過酷な労働の割りにはしっかり電車で帰宅できたり、場合によっては帰りがけに飲みに行けたりするなど、ブラック企業ではあり得ないファンタジーも散見されるが、いい話には違いない。

仕事で悩んでいる多くの人の心に希望が届けばいいと切に思う。

(65点)
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「LOGAN/ローガン」

2017年06月04日 20時15分54秒 | 映画(2017)
誰にも訪れる人生の黄昏時。


ウルヴァリンが主役のX-MENスピンオフ作品はこれが3作め。

前作の「ウルヴァリン:SAMURAI」は、観たときの気分もあってかなり高得点を付けたのだが、ミュータントがあまり出てなくてX-MENシリーズじゃないとの声もちらほらと。そう言われればそうだ。

ただ「スピンオフ」という言葉を好意的に捉えれば、本編に囚われることなく作ってもまったく問題はない。例えばアクションの裏舞台をコメディーにしたっていいわけで、ウルヴァリンシリーズはミュータントの戦いではなくウルヴァリンという一人の男の生き様を描いた物語という考え方ができる。

とは言いつつも今回は同時に、2000年の「X-MEN」から出演を続けてきたH.ジャックマンが演じる最後のウルヴァリンであり、その意味ではスピンオフでありながら本編シリーズの区切りともなっている。

これだけの人気シリーズの結末を作るのは相当勇気と覚悟の必要な仕事だったと思う。

しかし、人気がある故に連載を延々と続けるコミックや、シリーズが完結しないうちにリブートと称して仕切り直してしまう作品が散見される中で、本企画はファンに対して誠実な姿勢を示したものと評価したい。

背景はさておき、最も重要なのは映画の中身である。

舞台は近未来の2029年。長年の戦いを経てさすがのウルヴァリンの治癒能力にも陰りが見えていた。ミュータントの仲間たちも消え去り、メキシコの田舎でかつてのプロフェッサーX:チャールズと細々と隠遁生活を送っていた。

この時点でもはや華々しい特殊能力とはかけ離れている。本作のタイトルが「ローガン」であるのは、能力が衰えた結果として残った生身の人間を前面に出したものだ。

生傷がなかなか癒えないローガン、身の回りのことができない上に時々発作に見舞われるチャールズ。老いた2人の姿はあまりに痛々しい。

しかし肉体以上に痛々しいのは、彼らが意義深い人生を送ってきたと顧みることができないところにある。

あれだけ命を懸けて戦ってきたにも拘らず世の中は何も変わっていないように見える。神から与えられし能力を自分は無駄遣いしたのではないか。

これはミュータントだけのことではない。年を取って自分の死を意識したときに必ず向かい合うに違いない。

そうした閉塞的な状況に現れる一人の少女・ローラが、迷えるローガンを導くことになる。

繰り返しになるがこれはミュータントの話ではない。死を間近に控えた男がどう終末を受け入れていくかの物語だ。

ローガンとチャールズが最後に味わったひとときの安らぎ。おそらく否定的な意見も出ると推測するが、戦い続けた男の一つの終着点として十分ありだと思う。

最後のローラが十字架を斜めに立て掛け直す場面はさりげなくも印象的だった。マーベル作品なのにおまけ映像がないという点にも作り手の覚悟を見た。

(85点)
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「メッセージ」

2017年06月03日 07時21分14秒 | 映画(2017)
既成概念からの解放。


予告を何度観ても展開が予想できなかった。どう説得力を持って語ってくれるのだろうという期待を抱いて映画館へ行った。

原題は"Arrival"。何がどう辿り着くのか、邦題より格段に難解で意味深であることだけは分かる。

ある日突然12機の宇宙船が世界の各地に現れる。彼らの目的は何なのか。戸惑いパニックに陥る人類。このあたりの導入はシンプルで数多あるSF映画と大差ない。

彼らの意図を探るために宇宙船との接触の任務を受けることになったのは言語学者のルイーズと物理学者のイアン。

ルイーズは、敵対的か友好的か分からない来訪者に対して捨て身で接近を図り、彼らとの意思疎通に成功する。

受け取った言葉(表意文字)を系統立てて言語の理解を進める様子と並行して描かれるのがルイーズと娘の映像である。幼いころに一緒に遊び、時には反抗され、しかし最後に若くして娘は病魔に侵され先立ってしまう。

来訪者の目的と娘の映像の謎。この2つの焦点が結び付く終盤が大きな見どころとなる。

宇宙船への対応に追われる12の地域は考えがばらばらで、ついには最悪の選択をとるところまで追い込まれる。そのとき来訪者がルイーズに託したメッセージこそが、彼女を未知なる次元へ到達させるものであった。

4つめの次元とも言われる時間。人は時間が経つとともに老いてやがては死ぬ。戻せないものだからこそ、若返りや時間旅行といった空想に夢を描く。

でも、その概念がそもそもないものだったら?戻るのでも進むのでもない。ルイーズにとっての娘の存在。最悪の選択をする中国の司令官との対話。

展開が予想できないのは当たり前の話で、未だに概念を外して物事を考えることはできないが、時間軸が存在しなければ劇中の難題が解決できるという理屈は分かる。

なんとも頭のいい人の作る話はすごいなーと単純に感心した次第である。

それにしても、宇宙人の襲来という外圧をもってしても一つになれない世界の描写だけが妙にリアルで切なかった。最後に花を持たせたけれど、やっぱり中国、という感じ。

(80点)
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