Con Gas, Sin Hielo

細々と続ける最果てのブログへようこそ。

「クワイエットプレイス」

2018年09月29日 22時34分39秒 | 映画(2018)
家族づくりは計画的に。


北米でサプライズヒットを記録した低予算スリラーがいよいよ公開。

なにしろエンドクレジットを見ると、人間の出演者はたった6名。人間を襲うクリーチャーも、呼び出したら最後ということでほとんど姿を見せることがない。設定を徹底するほどお金がかからない巧い仕組みである。

構図は実にシンプル。音を立てた者を次々に殺戮する謎の生命体が地球に襲来。ゴーストタウンと化した世界で懸命に生き延びる家族の話である。

クリーチャーの反応ぶりにさじ加減が見られるのはご愛嬌として、巨大化した昆虫のような造形を含め、絶望感満載の世界に早々にいたたまれなくなる。

それでも家族はありったけの知恵を絞って生きようと試みる。その先の希望を見据えているような描写はないが、父母は命を懸けて子供たちを守り、子供たちも家族の一員として懸命に生きる。

無慈悲なクリーチャーと対照的な家族愛のエピソードがバランス良く散りばめられているところは、本作のもう一つの特徴であろう。

その究極が出産である。音を立ててはいけないシチュエーションでまさかの展開である。幼児のわがままを抑えるのでさえ難しいのに、産声を上げた時点でジエンドではないか。

独り家に残った状況で破水してからの下りは中盤最大の盛り上がりで、まさに怒涛の展開であった。声を潜めて逃げる、隠れる。それでも距離を縮めてくるクリーチャーに、ついに我慢の限界が訪れる。

叫び声を上げれば何が起こるかは知っている。それでも苦しい状況が続くのは死ぬよりも辛い。

母が、地獄の釜の蓋が開いたような声を発したと同時に、外で華々しく花火の音が鳴った。容易に想像できる展開ではあるけれど、離れ離れになった家族が助け合う場面には率直に感動させられた。

あまりに無敵なクリーチャーではあるが、どこかに弱点がないととても映画をまとめることができない。これも想定内だが、家族愛の中から反撃のきっかけが生まれる。

どうせなら「マーズアタック!」のように突き抜けてくれればとも思ったが、映画としては絶望を払拭するまでは描かず、一縷の希望を手にして一変した家族の表情で幕を閉じる。

最後まで家族の絆を中心に貫いた脚本であり、その辺りも実にそつがない。評判が良かったのも推して知るべしというところである。

(80点)
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「スカイスクレイパー」

2018年09月23日 00時19分21秒 | 映画(2018)
炎上は力でねじ伏せろ。


主演作が続き絶好調のD.ジョンソンが、今度は世界で最も高い超高層ビルに上った。

最先端の技術を駆使して香港に建てられたハイテクビルで火災が発生というと、かつての「タワーリングインフェルノ」を思い出すが、発火の原因は犯罪集団によるテロなので、テイストとしては「ダイハード」寄りである。

とはいえ、これら歴史に残る映画と比べるのは酷な話である。

キャラクター設定や脚本は、意外と丁寧に作られていたと思う。悪役のたたずまいは良かったし、ビルのオーナー、地上で指揮する中国人警察官など、話の展開によっては面白さが膨らみそうな気配を感じた。

前半にあった、過去の人質救出失敗や、ビルのハイテク機能紹介の場面をクライマックスに結び付けている点にも好感が持てた。

しかし、全般を通して印象に残るのは結局D.ジョンソンに尽きるというのが本作の運命である。

いくら丁寧に話を紡いでいこうと思っても、肝心なところはあり得ない腕力と偶然で切り抜けるから、お気楽映画の枠を抜け出ることはできない。

予告で飽きるくらい見ていた超高層での飛び移りジャンプが最大の見せ場であるが、今回のD.ジョンソンは様々なイリュージョンを繰り出してみせる。

ビルのセキュリティシステムに詳しいという設定が肥大化して、100階以上の高さから人の乗ったエレベータを落下させ、高速で回転するタービンの羽根の間をすり抜ける。

何よりすごいのは、あれだけ盛んに燃えていたビルが最後までその雄姿を保ったことである。9.11から17年が経ち、建物の耐火性に進歩があったのだろうか。

と、もともとあり得ないものを映す作品にこの手のツッコミをすること自体野暮な話なのだが、後から思い出せるように一応記しておこうと思う。

今回の発見は、妻役がキレイな女性だと思ったらN.キャンベルだったこと。懐かしい。まだ活躍していたとはうれしいかぎり。

(70点)
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「プーと大人になった僕」

2018年09月15日 23時37分04秒 | 映画(2018)
大人とは寂しい生きもの。


映画は、観たときの精神状態によって感じ方が違ってくるものだが、ディズニーが得意とするファンタジーであるにも拘らず、感想として真っ先に浮かんできたのが「寂しさ」という言葉だった。

子供のクリストファーロビンがプーたちに別れを告げる場面から映画は始まる。自宅から遠くにある寄宿学校へ入学するため、もう一緒に遊ぶことはできないというのだ。

「君たちのことは絶対に忘れない」。その言葉がまるでフラグであるかのように、クリストファーロビンのその後の人生は大きな波乱に揉まれ、いつしか子供のころの心を失ってしまっていた。

型にハマった設定とはいえ、現実の世界もほぼそのようなものだ。子供のころ世界のすべてと思っていたことが、実はちっぽけなものだったと何十年も経って初めて気付くのと同じことで、それ自体は良し悪しなのだけれど、本作の大人の世界は夢に乏しく、あまりにも寂しく描かれている。

家庭を後回しにして仕事に没頭するクリストファーロビンの前に、ある日突然プーが現れる。100エーカーの森の仲間が行方不明になって困ったプーは、一緒に探してほしいと頼む。

思わぬ出来事に驚く間もなく、「脳みその小さい」プーは放っておくと何をしでかすか分からない状況になっており、クリストファーロビンは仕方なく自らの手で故郷の森まで送り返すことを決める。

森まで連れて行き「じゃあ、さよなら」と言ってみるが、蘇ってきた昔の思い出を簡単に断ち切ることはできず、クリストファーロビンは遠い昔の記憶の地へ再び足を踏み入れる。

前半の寂しい現実から、夢をかなえるハッピーエンドへ。この流れを素直に受け入れられる気分の時もあるのだろうけど、少なくとも今日は後半のファンタジーのあり得なさが、より寂しさを増幅させた。

父親思いの娘と家族思いの妻が奔走し、最後は会社のお偉いさんの前で理想をぶち上げて、すべてが成就して幸せに暮らしましたとさ。もちろん否定はしないが、いま求めているものではなかった。

どうやら休みが必要なようだ。

(70点)
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「アントマン&ワスプ」

2018年09月02日 16時42分45秒 | 映画(2018)
気分転換になると思ったら、甘かった。


「アベンジャーズ/インフィニティウォー」があのような展開になった以上、あの場にいたメンバーの続篇は作れない状態になっている。

そこでこのタイミングで登場となったのがアントマンだ。「シビルウォー/キャプテンアメリカ」のときの行動がとがめられて罪に問わない代わりに自宅謹慎を言い渡されたため、インフィニティウォーには参加できなかったという設定である。

娘大好きで世界よりも家庭の平和というスコットは今回も健在。しかし、アントマンになった経験からハンク博士のとても複雑な計画に参加せざるを得ない事態になってしまう。

物の大きさが目まぐるしく変化するアクションシーンの楽しさは相変わらずなところに、新たな登場人物が増えて賑やかになった。

特にヒーローものの陰の部分のみが集積したような存在であるエイヴァが中心となって物語をかき回す。

誰かが陰謀を企てるのを止めるわけでもない、過去の私怨でサンフランシスコの街が破壊されかねなくなるまで事が大きくなるのだから凄い。

ただ、エイヴァにしても悲しい運命を背負った敵役というだけで、本作では命を奪い合う明確な勧善懲悪は描かれない。アベンジャーズの話はないの?と思いながらも、どこかほのぼのとした展開には若干ほっとしたのも事実だ。

しかし、だ。エンドロールに事件は待っていた。

正直なところ、インフィニティウォーに不在だったメンバーが、アベンジャーズを救うキーマンと思っていた。そこに結び付く希望を見たいと思っていた。

更に道が塞がっちゃったよ。どうなるんだ?これ。

(75点)
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「検察側の罪人」

2018年09月02日 15時58分10秒 | 映画(2018)
いっしょうけんめい、木村君。


SMAP解散から1年。ジャニーズ事務所に残った木村拓哉が嵐の二宮和也と競演を果たしたことで話題の本作。

本来、同じ事務所の後輩と共演するなんて普通のことであり、それが映画の宣伝材料になること自体が異様なのだが、それに観客が呼び込まれるのだから商売的には勝ちということになる。

両者が演じるのは東京地検の検事。先輩の最上は、鬼と言えるほどストイックに仕事に邁進するエリート。後輩の沖野は、新人の頃に教えを受けて以来最上を尊敬して自己研鑽を重ねる、こちらも将来のエリート候補である。

そんな二人がタッグを組んで当たることになった1件の殺人事件を巡り、二人の間に正義を巡る確執が生じることになる。

実力があり、かつ正義に対して強固な信念があるからこそ、最上は自ら進んで深い闇の奥へと分け入っていく。過剰な自信から周囲の声に耳を閉ざすようになるのは、偉い人たちが失脚するときの図式の典型だ。

尊敬する先輩の行動に疑念を抱きつつも、ついていくことしかできない沖野を変えたのは、サポート役として傍らにいた事務員の橘だった。最上に対して、率直に疑問をぶつける橘に触発された沖野は、最上が手を染めた悪事の一端を知り、彼に反旗を翻すことになる。

本当の検察の世界は知らない。しかし、思い込みで操作や取り調べを行って冤罪を招いた事例をあるという以上は、おそらく本作のような世界や、それが生まれる土壌は存在するのだろう。

それにしても、最上や沖野が生きる世界の窮屈さの描写には息が詰まる。非常に優秀で仕事に全力を賭して生きてきた最上が持つのが、心がバラバラな家族と成就できない歪んだ正義というのがあまりにも悲しい。

木村拓哉は隙のない人間役でつまらないなと思いかけたが、完璧な見かけの裏で実はすべてが破たんしているという設定が何かとても皮肉なものに感じられて、よくやるねと思えるようになった。

最後に叫び声を上げるのは沖野だが、自分の過ちに気付かなければ何も感じることはない。迷って考えることができる分だけ彼の方が未来は明るい。

(75点)
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