Con Gas, Sin Hielo

細々と続ける最果てのブログへようこそ。

「マーベルズ」

2023年11月19日 22時49分02秒 | 映画(2023)
店名を冠したヒーローは世界を突き破れるか。


アベンジャーズの中でも異次元の強さでストーリーの中心には入りづらかったキャプテンマーベル=キャロルダンバース。一人だと話が発展しないので、足枷になるような人間関係を作るという発想は大いに納得する。

チームが3人というのも、バディものや多人数グループだとキャロルの強さが浮いてしまうので妥当な設定であると思う。ひとりは、キャロルのかつての同僚の娘で現在は宇宙ステーションでニックフューリーの指揮下で働くモニカ。もうひとりは、キャプテンマーベルに強い憧れを抱く高校生のカマラ。例によって二人とも女性でColored。これも製作側の事情を考えれば妥当であろう。

キャプテンマーベルといえば猫のグースが相棒である。かわいい外見と裏腹に、口から巨大で複数に枝分かれする触手を出し、様々なものを体内に飲み込んでしまうという強烈なキャラクターであるが、本作での活躍は更にスケールアップし、見どころ満載である。

こうして一つ一つ汲み取って考察してみると、作り手はおそらく何一つ誤った判断をしていない。しかし本作、困ったことにあまりわくわくしないのである。

まず取り上げなければいけないのは、新キャラのカマラである。おそらく賛否両論だと思う。

キャプテンマーベルに憧れる普通の高校生だったはずが、マーベルズとして共に戦い出してからの戦闘力がいきなり超人的というところは最初のツッコミ。まあ、キーアイテムである腕輪の持ち主であるから選ばれた人間ってことで収められる範囲ではあるが。

あとは受け手によってうざったく見えそうなキャラクターが吉と出るか凶と出るか。本当は、彼女は観客に近い立場から出発しているので、感情移入させるくらいでもいいのだが、思い切り好意的に見て、全体の足を引っ張るような行動をとっていないから問題ない程度というのが実際のところ。

キャラクター以外では、宇宙を舞台にした活劇を作ろうとすると、何故かみんなスターウォーズになってしまうところもわくわくしない。あれはどうにかならないものだろうか。

歌でしか会話が通じない惑星・アラドナのアイデアはおもしろいが、広い宇宙に様々な性質の星がある中で、宇宙の生命体の造形が40年以上進化が見られないことには落胆する。星々の争いの構図も描き方も食傷気味である。

いずれもキャプテンマーベル=キャロルダンバースというを取り巻く事情という切り口では唯一無二なのだが、彼女の能力の特殊さに比べて展開される話に既視感があり過ぎるのである。

そういう意味では、唯一今後の期待のタネとなったのは、エンドロール途中のおまけ映像に出てきた青いキャラクターとBGMである。恒例の「〇〇は帰ってくる」のクレジットは出てこなかったが、DCみたいに成績が振るわないと続篇も怪しくなるからそこは仕方ないか。

(70点)
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「人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした。」

2023年11月11日 01時05分25秒 | 映画(2023)
夏の終わりは寂しくもあるが、楽しみでもあり。


人生には春夏秋冬があると思う。

幼児から思春期にかけてが春。働き盛りの夏を過ぎて、定年退職を控えて人生の終末を意識し出すころが秋といったところか。

「人生に詰んだ」という言葉にアンテナが反応した。希望がない未来に絶望したり、仕事の一線から退いて生きがいを失ったりするのは、50から60歳代によくある話と思うのだが、本作の主人公はまだアラサーの元アイドルである。

最近はアイドルも多様化していて必ずしも一括りにはできないが、人前に出るということは、ある程度自分はできる人間だと思うところがあったのだろうと推測する。

しかし、主人公の安希子は、アイドルを辞めてからはこれといった成功がつかめず、気がつけば収入も恋人もない生活にはまり込んでしまっていた。

心労で家から出られなくなった安希子に友人が勧めてくれたのが、赤の他人である50歳代のおっさん・ササポンとの共同生活であった。

若いのに「人生に詰んだ」と思い込んでいる安希子が、人生の秋たけなわをリアルに送っているササポンの感性に触れることで、少しずつ浄化されていく様子が興味深い。

ササポンは多くを語らない。ただ、時折発せられる短い言葉は、無駄な飾りがないからか安希子の心の中にすっと入り込んでいく。

年齢を重ねて「諦める」ということができるようになった。「家族でも親戚でもないのに」と言われて、それって関係ないよねと返す。彼の言動に深く相槌を打っている自分がいることに気が付く。

そう、ササポンは僕だ。

56歳男性にふさわしい生き方とは何か。世の中のほとんどの男性は、まだまだ自分は20年前、30年前と同じように働けると思っているのかもしれない。

でも違うような気がするのだ。現役でいることは間違いない。ただ、夏と秋は違うはずである。

今年は特に暑さが長引いて、11月に入っても夏日を記録することが多かったが、やっぱりそれはおかしい。暑い夏の服装をしていた日々から急に気温が下がったら体を壊すでしょう。

いつまでも同じ役職にしがみついて老害と陰口を叩かれるより、自分の身の丈に合った落ち着いた暮らしに移行する方が良いに決まっている。ササポンは様々な経験を経て、その境地にたどり着いたのである。

夏は楽しい。ササポンにとって安希子は夏の日差しのようにまぶしく輝いて見えた。でも、それはそれ。秋の日に夏の楽しさを求めることはない。それは「諦め」ではあるけれど、決してネガティブではなく、秋には秋の楽しさやふさわしい過ごし方を見つけるという、前向きな姿勢でもある。

いいんだよ、適当で。死にたい気持ちになったとしても、死ぬわけではないし。

ササポンを演じた井浦新は49歳だそうで、今までにない少し枯れた中年男性を違和感なく演じている。安希子役の深川麻衣は、元乃木坂46で安希子と同じベースを持つ女優。こちらも、アイドルの名残りと私生活が空回りするくたびれ感が同居する役にぴったりハマっていた。

(85点)
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「ザクリエイター/創造者」

2023年11月04日 23時40分04秒 | 映画(2023)
大悪党は誰だ?


おもしろいと思った。もともと近未来モノは好きである。世界の描写にひとクセあるとなお良い。

本作では冒頭で、過去の記録映像の形で舞台設定が紹介される。

AI技術の発展は人間の生活を豊かにするものと信じてきたが、AIはロサンゼルスに核爆弾を落とした。それ以来、米国はAIを徹底的に排除しなければならないと180度方向転換し、いまだAIとの共存を続けるアジア地方と激しいつばぜり合いを続けていた。

ロボットと言われていたころから必ずあったディストピア設定であり、意外性はないが分かりやすい。更にAIという要素を除けば、世界の分断自体は、意外性どころか現在進行形の構図と何ら変わりないことが分かる。

主人公のジョシュアは、かつて米軍所属時にAI開発の中心となっている集落に潜入し、地域社会とすべてのAIを束ねるニアマタと呼ばれる指導者を捜索し抹殺する特殊任務を担っていた。

しかし彼は当地の女性・マヤと本気の恋に落ちてしまう。そのマヤは米軍の突然の攻撃に遭い絶命し、ジョシュアは任務を完遂できずに帰国。以降、米軍はジョシュアの記憶からニアマタにたどり着く道を探っている。

本作の最大の特徴は、米国映画なのに米国がものすごい悪役に位置付けられているところである。社会派作品なら分かるが、どちらかと言えば娯楽寄りの映画でこの設定はかなり潔い。

何より上記の米軍の攻撃というのが悪役そのもの。まるで宇宙人が地球を侵略しに来たかのような巨大飛空艇(ノマド)からミサイルを照射し、集落ごと一気に焼き払うのである。

米国は、AIの技術開発が暴走したことにより人間に攻撃を加えてきたと言うが、渡辺謙演じるAIのハルンは「核爆発は人間がコマンド入力をミスしたことによるものだ」と主張する。

実際に画面に登場するAIたちは決して好戦的なわけではなく、自分たちの存在を脅かす対象に最小限の防衛をしているに過ぎず、この時点で勧善懲悪が完成する。

当然ニアマタは善の心を持っており、彼女が心血を注いで作り上げた最新のAIは、世界の争いを止めることができる能力を持つ子供の姿をしたAIであった。

「私たちはただ自由が欲しいだけ」というAIを執拗に駆逐しようとする米国。ここまではっきり見せられるとどうしようもないが、翻ってみると、似たような話が現実にもあるけど、そちらはそう単純じゃないよねってところがまた興味深い。

映画の中で「AIは機械なんだぞ、なぜ感情移入する?」という場面が冒頭と終わりの方に二度登場する。確か冒頭はジョシュアが言う方で、二度めはジョシュアが言われる方だった気がするが、観ている側も明らかにストーリーにつられてAIに肩入れしていることに改めて気づく。

映画は分かりやすく作られているからこれで正解なのだろうけれど、現実社会で簡単に答えを決めてしまって良いのだろうか。世の中だいたいのことは、イチかゼロで決められるものではないはず。

世の中、もう少し譲り合いや謙虚な心を持てないものかとつくづく思う。ただ、米国は米国で問題だけど、対抗グループがまた放っておいたら際限なく増長しそうだから困ったものなわけで。

本作でのAI開発側の中心が「ニューアジア」とされていたのは、製作側の趣味もあったのかもしれないが妙味があった。一見貧しそうな農村に先端技術が溶け込んでいる世界って、意外と将来ありそうな気がした。

ただわが国は、この手の問題で米国と異なる側に付くことはないだろう。クレジットに一切出てこなかったが、やはり米国の対抗馬となるのはあの国に違いない。そしてそのニアマタがどんな意図をもってAIの開発をするかといえば・・・。

(90点)
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「テイラー・スウィフト: THE ERAS TOUR」

2023年11月04日 00時17分12秒 | 映画(2023)
世界の頂の景色。


Taylor Swiftを知ったのはシングル"Love Story"のヒットだった。リリースは2008年、彼女が18歳のころである(ちなみにTaylorの誕生日は私と一緒♬)。

それから15年。新鋭のカントリーシンガーだった彼女は、いまや全世界のエンタメ界の頂点に君臨している。

本作は、そんな彼女が新型コロナのパンデミックを経て5年ぶりに開催したライブツアーの記録である。

ツアーのタイトルは"THE ERAS TOUR"。通常は最新アルバムのタイトルを冠してそのアルバムの楽曲を中心に構成するところを、これまで発表した10作のアルバムそれぞれをERA(時代)として区切り、衣装や演出も分けて披露するという組み立てになっている。

5年ぶりということもあるのだろう。とにかく曲の数がすごい。時間も当然長い。映画は編集しているが、それでも約3時間の上映時間となり、楽しいけど体力的にはキツい。

映画館に来ているお客さんはほとんどが女性であった。男性は自分を含めて3人。小学生と思しき女の子がお母さんと来ていたが、楽しめたかな。

映画内で映されている観客もおそらく女性が多数を占めていたと思う。彼女らは、ライブの間ずっと声援を送り、一緒に歌い、ちぎれんばかりに手を振り続けていた。

Taylorの何がこんなにも人を惹きつけるのか。その答えはこのライブを見れば分かる。

ERAが変わるごとに、いや曲が変わるごとに、エレガントだったり、パワフルであったり、静かに語りかけてきたり。すらりと伸びた手足はステージ映え抜群で、ギターやピアノを弾けば類まれなる音楽の才能を発揮する。何もかもが他の追随を許さない圧倒的な存在なのである。

個人的な所感としては、アルバム"Reputation"の辺りで、初動は良いものの持続力のないチャートアクションが見られるようになり、少し人気に陰りが出てきたかと思っていた。しかし、Scooter Braunとの騒動で過去のアルバムを再録して発売するようになったころからだろうか。再び勢いを取り戻し、今ではかつてを超える高みへと上り詰めた。

今回、Taylorの楽曲を昔から今まで一気に聴いたが、改めてソングライティングの能力に惚れ惚れする。ロックが衰退し、ヒップホップ、ラテン、Kポップが躍進する中で、彼女が紡ぐメロディーがヒットチャートの中心に居続けていることは心強い。

THE ERAS TOURは、来年の2月にいよいよ東京ドームにやって来る。予定を見ると4日連続の公演となっているようだ。この集大成のような中身ぎっしりのステージを4日連続とはTaylor恐るべし。そのパワーとともに、まだまだこの輝きが続くことを願うばかりである。

(90点)
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