Con Gas, Sin Hielo

細々と続ける最果てのブログへようこそ。

「ダラスバイヤーズクラブ」

2014年02月23日 22時08分48秒 | 映画(2014)
神が選びしカウボーイ。


この実話がおもしろいのは、偏見に満ちた主人公・ロンが一転して偏見の目にさらされる立場になる序盤の展開と、そこから懸命に這い上がる逆転の物語にある。

「懸命」と書いたが、その手法が型破りなところも魅力の一つだ。冒頭のロデオ賭博をしているときと変わらぬいかがわしい風貌で、ドラッグや添加物はいけないと説くのには思わず笑いが漏れる。

思えば、エイズという病気が広まり出したころは、迫り来る世紀末論と相まって、この病が世界を滅ぼすのではないかとまで思ったものだ。

それから20年余りが過ぎ、決して世界がこの病気を克服したわけではないが、一方でもはや「恐怖の大王」でもなくなった。

どんなものでも、はじめは正体が分からないから怖い。本作に登場する、主人公の周りの人間が、自分の周囲に災いが及ばぬよう豹変するのも無理からぬことだった。

ロンは選ばれた人間だった。試練はそれを克服できる者にしか与えられないとはよく言ったもので、彼はどん底で見つけた一筋の糸を手繰るように自らの生きる道を取り戻していく。それは以前の自分より遥かに輝いていた。

HIV陽性患者と言って思い出すのがマジック・ジョンソンだ。

NBA選手としてキャリアの頂点にいる中での突然の引退宣言。でも彼は今でも元気に活躍している。

同性愛者の病気。必ず死に至る。

そうした初期の偏見に対して、人々のマインドを変えたのがマジックならば、ロンは医学的なアプローチに革命をもたらしたのかもしれない。

完全治癒はできないけれど延命することは可能。自分がくぐり抜けた経験を元であるだけに、希望の光を求める患者たちへの説得力は絶大だ。

法廷で敗訴しなかった政府が後に軟化姿勢を見せたのは、彼の行動がいかに世の中を動かす力を持ち得たかを証明している。

この力強い物語を更に素晴らしいものに高めたのは、言うまでもなくM.マコノヒーの演技にある。

思い切り不健康な外見のアプローチにどうしても目が行くが、このロンという男性の激しい浮き沈みと、その中でも一貫して変わらない魂とでも言うのだろうか、的確に表現して観る側に刻みこんだ。

彼と並んで各映画賞を総ナメにしているJ.レト。確か彼の作品を観るのは初めてだと思うけど、Thirty Seconds to Marsのヴォーカルと聞いてびっくり。別の作品も観てみたい。

(90点)
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「キックアス ジャスティスフォーエバー」

2014年02月23日 00時13分39秒 | 映画(2014)
こんなに立派になりました。


前作の公開から3年。C.グレース・モレッツは主役を張れる女優へと成長。

従って、前作以上に彼女が華の部分を引き受けている。普通の女の子の生き方を強要され戸惑うという筋書きは、彼女に様々なコスチュームを着せるだったためとも言える。

完全なへなちょこ状態から始まった前作に比べると、今回は寄せ集めのにわかヒーローたちを含め、それなりに基礎的な戦闘力を持っている。

それより焦点を当てたのは心の葛藤である。愛する者を失った悲しみを正義の強い信念へと変えるまでの話。

少しでも弱さに支配されればたちまちダークサイドへ堕ちてしまうというのも世の常。レッドミストはマザーファッカー(!)としてキックアスへの復讐に立ち上がる。

へなちょこ感が薄れると、本当にマーベルの世界と言ってもおかしくない建付けになる。ヒーローもアンチヒーローも家庭を味わうことが許されない孤独な稼業だ。

ぎりぎりまで普通の生き方を探しつつも、分かっているけど最後はヒーローとしての自分を解放する。

耐えに耐えてきたアクションが解き放たれてから、善悪のヒーローたちが入り乱れて戦うクライマックスは、それは爽快だ。

ただ、ミンディが学校のいけすかない女子退治に使っていた下痢嘔吐誘発剤こそ、どの場面でも効果を発揮する万能武器に見えたけど。

(70点)
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「大統領の執事の涙」

2014年02月16日 21時22分57秒 | 映画(2014)
移ろいゆく歴史の評価の暫定版。


「フォレストガンプ」がそうだった。ある人物の一生を、時代の出来事を映しながら描いていく手法。

高齢の方や近現代史に関心がある人にとっておもしろいのは当然。一方で主題は家族愛を軸にしているから、これもほぼ鉄板。米国で受けるのは容易に理解できる。

不遇な幼少期から感情を抑えながら一心に働き続けた執事・セシルの生涯は、それは美談である。

年齢が増すほどツボに入り込むF.ウィテカーの演技もさすがだが、実は共演陣もかなり豪華で興味深い。歴代の大統領を名の知れた役者たちが演じるのが本作の見どころであるのは確実だ。

ただ改めて思うのは、大統領というのは因果な商売だということ。それぞれのキャラクターは作られた時点の評価で決まってしまう。

作られた時点とは、すなわち2013年、バラク・オバマ政権下ということである。

簡単な印象を言えば、アイゼンハワーは歴史、ケネディは伝説、ジョンソンとニクソンは暗黒、フォードとカーターはスルー(!)、そしてレーガンは共和党でありながらも強いアメリカを体現したことでそれなりに評価されているというところ。

人種差別に苦しみ続けた黒人の歴史は、ケネディとジョンソンによって改善され、レーガン政権時に起きたマンデラ氏の解放をもってその呪縛を解かれ、ついにオバマの大統領就任で結実するというのが、本作で描かれる大まかな歴史になっている。

分かりやすいし感動的ではある。でも個人的に少し引っかかるのは、セシルが息子のルイスと和解するところで、セシルが全面譲歩したように見えるところだ。

もちろん作品全体としてセシルの生き方を否定しているわけではない。寧ろ十分に敬意を払って描いている。

でも、セシルだって彼なりに長い間闘い続けてきたわけで、リタイア後にルイスのやり方にすり寄るようにはしてほしくなかったのが正直なところだ。

物事には、容易に結論を求めるべきでないものもある。そうしたものに対して、一部の正しいと信じ込む人たちが一方的に要求を押し付けようとすることを、これこそが唯一の正しい道と解釈されかねないのはミスリードだと思う。

あと、オバマの成果って、就任したことのほかに何があるのかというところも気になったかな。

それにしても、これまた仕方がないとはいえ邦題がベタです。

でも、狙っている層が分かりやすいし、自分が宣伝部にいてもゴーサイン出しちゃうだろうな。あの「涙」は何を指しているのか問われても、それは物語全体ですとしか言いようがないけど。

(75点)
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「ビフォアミッドナイト」

2014年02月16日 20時44分20秒 | 映画(2014)
9+9年のビフォーアフター。


続篇までが9年。その続篇までが、また9年。

これだけで稀有なシリーズなのだが、その9年ずつが、実際に経過した続篇というところが本作の興味深いところ。

また、これは個人的な話であるが、それほど年齢が離れていない主人公たちと、自分の時間の経過を重ねて見て、振り返れるのがおもしろい。というより、寧ろ感慨深い。

18年前は自分も独身で、「恋人までの距離」はシャンテに知り合いの女の子と観に行った。

ロマンティックな出会い、ゆったりとしたウィーンの景色、でも確実に刻まれる時に急かされるように会話をぶつけ合う二人。運命を感じながらも、流される選択をしなかった結末に、切なさを感じつつも余計に深い感動を味わったものだった。

それに比べると、「ビフォアサンセット」は実はあまり印象に残っていなくて、再会してやはり限られた時間を共に過ごすのだけど、30代という、成長なのか成熟なのかまだあいまいなところが結末とそのまま結びついてしまって、煮え切らない印象だけが残った。

そして迎えた四十路。

実はあの後、二人は一緒に暮らすようになり双子の女児がいるという設定から始まる。

生活のパートナーとして暮らした9年を経ているということで、今回二人のお互いへの感情が大きく変わっていることに気付く。

ロマンティックな出会いが封印された9年と、出会いを結実させてからの9年。二人の年代という要素を抜きにしても、この差は非常に大きい。

何気なく交わされる会話には、もちろん楽しい笑いも含まれる。この二人のことだからその分量も半端なく多い。

しかし、その大半は現在と将来の生活のこと。切実な話ゆえに、意見が分かれて険悪になる時間が格段に増えている。

それと同じくらい驚くのが40代、等身大の主人公たちだ。

特にJ.デルピーは、聡明で洒落たフランス娘だった18年前の面影はまるでなく、たるみきった外見を堂々と披露。天晴な女優魂である。

枯れてくる自身と増え続ける問題。ひょっとして、想い出はロマンティックなままで終わる方が良かったのか。

彼らの解決法は結局ここでも会話となる。明確な解答ではない。でも、しゃべり続ける限り、彼らはお互いが必要で彼らじゃなければダメだということがよく分かる。

いまの年齢で見ると、それなりに理想的な枯れ方で非常に共感できたのであった。

(85+5点)
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「アメリカンハッスル」

2014年02月02日 16時37分36秒 | 映画(2014)
上質な脂のノリ具合を堪能。


今年初めて映画館に足を運んだ。少しでも足が遠のくと、「観てもいいかな」くらいでは重い腰が上がらなくなってしまう。映画の記事を書いている人間でこれなのだから、配給会社の宣伝部があれこれ知恵を捻る苦労は想像してありあまる。

時は既にアカデミー賞レースが本格化。今回10部門と圧倒的な支持を受けている本作。

監督ももはや常連と言っていいD.O.ラッセルだから、それは期待するなというのが無理な注文だ。

さらに期待値を高めるのは俳優陣だ。客を呼ぶというよりも、いまノッてる面子をそろえた感じがいい。役の中での騙し合いと並行して、役者同士のつばぜり合いがびしびし伝わってくる。

登場人物は、誰もが上昇志向で完璧を目指しつつも、弱点をさらけ出し結局は突き抜けることができていない不完全な人間。冒頭のハゲ隠しは象徴的であり、ここを長く映すことによってスリリングでありながらどこか滑稽な空気が最後まで崩れない。

個性的な役をノッてる役者が生き生きと演じていて目移りがするほどなのだが(オスカーノミネートが多く出ているのも納得)、個人的に今回点を稼いだと感じたのはJ.ローレンスだった。

「世界にひとつのプレイブック」でワケあり女性を演じた経験はある(というより賞を総ナメにしてしまったわけだが)が、今回はひと回り大きくなって、もはや20代にして風格さえ感じるほどなのには驚くばかりだった。

年齢も実績もはるかに上回るC.ベイル演じる有能な詐欺師アーヴィンがどうにも手こずってしまうという設定に説得力を持たせているのは彼女の功績だと思う。

登場人物のある種均等な不完全さは善と悪の区別もあいまいにしていて、駆け引きの行方も容易に想像がつかないという効果も生んでいる。

特に標的にされた市長が以外にも好人物だったことに驚いた。贈賄は確かに悪いことだが、あの時代は政治的によくやられていたことだったのだろう。FBIの方がよほど薄汚い。

よく練られた物語を旬の俳優が演じるだけで満足な上に、時折挟まれる70年代の音楽も味わいのある空気づくりにひと役買っている。ぜいたくな作品だと思う。

(90点)
コメント (2)
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