神が選びしカウボーイ。
この実話がおもしろいのは、偏見に満ちた主人公・ロンが一転して偏見の目にさらされる立場になる序盤の展開と、そこから懸命に這い上がる逆転の物語にある。
「懸命」と書いたが、その手法が型破りなところも魅力の一つだ。冒頭のロデオ賭博をしているときと変わらぬいかがわしい風貌で、ドラッグや添加物はいけないと説くのには思わず笑いが漏れる。
思えば、エイズという病気が広まり出したころは、迫り来る世紀末論と相まって、この病が世界を滅ぼすのではないかとまで思ったものだ。
それから20年余りが過ぎ、決して世界がこの病気を克服したわけではないが、一方でもはや「恐怖の大王」でもなくなった。
どんなものでも、はじめは正体が分からないから怖い。本作に登場する、主人公の周りの人間が、自分の周囲に災いが及ばぬよう豹変するのも無理からぬことだった。
ロンは選ばれた人間だった。試練はそれを克服できる者にしか与えられないとはよく言ったもので、彼はどん底で見つけた一筋の糸を手繰るように自らの生きる道を取り戻していく。それは以前の自分より遥かに輝いていた。
HIV陽性患者と言って思い出すのがマジック・ジョンソンだ。
NBA選手としてキャリアの頂点にいる中での突然の引退宣言。でも彼は今でも元気に活躍している。
同性愛者の病気。必ず死に至る。
そうした初期の偏見に対して、人々のマインドを変えたのがマジックならば、ロンは医学的なアプローチに革命をもたらしたのかもしれない。
完全治癒はできないけれど延命することは可能。自分がくぐり抜けた経験を元であるだけに、希望の光を求める患者たちへの説得力は絶大だ。
法廷で敗訴しなかった政府が後に軟化姿勢を見せたのは、彼の行動がいかに世の中を動かす力を持ち得たかを証明している。
この力強い物語を更に素晴らしいものに高めたのは、言うまでもなくM.マコノヒーの演技にある。
思い切り不健康な外見のアプローチにどうしても目が行くが、このロンという男性の激しい浮き沈みと、その中でも一貫して変わらない魂とでも言うのだろうか、的確に表現して観る側に刻みこんだ。
彼と並んで各映画賞を総ナメにしているJ.レト。確か彼の作品を観るのは初めてだと思うけど、Thirty Seconds to Marsのヴォーカルと聞いてびっくり。別の作品も観てみたい。
(90点)
この実話がおもしろいのは、偏見に満ちた主人公・ロンが一転して偏見の目にさらされる立場になる序盤の展開と、そこから懸命に這い上がる逆転の物語にある。
「懸命」と書いたが、その手法が型破りなところも魅力の一つだ。冒頭のロデオ賭博をしているときと変わらぬいかがわしい風貌で、ドラッグや添加物はいけないと説くのには思わず笑いが漏れる。
思えば、エイズという病気が広まり出したころは、迫り来る世紀末論と相まって、この病が世界を滅ぼすのではないかとまで思ったものだ。
それから20年余りが過ぎ、決して世界がこの病気を克服したわけではないが、一方でもはや「恐怖の大王」でもなくなった。
どんなものでも、はじめは正体が分からないから怖い。本作に登場する、主人公の周りの人間が、自分の周囲に災いが及ばぬよう豹変するのも無理からぬことだった。
ロンは選ばれた人間だった。試練はそれを克服できる者にしか与えられないとはよく言ったもので、彼はどん底で見つけた一筋の糸を手繰るように自らの生きる道を取り戻していく。それは以前の自分より遥かに輝いていた。
HIV陽性患者と言って思い出すのがマジック・ジョンソンだ。
NBA選手としてキャリアの頂点にいる中での突然の引退宣言。でも彼は今でも元気に活躍している。
同性愛者の病気。必ず死に至る。
そうした初期の偏見に対して、人々のマインドを変えたのがマジックならば、ロンは医学的なアプローチに革命をもたらしたのかもしれない。
完全治癒はできないけれど延命することは可能。自分がくぐり抜けた経験を元であるだけに、希望の光を求める患者たちへの説得力は絶大だ。
法廷で敗訴しなかった政府が後に軟化姿勢を見せたのは、彼の行動がいかに世の中を動かす力を持ち得たかを証明している。
この力強い物語を更に素晴らしいものに高めたのは、言うまでもなくM.マコノヒーの演技にある。
思い切り不健康な外見のアプローチにどうしても目が行くが、このロンという男性の激しい浮き沈みと、その中でも一貫して変わらない魂とでも言うのだろうか、的確に表現して観る側に刻みこんだ。
彼と並んで各映画賞を総ナメにしているJ.レト。確か彼の作品を観るのは初めてだと思うけど、Thirty Seconds to Marsのヴォーカルと聞いてびっくり。別の作品も観てみたい。
(90点)