Con Gas, Sin Hielo

細々と続ける最果てのブログへようこそ。

「ルーム」

2016年04月17日 01時53分48秒 | 映画(2016)
種をまき水をやり、花が咲くのを待つように。


どうしてもあの事件を思い起こさずにはいられない。

近くて濃密な母子の情景から始まる物語は、ほどなく二人の空間を形成する異様な経緯を浮かび上がらせる。

息子・ジャックは母親の「思いやり」をずっと信じていた。毎日暮らす狭い空間が世界のすべてだと。しかし、5歳の誕生日を境に彼は深刻な事実を知らされる。

観客が観る切り取られた画面も同様で、ジャックと同じ目線で映画の全容を明かされる作りになっている。

こうして否応なしに画面に引き込まれた後に、ジャックは命を懸けた使命を与えられる。それは幼い身にはあまりにも過酷なものであったが、母親の命を懸けた愛情に応えようと彼は立ち向かう。

正視できないほどの緊迫感と同時に、突然彼の眼前に大きく開けた空が飛び込んでくる。

本作の本当の見どころはここからである。特異な環境で育った彼が新しい世界とどう折り合いをつけていくのか。周りはどう接するのか。

ジャックを演じた子役が素晴らしい。「巧い」と言うより、この難しい役を説得力を持って演じているのが「すごい」。狭い空間で二人きりのときに母親に甘える姿も、広い世界に飛び出て、好奇心を抱きつつも少し怯えている姿も、自然なのである。

母親・ジョイ役のB.ラーソンはアカデミー主演女優賞を獲得。監禁された娘であると同時に、子を守る使命を持った母親であるという、これまた難しい役であった。

人生の大切な時間を奪われた理不尽さに屈せず、わが子に愛情と教育を注ぎ続けたジョイ。5年の月日はジャックの根幹をしっかりと築き、彼は新しい「ルーム」での出会いや発見を的確に吸収することに成功する。

かつて暮らした空間が意外なほど狭かったことに驚くジャック。日々の暮らしの中で確実に成長した彼にとって、そこは忌まわしい過去でも、戻る必要のある場所でもなかった。

特別な状況を舞台にしつつ、人間の成長の本質を的確に分かりやすく示している。全体に優しい色調だが、そこに前半の「ルーム」の殺伐さがインパクトとして加わり記憶に深く刻まれる作品となっている。

(80点)
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「バットマンVSスーパーマン ジャスティスの誕生」

2016年04月17日 00時25分31秒 | 映画(2016)
横綱・スーパーマンと関脇・バットマン。


嫌な予感が限りなく強かったので、保険としてTOHOシネマズ新宿でのMX4D鑑賞初体験というをオプションを付加したが、その選択は間違いではなかった。

タイトルのインパクトは申し分ない。ネームバリュー抜群の2者による異種格闘技戦。しかも予告等で現れる映像は、あのスーパーマンがまさかの悪役?というような疑惑を呼び起こすもの。そんなはずがないことは分かってはいるけれど。

製作総指揮に「ダークナイト」を大成功に導いたC.ノーランの名前が挙がる一方で、監督は「マンオブスティール」のZ.スナイダー。どちらの色が強く出るのかで大きく印象が変わるのは必然。

冒頭はバットマンの誕生に尺を割く。生まれるのは何度めになるだろう。現代のダークヒーローの元祖だけにいくら繰り返しても荘厳さは色あせない。

その後はスーパーマンの話が大きくなる。悪役スーパーマンを作り上げる謀略を練るのは、人間でありながら宿敵として君臨するレックス・ルーサーだ。かつてG.ハックマンが時にコミカルに演じた役を担うのは、なんとJ.アイゼンバーグ。見た目こそ違うが、クセのある役はお手の物と言わんばかりに独自のレックス・ルーサーを形作っていた。

と、好意的な評価はここまで。

「マンオブスティール」の記事でスーパーマンを「破壊神」と表現したのだが、その激しさは人類を引かせるほどであった。それはまったく同感なのだけど、その設定がある以上バットマンは力ではまったく渡り合えない。

対決を成り立たせるには、スーパーマンを徹底的に受け身にして、攻撃側が弱点であるクリプトナイトを使うか、愛する人を人質にとるくらいしかない。ヒーローであるバットマンは後者を選べないから、誤解によってクリプトナイトを使う展開にしなければならない。

冒頭に誕生を描こうとも、スーパーマンの力が強大過ぎるかぎり本作のバットマンは添え物になってしまう。簡単に言えば、これは「マンオブスティール2」ということだ。

ワンダーウーマンが登場してしばし目を奪われたが、これもまた超人対決を助長させバットマンの所在をなくすものであった。ジャスティスリーグの詳細は知らないが、超人リーグにしないと。

往年の一線俳優が枯れた姿で出ているのも悲しかった。女性議員役のH.ハンター、リトル・ロマンスがもはやロートルの域に差し掛かったD.レイン、そして前作で何故か竜巻に突っ込んで行ったあの方も謎の降臨。

4DXも一度体験すればいい程度のものだったし、世の中にお金が回ることだけが救いという作品だと思う。

(50点)
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「暗殺教室 卒業編」

2016年04月13日 23時08分35秒 | 映画(2016)
感極まらない卒業。


前作では、意外と楽しめたという感想を書いたが、1年経って作られたこの続篇は、評価した要素をことごとく否定する出来栄えになっていた。

まず、見慣れたということもあるかもしれないが、「殺せんせー」の魅力が発揮されていない。話の辻褄を合わせる必要はあっても、過去の場面の描写に時間をかけ過ぎである。

「殺せんせー」の声あてが二宮和也だったというサプライズも今回は当然なく、最強の殺し屋という似合わない役を演じるのを延々と見せられるだけである。

3年E組の生徒たちや新たな刺客たちもまったくの不発。そもそも「殺せんせー」に直接立ち向かったのが、前作のラストで隠し通していた触手をチラ見させていた茅野カエデと、触手の生みの親でもある柳沢くらいだったし、最初だけ勢いが良くて雑魚キャラ級の結末に至る流れはご都合主義にもほどがある。

雑魚キャラ一掃は前座として、先生と生徒の対峙という教育的テーマが盛り上がれば良かったのだが、こちらの流れも何やらぱっとしない。

落ちこぼれ扱いされた生徒たちが一つの目標への努力を通して大切なものを体得するという王道の過程が、よく分からない高レベルな科学知識を使った薬づくりだったり、生徒同士の決闘だったり、感情移入しづらいエピソードで綴られてしまっているのは致命的であった。

もちろん感動できた人もいるのだろうし、ムキになって否定する気もないが、この類の作品が量産される傾向については再考すべき段階に来ているのではないか。

(45点)
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「マネーショート 華麗なる大逆転」

2016年04月13日 23時05分13秒 | 映画(2016)
持続可能な発展なんてありえない。


気持ちは分からないでもないが、この邦題はいただけない。

経済の映画だから原題にはない「マネー」を被せて、エンタメ要素を強調しようと「華麗なる大逆転」という副題を付けた。

確かに劇中では、馴染みの薄い経済用語をジャンルの異なる有名人にくだけた解説をさせるなど娯楽へ寄せた動きはあるが、本線は極めてシビアな話である。なにしろ一生の一度の賭けに勝った男たちが誰一人として笑顔を見せないのだから。

冷静になれば誰だって理解できるバブルの崩壊は逆転でも何でもない。ましてや、B.ピット演じる伝説のトレーダー・ベンが指摘したように、多くの人間が財産を失う事態を喜ぶなど不謹慎であり、「華麗」と形容する見識に至っては理解不能である。

但し、邦題問題を横に置けば、本作は非常に興味深い事象に満ち溢れた物語である。

もちろん経済用語を理解しているに越したことはないが、十分な理解がなかったとしても、世の中にべっとりとこびり付いた理不尽や不条理が次第に姿を見せる展開には戦慄を覚える。

そんな巨大な魑魅魍魎に対して、出自も個性も異なる俳優が立ち向かうところも見どころだ。

中でも、S.カレルは昨年のオスカー候補になった「フォックスキャッチャー」からの神経質路線を継いだような怒れるヘッジファンドのマークを好演している。彼の怒りこそが本作の柱と言ってもいいと思う。

繰り返すが、この話は逆転劇ではない。経済界・金融界の単なる自滅である。主役の男たちは真実を見抜き、真っ直ぐ追究したに過ぎない。

驚くべきは、全世界の大多数の人々がこの真実に気付かなかったか、あるいは敢えて目をつぶっていたということである。

S.ゴメスが起用されたたとえ話の「外挿バイアス」はかくも恐ろしい。

この仕組みが崩壊するはずがないという思いが不磨の大典と化し、メガバンクと格付け会社が手を組んで保身に腐心した描写は衝撃だった。ひと時代前の話とはいえ、現存する組織に違いないのだから。

彼らは問われたら答えるだろう。組織は生まれ変わったと。

しかし、このバイアスは一企業や特殊な業界だけの話ではない。

災害はいつか来るかもしれないが、今日来ることはない。うちの子供、うちの会社に限って、そんな不祥事を起こすはずがない。

周りを見回せば、紛争、食糧、エネルギーなど解決できない問題が山積みだ。薄々限界を察知しながらも、自分の手に負えるものではないし、自分が生きている間持ちこたえるならいいかと、誰もが目を背けて先送りしているのだ。

問題が起きる度にマークのように正直に怒ることは正しいかもしれないが、それでは間違いなく幸せにはなれない。

結局は、自分の中では怒りと妥協の折り合いをつけながら、いつ自分を取り巻くバブルが弾けても生き抜く覚悟を持っておくしかないということだ。

最後にもう一つ苦言。劇中でできないのは仕方ないかもしれないが、パンフレットにはもう少し経済用語の解説があってもいいはず。ネットで調べれば分かる範囲のものではあるけれど。

(80点)
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