Con Gas, Sin Hielo

細々と続ける最果てのブログへようこそ。

「エル ELLE」

2017年08月27日 16時18分57秒 | 映画(2017)
エッジな人々。


決して「エッチな」ではない。ただPG12の本作は、冒頭から中年、というより初老にさしかかろうかという女性が何者かにレイプされる衝撃の場面から始まる。

被害者のミシェルは、事の後に何事もなかったかのように淡々と片づけをし、医者のチェックを受け、自らが社長を務める会社の指揮を普段通りに執る。

少しずつ登場する彼女の周りの人物とのやりとりを通してミシェルの本質が明らかになっていく。彼女はただの被害者ではなかった。

本作が人の目を引き評価される大きな理由はこのミシェルの人物設定による。はじめに見せた完全な被害者という事実をことごとく裏切る周囲との関係。

血縁者も会社の社員も隣人もミシェルとの関わりの中に何かを抱えている。一触即発の環境を事件の後に滲み出すことで一本のサスペンスとして完成させる一方で、このミシェルが果たしてどうなっていくのかという別の関心を生み出すことにも成功している。

アカデミー主演女優賞にノミネートされたI.ユペールの体を張った演技は評判通りで、ミシェルという一種特異とも言える女性に現実感をもたらしている。

レイプ事件の真相は意外というほどのものでもない。しかし興味深いのは、事件によってあぶり出された周囲の人間である。

上では、「ミシェルとの関わりの中に」何かを抱えていると書いたが、実は誰もがミシェルとは関係なく問題を抱えていて、ぎりぎりの中で自己を保って生きていることが明らかになっていくのだ。

いい年をして年下の男性にうつつを抜かす母、家庭を持ちながら浮気に駆り立てられる同僚、自立できずに惚れた女の尻に敷かれる息子、仕事に不満を抱き陰で発散させる社員。

よろしくないと薄々気付きながらも抜け出せないけれど、完全に道を踏み外すわけでもない。これって全然特別じゃない。そしてそれはミシェルにも当てはまる。

レイプ事件でかき混ぜられた人間関係は、唯一完全に道を踏み外した者だけが退場する結果で解決する。なんだかんだで踏みとどまり、ミシェルたちは再び前へ進んで行く。これからも幅の狭い渡り橋を歩むのかもしれないけれど、誰の人生もそんなものと考えれば意外と悲観的な気分にはならない。

(80点)
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「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」

2017年08月19日 23時06分01秒 | 映画(2017)
夢がもっとも輝きを放つ年代。


はじめは正直なところ少し距離感を感じていた。キャラクターの絵があまり好みではなかったし、中学生にしては大人びているヒロイン・なずなには何だかめんどくさいという印象を持つくらいだった。

しかし、主人公・典道がなずなの境遇に気付いて懸命に奔走し始めると、急速に話に求心力が出てきた。

ひそかに憧れていたクラスメイト。偶然に訪れた二人だけの空間。なんであのとき何もできなかったのかと後から思うのは、思春期のあるあるだ。

実際は同じシチュエーションに再び立ったとしても、中学男子にはこなす実力などはない。

そんな動かしがたい常識を一変させるのが「不思議な玉」である。

ファンタジーは一つ間違えると観ている方が醒めてしまう恐れがあるのだが、そこはアニメ特有の力で引っ張ってくれる。

普通の町の日常が美しく描かれていることに加えて、花火や電車や海など幻想的で印象に残る場面が多く、テレビドラマが先だったとは信じられないほどであった。

特に題名に出てくる花火が持つ役割には唸った。「不思議な玉」で書き換えられた世界が実は虚構であるという、夢があふれる一方でとてつもなく切ない情景を見事に表現している。

幼いながらもどこかで気付いている。この夢は叶いっこない。それでももう少しだけこの夢を見させてほしい。

なずなの笑顔は典道の幻想だったのかもしれない。そもそもなずなという女子の存在自体があったのかどうかも分からないくらいだ。

しかし、映画の中で繰り広げられる夢のような時間と経験はとても儚くて美しい。成長すると自由に夢を見られなくなるものだけど、岩井俊二は大したものだと改めて思った。

声あての広瀬すずはちょっと癖が強くて彼女以外の誰でもなかったけど、劇中で歌った「瑠璃色の地球」は出色ものだった。こんな名曲だったのかと初めて気付かされた。

(85点)
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「スパイダーマン:ホームカミング」

2017年08月12日 09時49分52秒 | 映画(2017)
スパイダーマンVSバードマン。


マーベル社のアベンジャーズにDCコミックスのジャスティスリーグ。グループ制への移行という経緯は、次元は異なるが日本のアイドル事情と重なっていて興味深い。マーケティング戦略として普遍的な何かがあるのだろう。

今世紀初めにシリーズが始まった「スパイダーマン」は、蜘蛛の糸を操って大都会を駆け巡るダイナミックな映像と、悩みを抱えながら高校生活を送る主人公ピーターパーカーの成長の物語がバランスよく融合された作品だった。

記憶に残る場面が多くあり、その年のMTVアウォードでJ.ブラックがパロディーを演じたり、ユニバーサルスタジオのアトラクションに採用されたり、数多く制作されたヒーローものの中でもエポックメイキングと呼べるシリーズであった。

そんなスパイダーマンが「アメイジング」シリーズを経て、今回「アベンジャーズ」の一員として新たにリブートされることになった。

今回のピーターパーカーは、T.マグワイアやA.ガーフィールドが演じた役と違って、冴えないオタク系ではあるものの暗さが薄まり、フットワークが軽い、悪く言えば思慮が足りない軽率な少年として描かれている。

主役に抜擢されたT.ホランドは、背が低く身軽という点では「BKTF」のM.J・フォックスを彷彿とさせる。

リブートでありながら、既に「シビルウォー/キャプテンアメリカ」で登場を果たしているため、今回のスパイダーマンに誕生物語は一切出てこない。

これまでのシリーズと一線を画し、T.ホランドが演じる軽めのピーターパーカーを前面に出す意味でも、この選択は正しいと思う。ただ、ピーターが自撮りした映像として「シビルウォー」での一連の経緯が流される編集は復習にもなって面白かったが、アベンジャーズ初心者には「?」だったかもしれない。

ピーターの人物設定以外で本シリーズが持つもう一つの大きな特徴は、言わずもがな「アベンジャーズ」の存在である。特にシビルウォーの後にリーダーとして君臨するトニースタークが、時には目標として、またある時には大きな壁としてピーターの前に立ちはだかる。

今回もR.ダウニーJr.はしっかりと仕事しているし、ひさしぶりの人も登場して、以前からシリーズを追っている観客を喜ばせてくれる。

変化した部分に加えて、スパイダーマン不変の持ち味である空中やビル街を疾走するアクションは健在。暗い中での戦闘は例によって分かりづらいが、まあ許容範囲か。

敵役は建設業の社長トゥームス。アベンジャーズの戦闘で破壊された街の再建事業に当たっているときに、突然スタークから理不尽に仕事を奪われる。トゥームスは工事中に採取した宇宙がれきを使って兵器開発の事業を手掛けるようになる。

正義のヒーローでありながら傲慢な金持ちの一面を持つスターク。かたやトゥームスは違法な兵器開発や売買をするものの、根底にあるのは家族や従業員の生活を守ること。決してモンスター化することはない。

ピーターが高校生だけに世界征服を企む悪と戦う構図が成り立ちにくい中で、日常の憎悪から等身大の敵役が誕生する設定が巧いし、スタークを含めて誰もが善悪の両面を持っている世界観に好感が持てる。

加えてM.キートンはかつてのバットマンである。たたずまいだけでスタークやピーターへ語り掛けるものを持っているように感じた。

というわけで相変わらずよくできているマーベル作品ではあったが、欲を言えば学校生活の部分がもっと楽しく描かれるともっと良かった。

恋の相手であるリズとの関係が少し雑で、なぜ彼女がピーターに惹かれてあれだけ理解があったのかが落ちてこなかったし、他にもキャラクターが立っている人物がいるにも拘らずあまり使いこなせていない感じがした。

いずれにせよ、スパイダーマンは帰ってくるそうなので、次の冒険に期待したい。

(80点)
コメント (2)
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「ザマミー/呪われた砂漠の王女」

2017年08月05日 21時11分57秒 | 映画(2017)
呪われたのは王女ではなくトム。


世の中は夏休み真っ盛りなのだが、どうにも映画館まで足を運んで観たいと思うような映画がない。

いわゆる「大作」や子供向け作品が増える時期としてありがちではあるのだが、あまり映画館から離れると予告篇の情報も入らなくなってしまうので、ひとまず何か観ることにした。

この"The Mummy"。事前情報として持っていたのは、まずユニバーサル映画が新たに立ち上げた「ダークユニバース」プロジェクトの第1弾であるということ。

主演に天下のT.クルーズを起用しているのだから、それはもうマーベルに追い付け追い越せという気合が伝わってくるというもの。

しかし、北米興行ではマーベルに後れを取っているDCコミックスの「ワンダーウーマン」の後塵を拝してしまったらしい。ひょっとして期待外れなのか?という不安が募る。

更にもう一つ。本作はかつて大ヒットした「ハムナプトラ」シリーズのリブートでもあるということ。あれも原題は"The Mummy"で当時は「ハムナプトラって何?」と思ったものだ。

もう20年前になるのだろうか。「X-MEN」や「スパイダーマン」が世に出る少し前であり、どちらかと言えば「レイダース」あたりからの冒険活劇に連なる系譜の作品だった記憶がある。

果たしてそれを現代の潮流を意識した中でどう作り変えたのかが関心の中心であった。

リブートと言いながらも、本作は登場人物もストーリーもまったく異なる。古代エジプトのミイラが蘇るという点だけだったら、わざわざリブート扱いする必要ないのにと思ったほどだ。

T.クルーズ演じるニックは、軍隊に属しながら行く先々で盗みを働いては売りさばいて小銭を稼ぐという、ヒーロー像とは離れた小物感漂う男。

そんな彼が古の宝と思い手を出してしまったのが、かつて王位を巡って邪悪な悪魔に魂を売った王女アマネットのミイラであった。

アクションのテンポは悪くないし、T.クルーズのいつもと違った役柄もそれなりに新鮮味を持って見られる。途中で幽霊になってしまう相棒ヴェイルのキャラクターも良い。

ただ、やはりもう一つ何かが足りないという印象は拭えない。それはおそらく本作の看板となるシーンがないことではないだろうか。

「ハムナプトラ」と言えば、砂漠の砂が顔になって襲ってきたり、洞窟の奥からスカラベという虫がうじゃうじゃ湧いてきたり、今でも思い出せる象徴的なひとコマがある。

映像技術が進んできた中で見たこともない斬新な映像を作るというのは相当難題ではあるが、そこを超えてこそドル箱シリーズへの道が拓かれるというものである。

ヒロインにあまり惹かれなかったのも残念な要素である。アマネットはミイラだから素顔が美女であってもどうにもならないし。

賛否両論はあるかもしれないが、R.クロウのジキル博士の活躍に期待するのが手っ取り早いのかもしれない。今後「ダークユニバース」ではドラキュラやフランケンシュタインなど誰もが知っているモンスターが登場する作品を作っていくらしい。

もはやauの三太郎のノリだが、それならそれであっと驚くようなものを見せてほしいところである。

(70点)
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