Con Gas, Sin Hielo

細々と続ける最果てのブログへようこそ。

「星屑の町」

2020年02月24日 13時47分01秒 | 映画(2020)
その星は輝き続ける。


子供のころ、日曜日は必ず家族でドライブに出かけた。BGMはカーステレオから流れる内山田洋とクールファイブ。特にクールファイブのファンだったわけではなく、それしかカセットテープがなかったのだ。

小学生の兄弟が「噂の女」なんて曲を元気に歌う姿は、いま思えばシュールかもしれない。でも昔は音楽チャートに必ず演歌が入っていて、老若男女みんなが知っていて、歌詞の意味など関係なく誰もが口ずさんでいた。

数十年の時が流れて、昭和の歌謡曲は一つのジャンル的に扱われるようになった。そんな曲ばかりが流れるコンセプトのお店ができて、結構人気を集めているという話も聞く。日常で触れる機会がなくなった分、若い人たちには新鮮に映るのかもしれない。

25年前にラサール石井小宮孝康らが結成したユニット「星屑の会」。「笑ってホロリとする作品」を世に送る目的で作られたのが、売れないコーラスグループを巡る人間ドラマを描いた演劇「星屑の町」シリーズである。

何度となく映画化の話があったがなかなか実現せず、舞台の方は2016年公開の第7弾をもって完結した。今回は、改めて舞台版第1作のストーリーをベースに書き下ろした新たな脚本で臨んだ新作である。

時代は変わっても「笑って泣ける」は演劇の王道だ。「男はつらいよ」シリーズはその真骨頂と言えるが、本作の主人公たちも欠点だらけですぐに何かをやらかす。それでもどこか憎めなくて、最後は逆に彼らの魅力に惹きつけられてしまう。そんな骨格を持っている。

25年間演じ続けてきたメンバーだけあって、一瞬見ただけで「山田修とハローナイツ」というグループの歴史や立ち位置を感じ取ることができる。「超」が付く安定感の演技に観る側は依存してしまっていい。

今回そこに「台風の目になってほしい」とヒロインの役をオファーされたのがのんこと能年玲奈ちゃんである。ベースとなったシリーズ1作めでも登場する歌手志望の女の子の役を彼女向けにアレンジした脚本が作られた。

彼女にとっての実写映画の出演は「海月姫」 - Con Gas, Sin Hielo以来なんと6年ぶりだそうである。それでも、キラキラとした瞳で、少し猫背っぽく、東北弁を畳みかける前向きな女の子を演じる姿を見ると、時間の経過を忘れてしまいそうになる。とっておきの宝箱を久しぶりに開けたような、そんな気持ちにさせられた。

現在は「あーちすと」として活動を続ける彼女だから、もちろん音楽は相性が良い。ハローナイツに合流してステージに立つと、今度はカラフルな衣装を着こなしてモデルとしての魅力を全開させる。

彼女が加入してから売れ始めたという説明は劇中でされないが、温泉旅館の宴会場からテレビのスタジオ収録と景色が変わる様子を映すだけで、その変化は雄弁に語られていた。

今回、幸運にも舞台挨拶に立つ彼女の姿をかなり近い距離から見ることができた。映画の中に負けず劣らず輝きが半端なかった(携帯の画像はいまひとつだけど)。



最近よく聞く「神対応」「~過ぎる」という形容を自分で使うことは滅多にないが、彼女の姿にあは他の存在を寄せつけない「神々しさ」があった。スポットライトの光が後ろのスクリーンに投影するシルエットの輪郭でさえ完璧だった。

最近はキレイな女性が増えたからある程度はそれで満足できてしまうところがあるけれど、やはり彼女には多様なステージで輝いてほしいし、その姿をもっと見てみたいと切実に思った一日だった。

(80点)
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「リチャードジュエル」

2020年02月11日 13時19分44秒 | 映画(2020)
正義を背負うリスク。


アトランタオリンピックというと24年前の話である。人々は9.11を知らないし、携帯電話もそれほど普及していなかったから、世の中の景色は現代とは隔世の感がある。

それでも、本作がスポットを当てたテーマは現代社会にも通底する、というより更に深刻化している問題である。

オリンピックの関連イベントとして開かれていた音楽フェスの会場で爆発事件が発生する。警備員として勤務していたリチャード・ジュエルは、いち早く不審物を発見し観客を避難させたとして、メディアから正義のヒーローと祭り上げられる。

しかし事態は一転、FBIがリチャードを容疑者に指定していることが伝えられると周りはバッシング一色となる。リチャードに逆転の目はあるのか。

事件を捜査するということはまだ事実が確定していないということ。だからこそ「推定無罪」という言葉があるのに、ちまたの噂は正反対の方向に広がっていく。

この人は怪しい、性格が悪そう、こんなことを言ってたよ。推測と切り取り。時には意図的に空気を操って群集心理を誘導していく大きな力。リチャードの事件は、普通に暮らしていてもそうした力の標的になりうる恐怖を見せてくれる。

うがった見方をすれば、この映画だってどこまで事実なのかは分からない。映画だから一定の脚色が含まれていることは想像に難くない。映画の中でえん罪が形成されていく過程はあまりにも杜撰だ。

ちょっと調べれば分かる話なのに何故リチャードを容疑者に仕立て上げたのか理解に苦しむし、FBIとメディアの繋がりもステレオタイプ過ぎて、この話をまともに受け取っていいのだろうかと斜に構えて観ていたというのが正直なところだ。

そんなわけで、結局リチャードは証拠不足で無罪になるもののもう一つ爽快感には欠ける結果となったのは残念であった。残念と言えば、注目を浴びるためなら何でもするとリチャードを陥れる新聞記事を出したメディアが何のおとがめもないというのにも不満が残った。真実は必ずしも劇的ではないということなのかもしれないが。

リチャードが無罪となった要因としては、相手がFBIの支局だったということも挙げられるかもしれない。これが国家の中枢だったら杜撰だろうが何だろうが握りつぶそうとパワーゲームを仕掛けてきたであろうに違いない。現実にそういうニュースは世界中でちらほら聞かれる。そう思うとやはりこの映画が描く世界は恐怖だ。

リチャードは言う。「自分を取り調べるのはいいが、今後同じように爆発物を見つけた警備員は、リチャードの二の舞になりたくないと任務を果たさなくなるだろう」

事なかれ主義。触らぬ神に祟りなし。こうした空気は世界中に蔓延している。もちろん自分だって例外じゃない。どうすれば違う流れを作れるのか。明快な答えがない難しい問題だ。

リチャードを支える弁護士でS.ロックウェルが好演。「ジョジョラビット」 - Con Gas, Sin Hieloといい、最近かっこいい役が急増中である。

(70点)
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「イントゥザスカイ 気球で未来を変えたふたり」

2020年02月01日 23時52分26秒 | 映画(2020)
実話から着想を得たアトラクション。


冒頭に"based on~"の下りが登場する映画は数多くあるが、史実との距離感は千差万別だ。

本作は、ガス気球での最高高度到達記録を更新した二人の男性のうち一人を女性に置き換えて、彼女を中心に物語を組み立てている。

これは一つの手法であり特に意見を言うつもりはない。現代的な見せ方としてはむしろ堅実とも言える。

ただ、設定がかなりのフィクションであるという感覚が全体に転移してしまい、個人的には、主人公たちに危機が迫る場面を手に汗握って観ていた一方で、この部分は実際とはまったく違うんだろうなと醒めている自分も同時に存在するという状況であった。

気球に乗るのは女性飛行士のアメリアと気象学者のジェームズ。フィクションだからキャラクター設定に自由度が増える。やはり娯楽映画として正しい選択だったのであろう。

演じるのはF.ジョーンズE.レッドメイン「博士と彼女のセオリー」 - Con Gas, Sin Hieloコンビが再タッグを組んだことになるが、今回は女性のアメリアの方が前面に出て活躍する。

というか、ジェームズとの比較以前にアメリアの活躍は超人級である。10,000フィートの上空でフリークライミング的に気球のてっぺんまで上っちゃうんだから、これはもうアメコミヒーローの血が混じっていると断言できる。

その間低酸素からか気絶して貢献度ゼロだったジェームズは高度が下がってから一気に復活し、最後は気球がトランスフォームする。

皮肉っぽく書いてしまっているが、これは手法の問題で、過去の人物の業績を伝記として描くのか、拝借したエンターテインメントにするのかのどちらを選択するかという話である。

本作は明確に後者を選んでおり一貫してブレはない。気球が大空に浮かぶ光景など、かつての「タイタニック」が大海を進む画を彷彿させる美しさであり、題材やキャストの良さをできるだけ引き出している点には好感が持てた。

(70点)
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「ナイブズアウト 名探偵と刃の館の秘密」

2020年02月01日 23時00分57秒 | 映画(2020)
おじいちゃんは子育てを失敗した。


ある日、大富豪のハーランの遺体が自宅の自室で発見される。警察が自殺として扱いを進めようとする中で、身元不明の依頼者から頼まれたという探偵は事件の臭いを感じ取る。

キャストの一覧を見ると知っている名前が続々と出てくる。それでは超豪華なのかと言えば必ずしもそうではなく、かつてメジャーな作品に出ていたような中高年の俳優が多く、進行形のスターとなるとD.クレイグC.エヴァンスにとどまる。

何を言いたいのかというと、これは洋画あるあると言ってもいいのだが、ハーランの子供たちがどういった人物であるかを飲み込むまで時間がかかる。というか結局よくわかっていない。更に言えばわからなくても意外と困らない。

謎解き映画であれば、いくつもの選択肢があって、こうなのか?ひょっとしたらこうなのではないか?と思いを巡らせるところに醍醐味があると思うのだが、そこに辿り着く前に終わってしまったというのが正直なところである。

そういうわけで自分の理解力のなさを棚に上げて書くと、多様な登場人物の特徴を物語に生かし切れていないのではないかとなるのである。生ける化石の曾祖母とかオタクっぽい子供とか、もっと絡めていけばおもしろくなったのではないかと。

とはいえ本作、アカデミー賞脚本賞ノミネートである。何を言っても負け惜しみに過ぎないので話題を変えよう。

最初から区別がつくD.クレイグ:探偵、C.エヴァンス:孫、A.デ・アルマス:看護師、そしてC.プラマー:ハーランを追っていけば話は通る。そして展開はテンポが良くおもしろい。

謎解きと言いながらもハーランの死の直接の原因はすぐに明かされる。この事件の最も深いところにある謎はそこではないという建て付けが本作のミソなのである。

4人しか追いかけられていないこともあって結末に意外性は感じられなかったが、よくできた作品だったのであろうと理解している。

最後のジェームズボンドが控えるD.クレイグはすっかり風格が出てきて、007シリーズを降板してもトップスターであり続けるであろうオーラが出ていた。

「ブレードランナー2049」 - Con Gas, Sin HieloのホログラフィAIで可憐な姿が印象深かったA.デ・アルマスが再び重要な役で出演。今後も期待したい。

(65点)
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