Con Gas, Sin Hielo

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「帰ってきたヒトラー」

2016年06月19日 23時40分42秒 | 映画(2016)
史上最強のアイコン。


ドイツって、世界三大映画祭の一つであるベルリン国際があるにも拘らず、あまり映画の印象がない。ドイツ映画と聞いて思い出すのは「Uボート」くらいだろうか。フランスやイタリアとは違う。

そんなドイツが風変わりな作品を送り込んできた。21世紀の現代にあのアドルフ・ヒトラーがタイムスリップしてくるというのだ。

ヒトラーが出てくるという時点で、コメディ要素を含むとはいえ、社会派映画には間違いない。となると見どころは自ずからその切り口ということになってくる。

なにしろ、この多様化が進んだ世界の中でも、限りなく全員に近い人々がその存在を悪と言わざるを得ない稀有な人物である。その印象を壊し過ぎないことと、魅力的な物語を作り上げることをどう両立させるのか。

突然現代に迷い込んだアドルフが事情を飲み込むまでの顛末は結構粗い。設定に無理があるからと言ってしまえばそれまでだが、訳が分からず街をあたふたと彷徨う場面のリズムが良くない。現代世界の案内人となるテレビマンのザヴァツキとの出会い方も強引だ。

ただ、設定が落ち着いてからの展開は、訴えたいことの芯がしっかりしているから、次第に冴えを見せ始める。おそらくドイツの内政に詳しいほど、この話の面白さと怖さを感じることができるのだろうが、根底にあるものは国によらずそれほど違いはないようにも思える。

人々が不安と不満を抱えるとき、私が力になりましょうと言ってくる者がいれば、つい耳を傾けてしまうかもしれない。

現代へ迷い込んだアドルフは非常に聡明であり、自分が改めて課せられた使命を理解するとともに、その実現に前世紀から大幅に進んだ技術革新が役立つことを直感的に感じ取る。

人心を読むことに長け、道化と受け取られていることを巧みに利用して、支持を広げていく。

買い被り過ぎなのかもしれないし、そう願いたい部分はあるが、その願いを打ち砕く最後の場面の衝撃は見事だ。

ある点を越えたらもう元に戻ることはできない。でもその点は見えないし、誰かが気付いても世間を説得させることが難しいから、世界から悲劇が消えることはないのである。

(75点)
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