ALQUIT DAYS

The Great End of Life is not Knowledge but Action.

スリップ

2010年01月13日 | ノンジャンル
断酒を継続している者が、再飲酒してしまうことを
スリップと呼ぶ。

これまで幾度か記事にしてきたことだが、
今でもスリップを「失敗」と呼ぶことには違和感がある。

失敗というのは、何かを為そうとする中でそれを
一時的にせよ為し得ない、あるいは為しそこなった時の
事を言う。無論、軽微なものから、致命的なことまである。

断酒は為すことか? 成し遂げるには死ぬしかない。
何かを為すための、一つの条件として断酒があるに
すぎない。

何度失敗してもいい。諦めなければ失敗はない。
そうだろうか? その前提には、生きている
ということがある。

スリップを失敗と呼ぶなら、失敗のたびに、
物事を為す時間が削られる。
つまり、命を削ることになる。
安易に、何度失敗してもなどとは言っていられない。

では、スリップは過失だろうか?
自分で全くそのつもりはなくとも、飲んでしまった
ということがある。これは神経障害であって、
断酒初期にはままある。順調に回復すれば無意識に
飲むというようなことはなくなるが、
実はこの状態にまで行くと、その後の継続はなかなか
難しい。

事故というケースもある。
酒席でお茶を飲んでいて、間違ってお酒を飲んだとか、
店の女の子がお茶割にしてしまったとかの場合である。
私も何度か経験があり、その都度敏感になった臭覚で
吐き出すことができたが、これはその人の考え方に
左右される。

極端に言えば、事故で人を轢いたとして、逃げるか、
きちんと対応をするかの差である。
せっかく断酒してきたのに、一杯のお酒を飲んで
しまった、もう一杯も二杯も同じ事と、なし崩しに
崩れる人もいれば、事故は事故と冷静にその一杯で
済ませてしまう人との差である。

同じ条件でも、その人の考え方によって結果は異なる。

初期にスリップを繰り返す人は、まだお酒が止まって
いないのであり、自身の断酒の動機付けがまだ
できていない。つまり俗に言う、底つきをしていない
のである。

最も恐るべきは、その動機付け、つまり原点の風化である。
これは、継続が長くなればなるほど警戒する必要がある。
そこには、慣れと、油断と、慢心とに付け入られる隙が
できやすい。

飲めば命を縮めることがわかっていながら、飲みたい
欲求に耐えられずに飲むのは故意犯である。
無論、誰に責められることでもなく、他のせいに
できることでもない。自ら、自身の命を縮め、悪くすれば
他にも大きな被害を与えることを承知で飲むのである。

動機付けがない、過失、事故、故意、風化と、様々な
ケースがあるが、こうして見てみると、スリップとは
初期の錯乱状態を脱して継続の軌道に乗った者が、
故意に飲むことである。

事故で一杯を飲んだとしても、それは事故であり、
自ら二杯目を飲めば、それは故意である。

この自ら飲むという故意がスリップであるとすれば
そこにはいかなる弁解の余地もない厳しい事実が
自身にあるのみである。

故意で飲んだ自分を責めるなどというのは笑止である。
その一杯を自ら飲んだのは自分自身ではないか。
誰に責められることでもない以上、誰に許されるべき
ことでもない。自身を責めたところで、故意である以上
自他共に何の益もない。

ただ、本人にとっても、家族にとっても、スリップを
失敗と呼ぶ時は、それが故意であるという厳しい事実を
理解するまでのことである。

それを理解して初めて共に再生への始動となる。
本人より先に家族が理解すれば、共依存はなくなる。
本人が理解すれば家族も含めた再生が可能だが、
残念なことに家族を失って初めて理解するケースが
非常に多い。

この病気に関わるものにとって、諦めないとは、
いつかその理解を獲得できる可能性を信じることである。
断酒の達成は、生きて遂げることはできない。
成し遂げたというなら、その本人は亡くなっている。
スリップとは、故意にその生きる時間をも
削ることなのである。



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4 Comments

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Unknown (haru4444)
2010-01-13 23:13:03
僕もスリップという表現は好きではありません。
一種の自殺行為とも同義語だと思っています。

「成功するまで失敗を続ける」のなら、
その人の人生は不幸に終わるのでしょうね。
本人が理解できるまで、
周りも振り回され続けるだけです。
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Unknown (cross crystal)
2010-01-13 23:43:15
コメ どうもありがとうございました^^
お酒もシャブも 似たところありそうですね。
これを機に、jetlinksさんのブログ勉強させていただきます♪
返信する
Unknown (jetlinks)
2010-01-14 21:51:20
失敗すれば死ぬ。あるいは人を死なせてしまう。
これくらいの決死の覚悟が必要な時があると思います。

それを思うにつけ、医療関係の方には頭が
下がります。
どれほど、その決死の場面に遭遇していることか。

何度失敗してもやり直せば良いというのは、
その通りだと思いますが、それを安易に捉えては
まるで意味がありません。
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Unknown (jetlinks)
2010-01-14 21:56:15
cross crystalさん、コメントをありがとうございます。 ^^

依存性の強さは、薬物によって大きな差があります。

少し思うところを記事にしようかと考えています。
ドンキホーテのように、戦う相手を間違って
いるのではないだろうかと感じるので。。。
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