山本馬骨の くるま旅くらしノオト

「くるま旅くらしという新しい旅のスタイルを」提唱します。その思いや出来事などを綴ってみることにしました。

へチクラ(=十角ヘチマ)の話

2013-09-10 03:53:19 | 宵宵妄話

  へチクラというのをご存知でしょうか?へチクラは植物です。一説にヘチマとオクラの間の子などという人がいるようですが、生物学的には、何だか違う様な気がします。ヘチマはつる性の植物ですし、オクラはつる性ではありません。しかし、その実の姿形はそう言われればそうなのかという程度は似ていますので、まあ、面白半分にはへチクラという呼び名があっても良いような気がします。

 この植物に初めて出会ったのは、昨年の4月に九州の旅をした際に、鹿児島県の薩摩川内市樋脇町の道の駅でのことでした。九州の旅の鹿児島県では、テーマの一つとして薩摩藩の治世(支配体制)の骨格である外城制度の「麓」という呼び名の、小さな城下町(というより城下村という方が当たっているかも)を幾つか訪ねることにしていました。薩摩川内市エリアには十カ所を超える「麓」があり、その中で樋脇町の近くにある「入来(いりき)麓武家屋敷」の残存状態が良く名を知られています。かの有名な知覧の武家屋敷も外城の一つであり麓の一つです。

 薩摩藩には100を超える外城があり、簡単に言うと、それは藩が外敵に備え、強固な支配体制を形成するために、武士団(郷士と呼ばれる下級武士)を領土内の各地に分散して住まわせ、常時は農事に従事させ、時には戦に備えての軍事訓練等を行うという様な仕組みでした。薩摩藩の中にはこの政治支配の仕組みが張り巡らされており、良く言われる隠密の侵入が困難だったなどという話も、この外城制度という巧みな支配体制が功をなすこと大だったということから来るものと思われます。この話はへチクラとは無縁です。

 さて、元に戻ってへチクラの話ですが、入来麓を訪ねる前に樋脇の道の駅で昼食休憩をした時に、地元の農産物売り場を覗いていたら、野菜類に並んで、枯れて堅くなった角ばった植物の実が売られていました。そこには「ヘちくらの種」と小さな字で書かれた紙が添えられていました。初めて見るもので、これはいったい何だろうと興味を持ちました。店の人に訊くと、「ああ、これはへチクラと言うんだよ。ヘチマとオクラの間の子のようなものだよ」「へえ、食べられるんですか?」と聞くと、「食べられるよ。油炒めなどにするとうまいよ」というオバさんの返事でした。面白そうなので、とにかく買うことにしました。その枯れた大きめの鞘状の実は、オクラの大きさを遥かに超えて20cm以上の長さがあり、堅くてカチカチになっていましたから、到底オクラとは思えず、やっぱりヘチマの類だろうなと思いました。南国の鹿児島県での作物が関東へ持って行っても素直に育つのかなと思いましたが、まあ、とにかくやってみる気になりました。

 5月初めに旅から戻って、その鞘から種を採って、苗を作ることにしました。一晩種を水に浸した後、育苗ポットに2個ずつ種を播いたものを10個ほど作りました。当然全部芽が出てくるものと思っていたのですが、どうやら使えそうな苗となったのは、たった2本だけでした。6月の移植時期になって、いつもそうなのですが、北海道の旅が迫り、そのまま家に植えても誰も面倒を見る者はおりません。どうやらこの植物はヘチマと同じつる性のものらしいので、家での栽培は諦めることにして、農事にチャレンジしておられる知人のところにその苗を持って行き、育ててみて欲しいとお願いすることにしました。知人もへチクラなどとは初めて聞く名前なので、興味津々のようでした。2株の苗を預けて、お願いしっ放しのまま北海道に出掛けて、旅から戻ったのは9月の半ば過ぎでした。

勿論へチクラはもう終わっていました。知人にどうだったかと伺うと、ちゃんと収穫できて、食べましたとのことでした。その話しぶりからは、さほど好評といった感じではないなと思いました。とにかく自分はそのへチクラなる植物は苗の時しか見ておらず、あとは枯れた鞘しか知らないのです。恐らく青い小さなヘチマのようなものを採取して、それを油で炒めるなどして食べられたのではないかと思ったのですが、ヘチマ類を食べるという習慣のない関東では、戸惑われたに違いないなと思いました。それで、来年は自分の家でも何とかして作ってみたいものだと思いました。樋脇の道の駅で買った種は、あと3鞘も残っており、種は2~3年は大丈夫でしょうから、来年はこれを使ってチャレンジしてみようと心に決めたのでした。

それからあっという間に1年が経って、この間に倅が所帯を持つことになり、2世帯住居としては新たに心強い味方が増えました。旅で留守の間の植物たちの面倒を、嫁御にも少しは見て貰えるかなとの期待も膨らみました。今年の5月に入って、種まき時となり、今回は少し多めにポットの数を増やして種をまきました。ところが驚いたことに、昨年から1年が経っているというのに、今年の発芽率は好調で、殆ど100%に近いものだったのです。20株近い苗が育つことになりました。植え付けまでの途中に3週間ばかり旅に出掛けて留守にしましたが、嫁御に水やりなどの面倒を見て貰って、何の心配もありませんでした。

植え付け時になって、さあどうするか、大いに頭を悩ましました。先ずは、昨年と同じように数株を知人の農園に持参し、楽しんで頂くことにしました。残ったものは裏庭のキーウイ棚(未だ植え付けたばかりで、生長が始まっていない)を利用して、残っている苗全部を、3つの鉢に夫々2~3本ずつ、その他の苗は直植えにすることにしました。棚の大きさの割には多すぎるのですが、痩せた苗もあるので、全部が生長するとは思えないと考えての対処でした。棚の上に辿り着くまでにはネットが必要であり、それらも用意して取りつけました。1坪くらいの狭い棚のスペースなので、もし上手く生長してくれたら、扱いが面倒になるな、などの思い過ごしの心配を楽しみました。

その後、今年はいつもの夏の北海道が叶わなくなり、へチクラの面倒を見るには好都合となりました。6月半ばに旅から戻った後、苗の植え付けをしました。裏庭なので、少し日当たりが悪く、最初の頃はなかなか伸びてくれず、こりゃあこのまま終わってしまうのかなと、いつものように早まっての心配が続きました。7月の半ば頃から、生長は本格化し、ようやく網に辿り着いて蔓(つる)を伸ばし始めたと思ったら、その後の生長は目を見張るばかりでした。あっという間に棚の上に辿り着き、棚を埋め尽くして花を咲かせ始めました。植物の成長というのは、人間の思いとは一致しないようで、時間をたっぷりかけて、その後は一気に本性を現すといったもののようです。というよりも人間の持つ欲という奴が、せっかちな性格を持っているということなのかもしれません。特に初めての植物に対しては、このせっかちさは、少し度を越しているのかもしれません。(もしかして自分だけのことかも)

     

我家の裏庭のヘチクラの棚。本来キーウイ用の棚なのだが、今年はヘチクラが棚を覆い尽くして、隣の生け垣にまで浸食しようとそのチャンスを伺っている。

8月に入って、待望の実が3個ほど膨らみ出しました。この後どれくらい収穫できるのか良く判らず、食べるという考えよりも、眺めている時間の方が長い感じでした。最初の実の内の2個は、来年の種を採るためのものとして残すことにして、少し大きくなったのを食べて見ることにしました。角になっている部分をピーラ―で削って、5ミリほどの輪切りにし、油で炒めて、白だしを掛けて食べて見たのですが、これが結構いけるのです。ただ、表皮が堅くて、食べた後に口の中に残るので、家内はそれっきりでした。自分は根っから卑しいもの食いなので、たじろぐことなく完食しました。

     

ヘチクラの実の生っているいる様子。こうしてみて見ると、明らかにヘチマであるが、ヘチマには角が無い。この実が小さい時期は確かにオクラに良く似ている。しかしまあ、ヘチクラとはよく言ったものである。

出だしはそのような状況だったのですが、その後ヘチクラの実はどんどん生って、9月に入った今でも止まるところを知らずにぶら下がり始めています。一体どの様な調理法があるのかと、ネットで調べることにしました。本来もっと早く調べれば良かったのに、うっかりし続けていたのでした。ところが、「ヘチクラ」で調べても殆ど検索が効かないのです。平仮名の「へちくら」で引いて見たら、1件だけ載っていて、そこにヘチクラは、別名「十角(とかど)ヘチマ」というのだと書かれていました。それで、十角ヘチマで検索すると、幾つかの調理メニューが紹介されていました。どうやら、このヘチクラというのは、十角ヘチマというのが本名だったようです。確かにどう考えてもオクラなどではなく、ヘチマですし、輪切りにすると十角形なのです。情報によれば、かなり栄養価も高く、優れた食材とのことです。

     

収穫したヘチクラの実。これで長さは約20cm前後か。本当はもっと早い時期に採った方が良いのかもしれない。

それ以降、茄子や満願寺唐辛子、ししとう、などと合わせて炒めたりしてみて、味付けも白だしの他に味噌やコチュジャン、ボン酢などを使ってみて、大いに楽しんでいます。(基本的に肉は入れないことにしているので、メニューが限定されるようです)一つだけ失敗したのは、輪切りにせずに縦に切って使ってみたら、繊維の残る度合いが急増して、さすがの卑しいもの食いの自分も飲み込むのに抵抗を覚えました。未だに実がどれくらいの大きさが適度な収穫のタイミングなのかが良く判らず、どうしても大きくし過ぎてしまっているようです。オクラと同じくらいの大きさではあまりに幼すぎて、収穫するのをためらってしまうのです。これは、一度本場の鹿児島や沖縄へ行って、本物の料理を味わなければダメだなと思っています。

来年はこの棚はキ-ウイ専用となることでしょうから、さて、どこに植えようかと、早くも頭を悩ましています。何ともノーテンな話でした。

コメント
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