山本馬骨の くるま旅くらしノオト

「くるま旅くらしという新しい旅のスタイルを」提唱します。その思いや出来事などを綴ってみることにしました。

八島湿原の花たち(7月中旬)<その2>

2013-07-28 04:52:16 | 旅のエッセー

(前回の続きです)

【ヤナギラン】

       

ヤナギランは、柳蘭と書くけど、柳でも蘭でもない。葉が柳の葉に似ており、花が蘭のように美しいという姿形からこのように名付けられたのだと思う。まさにその通りの美しい花である。この個体は未だ開花時期には少し早く、ようやくつぼみが開きかけているといったところか。花が目立つので、容易に見つけやすいのだが、今のところこの湿原では見出すのは少し難しい状況だった。

この花は、北海道だと原生花園などよりも牧場脇の溝の様な箇所に多く見かけられる。群生している場合が多いので、際立って目立つ存在だ。車で通っている時など、思わず止めて見入ってしまいたくなるほどだ。

この湿原の場合は、群生しているのかどうか今のところ判らない。8月頃になって咲き揃えば判るのだと思う。しかしこうやって眺めていると、群生よりもポツンと一個咲いている方がより楚々とした存在感があるように思う。美しいものというのは、群れない方が良い。ケンを競うのではなく、競わないケンの方がより美しいと自分は思っている。

【アザミ】 

        

アザミといえば、あざみの歌を思い浮かべる。戦後間もない、未だ自分が小学生だった頃、南方のラバウルの方から、かなり遅れて復員した叔父が、炉端で口ずさんでいたのを思い起こす。その叔父は既にあの世に旅立ってから久しいけど、この歌は今でも健在だ。純度の高いあざみを謳った歌だからなのだと思う。ここで歌われているアザミは、どうやらこの霧ケ峰高原辺りに咲くものを元に作られたらしい。八島湿原の入り口付近に、作詩(横井弘)と作曲(八島秀章)者の名を刻んだ石碑が建っている。そこには1番だけの詞が刻まれている。

   あざみの歌

山には山の 愁いあり

海には海の 悲しみや

ましてこころの 花ぞのに

咲きしあざみの 花ならば

 この後、歌の方は2番、3番と、あざみに込める思いを強く深く謳う歌詞が続くのだが、長くなるのでここに記すことは止めよう。自分的には終りになるにつれての、この歌の詞が気に入っている。作詞者の横井弘という詩人の傑作の一つであり、それに曲を付けた八島秀章という方の感性も素晴らしいものだと感嘆する。

そして何よりも心を揺さぶるのは、この高原の色鮮やかな気高きあざみの花の存在である。この高原の、湿原の中に咲くアザミは、都会の道端に咲くそれとは花の純度が格段に違うのだ。花を差別してはいけないけど、自分には別の種類のあざみのように見えてしまう。その澄んだ花の美しさが詩人の心を揺さぶり、歌づくり人の感性を震わせたのではないか。ここに来て、この花を見てそう思った。

【シモツケソウ】

    

 シモツケソウのシモツケというのは、下野の国(=現在の栃木県)の下野ということらしい。この花は草だけど、別にシモツケという名の灌木があり、やはり同じような花を咲かせる。しかし花の美しさというか、大きさという点ではこのシモツケソウの方が遥かに上まると思う。北海道に行くと、オニシモツケというこの花を遥かに大きくしたようなシモツケソウの仲間が、道端の至る所に見られるけど、花の美しさでは、このシモツケソウには遠く及ばない。

 今は丁度咲き始めの時期で、この個体は湿原の御射山付近で見かけたものである。生育する場所によって、開花の時期が少しずれるようで、これなどはせっかちに咲き始めてということなのかもしれない。妖艶という呼び方の美しさがあるけど、この湿原のシモツケは妖艶に混ざり易い、媚びるような厭らしさなど微塵もない。純粋な美しさである。

この花も集合花であり、虫眼鏡が必要だ。花の楽園を覗くというのは、まさにこの花を虫眼鏡で覗いた時に味わう感覚だと思う。目に眩しい艶やかで不思議な世界がそこに広がっているのを見ることが出来ると思う。お試しあれ。

【コバイケイソウ】

    

 湿原の水草の中に混ざって咲いている大型の植物である。丈の低い水草の中では目立った存在である。この仲間にバイケイソウというのがあり、これはその呼び名の頭にコ(=小)がついているので、小型の草のように思ってしまうけど、大きさはバイケイソウと殆ど変らない。その違いは葉や花の大きさや形の差にあるようである。

 北海道では高山帯でなくても原生花園などで見られるようだが、いつも開花時期を過ぎた頃に訪ねているので、きれいな花の姿を見ることが無かったのだが、今回ここではやや終わりかけているとはいえ、きれいな姿を見ることが出来て満足だった。この花も虫眼鏡が必要である。今まで一度も覗いたことが無かったので、今回はチャンスだったのだけど、その殆どが立ち入り禁止エリアの中に咲いていて、虫眼鏡を近づけることも出来なかったのが残念。きっと、美しい白い世界が見えるに違いない。

 【カワラマツバ】

     

 この花に気づく人は少ないのではないかと思う。見た通り、緑の草に混ざって薄い黄色がかった青緑の花をまぶして咲かせている目立たない地味な植物なのだ。その名は、葉が松の木の葉に似て細く伸びた形をしており、河原の湿地帯などに多く生えているので、そう呼ばれているらしい。

 この花は北海道の原生花園奈良どこにでも溢れるほどに生え茂っている。今頃常呂(ところ)町(今は合併して北見市)にあるワッカ原生花園では、この花は最盛期を迎えているのではないかと思う。

八島湿原のカワラマツバは、北海道ほど多くないようで、うっかりすると見落としてしまう存在だった。木道の傍にこれを見つけて、オッ、ここにあったか、と思わず声を上げてしまった。目立たないけど、大衆にまぎれて密かに息づいている、この花のような生き方も良いなと自分は思っている。

【ウツボグサ】

    

 ウツボというと、あの海の中の蛇のようにおぞましげな生きものを想像したりしてしまうけど、この花はそのようなものとは全く無関係である。ウツボというのは、生きものではなくその昔戦のために使われた矢を入れて背負ったその入れ物を言うとのこと。その入れ物の形がこの花の姿に似ていることから、そう名付けられたとものの本に書いてあった。

 この花は湿原の中というよりも、そこから少し離れた陸地の日当たりのよい草叢の中などを好んで生育しているようである。その澄んだ紫の花は目につき易く、直ぐに見つけることが出来る。その昔の自分が子供の頃には、我家の裏山の道端辺りにも多く見られた普通の野草だったのだけど、今頃はもう見つけることは難しくなっている。ここへ来て、久しぶりにこの花を見て、50年以上も前のことを思い出しているのだから、自分はもう相当のジジイになってしまっているのだなと、改めて思ったのだった。

 

コメント
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