山本馬骨の くるま旅くらしノオト

「くるま旅くらしという新しい旅のスタイルを」提唱します。その思いや出来事などを綴ってみることにしました。

八島湿原の花たち(7月中旬)<その3>

2013-07-30 05:01:07 | 旅のエッセー

(前回の続きです)

【コウリンカ】

    

この花の色は独特で個性的だ。草むらの中にそれを見出した時は、最初は花ではなく何やら蜂のようなものがとまっていると思うほどだ。濃い橙色は少し黒っぽくて、咲き始めは花びらが開いていないので、そう思うのかもしれない。今頃はこの花の咲き出したばかりの時なのか、今回の探索ではこの個体だけしか見つけられなかった。秋近くなると、もっとたくさん見られるに違いないと思う。北海道の原生花園ではお目にかかった記憶が無い。本州の高原のような場所が好きな草なのかもしれない。久しぶりに見ることが出来て、嬉しかった。

【キンポウゲ】

    

 キンポウゲという名の花があるのかどうか良く知らない。けれども、植物の分類の中にキンボウゲという科目はある。この花はそれらに属する花のどれかなのだと思うけど、正確には自分には判らない。近くに札があって、そこにはアカギキンポウゲと書かれていたが、それが正解なのか疑問だ。アカギとは赤城のことだろうから、赤城山の辺りに多いのかもしれないけど、行ったことが無いので、信じる気になれない。ミヤマキンポウゲというのがあるけど、この個体は群れをなしていないので、それとは違うような気がする。

 花の名は難しい。どのようにして覚えればいいのか工夫がいる。そのような時に思い出すのは、金子みすゞの「草の名」という詩である。

      草の名

   人の知ってる草の名は、

   わたしはちっとも知らないの。

   人の知らない草の名を、

   わたしはいくつも知ってるの。

   それはわたしがつけたのよ、

   すきな草にはすきな名を。

    人の知ってる草の名も、

   どうせだれかがつけたのよ。

    ほんとの名まえを知ってるのは、

   空のお日さまばかりなの。

    だからわたしはよんでるの、

   わたしばかりでよんでるの

 足元に見かける野草たちの名前を何とか知ろうと取り組み始めた頃に、この詩を読んで感動したのを思い出す。勿論みすゞ女史のように自分で名付けてしまうようなことはせずに、地道に覚える努力をしてきたのだけど、本当のところは、彼女の詩の想いの方が遥かに優れているように思っている。さて、この花に自分が思いを込めて名付けるとすれば、どんな名を付ければ良いのだろうか。

 【ハナチダケサシ】

    

 図鑑にはハナチダケサシと書かれていたのでそれを採用したのだけど、実際はチダケサシの花といった方がわかり易いと思う。チダケサシとは妙な名前だけど、漢字で書くと乳茸刺しとなる。乳茸というのはキノコである。今頃は少なくなってしまったが、松林や雑木林の中に赤っぽい茶色をして生えているキノコで、食用になる。傷をつけると白濁した乳のようなのを出すので、このように呼ばれている。このキノコを採った時に、それを丈夫な茎を持っているこの草に突き刺して運ぶことから、このような名前が付けられたらしい。

 しかし、この湿原の付近には乳茸が生えていたとは思われないので、キノコなどとは無関係に、いつしかこの草むらの中に侵入してきたのかもしれない。黒っぽい草むらの中に広がった白い花は、存在感があり、美しい。この花も虫眼鏡が必要だと思う。脇に咲いているのはイブキトラノオである。

 【イブキトラノオ】

    

 イブキトラノオとは、伊吹虎の尾と漢字で書く。その意味は、伊吹山(滋賀県東部、岐阜県との県境にある山)に多く見られる虎の尾のような花を咲かせる野草ということなのであろう。トラノオという名を使う野草は何種類かあるけど、このイブキトラノオは、他のトラノオとは違った花穂の形をしているようだ。イブキというけど、実際は全国各地に広く分布して見られるようで、北海道でも何度も見かけたことがある。

 この湿原ではかなり多く咲いていて、この写真のように蝶が寄って来て蜜を吸っていた。この蝶の名は知らないけど、シジミ類の一つだと思う。人間を恐れず、カメラを向けてもポーズをとるかの如くの振る舞いに見える蝶たちだった。イブキトラノオとは相性がいいのかもしれない。この花も集合花であり、虫眼鏡でその小さな花を覗くと、愛らしい不思議な世界が広がっている。

 【ハクサンフウロ】

    

 先にグンナイフウロを紹介したけど、フウロといえば何といってもハクサンフウロが一番かもしれない。北海道の原生花園には、チシマフウロが多いけど、見る限りではハクサンフウロと変わらないと思う。同じ種類の花でも生育する場所によって、ほんの僅か何かが違ってくるのかもしれない。これは、植物でも、動物でも同じことのようで、人間だってそれから逃れることはできないようだ。

 この湿原のフウロ草は総じて数が少ないように思えた。もっと大きな群落をつくってお花畑の代表選手ともいえる存在になるはずなのに、ここではこの程度の花しか見られなかった。もしかしたら、花期が少しずれてしまっていたのかもしれない。

愛らしい花の中で、自分が一番だと思っているのはフウロである。風露と書き、その呼び方も、何だか花のイメージにぴったりのように思える。道端の帰化植物にもフウロがあり、これはアメリカフウロなどと呼ばれているが、図体がごつくて全体的には好きになれない植物だけど、花だけは別で、日本在来のフウロから比べると格別に小さいのだけど、虫眼鏡で覗けば、しっかりとフウロらしく可愛い姿をしている。フウロは如何にも儚(はか)なさそうな姿の花だけど、その身体は寒さに鍛えられて存外に逞しいようだ。

【クリンソウ】

      

今、この季節にこの花を見られるとは思わなかった。それと、この高原にもクリンソウがあったなんて、ちょっとした驚きだった。クリンソウは春の花である。6月一杯で開花期は終わっている筈なのに、ここは1500mを超える高原のせいなのか、咲くのが遅くて辛うじて今まで花を咲かせるのを遅らせて来てくれたのだろうか。最後まで咲き残った一本に出会えて感無量だった。

クリンソウは、九輪草と書き、花を輪生させて何段にも咲かせるので、その輪は九段階にも至るほどだということから、この名が付いたらしい。サクラソウの仲間である。今頃は栽培種もあるようなので、それほど珍しくもないのかもしれないけど、自分としては今時期にこの高原にあったのを嬉しく思った。どのような世界にも、番外の存在というのはあるらしく、季節が一つ違ったくらいでは平気で生き残る奴は不思議ではないのかもしれない。この九輪草も番外の奴の一つなのだろうか。そんなことを想った。   (7.22.2013記)

 

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