分からない謎が多いロマンチックな仮説であるので、アマチュアも面白そうな説を唱えることができる。この時期に言語ができあがった、という仮説が多い。
筆者が思い付いた仮説では、この時期に人類が、燻製や干物や容器など食料の貯蔵法を発明したから、というものです。つまり、今日の食べ物以外に考えなければならない対象がでてきた。明日からの将来を予測して蓄財するという知恵がついた。そうすると、自分の財産を主張することで他人の立場も分かるようになる。その結果、自分と他人を含む客観的世界の存在感を認知する必要が出てきたから適応進化が起こって、自分を他人の視点で見ることができるようになる。そのような機能が脳神経系に備わるようになり、ついには客観的世界というものを認知できるようになった、と考えられます(拙稿6章「この世はなぜあるのか?」)。
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この仮説によれば、人類の能力のこの急発展は、「大躍進」(一九九二年 ジェレッド・ダイアモンド『第三のチンパンジー』既出)あるいは「行動現代性Behavioral modernity」と名づけられている。この時期から、クロマニヨン人に代表される現生人類が、ネアンデルタール人など古い人類を駆逐して、急速に世界中に拡散し繁栄するようになったとされる。
この人類大躍進の原因については、人類学にも諸説があり定まっていません。大躍進というよりも徐々に文化が蓄積されたという説も有力です(二〇〇四年 スティーヴン・オッペンハイマー『エデンから:人類の世界移住』)。
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人類がこの客観的世界の認知機構を獲得した時期は、いつのころか?
考古学、人類学では、数万年くらい前の時代に、人類史上の大きな異変が起こったとされている。その証拠は、発掘された遺跡から得られた。その時期の遺跡からは、鋭利な石器の槍、骨の釣り針、装身具、壁画、埋葬などが、比較的突然に、出現している。それ以前の時代の人類は、そういう遺物を残していない。これらの証拠から類推すると、この時期、人類は、[突然]、現代人に通じる世界観を身につけるようになったらしい。こういう考え方から、現生人類(ホモサピエンス)は、客観的世界の認知機構を一気に獲得した、という仮説が提唱されている。
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人間は人生保持機構を持っているから、自分の人生を豊かにしたい。自分の評判をよくしようとして人と交わる。人を教育したり人を助けたりして善行もする。一方では、人をだましたり人のものを奪って自己利益を増やそうとしたりして悪事も働く。自分の人生というものを重要と思うからこそ、そういうことをするわけです。
人生保持機構は、自分の身体が世界という客観的な環境の中で動いていくという認知機構を獲得することを土台にしている。世界と自分の身体の変化の相互関係を予測し、その予測に対応して身体が動いていく。それを客観的世界として認知する。そのような客観的世界の認知機構は、たしかに人類特有の能力であるように見えます。
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