赤ちゃんが、生まれつき、身の回りの物体の運動を予測する能力を持っていることを調べる実験の結果などが、それを示しています(たとえば一九九八年 ウィルコックス、ベイラジオン『幼児期における物体の個別認識・隠蔽実験に関する判断における特徴情報の利用』)。生後三ヶ月の赤ちゃんは、もうきちんと存在感の発生機構を持っているらしく、物陰に隠れたおもちゃの位置を正しく予測できるのです。赤ちゃんは、イナイイナイバアが大好きですが、こうして遊びながら、世界の法則を学び、同時に、存在感のつかみ方を身につけていくのです。たとえば、存在感のあるひとかたまりの感覚信号源(たとえば、猫)は、速度をゆっくり変えながら空間を移動していくこと。その形状はふつう、ゆっくりとしか変化しないこと(猫は爆発したり蒸発したりしないこと)。世界には、似たように見えるものが、いくつかずつあること(動物の動きはみんな似ている)。似たように見えるものは似たような動き方をすること。似たように見えるものは私たちが同じ操作を加えるべきものであること(カテゴリと運動様式の対応)、などなど、です。逆に言えば、私たちが身につけている存在感覚は、世界にありふれたこういう物たちに対して、強く感じるようにできているのです。
存在感は、「そこに存在するかのように感じられる物質を存在するものと仮定して運動を計画し、それを実行しても危険はありませんよ。逆に無視すると危険ですよ」と身体に教える脳の仕組みです。たとえば「目の前の敷石を踏んでも、踏み抜いて地下に転落することはありませんよ。脇にある水溜りを踏むと靴が台無しになりますよ」ということが、その敷石や水溜りの存在感です。身体がうまく運動できるための実用的な脳の仕組みです。身の回りの物質の間をうまく動き回り、物質を掴んだり、ちぎったりして利用するために身体の筋肉をうまく収縮伸展させるための運動の計画を作る準備活動です。これからする運動を適切に計画するという形で、身の回りの物質の存在感が脳に取り込まれるわけです。こういう脳の生理的反応が起こると、物事の存在感が感じられます。
「そこにその物質が存在する」という意味はそれだけのことです。つまり、自分の次の運動に関連して、そこのその物質がどう関わるかを計算する神経機構のシミュレーション活動の結果、脳の前部帯状回、扁桃体、海馬、側坐核などの神経細胞膜電位が変化する、ということを意味しています。
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