数学で書かれた自然法則によって、物質の変化を予測する。現代科学の予測能力は、あらゆる場面で働く。強力な技術力です。人間の身体から遠く離れて、遠い惑星の表面でも、原子炉の中でも、スーパーコンピュータの中でも、現代科学は物質を操作する。まさにユニバーサルな原理です。これほど力がある現代科学は、それを生んだ人間の直感よりも、ずっと本物の現実を表しているように見える。
物質世界の現実は、私たちの感情と無関係に存在すると感じられる科学の法則に支配される。数学方程式に従って動く電子やイオンやプラズマの世界です。物質を構成しているこれらの粒子は小さすぎて目に見えない。言葉や図で説明されても、直感で分りにくい。正確に理解するには、数学で表現された物理学を使わなければなりません。それにもかかわらず、科学の現実は、現代人の私たちには、圧倒的な存在感を持っている。
私たちの日常生活に不可欠な、携帯電話やテレビや冷蔵庫や抗生物質は、科学によって与えられています。一方、その現代科学を正確に表現するには、日常の言葉ではきちんと語れず、抽象理論を使い、難解な数学を使わなければ語れない。このことから現代では、現実そのものであるはずの物質世界が、専門家以外の人々にとって、ますます身体で感じにくいものとなっていく(拙稿14章「それでも科学は存在するのか?」)。
このあたりの違和感が、現代科学が支配する現実世界に生きる私たち現代人が感じる自分自身の居心地の悪さ(次章で考察の予定)につながっているのではないでしょうか?
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