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哲学はなぜ間違うのか

why philosophy fails?

現代科学は分りにくい

2008年08月22日 | x8私はなぜ言葉が分かるのか

数学で書かれた自然法則によって、物質の変化を予測する。現代科学の予測能力は、あらゆる場面で働く。強力な技術力です。人間の身体から遠く離れて、遠い惑星の表面でも、原子炉の中でも、スーパーコンピュータの中でも、現代科学は物質を操作する。まさにユニバーサルな原理です。これほど力がある現代科学は、それを生んだ人間の直感よりも、ずっと本物の現実を表しているように見える。

物質世界の現実は、私たちの感情と無関係に存在すると感じられる科学の法則に支配される。数学方程式に従って動く電子やイオンやプラズマの世界です。物質を構成しているこれらの粒子は小さすぎて目に見えない。言葉や図で説明されても、直感で分りにくい。正確に理解するには、数学で表現された物理学を使わなければなりません。それにもかかわらず、科学の現実は、現代人の私たちには、圧倒的な存在感を持っている。

私たちの日常生活に不可欠な、携帯電話やテレビや冷蔵庫や抗生物質は、科学によって与えられています。一方、その現代科学を正確に表現するには、日常の言葉ではきちんと語れず、抽象理論を使い、難解な数学を使わなければ語れない。このことから現代では、現実そのものであるはずの物質世界が、専門家以外の人々にとって、ますます身体で感じにくいものとなっていく(拙稿14章「それでも科学は存在するのか?」)。

このあたりの違和感が、現代科学が支配する現実世界に生きる私たち現代人が感じる自分自身の居心地の悪さ(次章で考察の予定)につながっているのではないでしょうか?

拝読ブログ:ネアンデルタール人の幸福 その1 スチーブンソン

拝読ブログ:マイケル・ポランニー『暗黙知の次元』

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猿の数学

2008年08月21日 | x8私はなぜ言葉が分かるのか

Chasseriau_odalisca

ちなみに、数を操作する基本的な能力は人類だけでなく、霊長類に広く共有されているらしい(二〇〇七年 ジェシカ・カントロン、エリザベス・ブランノン『猿と大学生の基礎数学』、二〇〇七年 イルカ・ディースター、アンドレアス・ニーダー『前頭前野皮質における記号と数的カテゴリーの意味的連想』)。そうだとすれば、現代数学が空理空論であるとしても、その基礎をなす数的構造の認知機能は、猿の脳神経構造に作りこまれていることになる。つまり、猿と人類、そしてその共通の祖先は、数を使いこなすことによって生活環境にうまく適応してきたらしい。抽象的な数学は、現代人の生活にとって必要なばかりでなく、私たちの遠い祖先の生活にも、また猿としての生活にも、必要不可欠な実用的なものなのでしょう。その意味で、数学にもとづいた現代科学は、新聞などでよく唱えられるように、人間の身体感覚からまったく離れた異質で非人間的な発明品である、というほどではない。科学は、もともと私たち人類の身体感覚の延長として作られたが、かなり遠くのほうへ延長できてしまったゆえに、身体で直接感じられなくなってきている、ということでしょう。

拝読ブログ:柿原徹也オフィシャルブログ『Next onepowered by ココログ: サル逃げた!

拝読ブログ:猿との共生

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空理空論である数学

2008年08月20日 | x8私はなぜ言葉が分かるのか

数学的構造は、自然言語と違って、私たちの感情に響かない。すくなくとも、感情に響くことによって意味を作り出すようにはできていない。(数学者以外の人は)数学的表現を聞いたり読んだりしても、身体がそれにつられて動かされるようなことはありませんね。数学的構造は、機械的な手続きの繰り返しで作られている。コンピュータの演算操作と同じです。原理的に人間の身体を使わない形式的操作です。人間の身体にとっては意味がない。(数学者以外の人にとっては)空理空論です。ところが、逆説的ですが、数学は空理空論であるがゆえに、現実をよく表現できる。人間の感情が入らないから、物質世界の自然法則をそのまま表現できる。

現代科学の理論は、膨大な量の実験と観察によって得られるデータに合わせ込んで作られている。このことから、科学は、空理空論である数学を使って表現されているにもかかわらず、むしろそうであるからして、逆に、現実の物質世界の変化を正確に予測できる。自然を描写し予測する数学のこの驚異的な性能には、物理学者自身も神秘を感じているくらいです(一九六〇年 ユージン・ウィグナー自然科学における数学の理由なき有効性』)。

拝読ブログ:主体性について

拝読ブログ:『博士の愛した数式』~小川 洋子~

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数学に物質を埋め込む

2008年08月19日 | x8私はなぜ言葉が分かるのか

Chasseriau_mademoiselle_marie_there 言葉を使うことで、(拙稿の見解では)私たちは仲間との集団仮想運動を作り、仮想運動にそって、無意識に身体が反応することで自分の身体が発生する感覚を知り、その感覚を擬人化した物事に貼り付けることによって、言語による問いかけに答える。言葉の意味が、直感で分かる、とはこういうことです。私たちは、自分たちの身体の仮想運動を媒介とする言語を使ってこの仕組みで世界を語り合い、現実を理解しあっている。私たちが日常生活で物事の動きを予測するときは、その物事に対する自分の身体の無意識な反応(直感)を使う。それが、物事に関する言語表現になっていく。

現代科学の方法はこれと違って、私たちの直感から離れた数学構造に埋め込まれた物質世界のモデル(自然法則)を計算した結果で語り合う。自然法則(微分方程式)が物質現象を表す。微分方程式の境界条件が、物事の存在を表現する。この語り方は、ニュートンが始めた。ニュートン力学とそれを手本として発展した現代科学は、数学にならって言葉の定義と使い方を人工的に形式化することで、数学的表現形式の中に物質世界のモデル(自然法則)を埋め込むことに成功した。この成功によって、現代科学は人間の生身の身体から遠く離れた抽象的空間に存在できることになった。

拝読ブログ:数学とは何か

拝読ブログ:法則。

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アニミズムからの決別

2008年08月18日 | x8私はなぜ言葉が分かるのか

人類の言語の骨格を作っている擬人化とその副産物であるアニミズムから決別した科学。それは、最初に数学を使って世界を描写したニュートン力学から始まったといえる。

現代科学は、自然言語の土台になっている擬人化と比喩に頼る表現は使わない。代わりに数学構造を下敷きに使っている。ところが、私たちが、ふつうに言葉を使って物事の動きを考えるときは、逆に数学理論は使わない。物事の動きを考えるとき私たちは、言葉を媒介として、無意識のうちに自分の身体に問いかけて答えをもらう。

言葉による問いかけに、私たちの身体は、仲間の身体運動に追従するときに使う(無意識の)神経機構を使って答える。私たちの身体のこの無意識の反応は、(拙稿の見解では)擬人化の働きを作り出し、憑依を作り出し、またアニミズムを作り出す根源になっている。

拝読ブログ:お盆の起源は仏教ではなく、中国儒教と日本アニミズムの混交

拝読ブログ:宮崎作品とアニミズム

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