遠くにいた他人が近寄ってきて自分に視線を向けると、幼児はただの物体が動いたのを見た場合と違う何かを感じて、見返す。人間は、自分を見つめる視線に対して脳の辺縁系の深いところで鋭敏に感情を伴う知覚(まなざし感)が生じ、反射的に相手の目を見返す神経機構を持っているようです。猫なども人間の目を見返したりしますから、視線を感知するこの機構は哺乳類共通の古い脳にあるのでしょう。こちらを見ている視線を感知するこの神経機構は、人間の幼児においても客観的世界モデルを使う以前から働いているようです。ただし、見られている自分というものを感知する、つまり見つめられ感、まなざし感を自意識にむすびつけて感じる機構はまた別の神経回路の働きによると思われます。(拙稿の見解では)自意識を生じるこちらの神経機構は客観的世界モデルの完成後に、それを下敷きにして作られるようです。
三歳くらいの幼児は、相手の視線が見るものを追従して見ようとして、それが自分の身体に向けられたものであることを発見する。このときすでに、幼児は相手に憑依できるようになって、相手の目で世界を見る客観的世界モデルを使うようになり、視線を向けた相手の目の後ろ側に自分が入り込んで、想像の目で、自分の身体を見ることができるようになる。
その場合、相手に憑依している自分が見つめる人体は、いつも自分中心モデルで使っている原点の人体に対応したものであることに気づく。ここで、幼児は戸惑って、見返しを止めて視線を外したりする。無関係として扱ってきた二つのモデル、自分中心世界モデルと客観的世界モデルとが干渉しそうになって、混乱してしまうのでしょう。
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