新・遊歩道

日常の中で気づいたこと、感じたこと、心を打ったこと、旅の記録などを写真入りで書く日記です。

映画 『敬愛なるベートーヴェン』

2006年12月14日 | 映画

日本では12月は「第九」の季節。そんな時期にピッタリの映画情報を友人から得て、早速見てきました。

Photo_2 タイトルは『敬愛なるベートーヴェン』。(写真は映画のパンフレットです) ベートーヴェンの「第九」誕生と、耳の聴こえない彼を支えた一人の女性の物語です。

「第九」の初演を間近に控え、精神的にも追い詰められたベートーヴェンのもとに、優秀な音楽院生アンナが写譜のためにやってきます。彼を尊敬し、彼の音楽を心から愛した若く美しい女性音楽家です。写譜師が女性であったことに激怒した彼も、次第にその才能を認め、必要とし、師弟としてすざましいばかりの創作活動に入ります。

『第九』初演の日、耳の聴こえない指揮者ベートーヴェンのために、アンナはオーケストラの楽器の陰で、彼に向かって指揮のリードを取りながら『第九』を見事大成功に導きました。演奏が終わっても音の聴こえないベートーヴェンには、熱狂的な拍手の嵐に気がつきません。その時アンナが歩み寄り、彼を観客席に振り向かせたシーンは圧巻でした。

全篇に彼作曲の音楽が流れて、偉大な芸術家、孤独な芸術家の狂気と苦悩を描いた激しく、そして心を揺さぶる映画です。男女、師弟、肉親、そして神への愛を音楽の中に究極的に高め、そこに昇華したような清澄さも感じました。まさに「歓喜」の音楽です。

実際には、ベートーヴェンがこの曲を他人に指揮させることをどうしても承知せず、指揮者ウムラウフが彼を助けるために、二人で指揮台に立つことになったとか本で読んだことがあります。

ベートーヴェンには、史実上3人の写譜師がいて、3人目が明らかになっていません。この映画では、3人目に若く才能ある女性作曲家アンナを登場させ、「第九」の誕生に深く関わりを持たせた壮絶な音楽ドラマとなっています。

余談: これより一月ほど前、日経新聞の文化欄に『写譜師』としての柳田達郎氏の寄稿文が載りました。そのときに初めて『写譜師』という言葉を知り感動したものです。『作曲家が作った音楽とは別に、写譜自体に美の世界がある』とは柳田氏の信念です。音楽の流れや和声を理解して写譜に臨むと、正しい音が見えてくるというのは、柳田氏自身がバリトン歌手として活動をした経歴の持ち主だからでしょう。

『演奏家の目と心を理解』した写譜師の仕事に支えられているのは、演奏家ばかりでなく聴衆もだということがよく分かりました。コンピューター入力の楽譜でなく、手書きの美しい楽譜。近年は写譜職人が激減していると聞くと、ちょっと切ない気がします。

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