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アジアのパワーバランス インド

『深まるアジアのパワーバランス 連携する日米豪印』より 南アジア

 活発な首脳外交と停滞する国内改革

  2014年5月に発足したナレンドラ・モディ政権は、2年足らずの間に、首相自らがほぼすべての主要国やインド周辺国を訪問するなど、外交面では活発な動きを見せている。他方で、インド経済再浮揚に向けた国内改革の動きに関しては、野党の激しい抵抗を前に停滞を余儀なくされている。典型的なのが、企業による用地取得を容易にするための「。|こ地収用法改正案」、ならびに州によっても異なる複雑な税制を合理化するための「物品・サービス税(GST)法案」である。

  内外の産業界から要請の強いこの2法案を、政権は当初から経済改革の柱として成立を働きかけてきたが、2年を経過しても依然として実現していない。政府・与党が野党に対し格好の攻撃材料を与え、国会での審議が進まないことが主因である。

  2015年7-8月のモンスーン川会では、汚職捜査中のクリケット・プロリーグの元会長にスシマ・スワラージ外相らが便宜供与を図った疑惑で紛糾し、実質的審議がまったくできなかった。その後、インド国内ではモディ首相率いるインド人民党政権のもとで、異なる宗教や意見に対する「不寛容」の雰囲気が広がっているとして、知識人を中心にこれへの抗議活動が強まった。加えて与野党関係者の汚職疑惑が新たに浮上し、11-12月の冬季国会でも成立に至らなかった。さらに2016年に入ってからも、被差別カーストの学生の自殺や、学生運動指導者の逮捕事件をめぐり、与野党の対立は測深まり、2月からの予算国会も紛糾した。

  最大与党インド人民党は連邦ド院において単独過半数を確保しているものの、上院では連立与党、国民民圭連合(NDA)全体でも過半数に遠く及ばない。そのため、法案の成立には野党の一部の理解と協力を取り付けなければならず、苦慮しているのである。また政椛発足当初は比較的順調であった州議会選挙戦でも、2015年2月のデリー準州での敗北に続き、同年11月にはビハール州でも野党連合を前に惨敗を喫した。このため、州議会の構成が反映される連邦上院での過半数確保への道筋は不透明なものになりつつある。麻薬規制、⑧人道問題、⑨人的交流、⑩宗教上の訪問という10項目が議題となるとされた。そしてその具体的な日程や方式については、翌年1月の外務次官協議で決定することも明らかにされた。

  さらにモディ首相が驚きの外交パフォーマンスをみせた。 12月末のロシア訪問の帰途、アフガニスタンに加え、パキスタンを「電撃訪問」したのである。モディ首相はカブールを発つ直前、シャリフ首相の誕生日を祝いたいとツイッターで発表し、約12年ぶりとなるインド首相のパキスタン訪問が実現した。シャリフ首相のラホールの私邸で懇談した両首脳は対話継続で一致したという。

  しかし、モディ首相の努力は、またしても妨害された。年が明けた1月初め、パンジャーブ州パタンコート空軍基地、アフガニスタンのマザリシャリフにあるインド領事館が相次いで武装勢力に襲撃され、外務次官協議は繰り延べとなった。このように、パキスタンとの関係改善は、モディ首相のリーダーシップをもってしても、困難に直面している。

 主要国との関係

  主要国との間では、欧米諸国、中露のいずれとも、モディ首相が先頭に立って、一層緊密な関係を同時に構築している。焦点は、経済関係と安全保障協力の強化である。まず米国には、2015年9月、国連関連の会合や米経済界との会合等のため、2016年3月にも第4回核セキュリティサミットのため、モディ首相が訪問した。2015年9月の初の印米戦略通商対話(外相級)では、対テロの共同宣言が発表され、パキスタンに基盤を持つ過激派やISなどの勢力に対する脅威を共有し、連携を深めていくことが確認された。後述するように、日本を加えた3カ国の戦略的関係強化の動きも進んでいる。

  2015年度のモディ首相は、前年度に足を運ばなかった欧州との関係強化にも積極的に乗り出した。4月にはフランス、ドイツを、11月には英国を訪問したほか、2016年3月には連続テロ事件直後のベルギー・ブリュッセルで第13回印・EU首脳会議に臨んだ。これらのうち、特筆すべきは、フランスとの戦略的関係の緊密化である。 2015年4月の自らの訪仏時には、シン前政権下で交渉が開始されながら、行き詰まっていた二つの案件について大きな進展があった。第一は中型多目的戦闘機、ラファールの導入計画である。モディ首相はオランド大統領との首脳会談で、全導入計画126機のうち、とりあえず36機をインド側が完成品として輸入する意向を示した。そこから政府間交渉が始まり、2016年1月にインド共和国記念日の主賓としてオランド大統領が訪印した際には、価格以外の点で基本合意に達したことが発表された。第二は、アレバ社の原発建設計画である。費用をめぐって交渉が頓挫するなか、両首脳は着工に向けた準備を進めていくことで合意した。

  ウクライナ問題、シリア政策などで欧米と溝の深まるロシアとの伝統的関係も維持・強化されている。モディ首相は2015年7月にBRICS首脳会議とSCO首脳会議出席のためにロシアのウファ、ならびに中央アジア5カ国を歴訪した。SCOについては、インドがパキスタンとともに、従来のオブザーバーという地位を超え、2016年に正式加盟することが決定された。モディ首相は、インドの参画を長年働きかけてきたプーチン大統領に感謝の意を示した。モディ首相は12月に、今度は年次首脳会談のため訪露し、ロシアの高性能軍用ヘリ、カモフ226T、200機をインド国内の合弁会社で共同生産すると発表した。インド国内では、兵器における「メイク・イン・インディア」だと高く評価されている。エネルギー面でも技術移転を一層進めるかたちで新たに原発推進を進めることで合意があった。

  近年、国境問題が先鋭化する機会が増え、インド周辺国にも影響力を拡大させつつある中国に対しては、日米豪などとの戦略的関係強化による警戒策と同時に、経済や対テロ分野での連挑強化を通じた関与策も深化させている。2015年5月、モディ首相は二国間首脳会談のため訪中した。中国の習近平国家主席は、自らの故郷、西安でモディ首相を歓待し、仏教と古代文明による両国の深い繋がりを演出した。その後、北京での李克強吋相との会談後に発表された共同声明によれば、首脳の定期的な相互訪問、成都・チェンナイ各領事館の開設、陸軍総司令部間のホットライン設置に双方が介意したという。経済面では、貿易不均衡の是正のため、医薬品やITなどインドの得意分野での貿易拡大や、中国がインドの鉄道インフラ構築に協力することを含め、対印投資を拡大することなどが盛り込まれた。さらにモディ首相は、電子査証を中国人に対しても発給し、観光やビジネスでの人的往来を活性化させる意向を示した。他方で、中国が推進する「一帯一路」構想に関しては、共同声明においても一切言及がなく、モディ政権が、中国側の意図に警戒感を抱いており、これに距離を置こうとしていることが浮き彫りとなった。

  モディ政権発足当初には、たびたびみられた実効支配線(LAC)での中国側の攻勢も目立たないものになりつつあり、中印の国境は比較的安定した状況にある。 2015年9月には昆明で5回目となる陸軍合同訓練が実施された。ここでは従来の対テロに加え、大災害の際の救援訓練も新たに行われるなど、安全保障協力と信頼醸成も進展している。
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