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消費の抑制と都市計画の見直し

『ビッグヒストリー』より 未来予測その1:近未来 ⇒ 希望の持てる傾向の「消費の抑制と都市計画の見直し」「新たな形態の民主主義を育てる」「グローバルな協力とコミュニケーションの増進」は未唯宇宙の将来のシナリオに合致している、

希望の持てる傾向

 本章に先立ついくつかの章で述べてきたように、人間はとてつもなく創意工夫に富んだ生物種であり、私たちが駆使するコレクティブ・ラーニング(集団的学習)は問題解決の際立った仕組みと言える。人間の学習は驚くべき速さで進行する。先駆的な数多くの努力と希望の持てる傾向に加えて、どのような行動を起こすべきかについて、人間は近年とみに自覚を深めている。

 これまでに述べたように、以前よりも希望が持てる傾向のひとつとして、人口増加のペースが鈍ってきており、10年前の予測よりも増加率が低下していることがある。世界人口の平均増加率は1960年代には年2%を超えていたが、2005年には1.2%とペースダウンした。現時点での予測では、最大で80億から120億人の間に落ち着くものとされる、このように人口増加のペースが鈍化した理由として考えられるのが、生活水準および教育水準の向上であり、特に女性に関してその影響が大きい。また、親たちが生計を立てるのに子どもの労働力をあてにしなくなったこともあるし、利用できる避妊の手段が増えたこと、さらに一部の地域では死亡率が高まっていることなども考えられる。家族計画(産児制限)はこれまでに大きな成果を収めてきており、もし実行していなかったなら、人口の重圧は現状よりずっと悪化していただろう。地球の自然系は、80億人を超えるともはや全人口を支えきれなくなり、死亡率が上がることでしか歯止めをかけられないとする意見もある。女性がみな生涯に産む子どもを1人だけにする施策が可能であるなら、2050年には世界人口は55億人に、さらに2075年には34億3000万、2100年には16億人、つまり1900年の水準にまで減少するだろうとする分析もある。

 そのほかに希望の持てる傾向を、以下のような見出しのもとにまとめることにしよう。(a)気候の安定化、(b)生態系の回復、(c)消費の抑制と都市計画の見直し、(d)新たな形態の民主主義の育成、(e)グローバルな協力とコミュニケーションの増進。

 消費の抑制と都市計画の見直し

  エネルギー節減と資源リサイクルによる消費抑制は、多くの国々で大きく進展した。電球型蛍光灯(CFL)の消費電力は白熱電球よりも75%少ない。そのぶん価格は2倍にもなるが、寿命は10倍もある。さらに発光ダイオード(LED)は消費電力を85%も減らし、寿命は50倍にもなる。世界全体でCFLおよびLEDへの切り替えが進めば、消費される電力のうち照明に使用される割合は全体の19%から7%へと縮小するとされている。ブラジルではすでに電球の約半分が切り替えられており、2009年の時点でオーストラリア、カナダ、EUが白熱電球の販売を段階的に廃止していくことを承認している。

  数多くの家電製品、なかでも冷蔵庫はエネルギー効率が向上している。グリーンビルディング(環境配慮型建物)の普及、交通システムの電化、スマートグリッド(次世代送電網)による電力供給管理などにより、大がかりなエネルギー効率改善が実現している。

  リサイクル原料を使ってバージン原料の使用を避けることは、使い捨て経済からの転換につながりつつある。スチール缶やアルミニウム缶は何度でも再利用がきく。アメリカ合衆国では、ほぼすべての自動車がリサイクルされ、家電製品はその約90%が資源として再生されている。建設業においては、資源再生の巨大な可能性がまだ残されている。日本やドイツのように安定した消費人口を有する産業経済の先進国では、主としてバージン原料に頼らなくてもよくなってきている。アメリカの主要都市における公共のゴミのリサイクル率は、2009年にニューヨークで34%、シカゴで55%、ロサンゼルスで60%、サンフランシスコで72%とばらつきがあった。合衆国全体では固形廃棄物のうち33.4%がリサイクルされるか堆肥化され、12.6%が焼却処理、54%が埋め立て処理されたが、埋め立ての割合は1980年の89%から大きく減少した。

  2008年以降、世界人口の過半数が都市部に居住するようになり、なかでも最大の都市圏は大東京圏で3600万人(カナダの人口より多い)が暮らし、これに次ぐのがニューヨーク都市圏で1900万人(ほぼオーストラリアと同じ)を擁している。19の巨大都市がそれぞれ1000万人以上の住民をかかえ、その多くが不健康な大気にさらされている。どの都市も、車のためではなく住民のために都市計画を見直す必要がある。成功例としては、たとえばブラジルのクリティバ市が1974年から交通システムを再編し、20年間で人口が倍増した一方で、車両通行は30%減少した。また、オランダのアムステルダム市では、市内の交通の40%が自転車利用となっている。ブラウンの主張によれば自転車はポテト1個分のカロリーで11キロメートル走ることができ、重要な交通手段として復権しつつある。たとえばレンタルサービスでパリを訪れるプログラムレ切市の自転車レンタルシステム「ヴェリブ」(Ve1ib)のこと]を利用する、警察署に行くときは自転車に乗る、また、アメリカの少なくとも2つの大学では新入生全員を対象にマイカー通学しないことに同意すれば自転車を提供するなどの方策がある。エコ・シティとして世界の上位にランクされる都市を調べてみると、アイスランドのレイキャビク市がいつもトップに評価されている。

  都市部の畑地はかなりの量の食料を生産する拠点となりつつある。カナダのブリティッシュコロンビア州バンクーバーでは、住民の44%が自分たちの食料の一部を生産している。上海では豚肉と鶏肉の約半分、野菜の60%、牛乳と卵の90%を市内および近郊から調達している。ヴェネズエラのカラカス市では、1平方メートルほどの大きさの「マイクロガーデン」と呼ばれる小さな畑が約8000ヵ所あり、そこで継続的な栽培が行われている。年間でレタスならおよそ330個、トマトなら18キログラム、またはキャペツなら16キログラムを生産することができる。

  こうした実例から、人々が消費を減らし、都市計画を見直す多様な手法に取り組んでいることがうかがわれる。人間が世界的な生態系の危機に立ち向かうにあたり、電気器具の効率向上がはかられ、原料のリサイクルが活発化し、自転車利用および都市部のガーデニングが大きな効果をもたらしつつある。
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